平定 19
ワザと急降下したカイトのせいで美咲は遊園地のジェットコースター並みのスリルを味わう。
すぐに体勢は立て直されたが先ほどまでとは違う意味で心臓がバクバクした。
「!!・・・お前!」
バーミリオンがカイトに怒鳴った!
『俺の背中で好き勝手をするな!』
カイトの言う事も、もっともだった。
美咲はカッと赤くなる。
『シディ!!流されちゃダメだ!シディはバーンが傷ついて動揺しただけだ!庇ってくれた相手が傷つけば誰だってその相手にときめく!間違っちゃダメだ。そんな奴止めとけ!俺の方がずっと良い!』
「・・・カイト?」
『シディ!好きだ!俺だってシディを愛している!!バーンは止めろ!そいつじゃシディを幸せにできない!!』
カイトの告白に、美咲はびっくりした。
17年間生きてきて男の子にモテたことなんかいっぺんもないのに、急に2人から告白されるなんて信じられない!
(・・・モテ期?)
しかも、2人共もの凄く格好良くて、美形で強い。
おまけに両方とも王子さまだ・・・。
(こんな幸せあってもいいの?)
美咲の頭はふわふわする。
「余計な事を言うな!」
『本当の事だろうが!国を追われた元王子なんかがシディを幸せにできるものか!俺は皆に認められた王子だぞ!!』
「竜だろうが!!」
『竜のどこが悪い!』
美咲を放っておいてバーミリオンとカイトは怒鳴り合う。
自分を巡って男たちが争うという事態に美咲はますます上せてしまう。
頭がグルグル回り出した。
「俺とシディは相思相愛だ!邪魔をするな!」
『叩き落とすぞ!そんなもの一時の気の迷いに決まっている!』
カイトは必死に言ってきた。
『シディ!愛している!!例えお前が本当にバーンを愛しているとしても俺の心は変わらない!一生お前を愛して幸せにしてやる!シディ俺を選べ!!」
「・・・カイト。」
熱烈な愛の告白に、美咲はクラクラしてしまう。
こんな告白をされて嬉しくない女の子なんかいない!
「そんな言葉を聞くな!シディ、俺を見ろ。お前と俺は心が通じ合ったばかりだ。俺はお前を愛している。お前も俺を愛している。・・・そうだろう?」
「・・・バーン。」
想定外の事態に美咲はパニック寸前だった。
(・・・ダメだ。あまりに有り得なすぎて・・・夢を見ているみたい。)
混乱している美咲の様子にカイトが気づく。
とりあえず落ち着かせようと思った。
『シディ!しっかりしろ!大体そんな話じゃなかったはずだろう?・・・お前はママの心配をしていた!そっちが問題だったんじゃないのか?』
言われて美咲はハッとした。
・・・そうだった。
ママが王さまを愛しているのだとわかって、どうしようと思って相談していたのだった!
「そうだわ!どうしよう?ママが・・・バーン、カイト、私どうしたらいいと思う?!」
バーミリオンは物凄く不服そうに黙り込んだ。
そんなこと、どうだっていいと言うのが本音だ。
それより美咲を抱き締めて、もっと自分への想いを聞きたい。
自分の想いを聞いて欲しい!
しかし、ここでそう言わないだけの分別はあった。
「(不本意だが)王はお前を伴侶にするつもりなのだろう?」
美咲は目を瞬く。
「あっ・・・その話は白紙になったの。」
「はぁっ?」
そう言えばバーミリオンには話していなかったわと思いながら美咲は、自分が王さまに伴侶にならないと告げたことと魔王が退治されれば話を白紙に戻すと王さまが承諾した事を話す。
バーミリオンは・・・開いた口が塞がらなかった。
今まで美咲が王の伴侶となると思ってあんなに苦しい想いをしてきたのは何だったのだと思ってしまう。
(承諾した?・・・異世界召喚までしておいて?一体あの王は何を考えている?!)
「だから・・・ママが王さまを好きでも問題はないんだけど・・・でも、私のママで!私の・・・だって・・・」
美咲は混乱しながら呟く。
瞳が暗く沈んでいく美咲をバーミリオンは複雑に見詰める。
自分の母親の恋愛事は、とても冷静になれないようだった。
『昨晩、そんな事があったなんて俺は少しも気づかなかった・・・』
確かにカイトは、ずっと眠っていた。
「カイトは疲れていたから・・・」
『どんなに疲れて寝入っていても、お前が気づいた声に俺が気づかないはずはない。・・・俺は、多分親父に眠らされていたんだ。」
それはあるかもと美咲は思う。
カイトは懲りもせず美咲と寝ながら人型になるという事をあの後2度ほど繰り返していた。
もっとも人型になっても、本当に抱きしめて眠るだけで絶対手を出さないので何とか許してもらっているのだが、母がそれを防ぐために竜王に命じてカイトを眠らせるということは十分考えられることだった。
「また人型になろうとしたの?」
『違う!・・・親父は俺にママと王の会話を邪魔させたくなかったんだ!親父は全てを承知している。そうなんだろう?』
確かに竜王は起きていた・・・
『・・・前に、親父が言っていたんだが。』
カイトが重く口を開く。
「竜王さんが?」
美咲の脳裏には昨晩の竜王の昏い瞳が思い起こされていた。
竜王は母を気に入っていた。
無理矢理契約したくらいだ。
とっても母の事が好きなのだろうと思う。
(だいたい、あのマッサージだし・・・)
思い出した美咲の頬が赤くなる。
竜王は、母の気持ちを知っているのだろうか?
あの場面にいたのだ。
知らぬはずがないと思う。
『・・・親父は、ママのためなら、どんな愚かな真似でもできそうだと言っていた。』
そう言って酷く嬉しそうに笑ったとカイトは言った。
「・・・愚かな?」
『親父は・・・ママを愛している。愛していて、多分俺が知らない全てを知っていて・・・ママの願いに従っている。ママが王を愛しているのなら・・・親父もそれを知っているはずだ。・・・知っていて、それでもママの傍でママに従う事を親父は選んでいる。それがどんなに愚かな事でも、そうしているんだ。親父が今までどおりであることを選ぶのならば・・・俺も今までどおりでいるだけだ。親父とママに協力して・・・シディお前に従う。・・・お前は俺の主だ。俺はお前の竜だ。・・・”何も変わらない。”・・・親父はきっと何があろうとママの竜で在り続けるんだ。何も変わらずに・・・俺とシディもそれで良いんじゃないか?』
「カイト・・・」
美咲の胸にカイトの言葉が響く。
(・・・何も変わらない。)
確かに、母が誰を好きでも美咲は母の娘だ。それは変わらない。
『こんなこと、お前の悩みの解決にはならないかも知れないけど。』
美咲は首を横に振った。
「・・・カイトは、自分のお父さんがママを好きでも良いの?」
『俺は竜だし、男だからな。・・・誰かを夢中になれるほど愛せることは幸せだと思う。親父にそんな相手がいることは単純に嬉しいと思う。』
本当に参考にならないなと言ってカイトはすまなそうに笑った。
美咲は・・・もう一度首を横に振った。
・・・気持ちは複雑だ。
でも・・・
「カイト、凄い!」
『そうか?』
何が凄いんだ?と聞きながらカイトは褒められて嬉しそうな声を出す。
母が王さまを好きだと思えば、美咲は、やっぱりまだ心がざわざわして、どうしたら良いかわからなくなる。
でも・・・
(私もカイトみたいに、ママに愛せる人ができたことを嬉しいと思えるようになりたい!)
今はまだ無理でも・・・いつかは。
それまでは、今までどおりでいよう。
バーミリオンがもう一度美咲を抱き締めてくる。
「ママの事でそんなに悩むな。・・・お前には俺がいる。誰よりお前を愛している。」
「バーン。」
『俺だってシディを愛している!俺もいるんだってことを忘れるな!』
それ以上の事をしたら今度こそ本当に落とすぞと、カイトはバーミリオンを脅す。
「・・・ありがとう。」
美咲は、心から言った。
2人に支えられて、美咲はまた、ほんの少し・・・泣いた。




