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平定 18

美咲はあまりに意外なバーミリオンの言葉にびっくりして、涙も引っ込んでしまった。


「破壊神とは言っても、創世の女神の半神で共に世界を生みだした神の名だ。悪い意味ではないが・・・自分の子供に破壊神の名をつけるなど信じられない?!」


セルリアン前王は何を考えていたんだ?とバーミリオンは呆れる。

もちろん、前王にとっては濡れ衣である。

王さまには立派な普通の名前がある。ジェイドは前世の名前で前王がつけたものではなかった。


「破壊神なのに世界を生みだしたの?」


「破壊と創造は表裏一体だ。どちらもなければ世界は回らない。破壊神ジェイドと創造神シャトルーズは2柱で1神の創世の神だ。・・・どちらも失われたがな。」


「失われた?」


「ああ。世界の力が2人に集まりすぎたため、自身の力を世界に還し、この世から去ったと言われている。・・・いずれ再臨するとは伝えられているが。」


創世神話だとバーミリオンは話す。

そういえば以前母が創世神話を読んでバカバカしいと笑っていたと思い出す。


「・・・それにしても、王は眠らずに魔物の攻撃を防いでいるのか?」


顔を顰めてバーミリオンは唸る。

規格はずれの強大な力だとは思っていたが、そこまで人間離れした力だとは思わなかった。

王の力に感謝し、その身に深く同情しながらも、本当に人間なのかと背筋が寒くなるのを抑えられない。


しかし、美咲には王に対する同情しかないように見えた。

心の底から王を案じ、心配して泣きそうに瞳を潤ませている。


バーミリオンは、悩み苦しみ泣き出しそうな美咲の様子を、そう見て取った。


・・・バーミリオンの中に、嫉妬と苛立ちが生まれる。


美咲は・・・”運命の姫君”だ。

王の伴侶となる女性だ。


美咲が王に心を寄せるのは当たり前の事なのだが、美咲を想うバーミリオンにその姿は・・・辛い。


こんなに愛らしい美咲を王が愛さぬわけがない。


バーミリオンにとって、それは自明の理だ。


美咲の母が王を愛しているというのは、やはり何かの間違いだ。

たとえそれが本当だとしても、それは母の一方通行の思いなのだろう。


今の美咲の話からでは王と母が夜中にこっそり話し合っていることは確かでも、そこに愛があるという確証はないはずだった。


「シディ、やはりお前の思い違いだ。眠れぬ王にママが話し相手になってやっていたとしても、それだけでママが王を愛しているとは言えない。」


バーミリオンの冷静な指摘に美咲は首を横に振った。


「違うわ!・・・だって、わかるもの!ママが私を見る前に瞳に浮かべていた想いが!!・・・今ならわかる!」


大きな声で怒鳴った美咲をバーミリオンは驚いて見詰める。


美咲の感情が・・・堰を切った。




「わかるわ!・・・だって、同じなのだもの!鏡の中の私の瞳と同じ!!」




「美咲?」


バーミリオンは感情を昂ぶらせる美咲の様子に戸惑って、美咲の両肩に手をかける。


美咲の頭の中には、鏡に映った自分の瞳と顔を上げた時の一瞬の母の瞳が重なっていた。




「・・・同じなの。・・・私が、バーンを心配して・・・バーンが、自分の愛する(・・・)人が傷ついて、心配で心配で心が痛くて・・・なのに自分にはどうにもできない苦しさが詰まった私と、同じ瞳をママはしていた。・・・ママは、私がバーンを好きなのと同じように王さまが好きなのよ!!」




・・・そして、多分、王さまもママが好きなのだ。


あの、熱の籠ったバリトンボイスが愛する人への言葉でない訳がなかった。


美咲は、わかった事実と自分の心に混乱し狼狽えていた。




・・・だから、気がつかなかった。


自分が何を言ったのか・・・言ってしまったのかを。




バーミリオンの美咲を掴む手に力が入る。


痛みを感じて美咲は顔を上げた。


そこには真剣なバーミリオンの顔があって・・・



「?!!」



次の瞬間、美咲は・・・自分の唇が暖かく力強い何かに覆われたのを感じた。


視界が、とても近いバーミリオンの顔でいっぱいになって・・・自分が彼にキスされているのだという事に気づく。



(え?)



熱い唇が美咲の唇に重なっている。



(何で?)



頭が呆然とする。



(私・・・ファーストキス。)



思考がまとまらない。


唇が、一旦離れた。


瞳と瞳が合って・・・再びキスされた。

優しく・・・しかし、しっかりと唇が押し付けられ、強く吸われる。



(何で?・・・キス、2度も?)



しかも、肩を掴んでいたバーミリオンの手は美咲の体にしっかりと回されて、いつの間にか、より深く抱き締められている。


鍛えられた大きな体が・・・熱かった。


合わせられた口からバーミリオンの舌が伸びてきて、美咲の唇を舐める。


美咲はびっくりして、硬直して・・・唇をぎゅっと引き結んだ。


少し不満そうにバーミリオンは口を離す。


「お前は、自分が何を言ったか・・・わかっているのか?」


男らしく整った顔がじっと美咲を見詰めて、吐息がかかるような距離で囁かれた。


「・・・何、を?」


もちろんわからぬ美咲は聞き返す。


どうしてこんなにバーミリオンは自分を見ているのだろう?


穴が開いてしまいそうだ。



「お前は・・・俺を”愛している”と、”好きだ”と言った。」



・・・言われた意味がわからなかった。

きょとんとして・・・自分が言ったセリフを思い返す。



「・・・!!」



確かに言っていた。


バーンを自分の愛する(・・・)人だと言って、バーンを好きだとはっきり言った!


美咲の顔がボン!と赤く染まる。

まるで火を噴くような勢いだった!


「あっ!!ちがっ!・・・それは!」


「違わない!確かに聞いた。」


バーミリオンが美咲を抱き締める。


男の顔が美咲の首筋に伏せられて熱い吐息が首筋にかかった。


「あっ!」


美咲の体はビクッと震える。


「・・・嬉しい。」


バーミリオンの言葉は、体の奥底から絞り出すかのようだった。


美咲の心臓がドクドクと鳴り響く。

顔を埋められたうなじは燃えるように熱かった。



「俺もお前が好きだ。・・・お前を愛している。どうしようもなく。お前が“運命の姫君”で、王のもので、俺の手に入らないのだとわかっていても諦められなかった。・・・お前の心が俺にあって、天にも昇れるほどに嬉しい。」



「・・・バーン。」



美咲の視界が滲んだ。


竜の背ごしに見る青い空が滲んで、美咲は自分が本当に泣いているのを実感する。


この涙は・・・熱かった。


バーミリオンの言葉が心に染みてくる。



「・・・バーン、本当?」



信じられなくて聞き返す。


バーミリオンを好きだと思っていた美咲だが、想いが通じるなんて思っていなかった。

美咲は“運命の姫君”だなんて言われていても中身はどこにでもいる普通の女子高生だ。

バーミリオンは大人の男性で、しかも王子さまだと先日わかった。


美咲は自分の片思いなのだとずっと思っていたのだ。


自分はいずれ元の世界に帰るのだから、それでいいのだと無理矢理自分を納得させようとしてきた。


それなのに、バーミリオンも自分を好きでいてくれたなんて、そんな幸せあってもいいのだろうか?



体を離したバーミリオンは、美咲の瞳を見て、頷いて・・・もう一度キスしてきた。



痛いほどに抱き締められる。



異世界で・・・竜に乗って空を飛んでいて・・・愛する人に愛しているって言われて・・・抱き締められてキスしている。


(もの凄い・・・シチュエーション。どんなロマンチック映画でもかなわないわ。)


美咲は・・・ぼんやりと思った。


嬉しくて、泣けてきて・・・心が飛び立ちそうな程幸せで・・・そんな風に思わなければ、幸せすぎてどうにかなってしまいそうだった。


バーミリオンの口づけが・・・なお、深くなる。



(あ・・・舌が。)



バーミリオンの舌が、美咲の口をこじ開けて、中に入ろうとした時・・・



「!!」


「きゃっああ!!」



ガクン!と急に体が下がった!

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