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保護者同伴”異世界トリップ”  作者: 九重


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平定 12

「想像どおりの内容でつまらないわぁ。」


母の言葉に流石に美咲が怒る。


「ママ!!」


「あら、責めているんじゃないわよぉ。保身に走った、とっても的確な判断だったとぉ感心しているんだからぁ。」


とてもそうは聞こえなかったが、バーミリオンに反論するつもりはない。

自分は故国を捨てた人間だ。・・・言われたとおりだと思った。


「ママ、酷い!」


しかし美咲は反論する気満々らしい、立ち上がるとバーミリオンの側に近寄り「大変だったのね。」と泣きそうになりながら顔を覗き込んできた。


美咲の優しさにバーミリオンの心がジンとする。


思わず抱き締めようとした腕が素っ頓狂な声に遮られた。


「え〜っ?何が大変なの?シディ?シディどうかしたの?」


ブラッドが見当外れに美咲を心配して声を上げたのだ。


違うわよと美咲はバーミリオンから離れ、ブラッドを宥める。


バーミリオンは美咲を抱きしめるチャンスを失い、憮然とした。


ブラッドは相変わらずで、側に来た美咲に嬉しそうに笑いかける。

・・・今の話をどこまで理解しているのか甚だ疑問だった。


なのに・・・


「ブラッドはぁ、今のバーンの話をどう思う?」


母はブラッドに聞いてきた。


(何でブラッドに聞くの?)


美咲の心の中の突っ込みはバーミリオンやカイトも浮かべたものだった。



「うん!とっても楽しそうだよね!」



ブラッドはニコニコと答えた。


「?楽しそう?!!」


美咲は驚く。

バーミリオンやカイトも呆気にとられた。


「そうだよ。だって、ほんの少し脅したり唆したりするだけで、人間が思うように動いて・・・国まで動くかもしれないなんて。すっごくワクワクするよね。」


無邪気な笑顔の語る内容に・・・美咲の背中を悪寒が走る。


「?・・・それは、どういう意味だ!?」


バーミリオンが声を荒げる。


母は思ったとおりの答えに満足そうに笑った。


「アッシュ、タンどう思う?」


聞かれた2人は何とも言えぬ微妙な表情で顔を見合わす。


「確かに・・・謀としては楽しめる方だと思います。」


アッシュの申し訳なさそうな答えをタンが黙って頷いて肯定する。


魔物(・・)3人の意見は母の予想どおりだった。


「どういう事だ!?」


怒鳴るバーミリオンを母は憐みの籠った目で見詰める。


「貴方の取った行動がとても適切だったってことよ。・・・今回みたいな事はね、影で何かが糸を引いている可能性が高いわ。・・・早めに逃がしてもらって、良かったわね。貴方が無事に生き残ればコチニールは再興できるかもしれないものね。」



それは・・・



バーミリオンの頭の中を母の言葉がグルグル回った。


(“逃がしてもらった”?再興?・・・それは・・・まさか?わざと?)


「どうして差し入れられた食事が嫌いな物ばかりで、しかも都合よくケトが出てきたりしたと思うの?」


脱走の手引きをする人間まで現れるなんて都合良すぎるでしょうという母の指摘に息をのむ!


「ママ、それって・・・」


母は美咲に頷いた。


「そんな・・・そんな、はずは!!」


真っ青な顔で信じられない様に首を振るバーミリオンを母は悲しそうに見る。



「あのねぇ、女って、育てた子供も産んだ子供もどっちも大切なのよ。」


母の言葉にアッシュとタンがピクリと体を震わせる。

母はこの上なく優しく笑った。


「子供を引き取って育てるって事は、自分の産んだ子よりその子を選ぶ場合も覚悟しないといけないのよ。・・・ねぇバーン、貴方死にそうになったりしたことはない?」


急に聞かれてバーミリオンは面食らいながらも思い出す。


「・・・池に落ちた事がある。庭園の結構深い池で溺れかけた。」


「その時正妃は貴女を助けに池に入った?」


「あ・・・あぁ確かに。飛び込んできて、結局2人で溺れて、近衛兵に助けられて、無茶な事をしないでくださいと叱られた。」


「ならば正妃は貴方を自分の子と同じくらい大切に思っているわ。貴方を助けるために命の危険を冒すという事は、その結果自分の子を母親なしで取り残す事を覚悟しているということよ。」


母の言葉にバーミリオンは池から助け上げられた時の正妃の暖かな胸を思い出す。

確かにあの時死んでしまったら、正妃は自分の娘を1人残して先に逝くことになったはずだ。


「まぁ、本当にその覚悟があったかどうかは、わからないけれど、でもね・・・貴方を見れば直ぐにわかるわ。きちんと親に愛されて育った子だって。貴方が生みの親と産まれて直ぐに引き離されたのなら、貴方を愛してくれたのは、育てた正妃だわ。」


「・・・愛して?」


呆然とバーミリオンは聞き返した。


バカな!と思う。


自分は疎まれて殺されかけて逃げ出したのだ。


愛されているはずなど・・・ない。


「コチニールの影にいるのはぁ、魔物で間違いないと思う?」


葛藤しているバーミリオンなど放っておいて、母はアッシュとタンに確認する。

2人とも非常に複雑な表情で肯定した。


「魔物って美味しい?」


ブラッドは相変わらず外れていて、美咲は今の話の展開に呆然としながらも、食べちゃダメ!と叱った。


「数年前からなのよねぇ。今回の魔物の攻撃のぉ事前工作だと思う?」


「多分違うと思います。・・・ただ今回、外からの攻撃で歯が立たない現状を見て、この“遊び”を利用する動きは出てくるかもしれませんね。」


アッシュは自分の言葉を聞いて顔を顰める母に、すみませんと謝る。

同じ魔物のやるだろうことの予測が付く自分がとっても嫌だった。


「たっちゃん、竜はコチニールの王宮の上空も飛べるの?」


『我らを遮るものなど無いが、儀礼上各国の王都には許可を得てから入ることにしている。』


「まぁ、そうでしょうね。」


詳細なコチニールの地図も王都周辺だけは細部までというわけにはいかなかった。

考え込んでいた母が顔を上げる。


「美咲、シルは、物の流れがわかる?」


「物の流れって?」


「城の中に運び込まれる武器や食糧、水なんかの量が掴めるかしら?」


「わからない。聞いてみるけど・・・ママ、戦争になるの?」


躊躇いながら口にした美咲の言葉が震える。


武器や食糧の動きを調べるのは戦争の可能性を探るためだ。

それくらいは美咲にもわかる。

平定を手伝うと言っておきながら、たったこれだけのことで動揺する自分が情けない。


バーミリオンも息を詰めて母の答えを待っていた。


「コチニールの影に魔物がいるなら、多分コチニールはセルリアンに戦争をしかけるわ。」


「どうして?」


「魔物は今、人間世界に攻撃を仕掛けている。これはわかるわね?」


美咲はコクリと頷く。

それで王様は“運命の姫君”を召喚したはずだ。

力を得て、魔王を倒すために・・・


「魔物の攻撃と王の守りは今拮抗している。この膠着状態を打開する一番の方法は、王を直接攻撃することよ。」


ママが魔王ならそうするわと母は言った。


「外から攻撃できないなら、中から襲う。中に思うままに動かせる軍隊があるのなら、それをぶつけるわ。」


「!!」


美咲もバーミリオンも息をのんだ。


「バカな!コチニールがセルリアンに勝てるはずがない!!」


「勝つ必要はないわ。正直コチニールという国がどうなろうと魔物には痛くもかゆくもない。“遊び”場所がひとつ無くなるだけよ。中からの攻撃で王を動揺させて、世界の守りに隙のひとつも作れればそれで良いのよ。」


美咲は顔を青ざめさせ、バーミリオンはギリギリと歯を食いしばる。


「・・・大丈夫よ。まだあからさまな動きはないわ。そうさせないためにママは動いているんだから。今までどおりで良いのよ。ママに協力してね。」


美咲はコクリと頷く。落ち着いた母の笑みが頼もしかった。


「俺も・・・俺のできることなら何でもする。」


自分が疎まれて殺されようとしたのではなく、助けるために逃がされた可能性を聞いてバーミリオンの心は嵐の中の葉のようにグルグルと翻弄されていた。


母の言葉を信じたい。


しかし、だとすれば自分は助けてくれた相手を恨み自国を捨ててしまったのだ。

しかも今その国は恐ろしい危機の真っ只中にある。


自分にできることは何でもしたかった。

しないでいれなかった。


切羽詰まったようなバーミリオンの言葉に、母は当たり前でしょうと呆れたように言った。


「とことん利用させてもらうから、覚悟しなさい。」


バーミリオンの背中に悪寒が走る。


しかし今回ばかりはその悪寒が頼もしかった。

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