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保護者同伴”異世界トリップ”  作者: 九重


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山脈 6

「シディ!シディ!!」


嬉しそうにはしゃぐブラッドの声に、バーミリオンとエクリュは光にくらんだ目をなんとか開ける。


今現在目の前で起こった出来事が、彼らには信じられなかった。

彼らがついた途端に精霊たちが暴れ出して、美咲が隅に追いやられ崖から落ちそうになった。


その様子を目の前にして何もできない自分に血の凍るような思いを味わう。


幸い美咲は助かったが、美咲を助け、代わりにアッシュが落ちてしまった。

あまりの事態に呆然としている間に・・・光の爆発が起こったのだった。

目がくらみ何も見えなくなったバーミリオンとエクリュは今の今までその場に蹲るしかできなかった。

戻ってきた視界に光り輝く精霊に抱えられた美咲が空中から降りてくるのが見える。

その周囲には、赤、青、茶色、クリスタルの小さな精霊がついている。


美咲を彼らの側に降ろすと光り輝く精霊はスッと離れ、また向こうに戻っていく。

4色の精霊は美咲の側に残る。

この精霊と美咲は契約したのだろう。


「シディ!」


「姫君!」


バーミリオンたちは美咲に駆け寄る。


いち早く動いたブラッドは美咲に縋り付いていた。


「酷い!俺を置いて行くだなんて!凄く捜したんだよ!俺が見つけたんだ!偉いだろう?褒めて!」


何も考えず自分の事だけを訴えてくるブラッドに美咲の怒りが膨れ上がる。


「どうして来たの!?良い子でお留守番していてねって言ったじゃない!貴方たちの所為でアッシュが、私を庇って崖から落ちたのよ!!」


美咲の言葉にバーミリオンとエクリュの表情が苦しそうに歪む。


・・・ブラッドは泣き出しそうに顔を顰めた。


「俺は嫌だって言った!置いていかれるのは嫌だ!シディと離れるのは嫌だ!!俺はちゃんとそう言った!!無理矢理俺を置いて行ったのはシディだ!!」


俺は悪くないとブラッドは叫ぶ。

泣き出しそうな顔で・・・実際目尻にこぼれそうな涙を浮かべていた。


美咲は・・・唇を噛む。


ブラッドの言うとおりだ。

しっかり説明し、きちんと納得させたのならこんな事にはならなかったのかもしれない。

もっとも美咲の説得をブラッドが聞き分けたかどうかはわからないが・・・


そもそも美咲が落ちそうになったのをアッシュは助けてくれたのだ。



・・・わかっている。



美咲はバーミリオンとエクリュに目をやった。

どうしてこの2人がここまで来たのかはわからない。



・・・いや、わかっている。



美咲が心配だったのだろう。

美咲はこれ程までに他人に心配をかける危なっかしい存在なのだ。


バーミリオンとエクリュ、ブラッド。


此処に来たのは皆、美咲を心配する者たちだけで・・・母に心を向けている竜王や騎士たちはいない。


母なら心配いらないと、彼らは信じて待てるのだ。


そして、美咲は・・・信じてもらえない。


(当たり前だ。)


美咲は泣きそうになりながら思った。

自分は他人から信じてもらえるような何事もできていない。

母や他の皆からいっぱい助けてもらってばかりの存在なのだ。



・・・わかっている!!



美咲は絶望的に思った。


悪かったのは自分!他の誰でもない!全部自分の所為だ!ブラッドに怒鳴ったのは八つ当たりだ。

誰かの所為にしたかっただけ。


美咲の目から涙が零れる。


「シディ!」


驚きバーミリオンが美咲を抱き締める。


ブラッドが「あ!ずるい!」と叫んでその2人に縋り付く。


エクリュは呆然とアッシュの落ちた亀裂を眺めているままだ。


「・・・すまない!」


謝り美咲を抱き締めてくるバーミリオンが今の美咲の心情を知れば、そんな事は無いのだと、悪いのは俺たちだと言ったことだろう。


何もわからぬまま、ただバーミリオンは美咲を抱き締める。




美咲は・・・そんなバーミリオンの胸を押してその腕から抜け出した。


バーミリオンが傷ついたような苦しい表情をする。


このまま抱き締められて泣き続けていられたらどんなに楽なことだろう。


でも、ダメだ。


このままではいけないのだ。

美咲は強く思う。


それに何よりここから一刻も早く離れなければいけない。


「行きましょう。みんなが此処に居るといつまでも精霊が落ち着かないの。ママがアッシュを助けるのに邪魔になってしまうかもしれない。」


複雑そうにブラッドを見ている精霊たちに道案内を頼んで美咲は3人を促す。



エクリュは魅入られたように崖下の深淵を覗き込み、動こうとしなかった。



「エクリュ。」


「・・・アッシュ様は。」


「うん。ママが絶対助けてくれるって。」


「僕は・・・アッシュ様に拾っていただいたんです。だから少しでも早くアッシュ様を手助けできるようになりたくて・・・足手纏いだと言われて、僕だって役に立つのだと証明したくて・・・」


エクリュは泣いているかのようだった。


実際にはエクリュの目から涙はこぼれていなかったが、美咲の目にはエクリュの心が悲鳴を上げて泣き叫んでいるのが見えた。


「行きましょうエクリュ。私たちは此処に居ても何もできない。かえって邪魔になる。・・・私たちにできる最善は此処からいなくなることなの。」


エクリュの顔が歪んだ。


泣き出すのかと思ったが・・・エクリュは泣かなかった。

歯を食いしばり顔を上げると一行の先頭に立ち歩き始める。魔法で明かりを生み出して足元を照らした。


「足場が悪いので気をつけてください。必要なら回復魔法をおかけしますが大丈夫ですか?」


自分だって青い顔をしているくせに、顔色の悪い美咲を気にかけて聞いてくる。


大丈夫だと答えながら、美咲はエクリュを見直す。


本当は泣きたいはずだ。


母の元に残ってアッシュが無事に助け出されるのをその目で確かめ、泣いてアッシュに謝りたいはずだ。

だけど、そうしないで美咲を無事に送る役目を背負ってくれる。

エクリュは可愛いだけの男の子ではないのだと美咲は感じる。


・・・美咲もエクリュのようでありたいと思った。

自分の無力に泣き崩れるだけでなく、少しでも先に進めるように努力できる人間になりたい。


未だ複雑な表情をしているバーミリオンと、美咲と一緒に帰れることで既にすっかり機嫌を直して「シディ、シディ。」と美咲に纏わり付いてくるブラッドを伴い美咲は洞窟を後にする。



振り向くことはしなかった。

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