山脈 4
キラキラ光る魔鉱石のある一角に惹かれるように美咲は近づく。
どの石もとても美しく輝いているが、何故か美咲はさほど悩むこともなく幾つかの石を選んだ。
・・・だってわかるのである。
(この石たちだわ。)
美咲が必要とし、そして美咲のその思いを欲しいと思っている石は、無言ではあってもしっかりと存在を主張していた。
美咲がそれらの中でも一番最初に選んだ石は、美しい真紅の光を放っていた。
(えっと・・・確か石に言葉をかけるんだったわよね。言葉と心が届いたら精霊が姿を現して契約できる。・・・でも“言葉”って何て言えばいいの?)
「・・・ママ。」
石を選ぶでもなく、洞窟の景色を凄いわねぇと感心しながら眺めている母に美咲は声をかける。
「なあにぃ、美咲決まったのぉ?」
「うん。この石。」
「まぁ!キレイな赤い石ね。・・・美咲ったら赤が好きよね?」
母の言葉に美咲は赤くなった。
「べ、別にそんなつもりじゃないわ!それにこの石だけじゃないもの!あの青い石も隣の茶色のも、あっちのクリスタルみたいな透明な石もみんな好きだもの!」
「・・・そんなつもりって、どんなつもり?」
母にからかわれていると気づいて美咲は頬を膨らませる。
「もうっ!美咲ったら、可愛い!」
「ママ!!」
抱き締めてくる手から抜け出しながら美咲はようやく質問をした。
「精霊にかける言葉って何を言えば良いの?」
「ママが知るわけないでしょう。」
そう言われれば確かにそうだ。
美咲は自分が母に聞けば何でもなんとかなると思ってしまっていることに気づく。
あまり頼らないように自分で何とかしようなどと頭では考えていても、心の中では何も進歩していないのだと自分で自分にがっかりする。
「あんまり堅く考える事ないんじゃないのぉ。」
それでも母はアドバイスをくれた。
「言いたいように言えば良いのよぉ。美咲の言葉に惹かれる精霊と契約すれば良いんだから。」
(私の言葉・・・)
美咲は考える。
堅く考えなくて良いのなら普通で良いのだろうか?
普通どうする?
初めて会って、仲良くなりたい時は・・・
(始めは、挨拶よね?)
「こんにちは!!」
美咲は叫んだ。
突然の美咲の挨拶に、母もアッシュもタンも、びっくりして美咲を見る。
(それから・・・)
「・・・私と!お友達になって!!」
美咲の声が洞窟に響いた。
なって、なって、なってと周りに反響し語尾が重なる。
一瞬の静寂の後・・・
美咲が良いなと思っていた赤、青、茶色とクリスタルみたいな透明な石からポン、ポン、ポンと打ち上げ花火の様にそれぞれの色の光が飛び出す!
パッ!と弾けて、光の中からそれぞれの色を纏った小さな妖精のような者が現れた。
背中には透明な羽が2枚ついてパタパタと羽ばたきながら宙に浮いている。
(うっわぁ〜!ティンカーベルみたい!)
その可愛さに美咲は目を瞠る。
「ははっ!お前面白いな。」
赤い妖精・・・いや精霊なのだろうそれが美咲の目の前に飛んでくる。
「”お友達”は、今までなかったケースよね。」
青い精霊が面白そうに美咲を見詰める。
「気に入った。」
茶色の精霊は満足そうに頷く。
「良いわね、”お友達”になりましょう!」
キラキラ透明に輝く精霊が美咲の髪を引っ張って4人(?)の精霊が美咲の前に浮かんだ。
赤、青、茶色にクリスタル。
全長20センチくらいの小さくて可愛い精霊たち。
赤と茶色が男の子、青とクリスタルが女の子に見えるけどはっきりそうとは断言できない。
「精霊って、こんなに可愛いの?」
美咲は驚いてマジマジと4人を見詰めた。
「個となって、まだそれほどの時間を経ていないのでしょう。精霊でも時を重ね、多くの想いを十分に受けたモノは人と変わらぬ姿を持つと聞きます。・・・もっともそこまで力のある精霊は人間の世界にはいないでしょうが。」
アッシュの答えに美咲は納得する。
(生まれたばかりの子供っていうこと?)
「それにしても・・・いっぺんに4人とは凄いですね。しかもこの色は4大精霊ではないですか?」
唸りながらタンが感心する。
「4大精霊?」
「精霊の中でも火と水、風、大地の精霊を4大精霊と呼ぶのです。他の精霊より力が強くなかなか人間に近づかないと言われています。」
「へぇ〜、よく知っているな。」
アッシュの説明に赤い精霊が感心したように返す。
「そうだよ。俺たちは4大精霊だ。まだこんな姿だが、強さは保証する。・・・で、どうする?俺たちと契約するのか?」
「あ!うん!お願いします!!」
慌てて美咲は頭を下げる。
精霊たちはそれぞれ楽しそうに笑った。
「良いわぁ、この擦れてない感じ。」
「最高ね。」
「魂の輝きも思いの強さも申し分ない。」
4人の精霊は美咲の前に代わる代わる飛んできて美咲に真名を告げた。
赤い精霊は火の精霊で真名は紅梅。
青い精霊は水の精霊で真名は浅葱。
茶色い精霊は大地の精霊で真名は琥珀。
クリスタルの精霊は風の精霊で真名は石英。
(紅梅、浅葱、琥珀に石英。)
美咲は胸の中でそれぞれの名を刻み込むようにとなえた。
「名前をつけてくれ。」
4人を代表した紅梅の願いに美咲はしっかり頷く。
(確か、火の精霊はサラマンダー。水はウンディーネ。風がシルフで大地の精霊はノームよね。)
精霊の出てくるゲームを思い出して美咲は考える。
そして・・・
火の精霊にはサラ。
水の精霊にはディーネ。
風の精霊にはシル。
大地の精霊にノン。
美咲はそう名付けた。
(安直かな?でも変に凝った名前をつけて名前を間違えたりすると嫌だし・・・それに・・・)
名付けられた4人はそれぞれ凄く嬉しそうだった。
喜んでもらえているのだから良いだろうと思う。
「美咲ったら凄いわぁ。」
母の褒め言葉に心の底から喜びが湧き上がる。
「うん!ありがとう!・・・今度はママね、ママどれにするの?」
「そうねぇ、どれでも良いんだけれど。」
母がどうしようと迷って、困ったように周りを見回した時だった。
「いた!!シディ〜っ!!!」
大きな大きな声が洞窟内に響き渡った。
びっくりして目をやれば吊り橋の向こうに遠目でも嫌になる程美しいブラッドが大きく手を振り美咲を呼んでいた。その後ろからエクリュとバーミリオンも姿を現す。
「!?えっ?えっ?なんで?」
美咲が驚くと同時に隣で母が大きく舌打ちする音が聞こえた。
そして次の瞬間・・・起こった騒ぎは唐突で、爆発的で、なのにまるでスローモーションのように美咲の目にくっきりと映った。
突然の魔物の登場に精霊たちの間にパニックが起こったのだ。
美咲と契約した精霊たちはまだ良かった。
緊張した様子を見せながらも契約者たる美咲の側に集まる。
悲惨なのは他の精霊たちだ。
石に宿っていた精霊の多くが顕現し、力の限り逃げ惑う。
精霊にとって魔物とは、気まぐれに精霊の力を奪い、弄んでは粉々に砕く存在だった。
我先にと逃げ出す精霊は、そこに居る美咲たちに注意を向けない。
めちゃくちゃに飛び回り力いっぱい飛ぶ体が・・・美咲たちにぶつかってきた。
「きゃっ!!」
「美咲!!」
必死に母が手を伸ばすが、美咲は母から離れてしまう。
何体もの精霊に体当たりされヨロヨロと美咲は台地の端に追いやられる。
美咲と契約した4人の精霊が他の精霊を鎮めようと躍起になっていたが・・・追いつかなかった。
一際大きな焦げ茶色の精霊が美咲に向かって飛んでくる。
咄嗟に避けた美咲の右足が台地からはずれた!
ガラッと地面が崩れる音がして、足も一緒に滑る。
(?!・・・落ちる!!)
思った瞬間手を掴んで引き寄せられ・・・突き飛ばされた!!
台地の内側に押されて、そこにいたタンに抱きとめられ一緒にドシンと尻餅をつく。
目の前で・・・自分を突き飛ばして助けた灰色の髪が、崖の下に吸い込まれて行くのが見えた。
「アッシュ!!」
美咲の金切り声が周囲に響いた。




