山脈 3
一方同じ坑道の中を緊張感に満ちて不機嫌に進む一行があった。
エクリュとバーミリオンそして何故かブラッドの3人である。
大人しく留守番をしているはずの3人は・・・3人が3人共別々に美咲たちの後をつけ、いつの間にか合流したのであった。
お互いいけないことをしている自覚があるので責めることができない。
それでも・・・
「何でこんなに早く目を覚ますんだ。」
バーミリオンはブラッドにこぼす。あの技をくらってこんなに早く気づく人間は未だかつていなかった。もちろん力を失っていても魔物なのだから人間から与えられたダメージが少ないのは当たり前なのだがそれを知る者は本人を含めて此処にはいない。
「中途半端な技などかけるからです。」
エクリュが不満を零す。
「技は完璧だった。こいつがおかしいんだ。」
「技って何?美味しい?」
とんちんかんなブラッドにエクリュとバーミリオンは頭を抱える。
それでなくとも3人は頭を抱える状況にいる。
・・・彼らが美咲たちを見失ってもうすでに2刻程が過ぎていた。
ほんの少し目を放した隙に横穴に入ってしまった美咲たちに気づかず、彼らが気がつけば目の前からその姿は消えてしまっていた。
それならそれで諦めて戻れば良かったものを彼らはしぶとく探し回り・・・結果としてこの3人は迷路のような坑道の中で迷子になっているのだ。
エクリュが魔法を使えるのでおかしな罠(落とし穴だったり岩が転がってきたり、一体誰の趣味だとバーミリオンは悪態をつきまくっている。)からはかろうじて助かっているのだが、苛々と不機嫌は募るばかりだ。
「これからどうするつもりです?」
「どうするもこうするも、此処で助けがくるのを待つ以外はないだろう。」
比較的広めな洞窟の分岐点に彼らはいる。
これ以上奥に入る愚は冒せなかった。
美咲たちが戻り、彼らがいないのに気がつけばアッシュの魔法か竜王の力で探し出してくれるはずだ。
それを待つ以外彼らに打つ手はない。
「また怒られる。」
エクリュは、あの目と外見で格闘技を極めている師匠の怒りを思い体を震わせる。
バーミリオンも母の冷たい目を思い出して唇を噛みしめた。
重い溜息をつく2人を他所に、ブラッドは洞窟内を興味深そうにうろつき、そのキレイな鼻をピクピクと動かしてあちこち臭いを嗅いでいる。
何をやっているのだと呆れて見ていると・・・横穴のひとつの前で動きを止めた。
「見〜つけた。」
ニヤリと笑うとそのままその横穴に入って行こうとする。
「待て!何処に行く?」
「シディのところ。」
嬉しそうに答えると躊躇いなくその横穴に飛び込んだ。
「!?・・・わかるのか!」
慌ててバーミリオンとエクリュは後を追う。
何を考えているかわからない・・・そもそも何かを考えているのかと疑問に思うような男の言う事など信用はできないが、それでも他に進むべき道がない彼らはその後を追う。
「俺を置いて行こうなんて、シディは悪い娘だ。お仕置きしなくっちゃ。」
クスクスという笑い混じりのブラッドの声が前方から聞こえてくる。
男2人の背中に何故か悪寒が走った。
各処に岩が突き出し、その岩がそれぞれの色を纏い煌めいている光景に美咲は目を奪われる。
まるで夢の中のようだ。
どの石でも良いのですよとアッシュに言われて周囲をグルリと見渡す。
台地の中央付近に一際大きな黒曜石と透明度の高い触れれば手の切れそうな水晶が、他を圧倒する輝きを放っている。
母は一目見た途端呆れたような溜息をついた。
「売ったらぁいくらになるかしらぁ?」
・・・いや、売っぱらったら流石に怒られるだろう。
「ママったら、止めてよね!」
もう、ムードぶち壊しなんだからと美咲は怒る。
「あの石にしたらぁ?」
母がその黒曜石と水晶を指差す。
美咲はジッと見て・・・首を横に振った。
「私には立派過ぎるわ。・・・ママこそあれにしたら?」
美咲の言葉に母は苦笑する。
「欲がないのねぇ。ママも止めておくわぁ。精霊として使役するより売ってぇ美咲の進学費用にしたくなっちゃうもの。」
大学ってお金がかかるのよねぇと母は言う。
当たり前のように元の世界に戻って美咲が進学することを考える母に、美咲は目を丸くする。
何だか胸が詰まって、美咲は下を向いた。
此処に来て1週間以上が過ぎた。
母と旅行に行くと言っておいたがメールや電話に返事のない美咲を友人たちはどう思っているだろう。
夏休みの終わりには後期の進学補習が予定されている。強制参加ではないし赤点補習と違って出席しなくても単位を落とすことはないが担任は心配するかもしれない。
それより何より車で海に落ちて行方不明になっているはずだ。
(・・・死んだって思われているよね。)
・・・なのに母は美咲の大学進学費用の心配をしている。
(ママって凄い・・・)
何だか母を見ていると当たり前に元の世界に戻って学校で勉強する自分が普通に予想できてくる。
(そんなこと・・・可能なのかな?)
異世界トリップに興奮して、すっかり忘れていた前の世界。
勉強は嫌いだけれど学校は好きだ。友人も部活の先輩後輩も、若くてイケメンの担任の先生も、気難しくて書道命の部活のおじいちゃん顧問でさえ美咲は気に入っていたのだ。
帰りたいなと美咲は思った。
今まで少しも郷愁なんか覚えなかったのに思い出したら、あとからあとから前の世界の思い出があふれてきて・・・
「美咲?」
暫く立ち尽くしていたのだろう。母が心配そうに美咲を見詰めていた。
「・・・うん。大丈夫。・・・ねぇ、ママ、私、大学行けるかな?」
母はびっくりしたように目を見開いた。
「いやぁねぇ、心配させちゃったのぉ?大丈夫よぉ。美咲が大学へ行くくらいの蓄えはあるわよ。東大でも慶応でもどこでも行ってちょうだい。」
「ママったら・・・」
美咲はプッと吹き出して・・・下を向いて笑った。
さして優秀でもない美咲がそんな大学に行けるわけがない。
第一、そんな意味ではなかったのに、母にはそれ以外の意味ではなくて・・・
「とりあえずぅ、石を捜しましょう。アッシュに怒られないうちにね。」
母の言葉にうんと頷く。
そう、とりあえず今は石を捜して精霊と契約だ。
それからのことは後で考えよう。
何としても精霊の力を手に入れる。
待っているのがどんな未来だとしても、それを切り開く力を手に入れるのだ!
美咲は顔を上げて周囲を見渡す。
色とりどりの光が滲んで目に映った。




