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拾いもの 1

小さな語句の訂正をしました。

大きな竜に戻った竜王を中心に20頭の竜が空を行く。

竜が空を行くことが当たり前のこの世界においてさえ、こんな景色は見られたことはない。

気にいりの主を乗せた竜王は凄く上機嫌でその高度は否が応でも高くなる。

引き摺られて他の竜もいつもより上空を飛んでいた。

風の魔法で守られていなければ、寒さと気圧の低さで人間などあっという間に倒れていただろう。

実際には風に守られ支えられている人間は少しの不安も感じることなく上空からの景色を堪能している。


少なくとも美咲はそうだった。


「バーン!バーン!あれは何?」


眼下に広がる景色全てが目新しい。


流石のバーミリオンもちょっと大人しくしていろと美咲を叱りつけた。

叱りつけられて暫くは大人しくしていた美咲だったが、気になるものを見つけて自分を支えてくれているバーミリオンの腕を引いた。


「バーン!あれ!!」


大人しくしていろと言っただろうと言いながら仕方なく美咲の指示した先を見たバーミリオンだったが見つけたモノに目を見開いた。


地上に抉れたような大きな穴が開いていて、その穴の中央に人が倒れているように見える。

上空高くからの視点では、はっきりとはわからなかったが赤黒い色が見て取れた。まるで血が乾いてこびりついているような色とピクリとも動かない様子は最悪の事態を思わせる。


美咲は慌てて叫んだ。


「カイト!あそこに降りて!」


「おい!」


バーミリオンの制止の言葉に耳を貸さずに美咲はカイトに指示を出す。


『勝手に離れて良いのか?』


「・・・行って!」


一瞬逡巡したが、美咲は降りることに決める。

放ってなんかおけなかった。


カイトは美咲の指示に従い隊列を離れ下降する。



「美咲!」


同じように穴と倒れているモノに気づき顔を顰めていた母は、娘の行動に思わず舌打ちをもらす。


『・・・あれは、魔物だ。まだ生きている。』


竜王が語る言葉に唇を噛む。


『どうする?』


続けられた問いに、少し考え口を開いた。


「力と記憶を封じられる?」


『気を失っているようだ。今なら造作もない。』


「ならばそうして。美咲に余計な危険は近づけられないわ。」


『殺さないで良いのか?』


「・・・美咲が悲しむわ。」


母の言葉に竜王はフッと息を吐く。


『娘には甘いのだな。』


「悪い?」


どこかの腹黒王のような事を言わないでと母は怒る。


『悪くは無い。・・・ただ、嫉妬しただけだ。』


竜王の言葉に母は目を見開く。


「美咲は私の娘よぉ。もぉう!たっちゃんも、甘やかして欲しいのぉ?」


『お前から与えられるモノは何でも欲しい。』


そして独占したいという言葉を竜王はのみ込む。

胸が焼け焦がれるほどにそう望んでも、この主にそれを望むことはできなかった。


流石竜王、言う事がお上手ねぇと母は軽やかに笑う。


「なら、うんと甘やかしてぇ毛づくろいでもマッサージでもやってあげるから、あの魔物を封じてねぇ。」


母の言葉に応じる旨を答えて竜王は・・・魔物からその力と記憶を奪った。


遅ればせながらタンとアッシュが美咲を追って降りて行く。


竜王と母もゆっくりと下降を始めた。

降りながら竜王は思う。


そう、嫉妬しただけだ。


・・・おそらくあの時の人間の王と同じように。


竜王は人間の王の羨望と悔しさに満ちた碧の瞳を思い出していた。




穴の中に落ちていた人は結果から言えば無傷だった。


血がこびりついたように見えた色はその人の纏う色で、赤黒い長髪に美咲は紛らわしいと文句を呟いた。


アッシュやタンや他の騎士たちも降りてきて、すり鉢のような穴や不審な人間に警戒感を露わにする。

何より彼らの目を引いたのはその人間のハッとするような美貌だった。

確かに男だというのに人目を惹きつける人間離れした美しさを持っている。


「人間なのか?」


タンの疑問は苦々しい。


竜を見てわかるように人型をとる魔獣は一様に美しい姿をしている。しかもやっかいな事に力が強ければ強いほど美しい姿をとる。

気絶したままでまだ目を開けていないために確認できないが、竜だという可能性もあった。


「魔力を全く感じません。人間でしょう。」


アッシュの答える声も嫌そうな響きを帯びている。


大切な“運命の姫君”を連れている道程にアクシデントはいらなかった。


「アッシュ、回復魔法をかけてあげて。」


なのに当の姫君は、お人好しにも身元のわからぬ行き倒れの側に膝を着いてアッシュに救けを求めてくる。

何度も思うことだが、姫君は本当に純粋な優しい性格をしている。何よりも好ましい性質なのだがこんな時は困ってしまう。


バーミリオンが脇で警戒しているが無防備極まりなかった。


「必要なさそうよぉ。ほらぁ、気がつきそうじゃなぁい?」


ゆっくり降りてきた母がようやく近づいてきて声をかける。


確かに倒れていた男はピクピクと身動きをしていた。


「大丈夫ですか?!」


美咲は思わず声をかける。

咄嗟に男に伸ばそうとした手をバーミリオンに掴まれた。


もう、何をするのだと怒ろうとして振り返る前に倒れていた男が目を開ける。


「・・・うっ・・・」


小さく呻くと頭に手をやった。

髪と同じく黒味を帯びた赤い瞳が頼りなく彷徨って・・・美咲に焦点を結んだ。


「あ・・・」


「大丈夫ですか?わかります?貴方は此処に倒れていたんですよ。」


なんてイケメン!!と美咲は心の中で叫びながら声をかける。王様とは傾向が違う種類の美人(男に使う言葉ではないが本当に美人なのだから仕方ない。)といえた。


「・・・ココ?」


「そうです。」


信じられないような美貌のイケメンがこんなに居ても良いのだろうか?流石異世界!想像を絶するわ!と美咲はわけのわからぬ感動にひたる。


男は不安そうに周囲を見回して居並ぶ騎士や竜たちに驚いて目を瞠り・・・ふるふると頭を頼りなさそうに横に振った。


「ココは、何処?・・・俺は、誰?」


(?!えっ、えっ、えええぇ〜っ!!)


今どきあるのかそんなセリフ!?と心の中で大きくつっこむ。


超絶美人のイケメンは、どうやら記憶喪失のようだった。

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