はじまり
物語の始まりです。
よろしくお願いします。
窓のない石造りの四角い部屋。
四隅に掲げられた松明の火が部屋を明るく照らしている。
平らな床に描かれた、ほのかに光を帯びる魔法陣。
その魔法陣の正面に佇み、頭を垂れるフードを被った魔法使い。
後方には引き締まった体格を持つ背の高い剣士が驚いたようにこちらを見詰めている。
魔法陣の中心でそれら周囲の状況を美咲は一瞬で見てとった。
(?!これって・・・)
夢にまで見た異世界トリップ!!
ファンタジー好きな女の子なら誰でも一度は憧れる最高のシチュエーション。
「我が王の“運命の姫君”よ。お待ちしておりました。」
頭を下げたまま魔法使いが話しかけてくる。
(やっぱり!!)
美咲は心の中で快哉を叫んだ。
しかし・・・
その高揚した気分は一瞬で地に落とされる。
「まぁ!一体なぁに?此処はどこ?どうして私達こんな所にいるのぉ?」
背後から聞こえてくる、慌てているようにみえてどこかのんびりした声に、ギギギッと後ろを振り向く。
「!?・・・ママ!」
美咲の背後にきょろきょろと周囲を見回す女性、まぎれもない美咲の母が立っていた。
(どうしてママが此処にいるの?!)
小山内美咲、17歳の高校2年生。
彼女の一世一代の異世界トリップは、保護者同伴で始まった。