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保護者同伴”異世界トリップ”  作者: 九重


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竜の谷 2

予定どおり2刻程の飛行を終えて目的地の竜の谷に着く。


そこは谷と言いながらとてもそんな言葉では表せない規模の盆地だった。

中央に大きな湖を抱いた断層盆地は南西と北東を断層によって画され、周辺を高い山々に囲まれた広大な土地で、かなり標高が高いのか澄んだきれいな空気をしていた。

碧の湖面と緑の大地のあちこちに高空から見ても大きいとわかる竜が点在している。

湖の脇に2刻前に後にした小城によく似た建物が建っていてそこが目的地だった。


滑るように18頭の竜は降下していく。


谷の竜が低く唸るような吼え声をあげ、答えるように18頭の竜が吼える。

圧倒的な迫力を伴った響きが谷を満たした。


感動で足下がふわふわするような感覚で美咲はオリーブから降りる。

グラリと転びかけた体をバーミリオンがグッと支えてくれた。


「あ、ありがとう。」


「いや、役得だ。気にしなくて良い。」


(役得?)


何が?と聞こうとしたところを後ろから降りてきたエクリュに腕を引かれてバーミリオンから体を離される。


「姫様から離れろ!どこを触っているんだ!」


真っ赤になって怒鳴るエクリュはバーミリオンの手が美咲の胸を押さえていたのをしっかり見ている。


(どこって?)


当の美咲はぼんやりしていてそんな感覚はなかった。


「美咲ったらぁ、隙だらけなんだからぁ。」


困った子ねぇと苦笑しながら母がヘリオトロープの手を借りて降りてくる。

ヘリオトロープはまさか竜に酔ったわけでもないだろうに竜に乗る前より青い顔をしていた。


ありがとうとオーカーに言って伸ばしてきた長い首を母は撫でてやる。オーカーの長い尾が嬉しそうにユサユサとゆれていた。


(やっぱり犬と変わりないじゃない・・・)


自分は悪くないと確信した美咲は母を真似てオリーブの羽を撫でてやる。(首には手が届かなかった。)オリーブは嬉しそうに小さく尾を振った。


この世界の住人の竜に対する認識からすれば信じられない非常識な行為をしている母子を周囲の者が若干引き気味に見詰める中アッシュが近づいてくる。


「大丈夫ですか?」


はい。と美咲は答え、大丈夫よぉ。と母は答える。


アッシュは静かに頷いた。


「お疲れのところ申し訳ありませんが、姫君、遮蔽の魔法を解いていただけませんか?」


なんで?と思いながらもアッシュに言われれば断る理由も無い。


美咲は遮蔽の魔法を解くべく、イメージの中で厚手の服を脱いだ。




途端、ドン!!という音も実感も無い、しかし確かに心に響く衝撃を感じた。


「え?」




・・・竜という竜全てが美咲を見ていた。




「え?え?・・・」


反応が怖い。


「彼女が“運命の姫君”です。彼女と名前を交わす竜を請います。受けていただける方はいますか?」


朗々と宣告されたアッシュの言葉に応えて上がった熱は・・・美咲を怯えさせた。


圧倒的な想いが谷のあちこちから押し寄せる。

スレートを初めとした18頭の竜が周囲を囲んでいるため近寄るモノはなかったが美咲に叩きつけられたその熱は暴力的と呼んでも良かった。


ポポが美咲の肩にしがみつき白い毛を全て逆立てる。


美咲は思わず縮こまった。


・・・初めて竜を恐ろしい存在だと思った。


バーミリオンがスッと美咲を庇う位置に移動する。


母の手が美咲の手を力づけるように握った。


「モテモテね、美咲。」


(モテモテって・・・死語でしょ、それ。)


戯けたように言ってくれる言葉に何とか気力を立て直す。


押し寄せる熱に対して頭を上げた。


(負けてたまるものですか!)


そう思った時、美咲の目の前にヒュン!という音がして小さなモノが現れた。


「えっ?」


目をこらして見詰めたそれは竜に似た形をした小さな青い生き物だった。


「きゃぁぁ!可愛いぃ!」


母の歓声が間抜けに響く。


(!?・・・!)


それは、誘拐団で檻から逃がしてあげたあの生き物だった。

相変わらず綺麗な海のような青い色をしている。


美咲はこの状況の中で体の力が抜けるのを感じた。


・・・現れた生き物の無事な姿にホッと安堵する。


「良かった!無事だったのね。」


竜の谷にいるという事は、小さくともこの子はやっぱり竜なのだろうか?


美咲の前にパタパタと羽ばたきながら宙に浮かんでいた生き物は、美咲を青い瞳でジッと見た後小さな体で美咲を守るように背に庇うと、その体からは想像もできない大きな咆哮を上げた。


「!!!」


鼓膜がビリビリと震えるような声が全ての竜を圧倒する。


『これは俺の女だ!手を出すことは許さない!』


(な!!ちょっと、“俺の女”って!?)


小さな生き物が明確な言葉を発したのにも驚いたが、言われた内容にもっと驚く。

美咲を守ってくれようとしているのだろうが・・・“俺の女”はない。


しかし、それはともかくこんな小さな生き物が大勢の竜に立ち向かうなど自殺行為だ!


「ちょ、ちょっとダメよ!危ないわ。」


小さな生き物は美咲の方に向き直る。


『・・・俺を心配しているのか?』


「当たり前よ!そんなに小さいのに。気持ちは嬉しいけれど危険な真似をしてはダメよ。」


美咲がそう言うと小さな生き物は何だか楽しそうにニッと笑った。


『心配いらない。どの竜も俺に傷一つつけられない。・・・俺はこの竜たちを統べる王の息子だ。この中のどの竜より俺は強い。』


「・・・へ?」


言われた内容がわからなかった。


(王の息子・・・って、王子?この小さい子が?)


『お前の契約者には俺がなる。助けてもらった礼だ。ありがたく名を受け取れ。』


「え?・・・あ、その。」


(ありがたくって!?)


こんな小さな竜(竜なのだろうか?)では空を飛べないではないか!?美咲は焦った。


「あの、その・・・気持ちは嬉しいのだけれど」


『遠慮はいらない。人間は嫌いだがお前は気にいった。傍に置いてやっても良い。』


あくまで上から目線の言葉に困惑すると同時に・・・可笑しくなった。


こんな小さい生き物が竜の王子で自分の竜になってくれると言う。


(なんてファンタジーなの?)


美咲はクスクスと笑う。


『何を笑っている?』


「うん。嬉しいから。」


そう、嬉しかった。小さな“俺様竜王子”の美咲を守ろうという気持ちが、美咲と契約しようという気持ちが嬉しかった。


“俺様竜王子”は、なんだか照れたようにワタワタと動く。


『なら、良かった。さあ、契約だ。俺の名は・・・』


『待て!』


“俺様竜王子”が自分の真名を美咲に告げようとした時だった。


先ほど美咲が怯えた威圧感を、更に上回る圧倒的な力がその場に現れ、言葉を発した。


「!!」


息を飲む美咲の目の前に、今まで見た中で一番大きい竜が空中に現れる!


『我に場をあけよ!』


強大な力が言葉となって命令する。


美咲の周囲に居た18頭の竜たちが驚くほど素早く後退り、美咲の前にその竜が着地するに十分なスペースがあけられる。

大きな竜はそのスペースに悠々と降りた。


『・・・父上。』


小さな青い竜が呆然と呟く。


(父上って・・・え?ひょっとして竜の王様?!)


周囲の竜たちが跪くように長い首を伏せる。


アッシュやタンを初めとした人間たち、バーミリオンまでもがその場に膝をついた。


ポカンと立っているのは、美咲と母だけになってしまった。

その美咲も圧倒的な覇気に膝をつきたくなってしまう。

だがその美咲を庇うように小さな青い竜が目の前に浮いた。


『父上、何故此処においでなのですか?』


竜の谷は人間の魂に惹かれ人間と契約を結ぼうという竜が住むための場所だ。

竜王が人間の魂に興味があるなどという話は聞いたことがなかった。


『我は、我が有る場所に有る。』


返答とも言えない返答に、竜の王子は顔を顰めたようだった。(竜の表情の区別はつかないが何となくそんな雰囲気を美咲は感じた。)


『我が子よ、王族が我の許し無く契約できぬことは知っているな?』


続けられた言葉に、今度ははっきりと王子の不機嫌が伝わる。


『・・・都合の良いときだけ“我が子”扱いするな、このクソ親父!俺を勝手にこんな体に変えて、人間の国になんか放り出しやがって!俺がどれだけ苦労したかわかるか?!もう少しで売り払われるところだったんだぞ!!』


小さな竜が、大きな竜にくってかかる。

いくら父親だからといって”クソ親父”は良いのだろうか?さっきまで”父上”なんて言っていたくせに。・・・でも、多分こっちが本物の態度だ。


(・・・それで捕まっていたのね。)


美咲は納得する。

同時にこの小さな姿が本当の姿ではないらしい事に安心した。流石にこんな小さな竜では契約しても乗せてもらえそうにない。


『捕まったのは己の不覚であろう?自分の失敗を親の所為にするな。・・・お前はまだ子供だ。お前の契約する相手にはそれなりの資質が必要だろう。』


母が隣でうんうんと頷いている。


・・・竜王は美咲を見た。


恐ろしいほどの力が美咲に向けられるのが感じられる。


震えて力の抜けそうな足を踏ん張った。


倒れてはいけないのだと思う。


必死に頭を上げて竜王を見返した。


竜王は竜王子と同じように青い体をしていた。ただし王子が綺麗な海のような青であるのに対し王は遙かに高い空の青を思わせる。果てない空の青の瞳が美咲を見る。


『・・・確かに見事な魂の輝きをしている。』


王が言葉を発する。


空気が震えた。


『その魂の輝きのとおり、“我が子”に相応しい宝玉だという証拠を見せよ。』


言われる言葉の意味がわからない。


「・・・証拠?」


竜王が笑った気配がした。

背中に悪寒が走る。


「いや、あの・・・」


無理に契約しなくて結構ですと言おうとして、足下から地面の感覚が消えた。


「!?えっ?きゃっ!あぁぁっ!!」


階段を踏み外したような嫌な感じがして体が下に吸い込まれる。

必死で伸ばした手が・・・隣に立っていた母の足を掴んだ!


「ええぇ?ちょっとぉ美咲ぃ!」


何だか凄く迷惑そうな母の抗議の声を聞きながら、美咲と母は下へと落ちていった。

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