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保護者同伴”異世界トリップ”  作者: 九重


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帰還 4

これで本編は完結です。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!

この後、後日談を1話書く予定です。

とてつもなく広い廊下を美咲と母は、皆と進む。


本当に・・・広い。


「バレーボールのコートが入りそう。」


呆れて呟く美咲の声に母が頷いて同意する。


「ママはバスケットができそうだと思ったわ。」


2人でクスクスと笑いあう。


「バレーでもバスケットでも、付き合いますよ。」


後ろからリナリスが話しかけてくる。

首輪を外された魔王は・・・その美しさを存分に発揮し、危険な色気を振りまいていた。


「いやぁよぉ。リーのアタックを受けたりしたら、手を怪我しちゃうわぁ。」


その色気をまるで無視して母は答える。竜王の色気だって平気だった母なのだ。こんなことでびくともしなかった。


美咲は確かに母の言うとおりだと思った。

夏休み前のクラスマッチを思い出す。

美咲はバレーに出たのだが、相手のクラスに中学の経験者がいて、彼女のサーブもアタックも物凄く怖かった。

彼女のボールには触らないという暗黙の了解が美咲たちのチームにできた。

もちろん試合には負けたのだが、怪我が無くて良かったねとみんなで喜び合った楽しい?思い出だ。

この扉を開ければ・・・その思い出の場所に帰れる道が開く。


思い出に浸る美咲だったが、いつの間にか王の間の重厚な扉の前に着いていたことに気づく。


母は何だか真剣に皆と話していた。


「良ぃい?たっちゃんとリーは私の両脇に居て、目一杯障壁を張ること!アッシュとタンは全体を守るように。蘇芳と橙黄は2人の補佐をして。光輝と虚空はジェイドをできるだけ抑え込んでね!カイトとサラちゃんたちは精一杯美咲とバーンを守って!・・・まぁ、美咲に直接被害が及ぶことはないと思うけれど・・・バーンは危ないかもしれないわね。」



随分と物騒な内容の話だと思うのは・・・気のせいだろうか?

竜王と魔王の目一杯の障壁なんていう最強の盾が何故必要なのだろう?

おまけに他のみんなも全力を出すようだ。


・・・王さまに会いに来ただけではないのだろうか?


「ママ・・・?」


美咲の怯えた表情に気づいた母が安心させるように笑いかける。


「大丈夫よぉ。美咲を見分けるくらいの理性は残っていると思うから・・・多分ね。」



全然安心できないのは何故だろう?



・・・この扉を開けるのが・・・怖い。



「さっき言ったとおりよ。王さまに言う文句だけ、美咲は考えていなさい。遠慮なんてしちゃだめよぉ。」


母の言葉に考え込む。


・・・王さまに言う言葉。


騙されたことへの文句。


美咲を騙して振り回した。

しかもそのことを反省してもいない。

全てを棚に上げて許して欲しいと笑って、愛している嘯く男。


(ううん。違う・・・本当に愛している気でいるんだ。)


おそらく美咲のことを王さまは愛している。

母に及ぶべくもないし、母が第一なのは間違いようもないが・・・おそらくそれすらも王さまの中では何の矛盾にもならないことなのだろう。


美咲が母の娘だから愛している。


そして、母の娘だから母を呼び寄せるために利用した。


そのことに罪悪感など、ひとつも覚えていないに決まっている。


(・・・なんかバカみたい。)


価値観がまるで違う人に腹を立てても空回りするだけだ。

真面目に怒るだけ無駄なような気がしてくる。


それより、美咲自身が王さまを利用した方が良い。


(徹底的に利用して、我が儘放題させてもらうんだから!)


その方がずっと建設的だ!


美咲が密かに決意を固めたところで、母が行くわよと声をかけてきた。


美咲はコクリと頷いた。


重々しい扉がゆっくりと開いた。




中に入った美咲はまずその美しい室内に目を奪われる。

流石、王の間。全てが洗練されて整っている。しかも物凄く広くて天井が高い。

思わず感嘆のため息が出るのを止めることができなかった。


しかし、それと同時に空気がピンッ!と張り詰めるのを感じる。


隣を歩くバーミリオンの表情が硬い。

他のみんなもピリピリと緊張しているようだ。


(どうしたの?)


不思議に思い母を見れば、母は苦笑して見返してくれる。


黙って促されて、そのまま部屋の中央に進んだ。


玉座に王さまが座っている。


相変わらず見惚れずにはいられない美しさだ。

光を集めて輝く金の髪。人間離れした完璧な美貌。

碧の瞳が一心にこちらを見ていた。


(・・・本物って凄い!!)


今まで映像でしか会ったことのなかった美咲は、その迫力に圧倒される。


「!!・・・なんて、”力”だ。」


美咲の後ろでカイトが苦しそうに声をもらした。

美咲と母以外の者は皆緊張で強ばっている。

竜王さえも額に汗を浮かべていた。


・・・今この場では、王と他のモノたちの間で熾烈な勢力争いが行われているのだ。


見えぬ力の激突で空気がビリビリと震えているのだが・・・守られている美咲にはそれは感じられない。


「・・・何を威嚇しているのよ。」


母は呟くと頭を抱えた。


「・・・シャル。」


バリトンボイスが部屋に響く。


しなやかな体が玉座から立ち上がった。

待ちわびていたというように若い体が動いて、王の着ていた長い衣服の裾がひらりと翻る。


王が自ら玉座を降りて近づくという異例の事態に、セルリアン側の臣下や騎士が驚愕して目を瞠った。



「止まりなさい!」



そのまま駆け寄らんばかりの王に、母が冷たい声で制止する。


王の足が止まった。


「シャル・・・」


バリトンボイスが切なく懇願する。


今まで聞いたこともないような王の甘い声音にセルリアンの者たちは・・・倒れそうだった。



「まず、美咲に謝りなさい!貴方がムリに連れてきた私の娘への謝罪がなければ、私は貴方が私に触れることを許さないわよ!」



王は、困惑したように美咲を見る。


「・・・謝って欲しいですか?」


物凄い美形に困ったように聞かれて、美咲だって困る。


「ジェイド!!」


母の怒声に王さまは肩を竦めた。


「ごめんね。」


苦笑とともに謝られる。・・・謝られたのだろう?・・・多分、そうだと思う。


母は大きくため息をついた。


隣で魔王が青白い顔で母に声をかける。


「ごめん。母さん。・・・あと少ししか持たないと思う。」


「・・・これが、人間の“力”だというのは・・・詐欺だ。」


反対側で竜王も苦しそうに息を乱す。


母はますます大きなため息をついた。


「本当に何て無駄でやっかいな”力”なの。」


王は、深く美しく微笑む。


「美咲。今のうちに王さまに言いたいことがあれば言いなさい。・・・ありったけの文句と罵声を浴びせていいわよ。」


忌々しそうな母の声に・・・美咲は考えた。


入る前に思ったことが頭に浮かぶ。


・・・徹底的に利用して、我が儘放題しようと決めたのだった。


だとすれば・・・




「海へ連れて行って!!海水浴に行って、最高級の海鮮料理が食べたい!!あとダイビング!イルカみたいな海獣と一緒に泳ぎたい!!!」




美咲の私欲にまみれた叫び声に・・・全員の力が抜けた。




「美咲ぃ〜っ!!」




母が情けない声で我が子に抗議する。


王は目を見開くと・・・ニッコリと笑った。


「承知しました。美咲。・・・私の愛しい娘。最高のバカンスを約束しますよ。」


魔王がガックリと膝をついた。


「ダメだ。・・・力が抜ける。」


・・・まぁ仕方がないだろう。


全身全霊を込めて王の力を防御していたのに、当の守っている美咲が“海水浴”と叫んだのだ。


力など入るはずがなかった。


魔王が倒れて・・・竜王も押されて膝を屈す。



母は、「もう良いわ。」と呟いた。



王は、ゆっくりと母に近づく。

その碧の瞳は、もはや母以外を映していなかった。


「シャル。」


「美咲。さっきママが言ったようにね。みんな、美咲を頼んだわよ。」


美咲や周囲の者に向けられていた母の顔を王は両手で掴む。

自分の方に向けて、その瞳に自分だけを映した。



「シャル・・・夢じゃない。・・・本物のシャルだ。」



泣き出しそうなバリトンボイスが響く。


「眠れなかったくせに、なにが夢よ。」


「白日夢だよ。・・・いつだって触れる前に消えるんだ。」


そんなもの自分の所為じゃないと母は言いたい。


「私だって怒っているのよ。勝手をして・・・どれほど心配したと思っているの?」


「ああ。シャルにならどんなに怒られてもかまわない。後で土下座でも何でもするよ。・・・シャル・・・シャル。」


王は母をかき抱く!


物凄い“力”が渦を巻いて王と母を包み込んだ!!


「ママ!!」


「下がれ!シディ!」


カイトが美咲とついでにバーミリオンを庇った。




嵐のような力が吹き荒れて・・・その場から王と母が消えた。


「ママ!?」


美咲は焦って母の姿を探す。

周囲の者は・・・諦めたように肩を落とした。


「ママは!?」


「・・・王に連れ去られたのだろう。」


バーミリオンが疲れたように答えた。


バーミリオンは、多分、久方ぶりに母に会った王が暴走するだろうと聞いていたのだ。


(暴走にも、程があるだろう?)


美咲をこの世界に留め置こうと襲ったことを棚に上げて、バーミリオンは心の中で盛大に文句を言う。


「連れ去ったって・・・何で!?」


何でと言われても・・・久しぶりに会った元夫婦、しかも夫が妻にべた惚れな夫婦がヤル事なんて・・・わかりきっている。


そうすることで王の力は安定し、盤石となって全てを支配する。


・・・もっともあの王の力がこれ以上強くなってどうするのだという疑問もあるが。


誰が美咲にそれを説明するんだと目線だけでバーミリオンたちは牽制しあう。


「・・・すまないね。あんな“父さん”で。」


本当にすまなそうな魔王の声が王の間に響いた。






その後3日間母と王さまは姿を見せなかった。


心配する美咲に、王の力はますます強くなり人間世界の隅々まで安定した力が満ちていることから、大丈夫だと周囲は説明する。


美咲は・・・少しも安心できなかった。


ジリジリと我慢して・・・ようやく帰ってきた母に思いっきりとびついた。


「ママ!!」


母は、少し疲れているようだった。


当たり前だと周囲は思う。


反対に王さまは、物凄く機嫌が良い。


猛抗議する美咲に、


「でも、地球では新婚旅行に1週間から10日間くらい行くのでしょう?短すぎるくらいではないですか?」


ずうずうしくもそう言った。


「ジェイド・・・私たちは新婚旅行ではないわ。」


疲れたような母の反論に、だから3日間にしたのだと開き直る。


その上、新婚旅行を短く切り上げたのだからと、美咲と母を連れて海へと出かける。


「約束しましたからね。」


とびきりの美しい笑みでそう言って、スクーバ無しでの海中散歩を経験させてくれた。

もちろん美味しい海の幸の料理つきだ。

人懐こく従順な海獣と戯れ、美咲は行けなかった海を十分に満喫する。


正直・・・楽しかった。


母の作った“マレ”のシチューをブラッドとブラッドのお友達の橙黄という人と一緒に食べた。

橙黄は、ブラッドのお友達とは思えない程物静かで穏やかな大人の男の人で・・・やっぱり物凄く美形だった。

直ぐに美咲は仲良くなって楽しい時間を過ごす。

デザートのプリンに大喜びするブラッドがとっても可愛くてみんなで笑った。




カイトに乗って遠出をしたり精霊王たちとお菓子を作ったり・・・バーミリオンと沢山デートをした。



手を繋いで歩いて・・・キスもいっぱいした。



凄く幸せな時間を過ごして・・・思い出を作って・・・美咲は地球へ帰る日を迎えたのだ。






ポポとぴーちゃんが一緒に行くことがみんなに知れた時、ちょっとした暴動が起こった。


・・・みんな自分も行くと言って大騒ぎになったのだ。


母サイドの竜王たちは、母に一喝されて諦めた。

みんな本当に母に嫌われるのが怖いようだった。


バーミリオンは王さまに止められた。

王さまは、美咲を伴侶にしたいのならば自分の元で王になるための勉強をしろと言ったのだ。

王は、将来美咲にセルリアンを譲るつもりでいた。当然美咲の伴侶が新たなセルリアンの王だ。王の資格のないものに美咲はやれないと言った王にバーミリオンは従った。

美咲と共に歩めない人生など、もはやバーミリオンには価値がなかった。


カイトは竜の目を理由に断られる。


精霊王たちは、この世界を離れる事などできない。泣く泣く諦める以外の道はない。


同じような理由で魔王もダメで・・・自分がダメだった魔王は、当然魔物のブラッドたちにもこの世界を離れることを許したりしなかった。


エクリュもアッシュに止められた。

お前はまだまだ私の下で修業しなさいと言われたエクリュは何だか嬉しそうだった。




自分と一緒に行きたいと言ってくれるみんなに感謝を示して・・・美咲は帰る。




美咲と母が異世界トリップをしてから・・・2ヶ月が過ぎていた。





時は取り戻せない。


異世界でも地球でも時は同じように流れ、巻き戻すことは不可能だ。


地球で美咲と母は事故に会って海で行方不明になり生存を絶望視されているそうだった。

何でもあの事故を起こしたトラックの運転手は酔っ払い運転を繰り返しており、いずれ事故を起こすだろうと王に利用されたという話だった。

実際には死亡事故を起こさずに済んだのだから良かったというべきかもしれない。


時は戻せないが、記憶操作ならできる。


美咲と母は事故で怪我をして病院に入院し、その後自宅療養をしていたのだという事になった。


美咲の学校や母の会社。ご近所やその他諸々をすっかり騙す王の力には呆れてしまう。



その力を持って、美咲と母、ポポとぴーちゃんは地球に帰還するのだ。



王の間の床に描かれた魔法陣の上に美咲たちは乗っている。

別に必要ないそうだが、気分だと王は言った。



「では送りますね。またこちらに来たい時はいつでも腕輪で連絡してください。一瞬で呼び寄せて差し上げますよ。」



「当分ごめんだわぁ。」



母の声は本当にイヤそうだ。

王さまがしつこすぎる所為だと美咲は思っている。



「だったら、私の方から会いに行きます。シャルが解放してくれたから私は自由です。いつでも会いに行けますよ。」



美しい笑みに寒気がするのも・・・もう慣れた。


「いいから、さっさと送りなさい。」


母の言葉に王さまはあっさりと手を上げる。


光りの渦が美咲たちを囲み始めた。


「みんな!ありがとう!!・・・またね!!」


美咲は精一杯怒鳴る!


皆手を振ってくれた。




最後にバーミリオンと視線を交わし・・・次の瞬間、美咲は懐かしの我が家に戻っていた。




母は2ヶ月留守にして埃だらけになった自宅に大袈裟な溜息をついて・・・さっさと掃除を始める。


「手伝ってね美咲。頑張らないと今日寝る場所もないわよぉ。」


うん、と答えて美咲は家の窓を開けに行く。


2ヶ月が過ぎて、うだるような夏の暑さの代わりに、高い秋空に吹く爽やかな風が外から入ってくる。

ポポが足元に絡まってくるから抱き上げて外を見せてやった。




空に竜は飛んでいない。




でも手の中にはポポがいる。




美咲の口元に笑みが浮かぶ。




「美咲〜!!」


家の中から母が呼んだ。


「は〜い!!」


大きな声で返事をして、美咲は部屋の中に入る。



どのような未来も選ぶ事のできる明日へ向かって・・・美咲は歩き出したのだった。

・・・ママと王様のいなくなった時のお話は、ムーンライトに載っています。

18歳以上の方でお気になる方はお読みください。

ほぼエロだけですので、読まれなくとも問題は何一つありません。

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