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保護者同伴”異世界トリップ”  作者: 九重


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事件 1

美咲の母は、タンに連れられ騎士の鍛錬場に居た。


アッシュやタンと共に王都から派遣された騎士は15名。

いずれも若く血気盛んな彼らはアッシュの完璧な結界の中で力を持て余していた。

広い鍛錬場の中で互いに組んでは打ち合いを行っていたが、タンが美しい女性(“運命の姫君”の母君という事だった。)を伴ってきたことから、意気が盛り上がり勝ち抜き戦のトーナメント試合をやろうという流れになる。


「まあぁ、ステキ!頑張ってぇ!」


女らしい可愛い仕草と声、愛らしい容姿に不釣り合いな妖艶な肢体。既に子をなしていることから確実に自分たちの子を産むことができる女性の声援に男達の意気は上がる。


タンはため息をついたが、ここ暫くの騎士達の鬱屈を晴らすためには仕方ないかと許可を出す。


組み合わせが決まって、少し年嵩(とは言っても30代前半だが)の騎士が美咲の母の元へ近づいた。

ジロリと睨むタンを気にせず声をかけてくる。


「賭けませんか?」


「ヘリオ!」


タンが声を荒げる。

この騎士の名は“ヘリオトロープ”タンの副官だった。

それなりにきちんとして黙って立っていればそこそこイイ男なのだが、制服を着崩してよく言えば人当たりの良い、悪く言えばだらしない印象を与える男だ。生真面目なタンに対し、くだけた態度と言葉で他の騎士達との間の緩衝材のような役をこなしていた。


「良いじゃないですか。ママに賭けてもらえば騎士冥利につきます。士気も上がりますよ。」


気安くママと呼ぶ副官にタンの顔は苦虫を噛み潰したようになる。


「賭け事は、好きよぉ。」


美咲が傍に居れば絶対言わないような発言をして、賭博トーナメントは始まった。


賭けと言っても美咲の母はお金を持たない。

ただ単に勝つのはどちらか予想し、当たれば喜び、はずれればがっかりする。

単純に喜怒哀楽を示す美しい女性の表情に騎士たちは心から癒された。


何戦目かの戦いの勝者が手にキスをさせて欲しいと強請り、頬を染めた母に許されると(ぴーちゃんは『ぴぃぴぃ』と煩く鳴いて怒られて、拗ねて髪に潜り込み、美咲から預かっていたポポはあまりの騒ぎに足元で小さく丸くなっていた。)騒動は尚エスカレートし、お祭り騒ぎの様になってしまった。


「これはこれは、凄い騒ぎになりましたね。」


他人事のようにヘリオトロープが言う。

誰の所為だとばかりに睨みつけるタンの視線をものともしない。


「しかし、凄い女性ですね。」


ヘリオトロープは感心したように今しも一人の騎士から女王のように手にキスを受ける母を見る。


タンは視線を鋭くした。


「・・・気がついていますか?彼女俺たち全員の名前を覚えていますよ。」


タンは目を瞠った。


「まぁ“ジョン”褒めても何も出ないわよぉ。」


にこやかに笑う母の前には鮮やかな黄色の髪の騎士“ジョンブリアン”が跪いている。その髪色同様明るくてお調子者の騎士は何を言ったのか母を上機嫌にさせていた。


「我々の呼び名は覚えやすい。」


その様子を不機嫌に見ながらタンは言う。

この世界では呼び名はその者の纏う色に由来することが多かった。ヘリオトロープもその名の表す紫の花そのままの髪と目の色をしている。


「それにしても全員ですよ。我々がママに引き合わされてからの時間がどれほどかわかっていますか?」


そんなものはわかっていた。

召喚したその日にひととおり顔だけ紹介して、その後は警護についた数名以外とは顔も合わせていないはずだ。実質的には今日ここへ来て鍛錬とトーナメントを見ていた時間だけだと言っても良い。

その僅かな時間に全員の顔と名前を一致させたのか。


「よっぽど必死なんでしょうね。・・・子供を持つ母親ってのは皆ああなんでしょうかね。」


髪をポリポリとかきながら、ヘリオトロープは感心したようにうなる。

ヘリオトロープは知っていた。厨房の者たちも母を語るときは皆今の騎士たちと似たような顔をする。

どの者も母が自分の名前を覚えてくれて親しく話しかけてくれるのだと嬉しそうに話していた。


「あ〜あ。うちの連中のだらしない顔ときたら、見ちゃいられないな。あんな美人が名前を呼んで笑いかけてくれるんじゃ無理もないか・・・。良いんですか?あの忠誠は本当は“運命の姫君”に向けて欲しいんじゃないんですか?」


「エクリュのようになってもらっては困る。」


タンの返事にヘリオトロープは笑う。


「あの坊やはお子様ですからね。派手にキラキラ光って目映いモノに心を奪われている。・・・うちの連中は違いますよ。ああ見えて選りすぐりを連れてきてますからね。どんなに若い奴も実戦の2回や3回はくぐり抜けてきている。姫君もお綺麗で可愛らしいですがね、戦場に出た男は母親の雰囲気に弱いんですよ。」


それに何より“運命の姫君”は王のモノだ。美咲の顔には売約済みの札が貼られているも同然だった。


「ママは、いずれ元の世界に帰られる方だ。」


いかにも不本意そうにタンはその事実を口にする。

“運命の姫君”である美咲は王の伴侶となってこの世界に留まってもらわなければならないが、母はあくまでイレギュラーな召喚だったのだ。

美咲の幸せを確認してもらったら元の世界に帰さなければいけない存在だった。


ヘリオトロープは面白そうに笑った。


「本当に帰せるんですか?」


それは現実の手段を言っているのだろうか?

それともタンの心情を聞いているのか?


「それは・・・」


タンが聞き返そうと口を開いた時だった。


「キャッ!!」


母の叫び声に慌ててそちらを見る。


母の足下に蹲っていたはずのポポが光を纏い宙に浮かんでいた。

舞い上がる風に栗色の髪がくるくると回る。

髪の中に隠れていた赤いヒヨコの姿がよく見えた。


いつもの怯えた様子を一切見せない白い魔獣は宙の一点を睨むと唐突にその存在を消す。


風がやみ、光が消えて静寂が戻る。

髪がふわりと元の位置に落ち着き赤いヒヨコを隠した。


「!・・・美咲!美咲は!?」


母の声にタンは立ち上がり一目散に駆け出した。

向かうは美咲とエクリュがいるはずの部屋だ。



ポポの様子は美咲に何かあったとしか思えなかった。

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