第1話 HR―ホームルーム―
「にゅわ~ん!!ちっこくぅー!。」
時計の付いていない腕を巻くって見た。
時刻は七時五〇分だと思う。朝のホームルーム開始時刻は八時からだから・・・後十分しかない。
「ま、間に合うかなぁ・・・。」
そう言いながらいつも通う通学路を猛ダッシュで駆け抜ける。
・・・はぁはぁ。
1分近く走った頃から息が切れ始めた。体力には自信あるのだけど・・・。
もたもた走っているうちに、曲がり角に差し掛かる。
「ここを曲がればもうすぐ学校。間に合え、私の理想生活(学園ライフ)!」
「えー、桜坂くん。君は罰として放課後、教室を掃除してもらいましょう。」
「は~ぃ・・・。」
率直に話しましょう。間に合いませんでした。
時間的には8時05分を針は指していた。けれど、「遅刻は遅刻。」と担任の太田先生に罰を貰い、現在に至る訳です。
私は罰を貰った後、速やかに自分の席に着いた。
「はぁ・・・。」
思わずため息が出る。そんな私に「大丈夫?」と声をかけてくれる親友、天宮 結。
成績は優秀。青色っぽい黒髪の結はきっと男子からも人気がある。
「もしよかったら手伝うよ?」
「ああ・・・ありがとう(泣)」
「泣き、とか声に出して言わないの。」
「えへへー。」
「全くもう。」
これが、私たちの日常。
でも、そんな日常はすぐに崩れ、ある事件が起きた。
「えーそれでは、HRを始めます。と、その前に今日、新しいお友達が増えます。」
周りはざわめき始める。
「え?なにそれー、聞いてないよ。結知ってた?」
「ん、まぁ知ってたよ今日の朝その話でもちきりだったんだから。」
「そうなんだ・・・。」
遅刻って損だよね。「当たり前でしょ。」間髪入れずに結はツッコミを入れる。
「えー静かにしましょう。それじゃ、入って」
先生の合図でドアが開く。そのドアの向こうには少し小さめの少女が立っていた。
少女が黒板の前まで立つと、自分の名を言った。その言葉に驚きを隠せない生徒は多数いた。絶望する生徒も無数にいた。
彼女の名はエレア=Mt=フィールド。そう名乗ってお辞儀をする。
「え・・・?」
どうしても驚きを隠す事は出来ない。声に出してしまう者は多く声が漏れる。
嫌だ。
なんで?
最悪。
全てが全て、彼女を否定する言葉だけが聞こえてくる。それでも彼女はお辞儀をしたまま動く事は無かった。
「あー、なにかと気になることは有るだろうけど、皆さん、仲良くやりましょう。」
ようやくここでお辞儀を止め、前を見る。金髪のツインテールに真っ赤な瞳。紛れも無くあちら側の人間だ。
「ー魔術師ー。」
そんな声も聞こえた。
彼女は睨むかのように目を細め、愛そう無く先生の指示した席へ座る。
一番後ろの左側の席へと座った。そう、部屋の隅だ。
皆の視線は後ろへと行くことは無いが、ざわつきが更に増すばかり。
先生までつれない顔をして、エレアを見る。
「皆さん、静かに。今日のHRは終了にします。余った時間は読書に励むように。」
そう言うと、足早にその場を去った。
「・・・」
「・・・」
沈黙が続く。
たった一人の少女がこのクラスに入った瞬間、空気が変わった。
沈黙に耐え切れなかったのか、最初っから気分が悪かったのか、私にはわからないけど、一人の少年が舌打ちをし、彼女に向かって。若しくは独り言を言い始めた。
「あ~あ、なんでお前みたいのがココに居るのかねー。クソ気分悪いわ。」
エレアは黙ったままだった。荒野 大地と言う少年は更に苛立ちを覚え、無視。或いは態度が気に入らなかった為か、彼のストレスゲージはますます上昇していった。そしてー
「クソ、ふざけやがって。おい!なんか言えやバケモン(・・・・)。」
「・・・」
振り向きもせず、沈黙を続ける。
突然、少年は机を思いっきり蹴り飛ばして、エレアの方へと向かっていった。
「畜生。なんでテメーがここにいんだよって聞いてんだよ?あぁ?聞こえなかったのか?」
荒野は彼女の机さえも蹴り飛ばす。ーガタンー。周りの人達は避難して、二人を取り囲むかのような輪が出来ていた。
「おい、いつまで無視するきだ?あぁ?ただで済むと思うなよ。魔術師。」
そう告げると、少年は彼女の襟を掴んでこちら側に引き寄せる。
エレアは沈黙するのをやめ、少年を睨め付けた。
「気安く触らないでくれるからしら?蛮人。蚤が移るわ。」
「てめッー。蛮人なのはどっちの方だ?あぁ?機械に触れる事すら出来ねー(・・・・)くせによぉ?」
「魔術も使えない未開人がよく言うわね。どっちが蛮人なのか、まだわからないのかしら?ふふ、脳が発達してなければ、言葉の意味さえ分からないと思うけれど、」
睨み合いはそう長くは続かない。荒野は握っていた拳を上に振りかざし、思いっきり、彼女を殴ろうとした。
身長175センチ以上はある男の拳が、150前後の小さな少女に力いっぱい降り注ぐ。
その瞬間。
ー私はー
「やめて!」
修羅の中、私の声が教室中に響き渡り、全員が注目する。誰も予想しないたった一言で、空気がまた変わる。
「おまえ・・・何言ってんだよ。まさか、こいつの肩を持つのか?」
「あ・・・」
思わず一歩、後ろへと下がってしまう。彼女の肩を持つ。と言うことはこのクラス。いや全校生徒を敵に回す事に匹敵するからだ。
少年はエレアの襟から手を離すと、私の方へと一歩近づく。
「なんでこいつの肩を持つんだよ、意味わかんねーよ。お前だって知ってんだろ?こいつが魔術師だってことを、なのになんで。」
「・・・」
返す言葉が思いつかない。けれど、こんなの間違ってるってそう思った。
つばを飲み込み。震える唇をかみしめて、こう答えた。
「初めて会ったばかりなのに喧嘩なんてして、間違っているよ。」
「でもあいつはー」
「そんなの関係ないよ絶対。だって同じ人間じゃない。生まれた場所は違くても、同じ道歩む仲間じゃない。」
「・・・」
周りの皆んなは黙り込んだ。
私の言葉にだって、間違いはいくつもあったはず。だけど何も言わずただ黙り込む。
少年はため息をついて、最後に一言呟いた。
「あいつが機械を触れば、どうなるか。分かってるだろうな・・・。」
「・・・」
もちろん分かっている。彼女が機械を触るとどうなるかぐらい。教えてもらわなくても分かる。基礎中の基礎。幼稚園の子供たちだって分かる超簡単な問題。
答えはそう。
ー爆発するー。
魔術師が体内に宿す魔力は私たちが作り出す機械。及び機器や兵器は魔力に異常な程の反応を起こし、爆発を起こす。
爆発と言っても、爆弾の様に大きな爆発ではなく、火薬を使う玩具のような小さな火花を散らす程度。
そんな玩具の様な火花を散らしただけで、爆発した機械は一生動く事はない。
一瞬でスクラップ行きだ。
機械の中心にある核が魔力に侵食され
侵食された機械は一生と動くことは無い。
もしも ―機械から魔力を取り除く技術があるのなら― きっとそれは更に未来にある超未来技術が必要になるだろう。
「ッチ、」
荒野は気分悪そうに舌打ちを鳴らし、自分の席へ座った。同じくしてクラスの人達は散らかる机を元に戻して何事もなかったかのように席を座る。
この場の空気だけは変わることはないのに。。。
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