約束を果たしに
シキがワールズとしてアルバントに働きかけてくれたことで、アルバントがソーヤに手を出すことは無くなった。
そして、シキの尽力で、ソーヤと共に保護されたハルもワールズの管轄となり、アルバントの影響のない土地で暮らすことになった。
今までよりは、人間らしい暮らしになることだろう。
万が一、その力をワールズに利用されようとしても、アルバントの影響力の強い夏甘に住むよりは、遥かに良い。
ソーヤに、平穏な日常が戻って来た。
……コレットが居ない頃の日常に。
コレットが居なくなって数週間が経ったある日、ソーヤは旅行用の大きなリュックを担いで、家から出る。すると、外にはカナエが居た。
「どうした? カナエ」
「どうしたは、私の台詞よ。そんな大きな荷物を背負ってどこに行くんだか」
カナエの呆れたような声に、ソーヤは苦笑する。
「まぁ、ちょっと、旅行かな」
「コレットの所に?」
まるで、ソーヤの目的を予想した言葉に、驚いてしまう。
「そうだね」
「いつ帰って来るの?」
「さぁ。帰ってこないかもしれない」
「……やっぱ、そうなんだね」
カナエは、諦めたようにため息を吐く。
「もしかしてわかってた?」
「態度を見てれば、バレバレよ」
「さすが、幼馴染か」
ソーヤは感心する。しかし、カナエはニコリともせずに睨みつけて来る。
「違うわよ。……好きだからに決まってんじゃない」
カナエの突然の告白。ソーヤは驚きに目を丸くする。
「……友達として?」
「……異性としてに決まってんでしょ」
カナエの不機嫌そうな、それでいて、泣きそうな声を聞いて、余計な質問をしてしまったことを、ソーヤは後悔する。
果たして、カナエはこの言葉を吐くのに、どれだけの勇気が必要だったのだろう。これが最後かもしれないからと、必死で言った言葉。あの時、コレットと別れる時の自分には、それだけの勇気はなかったと、ソーヤは今更ながらに思う。
だから、カナエの勇気に答える為に、ソーヤは真剣に答える。
「……ごめん。カナエの気持ちには、答えられない」
「……やっぱり、コレットが好きなんだね」
正直な所、自分としては、コレットの事を異性としての好きなのか、家族もしくは友人として好きなのか、わからない。けれど、一緒に居たい。この思いは確かにある。だから、ソーヤは余計なことを言わずに頷く。
「好きだよ」
「そっか」
カナエは俯いてしまう。
「それに、俺はコレットを傷付けた。だから、行かなくちゃいけない。まず、謝らなくちゃ」
「……なら、行って来なさい。正直悔しいけど、そうでないと、ソーヤらしくも無いと思うから」
自分も悲しいだろうに、笑顔を作って、そう気丈に送り出してくれるカナエ。
ソーヤは力強く頷き、歩き出す。
コレットの待っているローテムへ。
彼女に、自分の気持ちを伝える為に。
最後まで読んで頂いて、有難うございます。
続きそうな話ではありますが、続きは考えていません。
中途半端な印象を与えてしまったら、ごめんなさい。
楽しんで頂いたのなら幸いです。