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第4話 最凶VS古強者

「さぁ、構えなさい!!」


 セバスから突然向けられた強い敵意、シャルロットは理解できなかった。


「嫌だよ爺や…………冗談はやめて!」

「冗談などではありません!! 今の私はあなたの敵でございます!!」

「違う!! 爺やは私の味方だもん!!」


 状況を理解することを拒絶したシャルロットは、さっきとは打って変わって、幼児のように叫び始めた。


「爺やは敵なんかじゃない! だっていつも私のことを助けてくれたもん! 誰よりも私のことを見てくれた!! それなのに爺やと戦うなんて……私は嫌だ!!」

「だからそういう所が甘いのです!! 敵に遭遇したとき、あなたはそうやって駄々をこねるつもりですか!」

「だって! だって!」


 シャルロットはそれでも駄々をこねる。


「退け。俺がやる」


 静観を決め込んでいたグラムがついに動いた。二人の言い争いに飽き飽きしていたグラムだったが、闘争の気配を感じ取り、我慢できずに飛び出したのである。


「きゃっ!?」

「お前らの事情などどうでもいいが、俺はお前を使ってやりたいことがある。不本意だが手を貸してやろう」


 グラムは獰猛な笑みを浮かべながらシャルロットを押し退け、セバスの前に立ちはだかる。


「……ふん、"破天荒"か」


 セバスは忌々しいと言わんばかりにグラムを睨みつけた。


「貴様の悪名は人間界にもよく伝わっているぞ。己の快不快のみで行動する暴君ランページ、魔界でも随一の札付き魔族とな」

「よく知ってるじゃあないか。知ったところで、勝てる訳でもなかろうに」

「減らず口を」


 グラムは嘲笑した。


「ハハ。お前、名は何というのだ?」


 先ほどシャルロットから聞いたにも関わらず、グラムはもうセバスの名を忘れていた。


「教えて何になるという」

「人間は死体が残るから墓に埋める文化があるんだろう? 墓石に刻む名前がいるじゃないか」


 聞かれたグラムは不思議そうな顔をして答えた。それは嘲りでも侮辱でもなく、ただ純粋に理由を聞かれたから答えただけである。


 しかしセバスは、それを挑発と受け取った。


「────クロノス・ハンズ」


 その刹那、セバスが持つ懐中時計が蒼白の光に包まれた。それは見る見るうちに形を変え、やがて一本のレイピアとなる。

 

 そのレイピアは、まるで時計の針のように刀身が細かった。


「私はセバス・アンデルセン。デュラン家執事、元聖教会浄罪執行者(エグゼキューター)。貴様を滅する男の名だ」


 セバスの名乗りをよそにグラムは、興味深そうにセバスのレイピアを見つめる。

 

 そしてすぐに可笑しそうに笑いだした。


「そんなみすぼらしい剣で俺を殺せるとでも?」

「語るに及ばず。今からその身に刻み込んでやる」


 セバスがレイピアを構える。


 グラムは構えることなく、ただひたすら愉しそうに嗤っている。


 ────良い。


 ささやかな期待をセバスに寄せながら。


「軽く遊んでやる。失望させてくれるなよ?」


 風が吹く。


 火花を散らす両者の間に、千切れた草が揺蕩う。


 その刹那、両者は同時に動いた。


「「!」」


 拳とレイピア。


 殴打と刺突。


 それは同時にして同速。衝突せずにすれ違い、両者の頬の薄皮を掠め取った。


 そのまますれ違った両者はすぐ振り返り、また同時に一歩距離を取る。先ほどとは逆の位置構図が完成する。


 刹那の沈黙。


 先に動いたのはセバスだ。レイピアを水平に構え、切っ先をグラムに向ける。


「ぬぅ!」

  

 刺突一閃。グラムの胴体に無数の穴が開く。


「ハハ! やるじゃないか!」


 刺突が速すぎるあまり反応出来なかったグラムだが、身体に幾つもの穴が開いているにも関わらず、平然とした様子で嗤っている。


 続く二撃目の刺突。二度目とあってか、今度はグラムも反応が間に合い、高速の刺突を手で弾き返した。


 同時に穴が開いた肉体を僅かな魔力を消費して再生する。


「いいぞセバス・アンデルセン!! そうこなくては!!」


 グラムは獰猛に笑って拳を振り抜いた。それは魔法でも技術でもなくただ乱雑な殴打であった。そして、それこそがグラムの十八番である。


 だがその暴力が当たる刹那、セバスの姿が一瞬の間も無く搔き消えた。


「転移魔法だな!?」


 グラムはすぐさま、背後へ裏拳を繰り出す。


 思いがけず()()を読まれたセバスは後ろに一歩引いて回避する。また刺突を構えようとするが、グラムはそれを許さず猛攻をけしかける。


 力任せな猛攻だった。殴る蹴るの一点張りは速度こそ凄まじいが隙だらけで、技量や策略などは微塵もない。


 だが、グラムが放つソレは訳が違う。その暴力で半不死身の魔族を何万も屠って来たのだ。


 ならばただの攻撃も技と言えよう。闘争とは勝利すれば正義なのだ。


 しかし、セバスには届いていなかった。雨の如く放たれるグラムの連撃は容易く躱され、時折り魔法による瞬間移動を挟むことでグラムのペースをずらす。


(チッ、魔力を失ったせいで身体が思うように動かんな)


 グラムは想定を超える自身の弱体化に手を焼いていた。頭の中に想像する自分の動きに弱った肉体が追い付けず、結果的にセバスに反撃を許す隙を晒してしまう。


 しかしやられっぱなしではない。蒼白の魔方陣がレイピアに浮かぶ一瞬、セバスの魔法が発動するタイミングをグラムは見抜いていた。


「ほら頑張れ!! お前は俺を滅するのだろう!!」


 セバスの瞬間移動からの刺突の連撃はグラムに弾かれ、猛攻は止まらない。


 むしろ、グラムの猛攻はセバスを捕らえ始めていた。


「さっきからそればかりだな!! 馬鹿の一つ覚えか!!?」


 攻撃が徐々に掠り始めたことでグラムは勢いづき、より深く踏み込んだ。

 

 その判断が命取り。


「────見切った」


 グラムの拳が、セバスの身体をすり抜ける。代わりにセバスの拳がグラムの顎を打ち上げたのはその直後のことであった。


 虚を突かれたグラムは大きく仰け反り、攻撃の手を止めてしまう。


「確かに貴様は凄まじい」


 グラムの過ち。


 それはセバスをただの人間であると侮ったこと。

   

「だが少々驕りが過ぎたな」


 セバスのレイピアがグラムの眉間を刺し貫いた。


「言ったはずだ」


 セバスの過ち。


 それは魔族グラムが人間ではないことを失念していたこと。


 刺突を繰り出した後に生じる一瞬の硬直。そこを突かれたセバスは、レイピアを握る右の手首を掴まれた。


「そんなみすぼらしい剣で、この俺を殺せると思ったのか?」


 脳を貫かれても尚、グラムは平然とした様子でセバスに問う。

  

 魔族の死とは、魔力が尽きること。


 頭を貫こうが、心臓を貫こうが、それは魔族の死にはつながらない。


 ただ受けた傷の大きさに相当する魔力を消費するのみ。


 故に点の攻撃である刺突は、魔族にはほぼ無効である。


「それに知っているぞ? 転移魔法の効果は術者に直接接触している物体にも適応される」


 グラムの剛力がセバスの右手首を握り潰す。


「ぐっ……!」


 セバスの表情が苦痛で少し歪んだ。


「さぁ王手だ! もうどこにも逃げられんぞ!」


 グラムが勝ち誇った次の瞬間。


()()だ」


 セバスは、グラムの背後に立っていた。


 その右手首は未だグラムの手の中。レイピアもまだグラムの頭を貫いている。


「この草原に移動した最初の一回。それきり、私は転移魔法を使用していない」


 セバスの左手には、鮮やかな血が滴るナイフが握られていた。


「そして貴様が転移魔法と勘違いしているのは私の()()()()────」


 レイピアから蒼白の光が放たれる。


「『時よ止まれ(クロノス・ハンズ)』」


 グラムの時間が停止した。

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