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第18話 リンゴ外交

「私達が来ましたわー!!」


 デュラン王国王城の応接間にルミナスの活発な声が響く。そのすぐそばには微笑みを浮かべるガビルもおり、応接間で立ったまま待っていたシャルロットも微笑み返した。


「お久しぶりですルミナス様、ガビル様」

「あら、久しぶり? ふふん! 私からすればついこの間のことでしてよ!」

「ハハハ、相変わらずだねハニー」


 三人のやり取りは和気藹々、一年前に敵対していたとは思えないほどである。そこに突っ込みを入れたのは一人だけ勝手に椅子に座っていたグラムだった。


「……やけに仲が良くなってるじゃないか。この間は敵だったはずだが、何があった?」

「げっ! は、破天荒……!」


 グラムの声に反応したルミナスが青ざめる。ガビルもまたグラムの存在に気付いて、ルミナスを庇うように一歩前に出た。


「無礼者。開口一番がそれか」

「ダメですよグラム様。ダインはもう敵ではないんですから」


 突っかかろうとするグラムをシャルロットが諫める。グラムは鼻を鳴らし、仏頂面で黙りこくった。


(ちょ、ちょっとシャルル! なんで破天荒がここにいるんですの!)


 ルミナスは急いでシャルロットに迫り、小さな声で問いただした。


(ホントはセバスが来るはずだったんですけど、体調が優れない日が続いてるらしくて…………その代わりに……)


 その答えを聞いたルミナスはこの世の終わりを迎えたような顔をする。彼女にとって、グラムはそれほど大きなトラウマになっていた。


「チッ」


 ルミナスの挙動が気に食わなかったのかグラムは舌打ちをする。空気はどんどんと悪い方向へ流れ始めるが、これを察したガビルがわざとらしく咳払いをして、皆の注意を引き付けた。


「招待された側が言うのもアレだが……とりあえず座らないか? 今日の会談は立ち話では終わらないよ」



「会談の前に一つだけ聞きますが、ダインの方は大丈夫でしょうか?」


 一行が着席した後、シャルロットが案じるような顔を浮かべながら話しを切り出した。


「お陰様で最悪は免れたよ。寒冷化のせいで今年も不作だった上に、備蓄がもう底を尽きそうだったんだ。デュランのリンゴが無ければ今頃相当な餓死者が出ていたに違いない」

「そうですか……良かった」


 シャルロットは安堵してホッと息を吐く。ガビルは深く頭を下げた。


「本当にありがとう。感謝してもし切れないよ」

「お役に立てて何よりです! それにダインにはリンゴと引き換えに多額の資金を頂いていますから、うぃんうぃんです!」


 シャルロットは少し弾んだ声を返す。


「逆にデュランの方は大丈夫ですの? ベオウルフや他の国にもリンゴを渡していらっしゃるようですけど……」

「勿論! この寒さのせいで小麦や芋は相変わらず不作ですが、リンゴだけは毎年収穫出来るんです! 去年こそ実りがそこまで良くなかったものの、今年は滅多にないくらいの大豊作でした!」


 ルミナスの問いに対し、シャルロットは嬉しそうな顔で答えた。


「それに、国内で消費しきれない分は廃棄するしかなかったのですが、ベオウルフやダインが貿易を再開してくださったお陰で輸出することが出来ました。だから、お礼を言わなければならないのは私達の方です」


「ありがとうございます」と、今度はシャルロットが頭を下げた。ガビルとルミナスは顔を見合わせ、気まずいような安堵するようなどっちとも取れない顔で苦笑する。


「やたらと馴れ馴れしいのはそういうことか……」


 一連のやり取りを聞いていたグラムは退屈そうな顔をしていた。


「あら? グラム様もいいですよ? 私のことシャルルって呼んでも」

「もち姫」

「むぅ……つれない人ですね……」


 シャルロットは残念そうに肩をすくめた。


「いや、それよりもさっきの反応……まさか貴方、この国のことを何も知らないんですの?」


 不意にルミナスがあり得ないものを見る顔でグラムに尋ねた。


「悪いか」


 グラムは怠そうにして開き直る。ルミナスは開いた口が塞がらなかった。


「噓でしょ? 仮にも王族関係者の癖に知らないの? いくらなんでも頭わる……いや知能がひく…………インテリジェンスが控えめなの?」

「殺すぞ」


 唐突に貶されたグラムは当然のように怒る。


「はぁ!? 殺すですって!? それはこっちのセリフですわ!!」


 しかしルミナスはいつもの様に萎縮せず、むしろグラムを超える勢いで怒りを露にした。


「黙れ虫けら。顔が喧しい」

「信じられない……! 許せませんわ!」


 ルミナスは怒りに震え、悔し気に拳を握り込む。日頃からグラムに関して苦労しているシャルロットは小さく頷き、ルミナスの怒りに同意した。


「デュランのリンゴの素晴らしさを知らないだなんて!」

「え、そっち?」


 しかし怒りの方向性が想定と違ったらしく、シャルロットは目を丸くした。


「あんなにも甘くて美味しいリンゴを知らないだなんて……! それでもデュランの人間ですの!!?」

「俺はそもそも魔族だが?」

「お黙り非国民!!!」

「はぁ……」


 よく分からない怒りを一方的にぶつけられ、グラムは困惑していた。それが酷く珍しかったので、シャルロットもポカンとした表情を浮かべていた。


「あの……デュランのリンゴを褒めてくださる気持ちは嬉しいですけど、何でルミナス様が?」

「どうもデュランのリンゴを使ったスイーツにドハマりしたみたいで……」

「それは…………えっと、ありがとうございます?」


 ガビルの口から出たちっぽけな理由に、シャルロットもいよいよ混乱した。


「あぁもう我慢なりませんわ!」


 不意にルミナスが勢いよく立ち上がった。


「立ちなさいこの非国民!! この国のリンゴの素晴らしさ、私が直々に教えて差し上げますわ!!」

「お前はこの国の何なんだ? というか断る。調子に乗るのも大概に────」


 次第に苛々し始めたグラムがルミナスを脅そうとしたとき、これに待ったをかける者がいた。


「いいえグラム様、今回はルミナス様に従ってください」

「はぁ!?」


 シャルロットである。思いもよらない命令に、グラムはついに声を荒げた。


「おいもち姫! 何のつもりだ!!」

「契約を履行しているだけですよ。私は貴方に平和の何たるかを教える義務がありますから」

「ッ!」


 グラムは反対しようとしたが、契約を持ち出されては強く出れなかった。


「ガビル様、よろしいでしょうか?」

「あ、あぁ……ハニーさえ良ければ、僕は構わないよ」

「クソッ!」


 グラムは舌打ちした。


「ルミナス様、会談が終われば私も後で合流します。それまでお願いしますね」

「任せなさい!」


 ルミナスは胸を張り、不敵に笑いながら人差し指をグラムの額に突きつけた。


「覚悟なさい! デュランのリンゴの美味しさ、このルミナス・オブスキュラスが真心こめて教えて差し上げますわ!」


 グラムは静かに青筋を立てるが、どうしようもなかったので、そのままルミナスにされるがままに連れ出された。

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