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第13話 乱闘

「『竜たちはここにいる(ドラゴンズウィル)』」


 ヨームは轟火の大剣を両手に持ち直して中段に構えた。対するセバスは固有魔法クロノス・ハンズを発動。時計の針のようなレイピアに蒼白の魔法陣が浮かび上がった直後、ヨームの背後に出現した。


「それはもう見た」


 先の不意打から推測していたヨームは振り返り、セバスが現れるタイミングに合わせて刃を振るう。初手を見切られたセバスは迫る炎刃をレイピアで受け止めようとした。


「!」


 しかし寸前で言い知れぬ危機感を覚えた。セバスは再び固有魔法を発動し、その場から姿を消す。


 炎刃は空を切り、そこにある全てを焼き払った。刀身から千切れた炎は竜となり、千里先まで突き進んだ。その灼熱の猛進の前には庭園の鉄柵も王城を囲う分厚い城壁も意味を為さず、竜の身体が直接触れた部分は即座に蒸発した。


「なんという大火力……」


 竜の灼熱によってドロドロになった鉄柵を見たセバスは、己の判断が間違っていなかったことを確信する。


「転移魔法、にしては早すぎる」


 一方でヨームも、セバスの瞬間移動に疑問を抱いていた。

 

 完璧に取ったと思った。


 転移魔法すら間に合わぬと確信していた。


 しかし現実はその逆。魔法によって抜け出された。


「固有魔法だな」

「ご名答」


 セバスは敢えてヨームの推理を肯定する。


「おっと、うっかり教えてしまいました」

「……」

「いやはや歳のせいか、注意力が低下しているようですね。気を付けなければ」


 それが意図的な行動であることに、ヨームは気付いていた。


「では大人しく降参しろ。老人に手を出すのは流石に心が痛む」

「ならばお手柔らかにお願いしたいものです。最近は身体のあちこちも痛む次第で」


 冗談めかしくセバスが言う。レイピアを握り直し、刺突の構えを取った。


(アレは最早、防ぐ防がないの次元ではないな)


 最優先事項を定義する。これを果たせなかった場合の結末を想像したセバスは冷や汗を流した。

 

「悪いがソレは出来ない相談だ」

「さようでございますか。それでは……参ります!!」


 ヨームの眉間を狙いすましたセバスの奇襲気味な刺突。それが戦闘再開の合図だった。


 ヨームは急いで左に顔を逸らしたが少し反応が遅れ、右目尻に命中。しかし頑丈なヘルムのお陰で事なきを得る。代わりに刺突が命中したヘルムは右目尻の部分が破壊され、そこから少々の皺が寄ったヨームの顔、縦長な瞳孔が特徴的な赤い目が露になる。


 互いの視線が交差する。ヨームが中段に構えていた大剣を水平に構えると同時、セバスのレイピアが蒼白の光を放った。


(また固有魔法か)

 

 そう断定したヨームはすぐさま背後を薙ぎ払う。炎刃は背後に現れたセバスを一刀両断する。


 そうなるはずだと、ヨームは思っていた。


「なに?」


 結果は外れ。ヨームが焼き切ったのはセバスではなく、セバスの転移魔法によって転移してきたダミー。先ほどヨームが叩き切った白いテーブルだった。


「隙あり」


 セバスは絶好の機会を逃さない。


 ヨームも殆ど条件反射で反撃しようとするが、振り返るのが関の山。研ぎ澄まされた一閃は重鎧をも容易く穿ち、その下に隠されていたヨームの右肩をも貫いた。


「ややこしい……!」


 ヨームが愚痴を零すと、セバスのモノクルが光を反射した。


「恐悦至極。私にとっては褒め言葉です」


 ヨームを貫くレイピアに再び蒼白の魔法陣が浮かび上がる。


「では、『時よ止まれ(クロノス・ハンズ)』」


 セバスの固有魔法。


 ヨームの時間が停止する。その頭上に(12)の光文字が出現し、カウントダウンが始まった。


「これよりきっかり十二秒。早々に(シメ)と致しましょう」


 セバスがレイピアを引き抜き、微動だにしないヨームを串刺しにせんと構える。


 不意に巨大な蝶のような形をした影のシルエットがセバス達を包み込んだ。


「『時は短し弾けよ乙女(ポッピングラブ)』!」


 混乱に乗じて制空権を確保したルミナスが固有魔法を発動。空間は桃色の庭園に塗り潰され、その場にいた全員が魔法領域に閉じ込められた。


「む?」


 驚き戸惑ったセバスが硬直した次の瞬間、、無数のハート型の魔力弾がセバスに向かって降り注いだ。


「この私の存在を忘れてもらっては困りますわ!!」

「貴様!! 邪魔をするか!!」


 絶好の機会を妨害されたセバスは爆撃を躱しながら、空に構えているルミナスへ怒号をぶつけた。


「お邪魔で結構! 終わり良ければ総て良し、そこのブリキ諸共葬ってやりますわ!!」


 ルミナスがまたハート型の魔力弾を大量放出し始める。動けぬヨームは空から降り注ぐ絨毯爆撃を諸に喰らうが、セバスは魔力を温存するためにフットワークで躱すことを選択していた。


 そんなセバスだが、一つだけ大きな間違いを犯している。


 それはルミナスの言葉を真に受けたこと。この爆撃が自分とヨームに対して向けられたものであると錯覚してしまった。


「木端微塵になりなさい!!」


 爆撃対象はガビルを除く()()。魔力弾の放出速度はルミナスが叫んだ瞬間に急上昇し、桃色の空が瞬く間にハートの爆弾で埋め尽くされた。


 常人では到底成し得ない、魔族の豊富な魔力量に物を言わせたゴリ押しの極み。セバス達への爆撃は依然として継続したまま、ルミナスは戦いを静観していたシグルドやシャルロットへ向けて無慈悲な絨毯爆撃を開始した。


「姫様!!」


 ようやくルミナスの真意に気が付いたセバスが血相を変えて叫ぶ。すぐさま転移魔法でシャルロットを安全な場所へ避難させようとするが、それをルミナスが許すはずもない。


「瞬間移動はさせませんわよ!!」


 レイピアが蒼白の光を放った刹那、ルミナスは急降下突撃をセバスに仕掛けた。その超高速の突進を前にしてセバスは防御を余儀なくされ、魔法は発動することなく不発。


 レイピアの光はすぐに輝きを失った。


「貴方の魔法、全部この玩具が起点になってるのでしょう? ならばここに私が魔力を流し込めば魔法は使えないはず! アレだけ見れば猿でも分かりますわ!!」


 ルミナスは気づいていた。だからこそ制空権を放棄してまでセバスに接近した。


「そこを退け!!」

「退かしてみなさい!!!」


 セバスはレイピアを掴むルミナスを振り払おうとするが、全盛期を通り越した老体では魔族の膂力には敵わない。


 ────そして致命の弾幕はもうシャルロットの眼前にまで迫っていた。

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