Olam : ヴェールの目覚めと忘れられた血統
著者より(あとがき)
読者の皆様、最後までお読みいただきありがとうございます。
私は海外(スペイン/ルーマニア)の新人作家です。この物語『OLAM:血の残響』の第1章(全7部)を公開いたしましたが、慣れない投稿作業で至らぬ点もあり、お見苦しい箇所があったかもしれません。
実は、私は日本語が話せません。この小説はすべてスマートフォンを使い、インターネットを通じてスペイン語から日本語へ翻訳して作成しています。そのため、表現に不自然な点や誤りがあるかと思いますが、どうか温かい目で見守っていただければ幸いです。
もし、この物語が日本の読者の皆様に受け入れられ、私のルーツであるヨーロッパの文化やゴシックな雰囲気を少しでも楽しんでいただけたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
初めての小説執筆で、しかも慣れない言語での挑戦ですが、皆様に楽しんでいただけるよう精一杯努力いたします。
それでは、また次の章でお会いしましょう。お読みいただき、本当にありがとうございました!
第1章:刻印と秘密
1. 灰色の霧の中の巡回
14時から22時までの交代勤務は、最悪の一言に尽きた。午後の青白い太陽が、プエンテフェロを覆う恒常的な汚染層をかろうじて突き抜け、深く冷たい暗闇の中で終わるからだ。第7先遣部隊にとって、今週の任務は「西工業地区」の巡回を意味していた。そこは、油にまみれたアケロン川の重苦しい流れと、鋳造所の巨大な顎に挟まれた、敵意に満ちた細長い土地だ。川の対岸、わずか一キロ先にはロクシアン王国の旗が翻っており、平和がいかに脆い休戦の上に成り立っているかを常に思い知らせていた。
第六日、「滝の日」の朝は、いつものように灰色だった。川の湿気と煤が混じり合った湿った霧が、錆のような執念深さで石畳の通りにへばりついている。部隊の先頭に立つディミトリ・ベルモンテは、一定のリズムで歩を進めていた。
彼の右側を歩くのは、石のような顔に疲労を刻んだ大柄なベテラン、グレゴールだ。グレゴールはこの地区の出身で、この煙突の影の下で生まれた。彼は幼馴染たちが産業機械に飲み込まれ、あるいは無意味な国境紛争で命を落とすのを目の当たりにしてきた。彼にとってこの通りの巡回は、苦い帰郷に他ならない。
ディミトリの左側には、グレゴールより十歳若いが、その二倍は冷笑的なロリックが、抑えきれないエネルギーを放ちながら進んでいた。内陸の州から来たロリックは、プエンテフェロを失われた故郷としてではなく、自分たちがゆっくりと死ぬために送り込まれた墓場のように見ていた。
彼らは、早番の仕事を終えて出てきた市民たちの横を通り過ぎる。人々の動きは無気力で、機械的だった。誰一人として顔を上げない。顔は煤で汚れ、その瞳は空虚に地面を見つめている。それは毎日繰り返される、機能的な肉体と遠い意識の行列だった。
「見てろよ」
遠くで響く機械の唸りに混じって、グレゴールが低く唸るような声で呟いた。
「まるでお化けだ。昔は、少なくとも俺たちを呪うために顔を上げやがった。今はそれすらしない。時々思うんだ、この世界はずっと前に死んでいて、誰も俺たちにそれを知らせなかったんじゃないかってな」
グレゴールは、虹色の光沢を放つ水溜まりの近くで、錆びた鉄の輪で遊ぶ子供たちを見つめて一瞬立ち止まった。
「俺の親父はあの鋳造所で働いていた」
彼は黒レンガの巨大な建物を指さして、声を落とした。
「あの中で死んだよ。共和国のために鋼を打つのは名誉なことだと親父は言っていた。だが、炉がお前自身をも打ち据え、中身が何も残らなくなるまで鍛え上げてしまうなんて、誰も教えちゃくれなかった」
彼の視線は、白い蒸気が噴き出すレンガ造りの繊維工場へと移った。
「この時間なら、妹のエララがシフトを終える頃だ。この地獄に残されたのは俺とあいつだけだ。いい子だよ……」
グレゴールは咳払いをして、ディミトリを横目で見た。
「なかなかの美人だぞ、隊長。もし俺たちの相手に飽きたら、紹介してやってもいい」
ロリックが鼻で笑い、嘲笑的な笑みを浮かべた。
「出たな、仲人グレゴール。指揮官に妹を売り込んでどうする? 親戚になれば夜勤から逃げられるとでも思ってるのか?」
「黙ってろ、ロリック」
グレゴールは悪気なく唸った。
「俺はただ、あいつはいい男だと言ってるだけだ。真面目だしな。作業場をうろついてるハイエナどもよりはマシだ。あの子には、こんな泥沼より良い生活を送る資格がある」
「名誉なんてのは、上の連中が俺たちの服従を買うために支払う通貨に過ぎない」
ロリックが鋭い現実主義を口にし、屋根や路地に視線を走らせた。
「機械が動き、報告書が提出される限り、俺たちが呼吸をしていようが惰性で動いていようが、上層部には関係ない。俺たちはこの工場の部品と同じで、いくらでも替えがきくんだからな」
ディミトリは何も答えなかった。ただ観察することに徹し、その表情は崩さなかった。部下たちの会話は、鍛冶場の槌音と同じ背景音に過ぎない。彼の仕事は、グレゴールの苦い諦念と、ロリックの腐食的な冷笑の間で、均衡を保つことだった。グレゴールは現実への錨であり、ロリックは常に警戒を怠らない番犬だ。二人とも必要だった。
彼らの言うことが正しいことは分かっていたが、不平を漏らすのはエネルギーの無駄であり、彼らには許されない贅沢だった。不満は錆のようなものだ。放置すれば構造を弱め、やがて崩壊させる。そして、この部隊こそが、彼らが持つ唯一のものだった。
彼の義務は、この緩やかで静かな衰退の中で秩序を保つことだ。幽霊たちの行列が工場へと向かうのを見守り、争いが暴動に発展しないように気を配り、誰も川を渡ろうとしないように監視する。感謝も栄光もない仕事だ。だが、それが彼の仕事だった。
そして、ディミトリ・ベルモンテは、常に己の義務を果たしてきた。
2. 橋上の眼差し
パトロールのルートは、必然的に「鉄の橋」へと向かう。だがその前に、境界区域へのアクセスを規制する要塞化されたボトルネック、ガンマ検問所を通過しなければならなかった。そこを固めるのは「チョウゲンボウ隊」。第7先遣部隊のような監視パトロールよりも一段上の階級にある衝撃歩兵部隊だ。理論上、彼らの任務はより重要だが、実態は他者が歩き回っている間、砂嚢の後ろに座って八時間を過ごすだけの仕事だった。
近づくと、スクワッドリーダーのサイラス軍曹が、弾薬箱にブーツを乗せて椅子にふんぞり返っているのが見えた。部下たちも同様に弛緩しており、無作法なほどダラダラと煙草を吸ったり銃を磨いたりしていた。サイラスの上官とディミトリの上官の対立は、兵舎では公然の秘密だった。その毒は下部組織まで浸透し、二人の軍曹の間には常に険悪な空気が流れている。
サイラスが彼らの到着に気づくと、歪んだ笑みを浮かべた。彼は部下の一人に寄りかかり、風に乗ってディミトリたちに聞こえるほどの大きな声で言った。
「見ろよ、お散歩部隊のお出ましだ。地区のネズミどもが石畳を食い荒らさないように見張ってるんだと。実に『重要』な仕事だよなぁ」
部下たちの下劣な笑い声が響く。グレゴールは奥歯を噛み締め、胸の奥で低い唸り声を上げた。ロリックも身体を硬くし、ナイフの柄に手をかける。
ディミトリは片手を上げ、静止の合図を送った。無言で自分の小銃をグレゴールに預けると、一人で検問所へと歩を進める。その足取りは穏やかで測ったようだったが、一歩ごとに静かな威圧感が重なっていく。サイラスの部下たちは笑うのをやめ、ディミトリの氷のように冷たく空虚な表情を見て、わずかに背筋を伸ばした。
ディミトリはサイラスの至近距離で足を止めた。声を荒らげる必要はなかった。
「前回、お前が何も考えずに口を開いた時……」
ディミトリは、空気を切り裂くような冷ややかな囁きで言った。
「『階段から落ちて』右手の指を三本折った理由を、医者に説明する羽目になったな。兵舎の階段のあっち側には手すりがない。頭から落ちなくて幸運だったな」
彼は言葉を切り、サイラスの目を射抜くように見つめた。
「今日も退屈そうだな。また医者に、不慮の事故で自分の歯を飲み込んだと言い訳をしたいか?」
サイラスの顔から血の気が引いた。激痛と公衆の面前での屈辱の記憶はまだ新しい。ディミトリが冗談を言わない男だと知っていた。たとえ仲間への暴行が罰せられるとしても、ディミトリはその報いを無関心に受け入れるだろう。彼にとって、規律と敬意を維持するためなら、独房で一ヶ月過ごすことなど安い代償なのだ。
サイラスは唾を飲み込み、敗北を認めて視線を逸らした。
「……口を閉じろ」と部下たちに当たり散らす。「通してやれ」
ディミトリは教訓が刻まれたことを確認するように一秒間見つめた後、背を向けた。グレゴールから小銃を受け取ると、顎で合図し、行軍を再開した。
パトロールの終着点は、ロクシアン王国との唯一の陸路である巨大なリベット打ちの梁構造、「鉄の橋」を見下ろす要塞化された展望台だった。峡谷の向こう側には、王国の前哨基地という異質な建築物が見える。いつものように、王国のパトロール隊も巡回を行っていた。彼らもディミトリのチームと同様に足を止め、長い一分の間、二つの部隊は距離を隔てて無言で見つめ合った。静かな緊張と抑制された敵意が支配する日常。
ディミトリは、向こう岸で緩やかに翻るロクシアン王国の旗に目を向けた。
「王党派め……」
グレゴールが軽蔑を込めて吐き捨てた。
「自分たちの血が特別だと思い込んでやがるが、見ろ。俺たちと同じくらい疲れ果て、ボロボロじゃないか」
「もっと悪いさ」とロリックが辛辣に付け加える。「あっちの王もこっちの局長も、宮殿の中から権力争いのゲームを楽しんでる。俺たちはその盤上の駒だ。連中の強欲のせいで、俺たちはここで、奴らが自ら引き起こした侵略を待たされてるんだ」
「そして、それは必ず来る」とグレゴールは武器を握りしめた。「いつかあの腐った君主の誰かが、もっと広い土地が欲しいと言い出し、俺たちはそのためにここで死ぬんだ」
「血筋も、動機も関係ない、グレゴール」
ディミトリがついに口を開いた。その声は穏やかで、しかし鋭かった。
「唯一重要なのは、誰がより正確に狙いを定め、誰が先に引き金を引くかだ。それ以外は、俺たちが死ぬ理由を正当化するための言い訳に過ぎない」
その冷徹な結論と共に、彼は部下に合図を送った。定時パトロールは終わった。
兵舎へ戻る時間だ。彼らを山の小屋へと導く新しい命令が、すでに待ち構えていることなど、今はまだ知る由もなかった。
3. 山小屋の任務
プエンテフェロ兵舎に戻ると、そこには屋外に劣らず重苦しい空気が立ち込めていた。湿った金属の臭い、染み付いた汗、そして通信室で絶えず温められている焦げたコーヒーの香りが混ざり合っている。ディミトリ、グレゴール、ロリックの三人が兵器庫に装備を預け、休憩室へ向かおうとしたその時、見覚えのある影が通路で彼らを呼び止めた。
アラリック中尉。国境警備隊の指揮官だ。四十代で、こめかみには白いものが混じる短髪。その鋭い眼光からは、いかなる些細な兆候も逃さない。彼とディミトリの関係は、単なる上官と部下という枠を超えていた。
数年前、新兵兵舎の定期視察中、アラリックは一人の少年に目を留めた。当時十六歳だったその少年は、年齢に不釣り合いなほどの緊張感を持って整列の中に立っていた。他の新兵たちが恐怖や虚勢を浮かべる中、その少年の瞳には、周囲の悲惨さに屈することを拒む、激しく決然とした意志と不屈のプライドが宿っていた。アラリックは彼の中に、怯える子供ではなく「鍛え上げられるのを待つ武器」を見たのだ。慣例を破り、アラリックは若きディミトリ・ベルモンテを個人的に後援し、自らの保護下に置くことを決めた。彼はディミトリに軍の残酷な階級社会での渡り歩き方、敵と味方の見極め方、そして内に秘めた怒りを致命的な規律へと昇華させる術を教え込んだ。
後援から始まったそれは、互いへの敬意に満ちた絆へと変わり、今や軍の指揮官というよりは父子に近いものとなっていた。アラリックは自分が探し求めていた理想の兵士を見つけ、ディミトリは唯一心から信頼できる将校を見つけたのだ。
「ベルモンテ」
アラリックの声は低く、まっすぐだった。「私の執務室へ。今すぐだ」
ディミトリは頷き、グレゴールとロリックに待機するよう合図を送った。殺風景な執務室で、アラリックは儀礼を省き、一枚の報告書を差し出した。
「読め」
報告書は簡潔だが、異様な内容だった。怯えきった老人、人間離れした悲鳴、外側に向かって弾け飛んだ窓。そして、不気味な一文――「影の動きが、歪んでいた」。
ディミトリは紙面から目を上げた。「閣下、これは……『異常』です」
「分かっている」
アラリックはコップの水を飲みながら、ディミトリを凝視した。
「上層部はこれを『暴力的撹乱』と分類し、調査を命じた。何でもないことかもしれんし、重大な何かかもしれん。だが、影についての記述……あれがどうも気に食わん」
彼は言葉を切り、トーンをより個人的なものに変えた。
「ディミトリ、お前に行ってほしい。この駐屯地のどの軍曹よりも、私はお前の判断を信頼している。お前は迷信に流されはしないが、目の前にある現実を無視もしない男だ」
アラリックは机に歩み寄った。
「孤立地帯での未確認報告に関するプロトコルに基づき、増員を許可する。予備兵から二人選べ。五人編成で行け。……気をつけて行けよ、ディミトリ。この任務、嫌な予感がする」
ディミトリは頷き、師の言葉の裏にある言いようのない懸念を汲み取った。「ハッ。承知いたしました」
執務室を出て、グレゴールとロリックに合流する。
「何があったんだ?」グレゴールが尋ねた。
「山での奇妙な任務だ」ディミトリが答える。「あと二人、人手が必要だ」
予備兵の待機室で、彼は探していた二人の男を見つけた。冷静沈着で長剣の扱いに長けた長身のラースと、若く神経質だが、機敏さと鋭い感覚で知られるカエルだ。二人とも有能な兵士ではあるが、中心メンバーのような長年のパトロールで培われた結束力はない。
「ラース、カエル。立て。同行してもらう」
前置きなしにディミトリが命じた。二人は即座に立ち上がった。
日が沈み始め、灰色の空が病的なオレンジ色に染まる中、ディミトリ率いる五人の新たなパトロール隊はプエンテフェロを出発した。山道がうねる先、誰一人として以前と同じ姿では戻れないであろう、あの「山小屋」を目指して。
4. 旅路と内なる恐怖
山岳地帯への道程は、装甲輸送車の中で進められた。グレゴールが荒々しくも的確にハンドルを握り、ロリックはナイフを研ぎ、二人の予備兵、ラースとカエルは緊張した沈黙を守っていた。道中、ディミトリは報告書の内容を読み上げた。「人間離れした悲鳴」「外側へ弾け飛んだ窓」、そしてあの不気味な一文――「影の動きが、歪んでいた」。議論はなかった。報告書の異様さは、いかなる懐疑心をも凌駕していた。
22時頃、グレゴールが車両を止めた。山の凍てつく空気が、不自然な静寂と共に彼らを襲った。五十メートル先には、山小屋が黒いシルエットとなって佇んでいる。近づくにつれ、木こりの報告が誇張ではなかった最初の兆候が露わになった。窓枠は空っぽで、月光を反射したガラスの破片が数十メートルの範囲に散らばっていた。まるで、内部で発生した凄まじい圧力が、木造の構造には傷一つ付けず、ガラスだけを吹き飛ばしたかのようだった。物理的にあり得ない光景だった。
「突入プロトコル」ディミトリが低く命じた。「カエル、お前が先頭だ。グレゴール、その後ろに。俺は三番目、中央でバックアップに回る。ラース、ロリック、後方を固め、退路を確保しろ」
彼らは一つの有機体のように動いた。カエルが半開きになったドアを押し開けると、不吉な軋み音が響いた。銃を構えて踏み込むカエル。その巨体で入り口を埋めるグレゴール。ディミトリが続き、広間の中央に位置を取る。ラースとロリックが最後に足を踏み入れ、ロリックが境界を越えた瞬間――重厚なオーク材のドアが、静寂を切り裂く轟音と共に背後で閉まり、彼らを閉じ込めた。
罠だ。腐肉の臭いとオゾンの香りが、今や圧倒的な重圧となって押し寄せる。ライトの光束が闇を切り裂き、その惨劇を照らし出した。
割れた窓の近く、広間の床に双子の少女が横たわっていた。その身体は、あり得ない苦悶のポーズで捻じ曲がり、四肢は不自然な角度に折れていた。傍らでは二つの木製の人形が彼女らを見つめている。目、耳、鼻、そして口から、乾いた血の筋が細く流れていた。そしてその瞳は……見開かれ、瞳孔は虹彩を飲み込むほどに散大し、黒に近いどす黒い赤に染まっていた。
グレゴールのライトが角へ動き、一人の少年を捉えた。彼は壁に背を預けて座り、首を胸元に落としていた。彼は獣のような凶暴さで自らの両手を噛みちぎっていた。数本の指が周囲に転がり、一本の指は半開きになった口の中に突き刺さったまま、乾いた血が滴っている。その瞳も、少女たちと同じだった。
ラースが台所の入り口を照らした。母親がそこにいた。壁に崩れ落ち、自らの手で包丁を右目の奥深くまで突き立てていた。その顔にも同様の血の跡が刻まれている。
最後に、ディミトリのライトが部屋の奥、半開きになった暗い廊下のドアをなぞった。そこに、父親がうつ伏せで倒れていた。だが、頭と足先だけが天井の方を向き、背骨が数箇所で砕けなければ不可能なほどに胴体がねじ切られていた。
虐殺死体に囲まれ、山小屋に閉じ込められたその瞬間、「異変」は真の姿を現し始めた。光の縁に潜む影たちが、正しく振る舞うことをやめたのだ。影はひとりでに蠢き、のたうつ。そして、毒のような囁きが聞こえ始めた。どこからともなく、しかしあらゆる場所から響く、禍々しい呟きが。
5. 影との死闘
閉じ込められた。ドアが閉まった後に訪れた静寂を、総毛立つような音が切り裂いた。鋭く長い爪が壁の木材を引きずるような、ゆっくりとした律動的な音が、あらゆる方向から同時に響いてくる。部屋の影は不自然に伸び縮みし、まるであの禍々しい爪音と同期して呼吸しているかのようだった。
ディミトリは胃のあたりに氷のような冷たさを感じた。数々の死線を越えて鍛えられた本能が、これは単なる伏兵ではないと叫んでいた。これはもっと根源的な、世界の理から外れた何かだ。
「出ろ!」
彼の叫びが、張り詰めた静寂を打ち破った。
「戦術的撤退だ、今すぐ! ロリック、ラース、そのドアを開けろ!」
二人の兵士が入り口に駆け寄り、銃床で分厚い木材を叩きつけたが、ドアは目に見えない力で封印されたかのように、一ミリも動かなかった。その間、ディミトリは残りのメンバーの撤退を組織しようと振り返った。
「グレゴール、カエル、俺に続け! 出口へ向かうぞ!」
しかし、部屋の奥にいたカエルは動かなかった。彼は激しく震えながら、その場に釘付けになっていた。手からこぼれ落ちた小銃が床に叩きつけられる金属音が、重苦しい静寂の中に虚しく響く。
「カエル!」
グレゴールがディミトリの命に従い、彼を連れ戻そうと踏み出した。少年の肩を強く掴み、後ろへ引こうとする。「行くぞ、小僧! 動け!」
グレゴールが触れた瞬間、カエルの震えが止まった。彼の体から常軌を逸した冷気が放たれる。ゆっくりと振り返ったその顔は、すでに絶望の仮面と化していた。瞳は空洞となり、顎は外れ、あらゆる穴から黒い血が噴き出している。だが、真の変貌はその手に現れた。指がグロテスクに伸び、関節が軋みを上げて再構築され、指先からは黒く厚い、オブシディアンの刃のような爪が突き出した。壁の爪音に代わり、鋭い威嚇の音が響き渡る。
叫び声一つ上げず、兵士の肉体を乗っ取った「それ」は前方に躍り出た。最初の標的はグレゴールの喉笛だ。しかし、数十年戦い抜いてきたベテランは、驚愕の中でも本能で反応した。退く代わりに鋭く体を捻り、攻撃の軌道上に肩を割り込ませた。頚動脈を狙った鋭い爪が、グレゴールの腕の肉と骨に深く食い込む。肘まで達する爪の激痛に、グレゴールは目の前が白くなった。
怪物は人間離れした力で腕を引いた。筋肉と腱が引き千切られる生々しい音が小屋を満たす。――**「ブチッ」**という凄まじい音と共に、グレゴールの腕が体から引き剥がされた。その衝撃で彼は数メートル弾き飛ばされ、奥の壁に叩きつけられた。グレゴールは自分の血の海の中で、残った手で止血を試みながら、激痛に喘ぎ、叫びを飲み込んだ。
怪物は即座にディミトリへと狙いを定めた。突進の速さは凄まじく、彼は本棚に叩きつけられ、肺から空気が押し出されてサブマシンガンを手放してしまう。ディミトリが態勢を立て直そうとする中、ドアを諦めたラースが長剣を抜き、リーダーを守ろうと割って入った。怪物の野蛮な一撃がラースのヘルメットを吹き飛ばし、耳を引き裂く。ラースは背後にいたロリックを巻き込んで転倒した。
ロリックの視界が遮られた、致命的な一瞬。怪物は完璧なタイミングで、彼の首を撥ねようと飛びかかった。
その時、ディミトリが介入した。脇腹の痛みを無視し、自らの剣を抜き放って、ロリックの喉元数センチのところでその死の一撃を阻んだのだ。
「今だ!」
怪物の怪力にディミトリの腕が震える。衝撃から立ち直ったロリックが低く潜り込み、憑依された者の脚の腱を切り裂いた。均衡を崩したところを、ディミトリは全体重をかけて床に叩き伏せる。顔を血で染めながらも戦線に復帰したラースが、その胸に長剣を突き立てた。しかし、串刺しにされ四肢を損なわれてなお、その異形はあり得ない怒り狂い、床から爪を立て、噛みつこうともがき続けていた。
6. 血の刻印
ラースの剣によって床に縫い付けられた異形を前に、山小屋には一瞬の静寂が訪れた。生き残った者たちの荒い呼吸音だけが響く。しかし、串刺しにされた怪物はなおも常軌を逸した力でのたうち回り、自由を求めて床の木材を狂ったように掻きむしっていた。
ディミトリは苦悶の唸りを上げ、脇腹の傷口を抑えながら壁を背に立ち上がった。ラースが必死に剣を押し込み、怪物を押さえつけようとしていたが、その怪力にじわじわと押し戻されている。ディミトリは自らの剣を拾い上げ、次なる衝突に備えた。
パニックに陥ったロリックが、足をもつれさせながら後退した。死んでいるはずの者が論理を無視した怒りで戦い続ける。その光景を彼の精神は受け入れられなかった。彼の足が、カエルが落としたサブマシンガンに当たった。極限の恐怖の中で、彼はそれをひっかかえるように掴んだ。長年の訓練は消え去り、原始的な恐怖が彼を支配していた。
「止まらねえ……こいつ、止まらねえんだ!」
恐怖でかすれた叫び声を上げ、彼はのたうつ肉体に向けて引き金を引いた。
狭い小屋の中に、耳を弄するような連続射撃音が轟いた。薬莢が雨のように床に降り注ぐ。ロリックはマガジンが空になるまで撃ち続け、弾丸は怪物の胴体と四肢を無慈悲に抉った。肉と布が弾け飛ぶ衝撃は見えた。しかし、期待した効果は現れなかった。苦悶の悲鳴も、動きの停止もない。弾丸の嵐は、まるで生きた存在ではなく、ただの「動く肉塊」を叩いているかのように、空しくその肉に吸い込まれていった。
最後の薬莢が床に落ちると、以前よりも重苦しく不吉な静寂が戻った。そして、怪物は突発的な動きと共に、あり得ない力でラースを跳ね飛ばした。ラースの体は対面の壁に叩きつけられる。
全員が凍りつく中、怪物はゆっくりと立ち上がり始めた。関節が不気味に軋み、骨が新たな、そして恐ろしい形へと再構築される音がはっきりと聞こえる。ラースの剣が胸を貫通したまま、それは致命傷ではなく「不気味な飾り」であるかのように直立した。頸椎を鳴らしながら首が回り、空洞の瞳が彼らを捉えた。
それが、限界だった。腕を失い、血の海に沈んでいたグレゴールは、激痛を上回る恐怖に目を見開いた。武器を失ったラースとロリックは本能的に後ずさり、兵士としての規律はついに崩壊した。弾丸を撃ち尽くし、剣を突き立てても、怪物は立っている。殺す手段がないのだ。
その絶望の渦中で、ディミトリは自分の傷口から溢れる熱い血が、剣の柄を濡らし、刀身を伝っていくのを感じた。冷たい鋼鉄に自らの血が触れた瞬間、彼の中で何かが変質した。恐怖は消え去り、代わりに自分のものではないような、冷徹で奇妙な決意――凍てつくような怒りが彼を満たした。血は刀身を這い、切っ先から滴り落ちて、足元に小さな血溜まりを作った。思考を挟む間もなく、彼は敵を見据えて地を蹴った。
怪物が退却する兵士たちへ向けて不格好な一歩を踏み出したその背後から、ディミトリが肉薄する。彼は最後の一撃を込め、血に濡れた剣を怪物のうなじへと深々と突き立てた。衝撃は凄まじく、刃は骨と肉を貫き、切っ先は怪物の額の中央から突き出した。
グレゴール、ラース、ロリックの三人は、ディミトリの剣が怪物の顔面を突き破る光景を、息を呑んで見つめていた。
ディミトリの血を浴びた刃が内側から接触したその瞬間――水に沈められた赤熱した金属のような、耳を刺す不自然な「嘶き」が空気を満たした。怪物の動きがピタリと止まる。次の瞬間、肉体はあり得ない速度で腐敗を始め、皮膚は黒ずんで液状化していった。傷口からは悲鳴のような音を立てて黒い油染みた煙が立ち昇り、虚無へと霧散していった。
山小屋に、重く、絶対的な静寂が再び舞い戻った。
7. 最期の別れと地下室の裂け目
異形が最期の叫びを上げて消滅した後、戦闘よりも耳を弄するような静寂が訪れた。オゾンと死の臭いが空気に染み付いている。床には、かつてカエルだったものの残骸――砕けた骨、引き裂かれた軍服、黒ずんだ肉の塊――が燻り、その中心にはラースの剣が突き立てられたままだった。
生き残った三人は本能的に再集結した。ロリックはサブマシンガンを構えてドアを警戒し、ラースは自らの銃を拾い上げ、通路を睨む。ディミトリは脇腹の激痛に耐えながら、血に濡れた剣を手に、新たな脅威に備えて直立していた。荒い呼吸音だけが響く数秒が過ぎた。……何も動かない。脅威は去ったのだ。
アドレナリンが引き始め、代わりに激痛とショックが押し寄せる。ディミトリは出血を抑えながらグレゴールに歩み寄った。ベテラン兵士は倒れた場所に横たわり、蝋のように青ざめた顔で木の天井を虚ろに見つめていた。制御不能な震えが彼の体を揺らしている。ディミトリはその傍らに膝をついた。もう助からないことは分かっていた。
「グレゴール……」ディミトリが低く呼びかける。
ベテランの瞳がゆっくりと動き、ディミトリの顔に焦点を合わせた。その唇に、苦々しくも歪んだ微笑が浮かぶ。
「幽霊……言っただろう……」
かすれた喘ぎ声が漏れる。
「結局……王党派の連中が正しかった。血筋は……重要だったんだな……」
彼は激しく咳き込み、顎を血で汚した。
「俺の給料……必ず妹に……届けてくれ……」
「約束する」
喉の奥にこみ上げる塊を抑え、ディミトリは毅然と答えた。
グレゴールは微かに頷き、最後の一息と共にその眼差しから光が消えた。命が彼を去ったのだ。
ディミトリは立ち上がった。だが、背を向けようとした瞬間、彼は「何か」を感じた。音ではない。小屋の奥、半開きになったドアの先にある暗い廊下へと彼を惹きつける、静かで抗いがたい力だ。
「待て」ディミトリが足を止める。
彼は二人の部下に振り返り、厳粛な面持ちで告げた。
「お前たちは外へ出ろ。傷の手当をし、車両を確保して警戒を怠るな。俺は中に何も残っていないか確認してくる」
彼は言葉を切り、ロリックの目を射抜いた。
「よく聞け。もし十五分経っても戻らなければ、車両を出してここを離れろ。一秒たりとも待つな。駐屯地へ戻り、増援を要請して、ここで起きたことのすべてを報告しろ。いいな?」
「隊長、そんな!」ロリックが即座に反論した。「一人で行かせるわけにはいきません。行くなら全員、行かないなら誰も行きません!」
「命令だ、ロリック。これが最後だ」
ディミトリの語気には議論の余地はなかった。
「もし下に何かあれば、報告するために生きて戻る者が必要だ。出口を確保しろ。今すぐだ」
返事を待たず、不気味な引力に導かれるまま、彼は廊下を進んだ。ドアを開けると、暗い地下室へと続く木の階段が現れた。そこからはオゾンの臭いと、低く悲しげな啜り泣きのような音が漂ってくる。
ディミトリは一歩ずつ階段を下りた。血に濡れた剣を握る手に力がこもる。土の床に降り立った時、彼はそれを見た。空間の中央に浮かぶ、現実の傷跡。ゆっくりと回転する、深い紺青色の「裂け目」だ。そこからは冷たい霧と、精神を侵食するような催眠的な囁きが放たれていた。失血による目眩の中で、彼は裂け目へと近づきたいという強烈な衝動に駆られた。
虚ろな瞳で一歩、また一歩と歩み寄る。その手が裂け目に触れようとしたその時――。
鋭く、焼けるような痛みが彼を貫いた。脇腹の傷ではない。手と剣の柄を汚している「自らの血」が、皮膚を焼き焦がすような熱を発していた。その瞬間、彼の中に自分のものではない、古の、凍てつくような怒りが燃え上がった。
自分のものではないような咆哮と共に、彼は血濡れた剣を真一文字に振り抜いた。暴力的なまでの斬撃が、現実の裂け目を真っ二つに切り裂く。
空間の傷跡は音もなく内側へと崩壊した。彼を支配していた怒りは潮が引くように消え去り、血の灼熱感も収まった。荒い息をつきながら自分自身を取り戻したディミトリは、階段を駆け上がり、夜の冷たい空気の中へと飛び出した。
【作品紹介:OLAM— ヴェールの断裂 —】
1. 世界観:絶望の地理学「オラム」
「オラム」は輝かしい英雄の物語ではない。ここは、薄明の中で生き延びる者たちの世界である。
かつて「審判」と呼ばれた大災厄により、現実は粉砕された。世界は「灰色のヴェール」という永劫の霧に覆われ、太陽を遮るだけでなく、人々の希望と正気を吸い上げる。「精神的疲弊」――それがこの世界の日常である。
工業都市プエンテフェロでは、蒸気機関とルーンの神秘が混ざり合い、人類は工場にひしめき合っている。現実の裂け目から染み出すエントロピーの力「トフ」との見えない戦争。それは人を怪物に変え、街を影の墓場へと変貌させる。この破滅を食い止めるため、連邦政府は秘密組織「灰色のヴェール騎士団」を動かし、影の中で避けられぬ終焉を封じ込めていた。
2. あらすじ
「現実には亀裂がある。そして、飢えた何かがそこから侵入しようとしている」
辺境の平凡な兵士、ディミトリ・ベルモンテ。故郷ヴァリスで無名のまま一生を終えるはずだった彼の運命は、忘れ去られた山小屋の地下室で一変した。
目の前で開いた「クラスIII」の裂け目。本来なら死ぬはずの状況で、ディミトリは生き延びただけでなく、彼の存在そのものが裂け目を崩壊させたのだ。
プエンテフェロ駐屯地の深部へと連行されたディミトリは、騎士団に徴用される。冷酷なヴェス局長と非情なヴァレリウス大尉の監視下で、彼は己の姓「ベルモンテ」が、かつてのルクサーノ王国に響き渡る呪われた血脈であることを知る。
首筋に刻まれた古の遺物――警告の痛みを放つ「刻印」と共に、ディミトリは選択を迫られる。消えゆく人類の刃となるのか、それとも血に流れる闇の先触れとなるのか。
オラムにおいて、希望は贅沢品であり、真実は決して塞がることのない傷口である。
3. 本作の魅力
五感を刺激する暗黒魔法体系: 「ヴェールの刻印」は超能力ではない。それは、主人公の肉体と精神を削りながら危険を察知する、重苦しい代償を伴う呪縛である。
アイデンティティの葛藤: 辺境の農民としての過去と、ルクサーノの貴族・神秘主義者としての血統。自分は何者なのかという問いが常に彼を追い詰める。
宇宙的恐怖と退避的な雰囲気: 敵は「トフ」の怪物だけではない。世界そのものが生み出す虚無感と、感情の劣化が真の敵となる。
陰謀渦巻く政治劇: 騎士団は善意の組織ではない。目的のために人間を道具として使い潰す冷徹な官僚機構であり、読者に道徳的ジレンマを突きつける。
4. おすすめの読者層
本作は、以下のような作品を好む読者に最適です:
ゲーム: 『Bloodborne』『Dishonored』のゴシック・インダストリアルな美学。
文学: ブランドン・サンダースンの緻密な世界構築、H.P.ラヴクラフトの宇宙的恐怖。
アニメ: 『Arcane』のような、退廃的な都市における魔法と技術の融合。
Título del mensaje: 【欧州の魂】トランシルバニアの血、スペインの汗、そして家族への愛。真実の物語『OLAM』
Contenido:
日本の読者の皆様、はじめまして。
私はスペインを拠点に活動する33歳の作家です。私の人生、そしてこの物語『OLAM』に込めた、飾りのない「真実」をお話しさせてください。
私は東欧ルーマニア、吸血鬼伝説の聖地トランシルバニアのすぐ近くで生まれました。14歳の時、より良い未来を掴むために、父と二人でスペインへ渡りました。その夏、私は少年でありながら父と共に過酷な農作業に従事し、泥と汗にまみれて働きました。学業の傍ら、私たちは懸命に貯金をし、離ればなれだった母と3人の兄弟をスペインへ呼び寄せることができました。
この「どん底から這い上がった経験」こそが、私の執筆の原動力です。私は東欧の神秘的な闇と、西欧の情熱的な不屈の精神、その両方を肌で知っています。
本作の主人公、ディミトリ・ベルモンテは、私の分身でもあります。
彼は超人的な英雄ではありません。私と同じように、重い「責任」と「血筋」を背負い、家族や大切なものを守るために、自らの身を削って戦う一人の労働者です。
【本作を通じて皆様に伝えたいこと】
努力の報酬: 私は、地道な努力がいつか報われると信じています。ディミトリが苦難を乗り越える姿には、私の人生の哲学が反映されています。
純粋な家族愛: 私にとって家族はすべてです。本作では、冷酷な世界の中でも決して色褪せない、家族や絆への純粋な想いを描いています。
人間の弱さと強さ: 権力への渇望や、誰かに認められたいという「承認欲求」。そうした人間の本質的な感情を、言葉の端々に込めました。
私は日本の皆様の「最後まで諦めない精神」や、物語に対する真摯な姿勢を深く尊敬しています。私の物語が、文化の垣根を超えて皆様の心に届くことを願っています。
これは、ただのファンタジーではありません。私という一人の人間が、汗と涙で書き上げた「人生の証明」です。
ディミトリの旅路を、そして私の新しい挑戦を、どうか温かく見守ってください。
心を込めて。




