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2.ミッション《長兄を生かせ》

「まず整理をしなきゃよね。」


 マリーズは自分の机に向かい羽根ペンを手に取る。食事を中断し、心配する兄たちを置いて早々に部屋に戻った。

 急に流れ込んだ記憶のせいか少々頭が痛かったが、そのおかげでゲーム内で出てこなかった屋敷の構造も覚えていた。自室の鏡台で自分の顔を見ると、まさにゲームで出てきたマリーズを幼くした顔だった。


「私の名前は小林菜々。二十八歳の社会人で友達に借りた乙女ゲームをしていた。」


 彼女が直前までしていたは『エテルネルのメシア』という学園モノの女性向け恋愛シュミレーションゲーム。

 プレイヤーは王立エトワールアカデミーで学びながら、攻略対象者と知り合う。ミニゲーム形式の授業によってパラメーターは変わり、それに合わせて誰と恋愛するか選ぶことになる。彼らの辛い過去を受け止め、まるで救世主(メシア)のように彼らを救うことがプレイヤーの役目だ。マリーズは、その中に登場する攻略対象者クロヴィスの妹だった。


 マリーズはマントノン侯爵家の長女だ。バシュラール王国に仕える王国貴族。家族構成は父、母、兄が二人。五人家族だった。

 父マントノン侯爵は人材育成の支援に力を入れていて、領地内には小さいながらも農業や工業の職人育成の場が設けられていた。マリーズは平凡ながら兄たちを支え、両親の元で学び、婚家に嫁ぎ、後継ぎを産み、貴族令嬢としてのレールを歩んでいくはずだった。そう、ゲーム内のクロヴィスルートで、彼はこんなことを言っていた。


『兄さんが生きてた頃は、あいつもまだ普通の女の子だったんだ…』


 このセリフの後、クロヴィスから侯爵家の話を聞くことはなかったが、クロヴィスの兄、つまりマントノン侯爵家の長男の死が、マリーズが悪役になるきっかけなのだろう。ではその兄が死ななければマリーズは悪役にならないのではないだろうか? 彼女は考えた。記憶にあること、考えたことを全てノートに書き記した。


「問題は、どうやってジュストお兄様を生かすかよね…」


 ゲーム内で、長兄ジュストは趣味の乗馬中、乗っていた馬から落馬し亡くなったと。詳しくはかかれていなかったが、亡くなるのは成人直後の十八歳だったと記憶している。

 今の年齢はジュストが十五、クロヴィスが十二、マリーズが九。


「大丈夫……まだ三年あるわ…」


 マリーズは胸に手を当てて息を整えた。ゲームの中のキャラクターじゃない。マリーズとして生きた十年の記憶も思いもある。優しく穏やかに接してくれた大好きな兄をおちおち死なせるつもりはない。

 それに、ジュストが死んだあとの侯爵家は酷いものだった。父は酒に溺れ、母は病の床につき、妹は我儘放題で悪魔と契約。そんな家族に囲まれたせいか、ゲーム内のクロヴィスも亡くした婚約者を取り戻す為に、黒魔術に傾倒。それを、ヒロインのリリィが優しく過去を受け止め、立派な侯爵へと成長していく。

 だが、ジュストが生きていれば、侯爵一家がそんな悲惨な人生を歩むこともない。あとはマリーズが想い人を好きになって闇落ちしなければいい。今のマリーズはこの先起こることがわかる。


「よしっ! まずはお兄様生存計画よ!」


 えいえいおー! と精一杯拳を伸ばすマリーズの部屋の扉の隙間からこっそり彼女を除く陰が三つ。


「ねぇ、マリーズって部屋であんなことしてるの?」

「いえ、初めて見ました。」

「じゃあなんであんなことしてるんだい?」

「さぁ?」



──ミッション《長兄を生かせ》

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