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第3話 わたしのスキル、ゴミでした!

 わたしのスキルが宣言された後。


「バカなッ!? ミュルグレイスの尊い血を引くものが! なによりこの私の娘が! スキル《ゴミ》だと!? 何かの間違いだろう……!!」


 お父さんが、わたしの前では見せたこともないような顔で叫んでいた。

 

 そんなお父さんとは対照的にお母さんは落ち着いた様子だった。というか口もとにめっちゃイジワルな笑顔を浮かべていた。


「うふふ……ああ、そうなの。やっぱりあの女の子どもね。ふふふ……スキル《ゴミ》……お似合いじゃない……」


 実はお母さんとわたしは血のつながりがない。

 本当のお母さんはわたしが幼い頃、流行り病にかかって亡くなってしまった。

 今のお母さんは、その後にお父さんと結婚した再婚相手というわけだ。

 だからわたしは、今のお母さんに対して、どこか冷たいというか、距離を感じていた。

 

 それでもさ。

 たとえ血は繋がっていなくても、わたしはお母さんと本当の家族になろうと頑張ってきた……つもり。


 でも、今この瞬間に、そのすべてが打ち砕かれたような気がして。

 ()()()()()との距離が急に遠のいた。


 お父さんたちの言葉を皮切りに、会場に集った人たちからヒソヒソ声が上がる。


「スキル《ゴミ》などと……なんと不吉な……」

「文字どおりゴミスキルではないか……!」

「公爵家の御息女ともあろう方が……」

「なんと、嘆かわしい……」

「婚約者のフェザリス殿も、落胆するであろうな……」


 ヒソヒソ声はどんどん広がっていき、好奇と侮辱の視線が一斉にわたしに降り注ぐ。


星辰の儀(ステラ・ライツ)は中止だッ!」


 そんな周囲の視線と声に耐えきれなくなったかのように、お父さんがそう叫んだ。


「え、でも……まだスキルの効果も確認していなくって……」


 わたしはそう反論した。

 兎にも角にもスキルは手に入れたのだ。

 わたしは一生このスキルと付き合って生きていくことになる。

 スキルの効果くらいは確認しておきたい。


 だけど――

 

「ゴミめ! お前はこれ以上この私に恥をかかせる気かっ!!」


 バチンッ!

 

「あっ……!!」

 

 お父さんが、怒りの形相でわたしの頰を平手で打った。

 会場いっぱいに鳴り響く大きな音と一緒に、わたしは床に尻もちをついた。

 ジンジンと痛む頬を抑えたまま、わたしは唖然とお父さんを見上げる。


 お父さんに手をあげられるのはこれが初めてのことだった。



 こうして正体不明のスキル《ゴミ》を授かり、わたしの星辰の儀(ステラ・ライツ)は終了した。


***

 

 それからあっという間に1年が経過。

 わたしの生活は一変した。

 とても悪い方へ。


 まず両親の態度が一変した。

 

 目を合わせてくれないし、話しかけても無視されてしまう。

 まるで最初からわたしなんて居なかったみたいな扱いだ。


 家の使用人たちからはバカにされるようになった。

 

 すれ違うたびにワザとわたしに聞こえるように「ゴミ」と陰口を言ってくる。

 身の回りの世話はしてくれなくなったし、ごはんも他の家族と露骨に差別されたり――そのうちわたしの分は用意されなくなった。


 通っていた学院からも退学処分を受けることになった。

 

 担任の先生いわく「伝統と格式ある我が学院には、ゴミスキル持ちなど在籍させられない」とのことだ。

 でも、ゴミスキルをキッカケに、昨日まで友だちだったクラスメイトから、無視されたりイジメられたりするようになっていたから、もう学校に通わなくていいのは、かえって気楽だった。


 そうそう、住んでいたお屋敷からも追い出されました。

 ある日お父さんから荷物をまとめるように言われた。

 ゴミスキル持ちが同じ屋敷にいるのが許されないらしい。

 

 その日からお屋敷の外れの物置小屋がわたしの寝床になったよ。

 物置小屋はオンボロで、暗いし狭いしかび臭い。

 おまけに雨漏りはするし、すきま風は寒いしで、住み心地はサイアクだ。


 こうしてわたしの居場所はどんどんなくなっていった。

 不思議と涙を流すことはなかった。

 なんでだろう。

 もう悲惨すぎて逆に笑うしかないって感じなのかな。


 唯一、幸せなのは寝るときだけだった。

 

 だけど、眠るっていうことは、明日が来るということだった。


 辛くて寂しくて。

 悲しいことばっかりの、明日が。


 

 

 あ、でもね。

 唯一、妹――クーデリアだけはわたしを見捨てないでいてくれた。


 クーはお父さんとお義母さんの間に生まれた腹違いの妹だ。

 だから姉妹とはいえあまり似ていない。

 わたしの金髪ふわふわ髪の毛とは反対に、クーは銀髪さらさらストレート。

 性格ものんびり屋のわたしと違って、クーはとってもしっかりものだ。

 

 それでもわたしたちは、とても仲の良い姉妹だった。

 クーとわたしは三つ歳が離れていて、小さい頃からわたしによく懐いてくれた。


 

 クーは毎日、太陽が落ちてお屋敷の人たちが皆寝静まった頃に、こっそり屋敷を抜け出して、わたしのもとを訪ねてくる。


「お姉ちゃん! 食べ物を持ってきたよ。朝からなんにも食べてなくて腹ペコでしょ?」

「クー、ありがとう。でも、いいの? お父さんとお義母さんに見つかったらクーまで怒られちゃうよ?」

「いいの。何があってもわたしはお姉ちゃんの味方だから。だってわたし、お姉ちゃんのこと大好きだもん」

「クー……うう、あんたって子は……」

「はい、どうぞ」

「ハムッ ハフハフ、ハフッ!! おいしい!」


 わたしはクーのおかげで飢え死にせずにすんだといってもいい。


 クーは食べ物だけじゃなく、基本《《ぼっち》》のわたしのために色々な本を持ってきてくれた。

 これも本当にありがたかった。

 

 わたしは貪るようにクーが届けでくれた本を読みあさった。

 それはひとりぼっちの時間の退屈しのぎという面もあったけれど、それ以上に本から知識を得たかったのだ。

 

 なんとなく、わたしはこの先の人生を独りで生きていく予感があったから。

 独りで生きるために知識を蓄えておくことは、とてもとても重要なことに思えたから。


 クーは我が妹ながら、本当によくできた妹である。

 わたしがどれだけ周囲からバカにされても、クーだけはわたしの味方だった。


 そんなクーが居てくれたから、どんなに辛くて寂しくて悲しい毎日でも、なんとか生き続けることができたんだと思う。


 ありがとね、クー。






――――――――――――

 ステータス

――――――――――――

フレデリカ・ミュルグレイス

 性別/女

 称号/ゴミ令嬢

 好き/クー、甘いモノ

 嫌い/虫

 スキル/ゴミ《効果》不明

――――――――――――

――――――――――――





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