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第25話 神様は乗り越えられる試練しか与えない


「ミユルは……この街に来て、長いの?」


 ハチミツ酒を二人でちびちび飲んでいると、ふとダリヤさんがわたしに質問してきた。


「いいえ、全然です。まだ一ヶ月ちょっとくらい」

「ここに来る前は?」

「えーっと……」

「別に言いたくなかったらいい。ちょっと気になっただけ」


 ダリヤさんの気遣いに、わたしは「大丈夫です」と笑顔を返す。


「わたしは……実家を追い出されちゃったんです。《ゴミ》スキルのせいで」

「え、追い出された?」

「わたしの実家、けっこう世間体を気にするタイプで。《ゴミ》スキルなんて絶対に認めないって。それで……まあ、そういうことです。実家を出た後は、流されるままリーフダムまでたどり着きました」

「そうなんだ……」


 ダリヤさんに話をしていると、実家で散々味わった理不尽に対する怒りが、ふつふつと胸のうちに湧いてきた。

 

「そう! ほんっと散々だったんですよ!」


 ぐいっとハチミツ酒を勢いよくあおる。


「スキルの名前がわかったあとは、スキルの効果すら確認させてもらえなくて。それで、もう次の日からゴミ扱いです! そのせいでリーフダムにきてからもめちゃくちゃ苦労して……なんか思い出したらいまさら腹立ってきました!」

「……」

 

 わたしがプリプリする一方で、ダリヤさんはなんだか神妙な顔をして、黙ってしまった。

 

「ダリヤさん?」

「……なんというか、その……大変だったね」

「あ、そっか。聞いてて楽しい話じゃないですよね……ごめんなさい」

「そんなことないよ」


 ダリヤさんは、わたしのことをねぎらうように、グラスにハチミツ酒を注いでくれた。

 わたしは、注がれたお酒を一口飲んでから、今度はダリヤさんに質問してみることにした。


「そういうダリヤさんは? この街のお生まれですか?」

「ううん。ボクも外の人間。この街に来て……もうすぐ二年くらいかな」

「なんでこの街に?」

「ボクは……ボクも、ミユルと似たようなもの」

「え……それってもしかして」

「うん」


 ダリヤさんは、グラスを傾けてハチミツ酒を一口飲む。そして、ゆっくりと語り出した。


「ボクの家は、魔法使いを代々輩出する家系。でもボクは……その家では落ちこぼれだった」

「は? ダリヤさんが? 落ちこぼれ? それなんの冗談ですか?」


 ダンジョンでのダリヤさんの魔法の腕前を目の当たりにしているわたしは、思わず聞き返してしまう。


「魔法にも色々あるわけで……」

「色々って?」

「魔法は主に、攻撃魔法である《黒魔法》と、回復魔法である《白魔法》に分けられる。そして、ボクが星辰の儀(ステラライツ)で授かったスキルは、《黒魔法》――」


 ダリヤさんはそこで一旦言葉を切ってから、自嘲気味につぶやいた。

 

「ボクの家は、白魔法の名家。ご先祖様は代々、その力を持って多くの傷ついた人々を救ってきた。だから、どれだけ黒魔法が得意でも、そのことに価値はない。初級回復魔法ひとつ使えないボクは一族の恥さらし、落ちこぼれだったわけで……」

「それで、実家を追い出されたんですか?」

「追い出されたというより、自分から家を飛び出した。それからボクは一人で生きていくために、冒険者になった。各地をあちこち旅しながら……この街にたどり着いた、そんな感じ」

「じゃあ……セイバーになったのには? 何か理由があるんですか」

 

 わたしが問い返すと、ダリヤさんは「うーん」とつぶやきながら、視線を宙にさまよわせる。

 

「……、特に理由はない、なんとなく」

「なんとなく、ですか?」

「そ。しいて言えば楽に稼げそうだったから、かな。セイバーなら……()()()()()()がいなくならない限り、食いっぱぐれなそうだったから」

「なるほど」


 ダリヤさんが語った理由。

 ……なんとなく、お金のために。

 

 たぶん、それは嘘だと思う。

 きっと彼女の真意は、その言葉とは裏腹なところにある。


 ダリヤさんが打ち明けてくれた境遇を聞いて、わたしは、なぜ彼女が救い手(セイバー)として活動しているのか、その理由が分かる気がした。


 きっと、ダリヤさんは、証明したいんじゃないだろうか。

 白魔法が使えなくても。

 家族が否定した黒魔法でも。

 その力で、誰かを救えるということを。

 

 ()()()()()()()()ということを、証明したいんじゃないだろうか。

 

 親しい者たちから見捨てられ、ゴミ令嬢のレッテルを張られたわたしだからこそ、その気持ちは痛いくらいに分かる。


 きっとダリヤさんも、数えきれないほどの悔しさや悲しみを味わってきただろう。

 何度も、自分の人生に絶望したはずだ。

 ……ほんの一ヶ月前のわたしみたいに。


 それでもダリヤさんは、前を向いて歩き続けている。

 自分に配られた手札で、運命と戦い続けている。

 

 やっぱりこの人は……尊敬すべき先輩だ。

 

「ダリヤさん……やっぱり尊敬します」

「褒められても、家賃はまけないわけで」


 ダリヤさんのその軽口に、わたし達は、どちらからともなく笑いあう。 


「ダリヤさん、やっぱりわたし……間違ってませんでした」

「間違ってないって、なにが?」

「わたし……実家を追い出されて、帰る場所を失って、ホームレスにもなりましたけど……おかげで自由を手に入れて、ダリヤさんに巡り会えて、住む場所も手に入れることができました」

「そう」

「だからやっぱり、《《神様は乗り越えられない試練を与えない》》んです」

「……え? 神様?」


 ダリヤさんはキョトンとしたような顔を浮かべて、わたしの顔を見つめた。


「なに? 突然?」

「えへへ、わたしのモットーです。それが間違ってませんでした。だからわたし達、きっと大丈夫です」

「大丈夫って、何が?」

「何もかもがです! これからこの街で、わたし達は、自分らしく……幸せに生きていけます!」


 そう言ってわたしは、改めてダリヤさんに向かい合い、手にしたグラスを差し出した。


「あらためて、これからよろしくお願いします、ダリヤさん! 先輩として冒険者のイロハ、色々と教えて下さい!」

「……ダリヤでいいよ。あと、堅苦しいから敬語もいらない」

「ダメです! ダリヤさんはわたしにとっての恩人であり大先輩! こーいうのはケジメが大切なんですから!」

「……わかったよ、好きに呼んだらいい」


 そう言いながら、グラスを差し出すダリヤさん。


「――よろしく、ミユル。キミの《ゴミ》スキル、頼りにしてる」

「はい! お任せください!」


 わたし達は、改めて乾杯しなおした。

 グラスがカチンと小気味よい音を鳴らす。

 それはまるで、新しい冒険者としての門出を祝うような、そんな音色に聞こえた。


 そうして、楽しい夜が更けていった。

 この日飲んだハチミツ酒の甘さを……その口に残る優しい味わいを、きっとわたしは一生忘れないだろう。




――――――――――――

 ステータス

――――――――――――

ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)

性別/女

称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者、お酒初心者

好き/クー、食べもの全般、お風呂、ハチミツ酒←NEW!

嫌い/虫

スキル/《ゴミ》

効果:ゴミをリサイクルする能力

――――――――――――

――――――――――――

ダリヤ

性別/女

称号/魔法使い、セイバー、ベテラン冒険者

好き/ハチミツ酒

嫌い/実家←NEW!

スキル/黒魔法←NEW!

効果:攻撃系魔法を使いこなす能力

――――――――――――





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