第23話 一人目 魔法使いダリヤ
ホークさん達とお別れした後。
わたしとダリヤさんは、二人から託された報酬の配分について、話し合うことにした。
「それじゃ、ミユル……この報酬は山分けということで」
……正確には話し合う前に、アッサリとダリヤさんから、そう提案されたのだ。
「山分けって……半分ってことですか? わたし、そんなに貰っちゃっていいんですか!?」
いいとこ一割でも貰えれば十分と思っていたわたしは、ダリヤさんの申し出に驚いてしまった。
だけどダリヤさんは、さも当然だといいたげな表情でうなずく。
「当たり前なわけで。あの二人を助けられたのは、エクスポーションを作ったミユルのおかげ。だけど、そんなユミルは、ボクがいなかったらジャンボスライムに骨ホネにされてたわけで……というわけで半分こするのが一番後腐れないと思われ」
「ダリヤさん……あ、ありがとうございます!」
やっぱりこの人はいいひとだ!
わたしは感動しながら、報酬をありがたく頂戴することにした。
そして、報酬の取り分が決まってしまった以上、わたしとダリヤさんの間には、それ以上、お話しすることがなくなってしまった。
「じゃあまた……バイバイ、ミユル」
沈黙を破ったのは、ダリヤさんのお別れの言葉だった。
「あ……」
彼女はそのまま振り返って、わたしに背を向けてしまう。
わたしはその後姿を見て、考えを巡らせた。
……このままダリヤさんとお別れしてしまっていいんだろうか?
ダリヤさんは、凄腕の魔法使いで。
経験豊富な、ベテラン冒険者で。
ダンジョンで人助けをしているセイバーさんで。
なによりも、いいひとだ。
半日足らずだけど、一緒に行動してよく分かった。
ダリヤさんはクールでぶっきらぼうだけど、優しくて、誠実な人だ。
そもそもダリヤさんは、ギルドで暴漢に襲われていたわたしを、ただ一人助けてくれた。
冒険者を目指すわたしをあえて突き放したのも、いたずらにわたしを危険な目に遭わせないためだ。
それに、ホークさんとカミルさんの件だってそう。
今回は結果オーライで、二人から十分すぎるくらいの報酬を貰うことができた。
だけど、よくよく考えてみたら、二人を無理やり蘇生させるよりも、力尽きた彼らから遺品を回収するだけ方が、ダリヤさん的にはずっと簡単だし、それに儲かるはずだ。
それがグランドさんからも聞いたとおり、セイバーが持つジレンマ。
それでもダリヤさんは彼らを見殺しにしなかった。
そんなジレンマなんて意に介さずに、命を前にして、ただ真摯に行動したのだ。
……わたしもせっかく冒険者になるのなら、こんな冒険者になりたい。
ダリヤさんのような、冒険者に。
誰かのために一生懸命になれる、そんな素敵な冒険者に。
だから――
「ダリヤさん!」
わたしは夕陽を受けてオレンジ色に輝く彼女の背中に、思い切って声をかけた。
「なに?」
ダリヤさんが振り返る。
「お願いします! わたしを仲間にしてください!」
「……え?」
わたしはそう言って、勢いよく頭を下げた。
「……本気?」
「本気です!」
わたしは顔を上げ、ダリヤさんの瞳をまっすぐ見つめた。
「もちろん……一度、ダリヤさんに断られたこと、分かってます。その意味も……今日、痛いくらいに学びました」
わたしはそこで言葉を切って、一呼吸置いた。
「それでも、わたし……冒険者になりたいんです! 誰かのために一生懸命になれる、そんなダリヤさんみたいな冒険者に!」
まずは、決意をまっすぐに伝える。
そして、次に伝えるべきは、わたし自身の価値だ。
「わたしは弱っちいけど……わたしのスキルはちょー便利です! わたしのスキルを使えば、ゴミならなんでも再利用できます! 空になったポーション、使い終わったアイテム、壊れた装備だって……! 今日みたいに、きっと、ダリヤさんのお役に立つはずです。だから……」
わたしはそこまで一気に言い終えると、もう一度、ダリヤさんに向けて深々と頭を下げた。
「……お願いします、ダリヤさん! わたしを仲間にしてください!」
「……」
しばらくの沈黙の後。
ダリヤさんは、ゆっくりと口を開いた。
「ミユル」
「は、はい!」
名前を呼ばれて、わたしは顔を上げた。
「キミが思っている以上に、冒険者はお気楽な仕事じゃない。まあ、それは今日分かっただろうけど……」
「もちろんです! 苦労や危険、全部覚悟のうえですとも!」
「それに、救い手だってそう。知ってる? わたしたちが他の冒険者たちになんて呼ばれているか」
「はい。迷宮に巣食う……スカベンジャー。今日、グランドさんからその辺の事情は全部聞きました」
「……キミはそれでもいいの? ミユル」
「はい!」
わたしは迷わず即答した。
「だって、人からどんなに蔑まれようと……恐れられようと。結局、ダリヤさんは……誰かの命を助けているんですから。危険なダンジョンで。自分の身を危機に晒しながらも」
「……」
「尊敬します。憧れます。もし冒険者になるなら、わたしはダリヤさんみたいになりたい!」
「……そっか」
わたしの熱意が伝わったのか、ダリヤさんは、こくりとうなずいた。
「そこまで言われたら仕方ない……いいよ、しばらくの間、キミに付き合ってあげる」
ダリヤさんは、そう言ってわたしに右手を差し出してきた。
「ダリヤさん……! ありがとうございます!」
わたしはその手を取り、固く握手を交わす。
「これからよろしく、ミユル」
「よろしくお願いします! ダリヤさん!」
こうしてわたしは、ダリヤさんという、頼れる仲間を得たのだった。
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ステータス
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ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)
性別/女
称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者
好き/クー、食べもの全般、お風呂
嫌い/虫
スキル/《ゴミ》
効果:ゴミをリサイクルする能力
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ダリヤ←NEW!
性別/女
称号/魔法使い、セイバー、ベテラン冒険者
好き/???
嫌い/???
スキル/???
効果:???
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