第11話 プロフェッショナル〜ゴミ拾いの流儀〜
プロゴミ拾いの朝は早い。
日が昇る前、人々が動き出す前からわたしは動き出す。
お目当ては街のあちこちに設置されているゴミ捨て場だ。
「さーて、今日はどんなゴミがあるかな〜」
ゴミ箱のフタを開けて、中に入っているゴミとご対面。
誰もが鼻をつまみ眉を細めるであろうゴミ山が、今のわたしにはキラキラと輝く宝の山に見える。
わたしはゴミ箱に頭を突っ込みながら、夢中になってゴミを拾い集める。
「あ……! 食パンの耳! こっちはハムの食べ残しじゃん! よっしゃ今日の食事ゲット〜!」
「お……これは割れた食器、かな? こっちは折れた羽根ペンにインク瓶もある……これもゲットゲット」
「これってもしかしてネックレス……? うそーんこんな綺麗なのに捨てちゃったの? もったいない!」
こんな調子で街のあちこちに設置されたゴミ箱を回っていく。
日が昇って辺りが明るくなり始める頃には、今日拾った戦利品で鞄の中が一杯になった。
「へっへっへっ……カバンの中がパンパンだぜ……」
ちょうどいい時間だったのでゴミ拾いはこの辺りで切り上げて拠点へと戻ることにした。
両肩にずっしりとくいこむ重みを感じながら、わたしの足取りはスキップしたくなるくらいに軽やかだった。
拠点に戻ったら、今日拾ったゴミのリサイクルタイムだ。
「キミはゴミじゃない――!」
わたしのスキルによってボロボロだったゴミたちが、あっという間にピカピカによみがえっていく。
何回も繰り返していくうちにスキルの発動にもすっかり慣れた。
ちなみにスキルを発動するたびに体力が消耗されていく。
ゲーム的にいうならMPを消費するといったところだろうか。
今のところ、わたしが一日で連続発動できるのはマックス10回くらい。
この回数は大体の目安で、対象物が大きかったり構造が複雑だったりすると、その分MPが余計に消費される感じ。
試しにスキルの使用上限を迎えた状態でスキルを使用してみたら、すっごい立ちくらみが起きて、その場で気絶してしまった。
スキルの使用回数には気を付けなければいけない。
ということで、使用上限に気を使いつつも、持ち帰ったゴミをひと通りスキルの力でリサイクルすることができた。
次にわたしがやることは……
「こんにちは~、ゴッズさん。ミユルです!」
リサイクルを終えたわたしが次に向かったのは、リーフダムの商業地区の一角にあるアイテム屋だ。
スイングドアを押し開いて店内に入ると、一番奥のカウンター席に座ったコワモテのおじさんの視線が、ジロリとわたしに向けられる。
この人は店主のゴッズさんだ。
「……嬢ちゃん。また来たのかい」
「はい。今日もアイテムを売りにきました!」
「毎日毎日、景気のいいこった。……どれ、見せてみろ」
わたしはスキル《ゴミ》でリサイクルしたアイテムを差し出す。
ゴッズさんは片眼鏡を装着すると、それら一つひとつを査定していった。
査定の間、手持ち無沙汰になったわたしは店内をきょろきょろと見渡す。
ところ狭しと並べられた陳列台には、日用品はもちろんのこと、ポーションやエーテルといった薬品や装備品など冒険者が使うようなアイテムまで豊富に取り揃えている。
これは店主であるゴッズさん自身が冒険者だったことの影響だ。
ゴッズさんの顔にはアチコチに傷跡が残っていて、在りし日の冒険者としての面影を物語っている。
リサイクル品を売るにあたって、わたしはゴッズさんのアイテム屋に辿り着くまでに、リーフダム中の色々なお店を渡り歩いた。
だけど、大抵のお店ではわたしを子ども扱いしてマトモに取り合ってくれない。
それどころかこっちがモノも何も知らないカモだと思って、平気で端金で買い叩こうとするお店もあった。
あいにくわたしは人からバカにされることは慣れっこだ。
だからどれだけニコニコ笑顔で外面を取り繕っていても、内心で人をバカにしてくる人間の態度は丸わかりなのだ。
その点、ゴッズさんは違った。
かなりのコワモテで、態度もぶっきらぼう。
けれど、わたしを子どもと侮るでもなく、お金を毟ろうと企むでもなく、彼は一人の商売人として真摯にわたしに接してくれる。
だからわたしは、このおじさんにビジネスパートナーとして全幅の信頼を置いていた。
「……待たせたな、査定が終わったぞ」
査定を終えたゴッズさんが、片眼鏡を外してわたしに向き直った。
「銀貨5枚。銅貨3枚ってところだな」
「そんなに! ありがとうございます!」
わたしはゴッズさんの言い値に従ってリサイクル品を売却。
「交渉成立だな。毎度ありよ」
「ありがとうございます、ゴッズさん! また明日も来ますね」
「ああ。……気をつけて帰りなよ」
「はーい、失礼しまーす!」
ゴッズさんにお辞儀をして、わたしは店を出る。
ずっしりと重くなったお財布を懐に入れて、わたしは街の雑踏へと飛び込んでいった。
向かった先は……
「お、ふ、ろ、だッー!!!」
公衆浴場にたどり着いたわたしは脱衣所ですっぽんぽんになって、洗い場でゴシゴシ身体を洗って、並々とお湯が張られた湯船にじゃぶんと浸かる。
「ああ〜、いいきもち〜、溶けるう〜」
これまでの苦労や悩み。
慌ただしい日々を送ることで溜まった疲れ。
凝り固まった身体のぜんぶが一気にフニャフニャに溶け流れていくような感覚。
ちなみにお風呂上がりには瓶ミルクを飲む。
手に腰を当てて。
「ゴク、ゴク、ゴク……」
キンキンに冷えた瓶ミルクを一気に流し込む。
「プハッー! んま〜い!!」
最高オブ最高。
これが一日のご褒美。
このうえない贅沢だよ。
リーフダムで送るわたしの日々はとても充実していた。
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ステータス
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ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)
性別/女
称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐、ホームレス
好き/クー、食べもの全般、お風呂←new
嫌い/虫
スキル/ゴミ《効果》ゴミをリサイクルする能力
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