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第三話

 目が覚めるとあり得ない浮遊感が体を包んでいた。

 もう隕石もなんのそのってくらいのスピードで。落下運動は僕の意識とは何の関係もなく、動き続けている。重力ってすごいと場違いな感想を抱いてしまった

 けれど、流石に三回目となれば、動揺したりはしない。それに、「心の中の物を生み出す能力」をもらった。

 これなら、何とかなるだろう。

「空を飛ぶもの…」

 いざ、考えてみるとなかなか出てこない。

 飛行機は何かでかすぎて使えなさそうだし、神様の話からすると、ここは異世界っぽいし。

 異世界に飛行機。かなり、ミスマッチだ。

 ヘリコプターも飛行機と同様な理由で駄目だ。

「となると、翼か…」

 まあ、正直気は進まない。だって、人間の姿に翼。なんか、かなり痛々しいじゃないか。ここが異世界だからと言って、ファンタジックな存在が認められたとしても、僕のプライドと羞恥を刺激するのは間違いない。

 けれど、僕の貧弱な脳味噌では翼以外出てこない。なら、翼で行くしかないだろう。


 神様からやり方は教わらなかったけど、あの神様が与えた能力だ。たぶんアバウトな感じで大丈夫。

 心の中に翼を思い浮かべる。今は忘れてしまった純白な、綺麗な翼。穢れを知らず、未来を信じさせるようなそんな翼。

 翼を思い浮かべたら、次はこの世界に出るように、僕の中に命じる。胸が温かくなり、わけのわからない安心感が全身を包む。

 そして、手の中に現れたのは、

「タケ○プター?」

 タケ○プターだった。

 手触りでわかる竹の感覚。四つの羽に、それを支える細い棒。頭に装着する部分もしっかりある。

 全体を隈なく触って調べた結果、現れたものはタケ○プターだった。

「何で…」

 思い浮かべたのは翼だったはず。けど、出てきたのはタケ○プター。この因果関係に何か意味があるのか不思議でしょうがない。

 それより、この能力。「心の中の物を生み出す能力」だ。全然、思い描いたものとは違う物が出てきた。もしかしたら、あんまり使えないんじゃないか?

 あの神様の事を信じてしまった自分が恥ずかしい。死にたいくらい恥ずかしい。ちょっといい奴じゃんとか思ってしまった自分が恨めしい。本気で恨めしい。

 どこまでもいい加減な神様だ。死ねばいいのに。


 だからと言って、諦めるつもりもない。一応「コレ」も空を飛ぶ道具だ。いや、むしろ翼よりは恥ずかしくない。ポジティブシンキングだ。深く考えるな。今は生き延びることだけを考えろ。


 とりあえず、頭に装着してみた。

 そしたら、普通に頭から離れて何処かへ行きました。


「………」

 いや、薄々わかってた。だって、素材が竹だし。どこかにスイッチ的な物はなかったし。

「あー、もうめんど」

 一気に脱力してしまった。どこまでも使えない能力だ。死んだら、神様に文句を言おう。

 もう、今回は諦めてしまった。だってやる気なくなったし。

 ならば、思い切り手足を伸ばして大の字になるしかないでしょう。

「おお~」

 本当に何度やっても気持ちいい。局所に風が当たる感覚が絶妙だ。

 僕はもう既に癖になってしまったようだ。

 さようなら、普通の僕。そして、こんにちは、露出癖の僕。

 全裸最高。

「―――――!!」

「ん?」

 あれ、今、誰かの叫び声が―――





 目が覚めたら床に寝そべっていた。

「………」

 いや、まあ死んだわけだけど。そして、ここに戻ってきたわけだけど。

 こんな簡単に死んでしまっていいのか。というより、どうして神様はあんな使えない能力をくれたのか。

 理由云々は後で聞くとして、まずは謝罪をしてもらわねば。

「…神様、僕に何か言う事はありませんか?」

「今回も随分と早い帰りじゃのう」

「……他には?」

「お主、もしかして変態なのか?」

 確かに、僕は露出する快感を覚えたが、断じて変態ではない。あの解放感を変態と罵る奴は、人生の大半を損している奴だ。誰が何と言おうと、僕はあの快感を忘れるつもりはない。

 じゃなくて、

「とりあえず謝ってください」

「何でわしが謝らないといかんのじゃ」

 全く悪気のないその声に、ちょっとイラついた。

「何であんな使えない能力をくれるんですか。思い描いた物と違う物が出てきましたよ」

 おかげで、僕の少ない寿命回数が減ってしまった。

「そうなのか?それはおかしいのう…」

 おかしいって。自分が与えた能力だろうが。

「翼を思い描いたのに、青いロボットの秘密道具が出てきましたよ。しかも使えなかったし」

 びっくりした。まさか、子供の頃見た「アレ」が出てくるなんて。使えなかったけど。

「そんなことはないはずなんじゃが………」

「でも、実際に起こってます」

「むむむぅ…」

 また可愛らしく唸って、神様は考え込んだかのように黙り込む。

 僕としては、原因を探るより、まずは謝って欲しいのだけど、何か口を開きにくい。神様の気配なんてないから、喋りかけにくい雰囲気があるわけでもない。けれど、何だか、神様が重要な事を言ってくれそうな気がして

「うむ、わからん」

 たんだけど、やっぱりこの神様は使えない。わからないって意味がわからない。

「やっぱり、僕、やめます。無理そうだし」

 本当に無理だ。こんな適当な能力では、生き延びれる自信がない。

「まあ、待つのじゃ。原因はわからんが、全く使えないってわけでもないぞ」

 今回こそは絶対にやめてやろうと思っていたけれど、神様が気になる事を言った。けど、信じてはいけない。今までこの神様の言う事、為す事にはろくなことがなかった。今度も似たようなものだろう。聞き流すくらいでいいか。

「発想を逆転させるんじゃ」

「…どういう意味ですか?」

 ちょっと気になってしまった。



「お主も少しくらい自分で考えんか」

「いや、僕のような人間には到底考えつきません。頭脳明晰な神様、教えてください」

「う、うむ、そうか。それならば仕方ないのう」

 何だかすっげえ嬉しそうな声。馬鹿みたいだ。

「翼を思い描いて、お主の言う物が出てきたのならば、逆に、出てきた物を思い描けば、翼が出てくるんではないかの」

「…」

 確かにそうだ。理論的には間違っていない。

 そういう考え方もあるのか。逆転の発想か。馬鹿な神様だとは思っていたけれど、そこまで馬鹿じゃないのかも。

 それでも、欠点はある。

「それじゃあ、自分が本当に欲しい物を出すときは、ワンクッション置かないと出てこないじゃないですか」

「それくらい我慢せい。ただでさえ反則的な能力じゃ。お釣りがくるほどじゃぞ」

 まあ、そうなんだけど。

 切羽詰まった時とかどうすればいいんだ。魔物に襲われた時とか。いちいち、そんな面倒な手順を追っていたら、殺されてしまう。

 いや、でも、僕は魔物と戦う必要はないのか。女の子達の後ろで、突っ立てればいい。そう考えると、幾分情けないけど、分はわきまえないと。

「後、言い忘れていたが、ついでにセーブ機能もつけておいたぞ」

「セーブ機能?」

「うむ。向こうにいる間、お主がセーブしたいと思った所でセーブすれば、死んだ時、そこから始める事が出来る」

 そんな重要な事を言い忘れるなんて。やっぱり馬鹿だ、この神様。

「それも、上限があるとか言わないですよね…」

 生き返れる回数に上限があって、セーブにも上限がある。そんな条件じゃ、クリアなんて夢のまた夢だ。

「セーブには上限はないぞ。しかし、一度セーブしたらそれより前には戻れないから、見極めが大切じゃ」

 よかった。セーブ機能には上限はないのか。

 セーブした時から戻れないと言うのも、頻繁にセーブをしなかったら、そこまで危険視するほどの問題でもない。

 神様がくれたにしては、マシな能力だ。まあ、今までが駄目すぎたのか。

「わかりました。よく考えて使います」



 生き返る前に、神様の言った逆転の発想とやらを試してみたくなった。神様の言う事を信じていないからだ。また、生き返って、無理でした、では無意味すぎる。

 とにかく、ココで試してみよう。

 頭の中に、本当に竹でできた「アレ」を思い浮かべる。

 しかし、胸が温かくなる事もなく、翼が現れるような感覚はなかった。

「ここでは『心なかに描いた物を実際に作り出す能力』は使えんぞ」

「…『心の中の物を生み出す能力』は使えないんですか?」

「そうじゃ。『心なかに描いた物を実際に作り出す能力』はあの世界でしか使えん。もちろん、お主の元の世界でも使えんぞ」

「じゃあ、生き返って、逆転の発想をした『心の中の物を生み出す能力』を使って、失敗したらどうするんですか?」

「わしを信じるんじゃ。もし、失敗したら『心なかに描いた物を実際に作り出す能力』とは別の物を授けてやる」

「わかりました。とにかく『心の中の物を生み出す能力』を使ってみます」

「…」

「…」

 僕も神様も、お互いにネーミングを譲れなくて、能力の名前を強調しながら話している。正直、あの語呂の悪さはいただけない。僕は絶対に譲るつもりはない。

「お主とはいつかしっかりと話し合う必要があるようじゃの」

「ええ、そうですね。とりあえずクリアしてから、じっくりと話し合いましょう」

「くくく」

「ははは」

 お互い黒い笑い声を上げる。全てが終わったら、神様に不平不満をぶちまけてやろう。こんな短い間で、ここまでストレスが溜まったのだ。その時はとんでもないことになっているだろう。

 当然、泣いても許すつもりはない。

「よし、じゃあ、生き返らせるぞ」

「お願いします」

 僕は意識を手放した。


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