第一話
目が覚めたら床に寝そべっていた。
「あれ?」
おかしい。僕は空から紐なしバンジージャンプをかまして死んだはずでは?
とりあえず何か変わった所はないかと全身を触ってみる。
頭。うん。髪の毛がふさふさだ。指で髪の毛をいじりながら考えてみる。結構長い間切っていなかったみたいで、前髪が目の辺りまで伸びている。
腕。特に異常は見られない。どこかが痛んだりしていない。
足。爪先まで触ってみるけど、腕同様異常はない。
そして、僕は服を着ていない。
今は、胡座をかいているので、お尻にダイレクトに床が密着している。不思議な感触だ。冷たいような、暖かいような。アスファルトみたいにごつごつしてるわけでもないし、フローリングのようにひやっともしていない。
手で触ってみるけど、すごいつるつるだ。ゴミはおろか埃の一つも落ちてないようだった。
「ココ…どこ…?」
墜落死したはずなのに生きているってのは別にいい。生きていることを不思議に思っても仕方ない。運が良くて、助かったのかもしれない。
「いや、それはないか…」
もしかするともしかするかもしれない。ココは、
「死後の世界…?」
「半分正解じゃな」
「っ!」
独り言に言葉を返されて、驚いた。人がいるとは思っていなかった。そしてそれ以上に、その声の可憐さに驚いた。
甘く、高い声。女の子の理想の声ってこんな声じゃないのかってくらい可愛いらしい。耳を通って脳髄を震わすのではなく、心に直接響き渡る透き通った声。
「…?」
そこで違和感に気が付いた。僕の聴力は人より優れているから、そんな現象はおこり得ない。物音一つしないこの空間で、耳を経由せずに言葉を理解した。
「何を呆けておる」
「…っ!」
また。また、耳朶を震わす事なく、甘ったるい声が僕の中に染み込んでいく。何なんだ。誰なんだ。人がいる気配はない。
「誰…ですか?」
恐る恐る声を掛けてみる。コミュニケーションって大事。
「わしか?わしは神様じゃ!」
「…は?」
思わず呆けてしまった。随分と自身満々に言い切るな。それにしても、神様?いやいやいや、神様って。神様ってあれだ。あの、筋肉質で、髭が生えてて、バリトンの声をしてるようなものだ。少なくとも、今、僕の心に語りかける声の持ち主は、どう考えても女の子。それにかなり幼いだろう。
いや、その前に神様なんていないはずだ。神様がいるのならどうして僕を―――
「お主、信じておらんな」
僕の想像の中の神様に恨み節をぶつけていると、自称神様が話し掛けてきた。ああ、なんか不機嫌そうだ。
「いや、いきなり神様って言われても、信じる方が難しいと思うんですけど」
大体、ココはどこなんだ。もう、考えるのも面倒だ。
「うるさい!わしが神様って言ったら神様なんじゃ!」
自称神様が癇癪を起こしたように怒鳴る。つまりは、僕の心にびしびしと叩き付けるように響く。
絶対子供だよ、自称神様。何、その理論。子供特有の理論でしょ。
「はいはい。わかりましたよー、神様」
「全然信じておらんじゃろ!」
「信じてますよー。すごいですねー」
「むむむぅ…」
可愛いらしく唸るなぁ。本当に子供なんだろうなぁ。
「神様ー、ココどこなんですかー?僕、死にませんでしたかー?」
「僕、どうなったんですかー?」
「神様ー、聞いてますー?ねー、神様ー」
あれ、黙っちゃったよ。どうしたんだろ。
「神様ー、どうしたんですかー?」
「う、ひっく…。うるさい!わしは神様じゃ!誰が何と言っても神様じゃ!神様なんじゃ!神様じゃもん……、神様…じゃもん……。うわあああぁぁぁん!」
うわ、泣いちゃったよ、自称神様。本当に子供かよ。めんどくさいなぁ。
「ごめん、ごめん。信じるから泣き止んで。ね?お願い」
罪悪感が全く湧いてこないってどういうことなんだろう。
子供をあやすなんて何年ぶりかな。僕がこうなってから初めてじゃないかな。
「…ひっく…ひっく……本当か?」
「本当ですよ。貴方が神様って言うなら神様です。僕は信じます。だから泣き止んでください。神様が 泣いていたら示しがつかないでしょう」
すぐ泣く神様ってどうなんだろ。
「…そうじゃな。わしは神様じゃから泣いていたらいかんな」
しかも、扱いやすいし。
「ちーん!うむ。まあ、信じればよいのじゃ。許してやる。何と言っても神様じゃからな。わしは寛大なんじゃ」
「ありがとうございます。流石、神様ですね」
「そうじゃろ、そうじゃろ。もっとわしを褒めるのじゃ」
「いよっ、神様!カッコイイ!」
「ふふふ。もっとじゃ、もっと!」
「いかしてるぅ!僕のような下賎な人間には話し掛けるだけでも恐れ多いです!」
「ははははは!よい、よい!わしはそれぐらいで怒ったりせん」
「そこにしびれる憧れるぅ!その寛大な御心、顔をあげることすら罪に思えます!」
「そこまで畏まらんでよい!顔をあげい!」
あはははははははは!おもしろいな、この自称神様。かなり馬鹿っぽい。
「それで、偉大な神様に質問があるんですけど」
「なんじゃ、何でも言ってみるがよい。偉大な神様が答えてやるぞ」
「結局、ココは何処なんですか?というより、僕はどうなったんですか?」
「一度に二つも質問をするのはよくないぞ」
何この人。いきなり正論。
「すいません。じゃあ、まずは……僕、死にませんでしたか?」
ココがどこか、とかはこの質問一つでわかるだろう。
「うむ、死んだな」
簡潔な答え。やっぱり死んだんだ。死んだなら、どうして意思を持ってココにいるんだろ。
「そうですか…。じゃあ、ココは死後の世界ってやつですか?」
「それは、半分正解じゃ」
半分正解。そう言えばさっきもそんなこと言ってたな。半分ってどういうことなんだろう。
「…半分正解ってどういう意味ですか?」
「それはな、説明すると長いんじゃが……聞くか?」
「はい、聞かせてください」
色々と不思議なことが起こっている。とにかく何がどうなっているのかを知りたい。
「うむ。とりあえず、お主は死んだ」
それはわかっている。あれだけのスピードで落ちたら絶対に死ぬ。
「で、確かにお主は死んだわけじゃが…まあ、わしの手違いでな。本当ならお主をちゃんとした所に召喚したかったのじゃが……」
「ちょっと待ってください。召喚したって…。神様が僕を空から落としたんですか?」
元凶がこんな所にいるなんて。最悪だ、この神様。
「ち、違うぞ!落とすつもりはなかった!わしも慌てていたんじゃ!網を張っていたらたまたまお主が引っ掛かって、気付いたら落ちていたのじゃ!」
慌てて、とか、たまたま、とか言ってるよ。あり得ない。
「でも、原因は神様なわけですよね」
「うっ…!確かにそうじゃが……」
「何かの悪ふざけか何かですか?人を空から落としてその反応を見るとかの。だとしたら、相当悪趣味ですね」
僕はやっぱり少し怒っている。まあ、それはそうだろう。意味もわからず殺されたんだ。怒るなって言う方が無理な話だ。
声の調子も随分低くなってるし、こんな皮肉めいた事も僕はあまり言わないし。
でも、この自称神様にこんなこと言ったら―――
「うっ…ひっく…わざとじゃない…わざとじゃないんじゃ……」
やっぱり泣いちゃったよ。どれだけ泣き虫なんだ。思わず溜め息をついてしまった。
このままでは話が進まないので僕は先を促すことにした。
「わかりました。わざとじゃないんですね。信じます。信じますから先を話してください」
「……本当か?」
「本当です」
あー、めんどくさ。
「そ、それでな、気付いたらお主が落ちていて、死んでしまったわけじゃ」
「それはわかってます。じゃあ、何で僕はここにいるんですか?」
「うむ。わしの手違いということもあるが、お主は遅かれ早かれココに来ていたのは確かじゃ」
僕の質問に答えてないし。指摘するとまた泣きそうだからスルーしよう。
「どういう意味ですか?」
「お主にはやってもらいたいことがあるのじゃ」
また、質問無視するし。やだな、この人。
「やってもらいたいこと?」
でもやっぱりスルーの方向で。
「うむ。お主をあの世界に呼んだのは、ある少女達を助けて欲しいのじゃ」
「…助ける?」
少女達を?
「そうじゃ。彼女らは小さいころから悲惨な境遇でな。わしは見ておれんかった」
ふむふむ。割といい所はあるんだな。
「まあ、それでもわしは神様じゃ。基本、不干渉を貫かなければならないのじゃが…」
神様はそこで、辛そうに言葉を切る。
「この度、魔王討伐の命令が下ってな。もう、我慢できんとお主を呼んだわけじゃ」
「は?」
何それ。何で神様が我慢できなくなると、僕が空から落ちないといけないんだ。
「それなら、神様が助けてあげればいいじゃないですか。僕は関係ないですよ」
魔王討伐。気にしたら負けな気がする。大体、僕を召喚するくらいの暇があるなら、直接その子達を助けた方が早いだろうに。
「さっきも言ったじゃろう。わしは不干渉を貫かなければならんのじゃ。わしが、直接あの世界に干渉することは不可能なんじゃ。だからワンクッション置かなければいかん」
つまり、神様にはどうにもすることが出来ないから、代わりに僕を使ってその子達を助けたいと。我儘な発想だ。
「だからってどうして僕なんですか?魔王討伐って…。僕ほど不向きな人もそういないと思うんですけど」
何故、僕が選ばれたのか。はっきり言って魔王なる恐ろしげなものに勝てる気はまったくない。
「だから、お主は網に引っ掛かっただけじゃ。選ばれたわけではない」
引っ掛かっただけとは。要するに運が悪かったって事か。やっぱり神様なんていない。
「それに何もお主に魔王討伐をしろだなんて言ってはおらん」
「え?どういう意味ですか?」
魔王を討伐しなくていい?しなくていいなら、絶対にしないけど。それじゃあ僕の役割は?
「魔王を討伐するのは彼女達に任せればよい。お主は彼女達の旅に着いていって、幸せというものを教えてやるのじゃ」
「幸せ、ですか…。そういうのも不向きだと思うんですけど」
自慢じゃないが、人を幸せにする能力なんて皆無だ。人を不幸せにする能力ならたくさんもってるけど。
「僕じゃなくて、新しく人を呼んだ方がいいですよ」
魔王に勝つとか、幸せにするとか。ぶっちゃけると面倒だ。死んだなら死んだでもう天国でも地獄でもどこでもいいから送ってほしい。
「そんな時間はない。とにかくお主には、やってもらわねば困るのじゃ」
「えー、もういいですよ。それに、結局、ココはどこなんですか?僕が呼ばれた理由はどうでもいいです。さっきから僕の質問に答えてないですよ、神様」
僕がどうしてココにいるかとかは、もう神様の手違いとかでいい。死んだのも仕方がない。なら、一体ココはどこなのか。
「ココはわしが作った空間じゃ」
「神様が?」
「そうじゃ。ココはあらゆる物を超越しておる」
ふーん。何だか嘘っぽい。その話は話半分で聞いておこう。
「そもそも、死後の世界などない。死んだらその先は虚無じゃ」
「じゃあ、僕はどうしてここにいるんですか?死んだんですよね」
死んだら終わりということは、僕が今ココにいるとうことは矛盾になる。
「本来なら死んで終わりなんじゃが、そこは神様の力でちょちょいっとな」
ちょちょいっとな、て。つまりはご都合主義か。
「死んでからでないとお主をココには呼べんのじゃ。ま、今のお主は、いわゆるリビングデッドってやつじゃな」
リビングデッド。生きている死体。成程、言いえて妙じゃないか。死んだはずのモノが生きている矛盾。ぴったりだ。
いや、待て。思わず納得してしまったけど、神様の言葉に少し不自然な所がなかった?
「死んでからじゃないとココに呼べないって…」
そこだ。死んだからココに呼べる。それはわかる。だけど、死んで、から?嫌な想像が頭の中を駆け回る。
「そうじゃ。死んでからじゃ」
神様は断言する。
待てよ。そもそも、その悲惨な境遇の子達を助けろって、僕はもう死んでるんだから不可能じゃないか。それなのに、僕に、幸せを教えろ、だなんて言ってくるか?
あり得ないと思いながらも、神様の口ぶりからして、嫌な想像が現実感を持ってくる。
神様は僕に助けさせたい。けれど、僕はもう死んでいる。死んでいるのに、理由を説明する神様。そして死んでからでないとココには来れないという言葉。
これは、つまり、
「助けるまで繰り返せ…という事?」
「おお、よくわかったな。その通りじゃ。お主には何度も挑戦してもらうつもりじゃ」
だから、さっき神様は遅かれ早かれココに来るって言ったのか。僕の様な人間なら、普通に召喚できたとしてもすぐにココに来ていただろうし。それに、魔王がいるってことは魔物もいるってことだろう。平和にどっぷりと漬かった僕が魔物なんかに勝てるわけがない。
神様は意地でも僕から誰かに変更するつもりはなさそうだ。これは本気で僕がやらないといけないのかもしれない。
「あり得ない……」
僕は頭を抱えてしまった。
頭を抱えて悩んだ結果何も出てこない事を悟った。どうにかして回避するにしても、ココは神様が作ったと言う。生き返らない、とごねても無理矢理生き返る事になるだろう。
それなら、前向きに考えてみよう。ポジティブシンキングだ。
その子達を助けなければならいってことはもう確定だろう。神様はやる気満々そうな声してたし。僕も避けれないだろうし。
「…わかりました。やります」
非常に不本意ながら。
「けど、条件があります」
「何じゃ」
汚い事を言えばその件に対する手当、つまり報酬を要求する。僕が要求しても何ら不自然な事じゃない。世の中はギブ&テイクで成り立っているのだ。ノーとは言わせない。
「そんな大変そうな事をやるんですから、当然それに見合った報酬はありますよね?」
「もちろんじゃ。成功した暁にはお主を元の世界に戻してやろう」
なんともみすぼらしい報酬だ。そんな事は当たり前だと思う。
「それは当然です。その他にも何かあってもいいと思います」
「何か、とは…?」
「そうですね…。例えば、何か一つ、何でも叶えてくれるとか」
神様は馬鹿そうだからこう言えば了承してくれるだろう。後で、願い事を百個に増やしたいと言えばいい。
「それだけでよいのか?」
やっぱり。
「はい。それだけで十分です」
僕は心の中で黒く笑った。
とりあえず生き返ってみようと思ったけど、ふと疑問に思った事がある。
「神様、これって何度も生き返れるんですよね?」
本当に些細な疑問だ。こういうケースは無限に生き返る事が出来るというのが相場に決まっている。
「無理じゃぞ」
そうそう。無理だって、
「ってえええぇぇぇ!」
無理って。無理って。あり得ないでしょう、回数制限つきとか。どれだけ難易度高いんだよ。
「え、どうしてですか!?普通、無制限に生き返れませんか!?」
「生き返れる回数はその人の寿命の数じゃ」
「何でですか!?」
「さあ?そういう風としか言えんの」
「っ……」
寿命の数って。そんなのどう頑張っても百回くらいが限度だ。そんな回数でどうしろと。魔王討伐の旅に同行しなければならないのだから、危険なんていくらでもある。百回なんて、魔王の元に到着する前になくなってしまいそうだ。
ああ、何か面倒になってきたな。さっきのポジティブシンキングはどこかに行ってしまった。もう既に僕は負けた気分になってる。
「…神様、無理です。僕には出来そうもありません…」
「な、何を言っておる!お主しかいないのじゃ!お主がやらんで誰がやる!」
「そんなこと言われても…」
「前向きじゃ!前向きに考えるのじゃ!大丈夫!彼女達はすこぶる強い!実力は魔王にも引けをとっておらん!」
「…本当ですか?」
「本当じゃ!お主は外野から応援するだけでよい!」
外野から応援。それだけでいいのか。そうだ、僕が戦闘に参加する必要なんて全くない。むしろ邪魔になる。なら、その子達の旅に同行して、愚痴なり何なりを聞いてあげて心を軽くしてあげればいいのか。愚痴が言える人間がいるって結構幸せな事だろうし。
よし。まずは目標が決まった。とりあえずその子達と友達になる。そして後は後ろで応援だ。これなら百回じゃ多すぎるくらいだ。
そうと決まれば、前向きに行こう。とりあえず僕の挑戦できる回数、つまり寿命を聞こう。
「わかりました、神様。やります。それで、僕の寿命はどれくらいですか?」
まあ、順当にいって七十~八十ってところかな。運が良ければ、百くらいいくかもしれない。
「ん、ちょっと待て。今、調べる」
神様がそう言うと、後ろから本をめくる音がした。
おっと。僕は今まで背中を向けて神様に話していたのか。これは失礼なことをした。神様に気配がないから少しも気付かなかった。
僕はすぐさま回れ右して座り直す。
「わかったぞ」
「僕の寿命は何歳ですか?」
さあ、この数次第でモチベーションが変わってくる。大きな数字であってくれ。
「三十五歳じゃ」
「…………………ゑ?」
三十五?聞き間違い?
「すいません。もう一度言ってくれませんか?」
「何じゃ、しっかり聞いておけ。お主の寿命はな、三十五歳じゃ」
聞き間違いじゃないみたいです。
「短くないですか!?後、十何年かで死んじゃうじゃん!」
「うるさいのう。決まってる事じゃから、文句を言うでない」
文句の一つも出るって。三十五って。もう一回死んでるから、実質三十四回で何とかしろと。
「理由は!僕が三十五で死ぬ理由!」
決まっている事はしょうがない。上手く立ち回って三十四回でどうにかするしかない。どう足掻いても覆らない事実なら、そこに怒りをぶつけても無駄だ。
なら、僕が三十五で死ぬ理由は何なのか。なんかしょっぱい死に方だったら、すごい不愉快だ。
「えーと…お主の死因は……」
「死因は?」
「ボールを追って車道に踏み込んだ子供を助けようとした」
あれ、何かカッコイイ死に方だ。そうか。それなら、仕方がない。子供ために命を張ったのか、三十五歳の僕。でも、どうやって―――
「母親に突き飛ばされて、地面に頭を強打して死亡じゃな」
「って、ダサ!」
何それ。完璧に巻き込まれてるよ。僕、関係ないじゃん。本当にしょっぱい死に方だな。
「ちなみにその親子は助からなかったぞ」
「………」
しかも後味悪いし。
「はあ…。神様、やっぱりやめてもいいですか?」
もう駄目だ。もうやる気なくなった。ただでさえ短い寿命に、しょっぱい死に方。これでやる気出せってのは酷な話だと思う。
「さっきからやると言ったり、やらないと言ったり…。男じゃろ!はっきりせい!」
いや、そんなこと言われても。
「無理ですって。新しい人を呼んだ方が確実ですって」
少なくとも僕は何かに秀でているとは言えないのに、それに加えて寿命の短さ。絶対に無理。
「あーもう!ぐちぐちと!さっさと生き返らんか!」
「…あ」
神様がそう怒鳴ると、全身から力が抜けていくような感じがした。それはじわじわと体の末端から進んでいき、胴体まで届くと、自分が今、どういう状態なのかわからなくなった。そして少しずつ頭に回っていき、意識が朦朧とし始めた途端に、ぷつりと断線したように何も考える事ができなくなった。