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プロローグ

 目が覚めるとあり得ない浮遊感が体を包んでいた。

「え、えええぇぇぇぇ!!!」

 もう隕石もなんのそのってくらいのスピードで。落下運動は僕の意識とは何の関係もなく、動き続けている。重力ってすごいと場違いな感想を抱いてしまった。

 何故、僕は空を飛んでいるのか。いや、飛んでるのではなくて、落ちているのだけど。

 何故、こうなったのか。昨日は―――

「……あれ?」

 昨日、僕は何をしていた?

 思いだすことができなかった。昨日。一日前。昨夜。懸命に頭の中を絞っても、何も出てこない。自分が何者なのかを理解はしている。だけどそれだけ。どの様に生きて、何を為してきたのか。何も思いだすことが出来ない。いや、例え思い出せても、地面に向かって真っ逆様って状況は変わらないけど。

 というより、目が覚めたら落ちているって状況はどうなのか。風とかごうごう言ってるし。ていうか寒いし。

「…寒い?」

 どうして寒い?高い所にいるから寒いとか、風が当たって寒いとかそんなものじゃなくて、こう文字通り身を切るような寒さが全身を襲ってるんですけど。

 とりあえず体を触ってみる。そして気付いてしまった。

「僕、全裸じゃん…」

 そう。全裸。裸体。まっぱ。全部同じ意味だけど、とにかく衣類的な物は何も身につけていない。下着とかもう何それ、ってくらい全裸。

 そりゃあ寒いはずだよ。全裸でいたら寒いに決まってる。それで今落ちてるわけだし。なんて言うか、もうあり得ない。全裸で落下って。どういう奇跡なんだ。こんなあり得ない奇跡なんて起きてほしくなかった。奇跡って基本あり得ないものだけど。

「どうしよう……」

 そう。今は現状把握とか今この状況を嘆くとかの前に、これからどうするか、ということ。このまま落ち続ければ、確実にくちゃって感じで死んでしまう。ただでさえ、死にたくないのに、こんなあり得ない状況で、何もわからずに死んでしまうのはできるだけ避けたい。いや、できれば絶対に。

 そこまで考えて、自分が結構冷静な事に気がついた。普通の人ならもっとパニックに陥ってもおかしくはない。けど、僕は結構冷静に考えている。まあリアリティがないって言ってしまえるこの状況。パニックとか超越してるのかも。

「…どうしようもない、かな……」

 冷静でいれば助かるってわけでもない。正直さっきの避けるって思いはすぐになりを潜めて、もう既に諦めが全身を支配しています。僕は諦めがいい人間なので。

 いや、待てよ。もしかしたら何かしらの超能力的なモノが目覚めているということはないだろうか。目が覚めたら空を落ちているという現在。こういうのは、ほら、あれだ。あり得ない状況にはあり得ない能力が付き物だろう。早速試してみよう。

「ふんっ!ぐぐぐ……!」

 とりあえず、かめ○め波を試してみた。小さい頃誰もがやったことはあるだろうあのポーズ。今、僕は 恐らく背中から落ちているから、空に向かって例のポーズを向けている事になる。

だけど、僕の手の中に力の波動を感じることはできなかった。思い切り、全身の気という気を手に集めているのに何も感じない。かめは○波は無理なのか。じゃあ他のを試してみよう。

「とお!」

 次は、ス○イダーマン。例のあの手の形だ。何度も手を振って糸的なモノを出そうとしてみるけど、手首あたりから何かが出たって事はなかった。

 ス○イダーマンも無理。じゃあ次だ。

「トレース・オン」

 今度は投影だ。魔力っぽいモノを手に集めてみたけど、何かが投影される事もなかった。投影が使えたらかなりテンション上がったのに。

 無理なモノは仕方ない。次だ。

「カットバックドロップターン!」

 いや、無理だけどね。体もろくに動かせないし。

 ていうか、もう脱線してるよね。落ちてるとか助かるとかどうでもよくなってきたし。このまま死ぬのも、まあ、仕方ないんじゃない?助かりようがないし。もし、神様みたいなのがいたら助けてくれるだろうし。神様なんていないけど。

「ああ、死ぬのか…」

 思えば大した人生じゃなかったな。だって全ての記憶が空から落ちている記憶な訳だし。生後十数分ってところか。短い人生だ。短すぎて笑えてくる。

「ははは…」

 いや、かなり面白いんじゃないか。気付いたら空から落ちて、そのまま死にました。これ、友達に話したらウケそうだ。死んだら、誰彼構わずに話してやろう。天国があるかどうかはわからないけど、死後の世界くらいはあってほしい。

 そう言えば僕の両親はどうなんだろうか。僕ぐらいの年なら、まだ二人とも健在だろう。いきなり息子がいなくなって、見つかったらぺしゃんこの死体。悲しむというより驚くよな。僕だったら驚く。

 何にせよ、助からない事は確実。少しでも希望があればもっと意地汚く足掻いて、足掻いて、足掻きぬくのに。

「あーあ。もっと楽しく行きたかったなぁ…」

 無理なものはしょうがない。百%即死だし、もう流れに身を任せてみるか。

 ならば、思い切り手足を伸ばして大の字になるしかないでしょう。

「おお~」

 何て言うか、気持ちいいね。局所に風が当たって非常に気持ちいい。癖になりそうだ。露出癖のある人の気持ちがわかった気がする。こんだけ気持ちいいなら、そりゃ出したくもなるよ。露出癖の人、今まで変態と思ってしまってごめんなさい。僕も今日から貴方達の仲間になります。全裸最高。

「―――――!!」

「ん?」

 あれ、今、誰かの叫び声が―――

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