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セタンタ 聖堂 『決戦セタンタ ~その7~』

挿絵(By みてみん)

「皆様、間もなく到着しますよ!」


 ロッテンマイヤーの言葉に、否応なしに馬車内の緊張感も高まっていく。俺とスルーズは勿論のこと、ダニエルも思い詰めた表情で俯いている。


『今怪物が見える辺りなんですが、確かイレーネさんが護衛に行くと口にしていた地域っす……!会長が出発した後で、自分も戦闘要員として力になりたいって……』

「イレーネが!?うん、分かった!ありがとうルーカス。ルーカスは商会から出ないでね」

『こんな事態じゃなくても出ないので大丈夫っす!』

「あ、うん……」


 馬車での移動中、ルーカスと通話の魔道具で会話をして以来、ダニエルはずっと思い詰めた様子であった。

 イレーネさんというのは、確かあの受付の人の名前だ。受付嬢がなんで戦闘要員として力になろうとしているのかは分からないが、きっと滅茶苦茶強いのだろう。強い宣教師もいるのだし、フィクションではままあることなので気にしないが。

 しかしいくら受付嬢が強かろうと、マタンゴアは相手が悪すぎる。……というかこんな所で出てきちゃいけない敵だぞ?


「到着したら、僕も同行するよ」


 と、遂にダニエルはそう口にした。イレーネのことが酷く心配で、矢も盾も堪らず、といった様子だ。


「イレーネを迎えにいかなきゃ。だって僕は商会長だからね。護衛は頼んだよロッテンさん」

「ええ……!?俺が行くんじゃ駄目なんです?」

「ロッテンさんには別でやってもらいたいことがあるからね。大丈夫、イレーネと合流したらすぐ逃げるから」


 自慢じゃないけど逃げ足はそこそこ速いからね。と冗談めかして口にするダニエルに、ロッテンマイヤーも嘆息と共に了解した。後で聞いたのだが、ダニエルが一度言い出したら聞かない性格であることを長い付き合いでよく知っているのだとか。


「はー。分かりました分かりました。とにかく気を付けて下さいね」


 途中から、空が暗くなったかと思えば雨のような魔法が降り注ぎ、マタンゴアに巨大なドラゴンが挑み掛かる様子が見えた。皆が戦っているんだ。


「あ、あれ大丈夫なんですか!? なんかこの世の終わりみたいな光景ですけど!?」

「味方です。勇者パーティーが今あそこで戦っています」


 ……と、思うんだけど、間違ってないよね? あの魔法の雨、ウィズだよね? あんなの初めて見たんだけど?

 そんな説明をする隣で、ダニエルは巨獣を一心に見つめていた。

……いや、正確には、リューカを。


「金色の瞳……。あの時のドラゴン……? うわぁ、あんなに大きくなったんだ……!」


 小声でそんなことを口にしている。溢れ出る好奇心を抑えきれていない模様である。

 ……俺たちと一緒に来たい理由、少なからずこれもあるんじゃ……。


「さて、着きましたよ皆さん!」


 そうして、マタンゴアの姿がいよいよ間近で認識出来るところまで近付くと、ロッテンマイヤーは馬車を停めた。


「これ以上は馬が危険なので、ここからは徒歩で行きます」


 そう口にすると同時に慣れた手付きで馬を近くに繋ぐと、馬車のドアを開けてエスコートしてくれる。うーんこの人、御者ムーヴがあまりに板に付きすぎてない?


「ミーちん、急ご。早く合流しないと」

「──うん」


 今まで口数が少なかった隣のスルーズが、思い詰めたようにそう口にした。……そうだな。それは俺も分かってる。


みんなどうか、無事でいてくれよ……。


 焦りからか、鼓動が早鐘のように打っている。逸る胸をぎゅっと押さえて、俺は先を急ぐのだった。


◆◆◆◆◆


「ミーナ!スルーズ!」


 ミーナたちの姿を見付けてそう口にしたのはレオンであった。ぐるりと見渡すと、ドラゴン状態のリューカ、そしてウィズの姿も見える。

 安堵したような表情を見せるレオンであったが、二人以外の顔を見付けると驚きにその目を見開いた。


「ダニエル……?」

「レオン……!」


 ダニエルがここに来ることは想定外だったのだろう。レオンは開いた口が塞がらない様子でぽかんとしている。一方のダニエルはレオンと再会出来たことで嬉しそうな表情を見せたが、すぐに商会長としての顔に戻ると口を開いた。


「部下を迎えに来たんだ。イレーネは──」

「なんで来やがった!」


 別の方向から怒声にも似た声が聞こえ、ダニエルはそちらを見た。声の主はバレナらしい。


「今言ったばかりだけど。商会長として、部下を連れ帰る義務がある……から……」


 バレナへと目を向けたダニエルの言葉が、途中で止まる。彼女が抱き抱える存在を見てしまったからだ。


「……イレーネ……?」


 空色の髪は、間違えようもない。バレナが抱いているのは、倒れたイレーネだった。


「イレーネ!?」


 駆け寄ると、その顔色の悪さに血の気が引いた。狼狽えた様子のバレナが、ぽつり、と声を漏らす。


「手首と足首を深く切られて……、傷は、ヒールでなんとか塞がったんだ……、でも、イレーネ目を覚まさなくて……。ごめん……、アタシがいながら……」


 先の怒声は、ダニエルにこの様子を見せたくない意味合いもあったのだろう。今にも泣きそうなその声を受けて、ダニエルはぎり、と歯を食いしばった。


「……僕のせいだ」


 馬車の中でもダニエルは、自分が余計なことを言わなければ、と後悔していた。街に悪いやつが来て大事になるかもしれないから、宮廷魔導師団の所に行ってくる。そう言って出掛けたことを悔やんでいたのだ。

 イレーネが正義感から、彼女自身も戦いに赴くであろう可能性を失念していた。絶対に商会から出るなと付け加えておくべきだったのに。そう溢していたダニエルだけに、倒れたイレーネの姿は心の底からショックだった。


「イレーネ、イレーネ! 聞こえる? イレーネっ」

「……イレーネさん……」


 イレーネと知り合いのロッテンマイヤーも、神妙な面持ちで固まっている。ダニエルは懐から、「そうだ」と手のひらサイズの瓶を取り出した。


「ポーションがあるんだ。これで、これで何とか──」


 何とか出来ないことは、ダニエル自身が一番分かっていた。ポーションは、傷に掛ければ治癒の効果を発揮し、飲み込めば活力を回復させる効果を持つ万能薬だ。しかし今イレーネの外傷は治っているし、意識がない彼女にポーションを飲ませることは出来ないだろう。


「何とか、何とかさ……」


 ならば、何をすればいいのか。


「っ、ぁ…………っ」


 分からなくなった。いつも冷静に物事を判断して最善手を打ち続けてきたダニエルが、立ち尽くしたまま言葉さえ出せずにいたのである。

 誰にも助けを求められず、自分が成すべきことも分からず、頭が真っ白になってしまったのだ。


「ぁ……ぅぁ……、イレーネ……」


 ダニエルにとって商会メンバーは家族にも等しい。

 イレーネが死ぬかもしれないという恐怖。また、家族を失うかもしれないという動揺で、ダニエルは、恐らく商会長となってから初めてのパニックを起こしていた。


 どうしたら、どうすれば、どうやって、彼女が助かる方法を考えないといけないのに、何も考えがまとまらない──、


「どいて」

「え」

「どいて!」


 強い口調を重ねられ、ダニエルがたじろぐ。そこにいたのは、勇者パーティーの中でも彼のよく知る女性であった。


「スルーズ、さん……?」


 声の剣幕に、咄嗟にその場を離れてしまうダニエル。そんな彼を気にすることなく、スルーズは倒れたイレーネを観察している。


「元の傷が深かったのか、血を、流しすぎたんだね。ヒールでもメガヒールでも、ポーションであっても失われた血は戻らない。血を失ったら、人間は生きていけないんだよ」

「っ、じゃあ、どうすれば……?」

「頼む!お前が頼りだ」


 ダニエルの言葉に、バレナが言葉を被せる。スルーズは数秒口をつぐんだ後で、小さく「うん」と頷いた。


「分かってる。その為に、あーしが今ここにいるんだから」


 二人に見守られる中で、スルーズは地面に膝を付くとイレーネへと両手をそっと触れる。


「会長さん、悲しませたら許さないかんね。────【リバイブ】!」


 両手から溢れる光がイレーネへと注がれる。あまりにも眩い光は、マタンゴアさえその動きを止める程のものであった。


「うわ……?」


 思わず顔を背けるダニエル。ややあって光が収束していくと、


「…………ぅ……」

「イレーネ!?」


 胸を上下させ、イレーネの口からは小さな吐息が漏れている。先程よりもハッキリと、呼吸をしている様が見て取れた。青かった顔色も、赤みを帯びたものに戻っている。


「イレーネ?……イレーネっ」


 ダニエルが駆け寄ってその手を取ると、「ん……」と小さな声が漏れた。その様子を見るだけで、彼女は大丈夫なのだと理解出来る。ダニエルはほっと一息吐くと同時に、その顔を綻ばせた。


「ロッテンさん!イレーネを馬車までお願い……! ――良かった……。スルーズさん、本当に──」

「……うん、これで多分、大丈夫……」


 その様子を見届けた後で、今度はスルーズがその場に崩れ落ちた。


「スルーズさん……?」

「お、おい」


 バレナに抱き抱えられ、ダニエルに心配されるスルーズであったが、大丈夫大丈夫、と脱力したまま手をぱたぱたと振っていた。


「ちょい疲れただけ~。休ませちくり……」


 普段と変わらぬその様子に、二人も安堵して嘆息する。こうしてスルーズの魔法によってイレーネは危機を脱し、ダニエルは改めて安堵の吐息を漏らすのであった。


◆◆◆◆◆


あいつ、リバイブ使いやがった……!


 そんな光景を前に、恐らく俺だけが内心穏やかではいられなかった。

 リバイブは、術者の寿命を著しく減らす禁断の魔法だと解説本には書かれている。そんなものを使って、スルーズは無事なのか。

 分かっていてやってることなのか。スルーズに問い詰めなければならないだろう。


(……けど、それは後回しだ)


 彼女の様子は気になるが、それよりも対処すべきは眼前の敵、マタンゴアだ。この強敵を今この場で仕留めねば、俺たちにもセタンタにも未来はないのだ。今はウィズの氷とリューカの突撃で行動を押さえているが、それも一時のものだろう。


「あっちは何とかなりそうだな……」


 スルーズたちへと目を向けた後で、レオンが俺へと口を開いた。


「ミーナ、情報をくれ。どうしたらこいつを倒せる?」


こいつ、俺なら何でも知ってると思ってるんじゃあるまいな?……まあ知ってるけど。


 聞くところによると敵は、バレナが両目を潰し、レオンが前肢を切り飛ばしたにも関わらず平然と戦いを続けているのだという。


「切ったところから、白いボコボコした塊が噴き出して脚の代わりになりやがった。どうなってんだこりゃ?」

「分かった。手短に言うぞ」


 剣を構え直すレオンを見つめると、俺は小さく頷いて口を開いた。


「下の獣みたいな奴はもう死んでる。本体はあの白いボコボコ──キノコだ。あの中に、色の違う本体がいる」


 寄生菌類マタンゴア。動物に取り付くことでその養分を奪い死に至らしめ、群体と化して取り付いた生き物の死骸をまるで生きているように操る魔物だ。

 追い詰められたエルローズが自身の最大の配下としてラストバトルに連れてくる敵であり、登場するのはなんと魔王城なのだ。

 故にその姿を見た時は驚いた。こいつはこんな所で出ていい敵じゃないのだ。


「なに?白いボコボコが本体?」

「いや、ボコボコの中に灰色の個体がいて、そいつが本体──核、みたいなもんかな。そいつを倒せばこのデカブツはおしまいって訳」


 それほどの大事でありながら、俺は実に落ち着いてレオンと言葉を交わしていた。何故って、対処さえ間違えなければ、マタンゴア単体はそれほど驚異ではないからだ。

 マタンゴアがプレイヤーを苦しめるのは、支援タイプの強敵であるエルローズとタッグを組んでいるからなのだ。マタンゴア単体と戦うということになれば、然程苦労もせずに撃破可能だろう。ゲームで言えば、俺なら三分掛からずに倒せる。


「その為の策とかってあるか?」

「ある」


 問われ、俺は間髪入れずにそう口にした。おお、とレオン。


「勝てるってんなら何だってやるぞ。また情けない演技したっていい」

「実にいい覚悟だねレオンくん。とりあえず言っておくとだな」


 ふふん、とからかうような笑みを浮かべると、俺は目を細めてこう告げた。


「今回の作戦は、お前が最高にかっこいいやつだ」

「マジかよ!どんなどんなどんなどんな!?」


 食い気味に詰め寄ると、レオンはぐるぐる周りを回り出した。うむ。二言はない。ないから近い近い。犬かお前は。


「一人じゃ無理だ。協力がいる。おーい!ウィズ姉!リューカも戻って来て~!集合ー!」


 そう言いながら大きく手を振ると、


「どうしたの?」


 ウィズ姉と、


「わたくしの力が必要ですの!?」


 人の姿に戻ったリューカが駆けてきた。その様子を間近で眺めて、うわぁ!?と驚くダニエル。俺たちは慣れてしまって麻痺しているが、普通はドラゴンが人間になったら驚くのである。


「うわあ本当に変身するんだ!凄い凄い!!!」


 ……ちょっと驚き方が違うような気がしないでもないが。


「――――ちっ」


 バレナは呼ばれなくてむうっとしたが、疲れていることも事実なのでスルーズを抱いたまま座り込んで遠巻きにこちらを眺めている。


「と、いうわけで、作戦を説明するから聞いてほしい」


 集まった三人を前に俺はそう前置くと、その内容を口にした。何しろ今にもマタンゴアは動き出してしまうのだ。時間がない。


~~~~~


「って感じ。いける?」

「おおお、それはヤバイカッコいいな……」


 目を輝かせてはしゃいだ様子のレオンは問題ないのだろうが、しかし。


「私は、少し厳しいわね……」


 難色を示したのはウィズだった。


「魔力が、もう限界なのよ……。少し張り切りすぎてしまって……」

「わたくしは、まだいけますわ……!」


 そう答えてみせるリューカであったが、その声にはいつもの覇気がない。アラクラとの戦いから連戦が続き、疲弊していない筈がないのだ。

 ウィズ姉がいけないとなると、作戦は成り立たない。どうしようかと考えている背中に、声が掛けられた。


「ハイポーション、こんなこともあろうかと予備を沢山持ってきたんだ。良かったら使って!魔力ポーションもあるから!」


 振り返るとそこには五、六本程の瓶を抱えたダニエルの姿がある。……いや、ハイポーションって一本で金貨一枚(十万円程の価値)はするんだけど……?


「ダニエル!めっちゃ気が利くじゃん」

「でしょー?」


 そうして互いの顔を見て、レオンとダニエルは笑顔を見せあう。

 再会からこっちすれ違いが続いており、先程はイレーネの危機的状況でそれどころではなかったので、ここにきて幼馴染み二人は、やっとお互い笑い合えたのだ。


「ありがとうございます。これで、少しは魔法も撃てるわ。……けど」


 ダニエルの支援に頭を下げるウィズであったが、それでもその顔は浮かないままだ。俺の告げた作戦では、大量の魔法による物量攻撃が胆になっている。小規模回復では、その役は担えないと言いたいのだろう。確かにどうしたものか……。



「そこは我らにも手伝わせて貰いたい」


 声に振り返ると、そこにはオールバックに髪を固めた中年の男が立っていた。破魔のローブに身を包んだその姿は、一目見て彼が強い魔法使いであることを示していると言える。そしてその背後には、神秘のローブを纏った十人の男たちが並んでいた。


「最後の踏ん張りだ。我ら宮廷魔導師団、全力で力を貸そう」


 間違いない。彼こそ宮廷魔導師団長のヴィクトールその人だ。


 クエハーのゲームにおいてはセタンタ前市長モンゼランド氏の警護をしているという名目で知り合い、イケゴニアの部下たちを蹴散らしてくれる役割を持っていた宮廷魔導師団が、こうして目の前にいるのだ。感動せずにはいられない。


「お前ら……?あの怪物にやられた筈じゃ」


 マタンゴアに蹴散らされ、叩き付けられ少なくないダメージを負っていた筈だ。その光景を見ていたバレナが思わず疑問を口にするが、それは同時に口を開いたもう一人の言葉によって答えが示されていた。


「会長さん、宮廷魔導師団の皆さんにハイポーション行き渡りましたよ!」

「ありがとうロッテンさん」

「いやいやいや!ハイポーションて!金貨何枚分使ってるんですか!?」

「え?」


 思わず声を上げてしまった俺に、ダニエルは心底不思議そうな顔を浮かべてみせると、


「セタンタの危機だよ?今使わないでいつ使うのさ」


 と、さらりと言ってのけた。


「それとも、余計だった?」

「まさか。最高の助けです。ありがとうございます!」

「な、ダニエル気が利くだろ?」


 隣でレオンがふふんとドヤ顔を浮かべている。──いや、気が利くとかいうレベルを越えてるんだが……。


「じゃあ、作戦スタートだ!みんな!お願いします!」

「「「「おー!」」」」


「ゴブルゥゥゥゥ!!」


 ここまで空気を読んでくれていたマタンゴアくんも、氷を溶かし尽くして再び動き始めたようだ。それに合わせる形で、俺たちも動き始めた。


「炎魔法部隊!お願いします!」


「ええ!」

「分かった!」


 俺の声を受けて、ウィズ、そして宮廷魔導師団を従えたヴィクトールが並び立つ。


「ウィスタリアだな。こうして共に戦えることを、喜ばしく思っている」


 魔法陣を描きながら発せられたヴィクトールの言葉に、ウィズはえっ?と首を捻った。


「どうして、私の名前を?」

「ふ……」


 小さく微笑むと、ヴィクトールが告げる。


「俺も、アリシアの弟子だ」


 その意味を理解して、ウィズの目が見開かれた。母であるアリシアを知る男。そしてアラクラは敵であったが、ヴィクトールは味方としてウィズの隣にいるのだ。


「そうですか。では、兄弟子ですね……!ふふ。なんだか力が湧いてくる気がします……!」


 目に涙の粒を溜めながら、ウィズはそう口にした。そうして完成した、百を越える魔法陣がぐるりとマタンゴアを取り囲むと、


「【ファイアーボール】!放て」


 一斉に火魔法を撃ち放ったのである。


「ブゴォォォォォォ~!!!」


 その狙いは、白く蠢くマタンゴアの群体。それらが次々と炎によって焼かれていく。


「ピギィーッ!」


 初めて、悲鳴のような声がキノコ部より漏れていた。

 下から新しい茸が噴き出してカバーしようとするも、次々と燃やされてその数を減らしていく。


「放て!放て!ここで出し尽くせ!」

「はあぁぁぁっ!」


 周囲がオレンジに輝く程の波状攻撃の前に、カバーした茸が次々と現れては消えていく。頃合いを見計らって、俺は声を上げた。


「次!レオン、リューカ!お願い!」


「よっしゃ!」

「分かりましたわ!」


 待ってましたとばかりに、ポーションで回復したリューカとレオンの二人が前に出る。リューカがレオンの脚を抱えると、その場に屈み込んだ。


「よし、そのままレオンをぶん投げろっ!」

「いきますわよぉぉ……っと、あ、あらら?」

「お、おいリューカ、大丈夫か?」


 勢いよく立ち上がろうとして、リューカはバランスを崩してたたらを踏んだ。ハイポーションで体力は戻っているので、バランスの問題であろう。さすがにぶっつけ本番は無理があったか……?


「な、なんのこれしき……!」


 よろけながらなんとか体勢を立て直そうと右に左に奮闘しているリューカ。そんな彼女の手に、別の誰かの手が添えられた。


「見ちゃらんねえっつうの」

「あ、あらっ。バレナさん」


 ため息を吐きながらそこに姿を見せたのは、バレナであった。


「躊躇してらんねえんだろ? 一人より二人だ。さっさとやるぞ」

「むっ。急に現れて仕切らないで下さいませんことっ」


 そう文句を口にしながらも、特に拒絶することなくリューカはバレナと二人でレオンを抱え上げた。


「頼むぜ~?二人とも」


 剣を構えてワクワクとしているレオンの体が沈み込むと、そして。


「どっせぇぇぇぇい!!!」

「うぉりゃあぁッ!!!!」


 二人の女傑によってレオンは勢いよく投げ上げられていた。


「おおおおおっっ!!」


 空高く舞い上がる勇者レオン。リューカの背に乗った時以来の空中戦に高揚する彼であったが、すぐに気持ちを切り替えて剣を腰に構えた。


「覚悟しろよキノコ野郎……!」


 丁度タイミングを同じくして、魔法部隊がファイアーボールを撃ち尽くしていた。脚に回していた茸さえ導入したことで、巨獣は立つことさえ出来ずにその場に崩れ落ちている。


「────あれか」


 その背中、焼かれて黒い霧に溶けた茸の下に、小さな灰色の点を見つけてレオンは目を細めた。

 本体を炙り出されてしまったことに気付いたのだろう。マタンゴアは慌てて僅かに残った白キノコで自身を隠そうとするが──。


「もう、遅いッ!」


 その瞬間には、既にレオンは必殺の体勢を取っている。剣身が赤く輝き炎を纏うと、それが斬撃として放たれる。勇者レオンの必殺技、その名も──。


「【紅蓮剣】ッッッ!!」


空から真一文字に飛ばされた燃える斬撃は、正確にマタンゴア本体を捉えると、それを真っ二つに消し飛ばしていた。


「あれが…………」


 空を見上げてダニエルが呟く。

 実にあっさりとした幕切れではあるが、その一撃が決着であった。白キノコたちは本体の消滅と共に塵と消え、養分はとっくに吸い尽くされていたのだろう。残された骨と皮だけとなった巨獣が、静かに霧となって消えていく。

 後はレオンが落ちるだけであった。


(そ、そういやこの後の作戦聞いてないんだが?)


 レオンがそんな疑問を抱いたであろう時には既に、その体は落下を始めている。


「うぉぉぉぉっ!?」


 すわそのまま地面に叩き付けられれば、勇者様とて一貫の終わりであろうが。そんな話になることはあり得ないわけで。


「【ラビド】!」


 浮遊魔法を受けたレオンの体は空中で減速すると、ふわふわと地上に降り立った。

 ちゃんと、地上に戻る術はウィズに託してあったのである。俺の策に抜かりなし。


「おお……」


 無事地上に戻ったレオンはラビドの魔法から解放されると、こちらに走ってきた。


「レオン!」


 俺も腕を上げてそれを出迎えると、


「「っしゃあ!」」


 大きな音と共にハイタッチを交わした。俺もレオンもテンションマックスであり、互いにきゃはきゃはと笑い合う。


「ほんっとかっこよかった!最高だったぞあれ!」

「マジ?マジ?俺輝いてた?」

「そりゃもー閃光剣みたいにピッカピカ!」

「だっははははは!!」


「勇者様~!」

「やったわねレオン!」

「やるじゃねーか!」


 そうしてハイテンションではしゃいでいる俺たちの元に、リューカとウィズ、バレナも駆けつけると、俺たちは勝利を盛大に祝うのであった。


◆◆◆◆◆


「……あーあ。レオンのやつ、あんな楽しそうにしちゃってさ」


 そんな様子を遠巻きに眺めながら、ダニエルはそう独りごちた。


「ふふ。あーしの友達、すごいっしょ」


 座れる程には回復したのであろうスルーズが得意そうにそう告げると、ダニエルも「そうだね」と呟いた。


「……今の僕にはあの顔は引き出せない。悔しいけどね。――でも、ああ、良かった」


 そうして、ふっと息を吐き出すように笑う。

 セタンタ中を巻き込んだ大騒動は、勇者一行の活躍によって遂に終わりを迎えるのであった。

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