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セタンタ 聖堂 『決戦セタンタ ~その5~』

挿絵(By みてみん)

 その少年は、グリンバーナ王国一貧しいといわれるラスティアのスラム街に産まれた。少年の頃に、彼は実の母親に二束三文の金と引き換えに見知らぬ男へと売られ、彼の元で幼少期を過ごすことになる。

 男は典型的な小悪党で、悪事に手を染めたいが、その度胸も行動力もなかったのだ。それ故、実行犯となってくれる使い捨ての少年を探していたのだ。


「うん。やるよ」


 少年もまた、男に従わなければ自分が生きていけないことを理解していたのだろう。彼は言われるままに男の手足となって悪事に手を染めていった。

 だが、その生活は少年にとって決して楽なものではなかった。

 命懸けで盗みを働いても、得られるものはごく僅か。そしてそのほぼ全ては、彼でなく家で何もせず待っている男のものとなるのだ。

 少年は常に空腹であった。盗んだものを食べたいと何度も思ったが、十分な量を持ち帰らないと殴られるため、自身は捨てられたゴミの中からマシなものを探して食べていた。

 勿論失敗すれば、待っているものは壮絶なリンチだ。何度も殴られ続けているうちに、少年の右目はその光を失っていたが、やがて彼は喧嘩屋として周囲からも一目置かれる存在へと成長していく。

 誰にも負けることがなくなり、十五歳になる頃には彼は【無敵のドブネズミ】と呼ばれ高い懸賞金を掛けられる程になっていた。


 しかし、そんなドブネズミの天下も長くは続かなかった。裏闘技場で勝ち抜き、いつものように戦利品を持ち帰ったアジトに騎士団が待ち構えていたのである。

 逃げることも叶わず真っ向から戦うも、不意打ちの上に十人の騎士の前には多勢に無勢、五人を倒したところで彼は力尽きようとしていた。


「お前を売ったのはお前の親父だよ」


 誰かが口にしたその言葉が決め手だった。少年は観念したようにその動きを止め、捕獲するつもりもさらさらない騎士たちはこの場で少年を処刑しようとするのだが──、


「ぐあっ」

「な!?」

「がッ?」


 三人の騎士が、くるくると踊るように回ってその場に倒れる。その中心に、見知らぬ男がいた。


「この状況下で五人仕留めるとはね。うん。死なせるには惜しい逸材だ」


 死を待つばかりだった少年は、大の字に倒れたままの姿でゆっくりと男を見上げた。

 この場において少年は悪であり、騎士を倒してまでそれを救う理由は何一つないのだ。いや、倒して、ではない。殺している。男のやっていることは殺戮だ。男こそがこの場における絶対悪と言えるのかもしれない。


「……あんた、なんなんだ……?」


 少年が呟くと、男はふっ、と微笑んでその名を口にした。


「フィルマだ。私と来い。少年。私が求めるものには君の力が必要だ」

「へっ、へへ。そいつぁ、都合がいいな……。たった今、大事なもん全部なくしたトコだからよ……」


 男から目を離し、天井を仰ぎながら少年はそう口にした。言葉と同時にボロボロと流れる涙を片手で隠しながら、自虐と安心、相反する二つの気持ちに彼は声高く笑っていた。

 フィルマと名乗った男もまた、満足そうに微笑みを浮かべる。


「ならば今から君は私の家族だ。……君、ではいかんな。名前は?」

「……ねえよ」


 問われた少年の口元から笑みが消えた。この少年にとって、自身の名前と呼べるものは二つ。周囲から呼ばれていた【ドブネズミ】と、親から呼ばれていた【ゴミクズ】だ。これまでその名について思うことはなかったのだが、何故かフィルマに伝えることだけは憚られた。

 彼にだけは落胆されたくないと思ってしまったのだろう。少年の言葉に、フィルマはなるほど。と呟いた。


「──では、私が君に名を与えよう。……【ファルクス】。誇大ルード語で星を意味する言葉だ。今日からファルクスと名乗るがいい」

「ファルクス……。俺の、名前……」

「では改めて。共に来いファルクス。私が君に、生きる場所を与えてやる」


 そうしてここに、イケゴニアのファルクスが誕生した。

 フィルマの元でファルクスとして生まれ変わった少年は、その持ち前の体術を駆使して敵を殺す戦士へと成長を遂げていくのである。

 そして──。


◇◇◇◇◇


(──なん……だ……?)


 今現在に戻り、ファルクスは倒れている自身の体を見つめていた。

 声を出そうにも全く出せず、体を動かそうにもその感覚が何一つない。


「……………………」


 ついぞ自身の首を落とされたと理解出来ぬまま、ファルクスの意識は闇に沈み始めた。


(よくは分からんが、俺は負けてしまったのか)


 そして最期に彼はこんな想いを抱く。


(親父の力になってやりたかったんだがなぁ。……無念だ)


 ゆっくりと、その瞼が降りていく。破天荒な彼の人生に、いよいよ終わりの時が訪れたのだ。


(はて。そういえば……、どうして俺は勇者と戦いたかったんだ?)


 最期に彼の脳裏を過った小さな疑問は、答えが見つかることなく消えていくのだった。


◆◆◆◆◆


「リューカちゃん。一つ、お願いしていい?」

「?」


 ウィズの言葉にリューカが首を傾げる。激戦の最中、一体何をお願いするというのか。


「はぁっ!」


 新たな防御障壁を展開させて直後に飛び退くウィズ。アラクラと距離を取ったその上で、彼女はリューカにこう伝えた。


「彼女を倒す手段はあるわ。けど少しだけ時間が掛かるの。一分、お願い出来る?」

「────ええ!」


 その言葉の意味を理解すると、リューカは笑顔で二度、三度と頷いた。


「ええ!ええ!合点承知の助ですわ」

「ええ?ガッテン?……と、とにかくお願いね!……あと、私が立ち上がったらどんな状況でも相手と距離を取って」


 そう口にすると、リューカに小さく微笑んでウィズは目を閉じた。その場に膝をつき、手を組んで集中するその姿は、まるで祈りを捧げるシスターの様だ。

 しかし言ってしまえば今のウィズは、完全に無防備を晒しているにも等しい。

 つまりその状態の彼女を一分間、変幻自在の腕を持つアラクラから守り抜かなければならないのだ。

 思った以上にキツいオーダーだが、それでもリューカはリューカで不敵な笑みを浮かべてみせた。


「腕が鳴りますわね!」

「…………」


 アラクラは何も口にすることなく、その標的を怪しげな動きを見せるウィズへと変更していた。間に立ち塞がるリューカ越しにウィズの頭を貫くべく、床を蹴って迫る。


「だあぁぁッッ!!」


 自身の武器たるバトルアックスを拾うと、大振りで迎撃するリューカ。当然アラクラにそんなものが命中する筈もなく、アックスが抜けるその瞬間にはアラクラは飛び上がっていた。

 両手を使ったリューカに自身を阻止する術はない。アラクラはそう判断し、空中からウィズを狙って腕を振りかぶった。


(取ったッ!)

「馬鹿の一つおぼふっ!?」


 アラクラの言葉が途中で濁る。空中にいる彼女の全身に、緑色の大きな尻尾がめり込んでいた。


「っがああぁぁぁぁぁ!?」


 次の瞬間には、アラクラはまるで弾丸の様な勢いで壁に激突させられている。


「これぞわたくしの切り札!テイルスイングですわ!!どうですのっ!」


 ふんすっ!と鼻息を荒げながらリューカが言う。人の体に変身した状態のまま、そのサイズに見合ったドラゴンの尻尾を生やしたのだ。こうした部分変身もまた、彼女の実家での修行の成果なのである。


「が、はっ……!?」

(何が、何が起きたの!?)


 咄嗟に腕を壁に伸ばして衝撃を殺したものの、決して少なくないダメージを負ってアラクラは酷く咳き込んだ。


「げほッ……、ぐ……」

(誘い込まれた。今までの攻防で一切使用しなかった第三の攻撃手段とは……!けれど、それで私を仕留め切れなかったのは痛手だったわね……。もうそれは食らわない……!)


 アラクラは立ち上がると、平静さを取り戻してリューカへと目を向けた。


(私と同じような魔具によるものかは分からない。けれど、間合いの長い三本目の腕があるというのなら、それを意識して行動するまで。決して難しいことではないでしょう)


「…………」


 無言のまま、アラクラはリューカへと距離を詰める。相手を翻弄する戦闘舞踊を続けたまま、リューカの攻撃を誘うのである。


「それ、相変わらず読めませんわね……!」


 しかしリューカは駆け引きをするようなタイプではない。アラクラが動きを止めたその瞬間に狙いを定めると、バトルアックスを思いきり振り抜いた。


「どっせぇい!!」


 風を切る重い一撃は、当たればアラクラの体など容易く両断されてしまうだろう。

 無論、当たれば、の話だ。アラクラは半歩下がることで斧の範囲外に出ると、空振りを確認して一気に距離を詰める。


(出してみなさい第三の手!背中から出すことは分かっているのよ。それに合わせてカウンターを──)


 アラクラがリューカの攻撃に備えた次の瞬間、


「ぶはー!」


 なんとリューカが火を吹き付けたのである。


「んいぃぃッ!?」


 これには流石のアラクラも心底驚いた。ミーナの初回講演に参加していれば予習出来たのだが、残念ながら初見だったようだ。


 飛び退いて体勢を立て直すと、リューカを睨み付けるアラクラ。


「大道芸人かお前は!?」


 次から次へと珍妙な攻撃を受けたアラクラが苛立ちを隠さずに声を荒げる。

 彼女の戦闘経験はかなりのものだが、流石に対戦者に火を吐かれたことは初めてである。


(あんな攻撃まで隠していたなんて……。これじゃあ間合いに入るのも難しいわね……)


 しかし、ウィズの動きを見るに考えあぐねている時間はあまりないだろう。どうしたものか、と思案し掛けて──、


「…………!」


 アラクラは息を飲んだ。この場を打開し得る術に、思い至ったのだ。

 そして彼女は鋭い刃物と化した自身の腕を突き出すと、空中で絵を描くかのように動かしていく。


「な、なんですの……?」


 どちらも攻撃間合いの範囲外。しかしアラクラの腕の先に生み出された火球を目の当たりにして、リューカは目を見開いていた。


「それは……、魔法……!?」


 火には火を。そう。アラクラが自身の前に生み出したそれは、ファイアーボールの魔法であった。それは、ここまでずっとアラクラと接近戦を演じ続けてきたリューカにとっては想定外のことだ。

 しかしそれは、実のところアラクラ本人にとってもそうなのである。


(覚えて、いるものね)


 感慨無量といった様子で、アラクラは眼前の焔を眺める。それは、遠き日にアリシアが教えてくれた、アラクラにとって最古の攻撃手段であり──、


──ララちゃん、これはきっと、貴女だけの才能ね──


「先生が初めて褒めてくれた、私だけの力よ」


 人一人など容易く飲み込んでしまいそうな程に巨大な火球が、そこにあった。


「な、あ……」


 呻きにも似た声が口をついて出る。いくら勇者パーティー随一のタフネスを誇るリューカであっても、ヒトの姿でそのレベルの火球を受ければ無事でいられる保証はないのだ。


「いけッッ!」


 しかし考える暇さえ与えず、アラクラはそれを撃ち放っていた。


「!?」


 しかしその狙いは正確ではない。軌道はリューカへの直線より幾分か逸れている。横っ跳びに離れれば、回避することは可能だろう。


 闇雲に撃ったのか、と考えようとして、リューカは己の思考の至らなさに気付かされた。

 暗殺者であるアラクラが。イケゴニアのメンバーである彼女が闇雲などする筈がない。

 正確だ。それは確かな軌道で真っ直ぐに、


 ウィズを狙っていたのだ。


「く、ぉのぉぉぉぉッ!!」


 迎撃などとても間に合わない。だとすれば、リューカに出来ることは一つしかなかった。

 今にも全てを焼き付くさんと突き進む火球の前に自らの意思で飛び込み、それを受けとめんと両手を広げたのだ。


ゴッバアァァァ!


「あああぁぁぁぁァァァッッ!!」


 灼熱の炎の塊がリューカに衝突し、その場に爆発するかのように燃え広がる。


「があああぁぁぁぁぁァァァッッ!!」


 勢いでその足が下がるも、倒れるような真似はしない。全身を焼かれて尚、リューカはそこに踏み留まったのだ。


「は、ぁ、か、ぁ、は、ぁぁ……」


 そして火球が消え去った後、そこには立ち塞がったままのリューカがいた。


(……凄いわね)


 その様に、内心でアラクラは感嘆の声を上げる。いくら回復の手段があるからといえ、自ら業火の前に身を晒すような真似は、普通ならば出来ないだろう。

 だが、感心したからといって手を弛めるわけではない。

 次の瞬間、黒焦げになったリューカの元にその身を躍らせると、アラクラは両手の刃で彼女の太股を刺し貫いた。


「ぁ、ぐ……」


 刃が引き抜かれると同時に、鮮血が噴き出し、リューカがその場に膝をつく。

 そして丁度アラクラの前に差し出される形となったその首を、クロスした刃が挟み込んだ。腕でハサミを形成しているかのようなその姿は、まるで処刑人の様であった。


「ウィスタリアは薄情者ね。仲間が死ぬというのに動かないの?」


 リューカの奥に屈むウィズへと声を掛けるが、それでもウィズが動く気配はない。アラクラは、ち。と舌打ちした。


「貴女、見捨てられたのね。それとも貴女たちは全員仲間を助けるつもりはないのかしら。まあ、どうでもいいか。じゃあ貴女から殺すわ」


 ウィズの動揺を誘うための声掛けであったが、それが叶わないのなら仕方ないとアラクラはリューカへ狙いを定める。今正に絶体絶命と言わん状況のリューカは、しかし。


「信頼、されてますのよ」


 焦点の合わぬ目でアラクラを見つめ、ハッキリとそう口にした。


「──ああ、そう」


 それ以上の会話は必要ないと判断し、アラクラはその両腕に力と魔力を込めた。バチン、とそのハサミが閉じれば、同時に相手の首は断たれてその命を散らす。リューカは手強い相手であったが、これまで葬ってきた幾人もの標的と同様に──


がぎぃんっ


「は?」


 思わず間の抜けた声が口をついて出てしまう。アラクラのハサミは、リューカの首を挟んだままの状態で受け止められていた。

 何に?他ならぬ首そのものに、である。


「な?……あ?」


 見ればその首は、硬質な鱗によってびっしりと覆われていた。それがアラクラの刃を止めていたのである。


(馬鹿な……。私の【鋏】は鉄をも切り裂く。生物の鱗程度で防げる筈が──)


 そう考えて、ハッと気付く。先程自身を打ち払ったものは、蛇の尾のようなものではなかったか。

 そして、口から炎、首の鱗。おのずと答えは見えていた。


「――竜族……!」

「づがまえ……ましたわ……!」


 驚愕と同時に、アラクラの両肩はリューカによって押さえつけられていた。そのまま腕力だけで、その体が空中に引き上げられる。


「なっ、きさ、離っ!」


 頭が白くなった今このタイミングでは、腕を戻しての迎撃も、切り札の魔法も、何もかもが間に合わない。

 次の瞬間には予測通りに、アラクラの体は床に勢いよく叩き付けられていた。


「っごほぁぁぁぁッッ!?」


 満身創痍でありながら、両脚を刺されていながら、なんという膂力か。床を砕くほどの一撃を受けて一瞬意識を飛ばすアラクラであったが、彼女とて戦闘暗殺集団イケゴニアの一員である。瞬時に目を覚ますと眼前の空間に向けて腕の刃を振りかざした。


「貴様ァッ!!」


 が、空振り。今そこにいた筈のリューカは、既にアラクラから離れた位置へと飛び退いていた。


(今こそ奴にとって最大の好機だった筈。それを何故──)


 何故逃げたという疑問は、顔を上げた瞬間に消え去っていた。アラクラは見てしまったのだ。視界を埋め尽くす程に浮かび上がって輝く魔法陣たちを。

 五百では効かない。千を越える魔法が、そこから放たれようとしていた。


「ぁ……ぁぁ……」


 うまく声が出ない。そして同時に理解する。リューカの単身特攻は、これの為の時間稼ぎであったのだと。


「またせたわね!リューカちゃん!ありがとう!」


聖堂全てを埋め尽くす輝きの中心に立ったウィズが声を張り上げる。そして同時に、リューカとウィズの二人のみが暗闇に包まれた。

 アラクラにはそれが何を意味するのかは分からない。ただ、


 自分が終わったことだけはハッキリと理解した。


「【マジカルボム】」





 まるで永遠のような一瞬が過ぎ去る。

 教会のガラスを全て吹き飛ばす程の轟音と、周囲一帯を白く染め上げる程の光がその場に炸裂し、そして消えていった。


 全てが終わったそこで、丸い二つの暗闇が消えると、中からウィズとリューカの二人が姿を現した。


「今の、は……?」

「闇魔法【ダークネス】よ。感覚を遮断する闇の中にいたから、私たちは平気だったの」


 そう口にして、ウィズが一点を見つめる。


「…………!」


 驚くリューカ。そこには、倒れて痙攣しているアラクラの姿があった。


「あの音と光を浴びたんだもの。鼓膜も視力も、全て破壊されたでしょうね。……これで、終わったわ」


 どこか寂しそうにそう口にした後で、「それよりも」とウィズはリューカへと駆け寄った。


「もう!あんな無茶して!簡単なヒールしか出来ないけど、我慢してね」

「ふふ。依頼は、しっかり守りましてよ」


 座り込んでそう笑うと、リューカはウィズへと拳を突き出す。驚いて目をしぱしぱとさせるウィズであったが、


「ええ。私たちの勝利ね」


 そう優しく微笑むと、そこに拳をこつんと合わせるのだった。


◆◆◆◆◆


「ロッテンさん、もっと急げる!?」

「申し訳ないですけどこれで最速です!」


 馬車の中からの声に、セタンタ駐屯騎士団の一員である騎士ロッテンマイヤーはそう返した。

 日頃は立派な騎士である彼だが、馬を駆れるが故にこの非常時には仕方なく御者の真似事をしているのである。


「そっか、ごめん」


 自身が焦っていることを自覚してはいるのだろう。あえて声のトーンを落として自身を落ち着かせると、ダニエルは右に目を向ける。


「スルーズさん。本当にあそこに向かっていいの?」

「……お願い」


 そこには、座席にもたれて苦しそうに声を出すスルーズの姿があった。



 宮廷魔導師団に直訴に向かった帰り、ダニエルは近くの騎士団屯所に足を運ぶと顔見知りであるロッテンマイヤーに護衛を頼んだのである。


「会長さんの頼みであれば最優先ですよ!ですよね!?団長!」


 これまた色々あって、セタンタ駐屯騎士団もブラウン商会には頭が上がらない身。二つ返事で了承してくれたロッテンマイヤーを御者として、馬車で商会までの道を急いでいたのだが、


「ちょ、ちょっと止めて!」


その途中でスルーズの姿を見付けて、今に至るのである。



「しっかし、あんな怪物の側に行きたいなんざ、こんなお嬢さんの口から出るとは驚きですよ」

「こう見えて、勇者パーティーだかんね」


 魔力を補給する為か、スルーズはポーションのようなものをちびちび飲むと、苦さに舌を出している。

 ダニエルもまた、お願い。とロッテンマイヤーに声を掛けた。


「彼女の力はきっとレオンたちに必要なんだ」

「……りょうかいっ!」


 そういうことなら、と鞭を入れようとしたロッテンマイヤーであったが、逆にその場に馬を止めていた。


「うわわっ!?」

「ぶふっ!?」


 急停車した馬車内で、前に吹き飛びそうになるダニエルと、ポーションを顔面に浴びるスルーズ。


「ちょっとロッテンさん!?どうしたの!?」

「ヴえぇ、にがいぃ……」

「い、いやその……」


 すわ魔物でも出たかと身を乗り出して外を覗いたダニエルは、「げ」と思いきり声に出していた。


「すみません!乗せて下さい!」


 馬車の前には、必死に乞うミーナの姿があったのだ。


 そうして状況は、刻一刻と形を変えていく。

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