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スーイエ 『始動』

 少し日は遡り、勇者レオンたちがフィーブを出発した一日後のこと。

 レオンたちが目指すセタンタから、ガルム山脈、ナテン湖を隔てた先に、スーイエの町がある。

 そこにはセタンタ同様に冒険者ギルドが存在しており、冒険者の新規登録や、パーティレベルに合わせた任務の斡旋などを行っていた。


「はい。それではこちらの登録用紙に記入をお願い致します。はい、確かに受理しました。コッパ様ですね。D級冒険者からのスタートとなります」


 この日も、普段と同じようにギルド職員たちがあくせくと働いていたのだが──。


「ララちゃん。お客さんよ」


 声を掛けられ、受付に座っていた女性がハッとしたように顔を上げた。年齢は二十代だろうか。紫の長髪が揺れ、切れ長の琥珀色の瞳が声の方向へと向けられる。彼女の名はララ。穏やかで丁寧な接客とメリハリのあるボディラインから、男たちに人気の受付嬢であった。


「ナタリアさん」


 ララの返事を受けて、彼女に声を掛けた女性──ナタリアは小さく頷いた。肩口で揃えられたプラチナブロンドの髪に、赤い眼鏡が特徴の彼女は、ララよりも歳上なのだろうが、年齢を感じさせない美しさを身に付けている。

 そんなナタリアは、スーイエの冒険者ギルドにおける、副ギルド長なのである。


「弟さんでしょ?」


 くい、とナタリアが示唆する方向に、年端もいかぬ少年の姿が見えた。

 焦ったように身を動かしながら、今にも泣きそうに唇を噛み締めている。


「トリスト!どうしたの?」


 その少年に見覚えのあるララが慌てたように声を掛ける。ナタリアに言われたように弟なのだろう。顔立ちは似ていないが、トリストと呼ばれた少年もまた、ララ同様に紫色の髪色をしていた。


「お母さんの具合が悪くなって……。それで……」

「……でも、先週も抜けたし、あまり、もう……」


 トリストの言葉に、苦虫を噛み潰したようなララ。そんな彼女を一喝したのは、話を聞いていたナタリアであった。


「いいから、行きなさい」

「ナタリアさん……。ですが……」

「貴女のそういった事情も込みでウチは雇っているの。それに、抜けた分を帳消しにする以上に貴女は頑張ってくれているじゃない。……お母さんのこと、大切にしてあげてね」

「──ありがとうございます!」


 深々と頭を下げてお礼をすると、荷物をまとめてギルドを後にするララ。そんな彼女の背を見送りながら、ナタリアは小さく息を吐き出した。


「彼女も大変ですね。働きながら、家族の面倒も見ないといけないなんて」


 ギルドのメンバーだろうか。ナタリアの背後で雑用をこなしていた青年が、ひょい、と首をもたげながらそう口にした。「本当にね」とナタリア。


「でもねノーマン、魔王軍にやられた町では珍しい光景じゃないわ。天涯孤独で生きていかないといけないなんて話、珍しくもないもの」

「まあ、それで冒険者やる人も多いですからね」


 その為の冒険者ギルドですし。と頷くノーマンに、ナタリアは「そうね」と小さく返すと嘆息した。


「でもララにはそうなって欲しくないのよ。親の庇護がなくなった若い女で、無事にやっていけるのなんて一握りだけなんだから。それだって、並々ならぬ苦労の末にね」

「いやに具体的ですね」

「まあ、昔いたのよ。そういう娘が」


 そうして二人は、ララが出ていった入り口を見据えるのだった。


◆◆◆◆◆


「……あの……」


 連れ立ってギルドを出た二人だったが、少し進んだ辺りでトリストがララへと声を掛けた。


「それで、報告は?十六番」


 トリストが何かを言う前に、口を開いたのはララであった。しかしその口調はギルドにいた時のような柔らかいものではなく、また、弟であろう彼を呼ぶ名も、トリストではなく、無機質な数字であった。

 姉が突然変貌したにも関わらず、トリストはまるでそれが当たり前であるかのように「はい」と答える。


「ファルクス様が任務に失敗し、ミセリア様と一緒に帰還したとのことです」

「失敗……?具体的には?」

「暗殺対象不在の中、勇者パーティに戦いを挑みあわや相討ちし掛けたとのこと」

「あの馬鹿……!」


 沸き上がる憤慨に鼻を鳴らしながら、ララはずんずんと歩を進めていく。いや、それは最早ララではなく──、


「……それで私にも帰還命令が出たのね」

「はい。主様は、アラクラ様の力が借りたいようです」

「……まあいいわ。ファルクスには灸を据えてやる必要もあるし」


 ララとは世を忍ぶ仮の姿、その正体はイケゴニアの長女ことアラクラなのであった。

 それからしばらく二人は無言であったが、アラクラの後ろを歩きながら、ふとトリストが口を開いた。


「あの、アラクラ様」

「……何」

「自分なのですが、そのままトリストと呼んで頂くことは叶わないでしょうか?……拾って頂いたことには感謝しかないのですが、その、名前というものに憧れがあるんです」


 その問いを受けて一瞬言葉につまるアラクラであったが、すぐに「いいえ」と口にした。


「十六番も立派な呼び名でしょう?」

「そ、それは、そう、ですが……」

「十六番。貴方たちの役割は何?」


 アラクラの言葉に顔を上げる十六番。些かの迷いもなく、問われた内容への答えを彼は口にした。


「貴女方家族の手となり足となり、盾となってこの命を使うことです」

「そうよ。貴方たちの命は、私たちの為に使われなければいけないの。名前を持てば自我が、未練が生まれる。許可は出来ないわね」

「──はい。出過ぎた真似でした」


 十六番の年齢は八歳前後だが、それを感じさせない程の大人びた態度で彼はアラクラと接している。イケゴニアの教育の賜物でもあるのだろうが、そうでなければ生き残れなかった故であるとも言える。言わば彼は成功例なのだ。

 そうして二人が行き着いたのは、イケゴニアの本拠地であるスーイエ郊外の古びた洋館であった。


(ここまで尾行はなし。……問題はないわね)


 金具の錆びた重い戸を開くと、十六番を連れ立って中へと足を踏み入れるアラクラ。そこには、執事服、メイド服を来た少年少女たちが整列していた。


「お帰りなさいませアラクラ様」


 いつの間にか十六番もその列に加わっている。恭しくお辞儀をする彼らの間を歩き、アラクラはずんずんと奥に進んでいく。

屋敷の奥にある食堂にボスであるフィルマの姿を見付けると、アラクラはその眼前で足を止めていた。


「父様、アラクラ只今戻りました」


 お辞儀をするアラクラ。近くにはファルクス、ミセリアの二人の姿もある。


「やあアラクラ。待っていたよ」


 柔和な態度で笑顔さえ見せるフィルマに、アラクラはしかしその表情を険しくして口を開いた。


「父様。私はファルクスが失態を犯したと聞いて駆け付けたのですが?その話はどうなったのですか」

「ふむ。失態ね」

「表立って勇者パーティと敵対するなど、混乱の元でしかないでしょう!?」


 アラクラ自身、気が立っているのだろう。自然とその言葉に熱がこもる。しかし。


「私はそれが悪いことだとは思えない。勇者連中はいずれ我々に害を為す存在だ。ここで刈り取ることこそイケゴニアの為だろう」


 フィルマの言葉にアラクラは耳を疑った。何故って、勇者と争うなと進言したのは当のフィルマなのだ。それが舌の根も乾かぬうちにこの変わり身とは、驚くなという方が無理であろう。


「罪を問う。というのなら、戦いを途中で止めたミセリアの方だ。そのままならばファルクスは奴らの仲間を三人は殺せていた。そうだね?」

「おおとも!親父、まだ俺は手を見せきった訳じゃねえっ!次こそ奴らを殺してみせるぜ!」

「しかし……!」


 息巻くファルクスに、アラクラも負けじとくって掛かる。

「むっ!」と眉根を寄せるファルクスだったが、それを制したのはフィルマだった。


「──しかし、なんだい?アラクラ」


 その圧力に息を飲むも、それでもアラクラは気丈な態度を崩さずフィルマへと進言した。


「しかし、勇者は魔王軍と戦う貴重な戦力です。魔王軍は我らにとっても邪魔な相手。今悪戯に殺すよりも、魔王を討伐するまでは泳がせておくのが合理的ではありませんか?」

「それは──」


 論理的な質問を受けて、フィルマの目が泳ぐ。アラクラにとってそんな彼の姿を見るのは初めてのことだった。


「確かに、そうだな。……妙だ。私ならそう考える……。ぐ、む……」

「親父!ぐちゃぐちゃ考えることはないぞっ!殺してしまえば全て解決だ!」

「貴方は黙ってなさい!」


 余計な発言をするファルクスを一喝するも、フィルマはその言葉によって安定を取り戻したらしい。元の落ち着いた彼に戻って、小さく息を吐き出した。


「――いや、やはり勇者は危険分子だ。今排除しなければ我等家族の存亡に関わる。任務はあくまで、勇者パーティの討伐だ」

「父様!ですからそれは──」

「アラクラ」


 先程の話を蒸し返そうとするアラクラを、しかしフィルマが制した。穏やかな声色であるにも関わらず、名を呼ばれた瞬間びくりと身を震わせるアラクラ。


「……父様……」

「家族で話し合うのは良いことだ。有意義であるし、様々な意見もあるだろう。しかしねアラクラ」


 優しい顔のまま、笑わぬ目をアラクラへと向けてフィルマはその言葉を口にした。


「私の言葉は絶対だ。反論も意見も許さない」


 まるで、言葉だけで相手を殺せそうな圧がそこにはあった。ぱくぱくと口を動かすアラクラであったが、すぐに観念したのだろう


「────はい」


 と小さく呟いて首を縦に動かした。そんなアラクラに、フィルマも、ふ……、と微笑む。


「なら決まりだ。アラクラ、君には早速仕事をしてもらうよ。そのために呼び寄せたのだから」

「──と、いうと?」

「フィーブに派遣した二十五番からの報告でね。勇者たちが昨日セタンタに向けて出立したらしいんだ。勿論ミラリスが言っていた女も同行している。この全員をセタンタで討ってほしい。人員はファルクス、ミセリアも入れた三人だ。討伐を確認するまで、スーイエに戻ることは許さない」

「────」


 一瞬、考えるような表情を浮かべるも、逆らうことは出来ないと観念した身。フィルマの言葉を飲み込むとアラクラは頷いた。


「はい。父様。必ずや」


 そして反す頭をファルクスへと向けると、アラクラは目を細めて口を尖らせる。


「ファルクス。いい?いくら全員討伐が目的だからといって、白昼堂々真正面から喧嘩を売るような真似だけはしないでよ?セタンタは王のお膝元。そんなところで騒ぎを起こせば任務どころじゃないんだから」

「ああ。分かっている」


 アラクラの言葉に、不承不承といった様子で頷くファルクス。脳を完全に筋肉に支配されたかと思ったが、まだ一欠片の理性は残っていたらしい。


「それでは頼んだよ」


 フィルマの言葉を受けて、三人は準備を整え次第、セタンタへと出発することになった。「うぉぉ!リベンジだあぁぁっ」などとのっけから不安要素しかない言葉を吐くファルクスはさておき、洋館の裏手にアラクラの姿があった。

 そして、もう一人。


「──ミセリア。貴女の見解を聞かせて」

「……二人とも変だね。……ファルクスは元々あんな性格だから分かり辛いけれど、それでもこんな非合理的な行動をする奴じゃなかった」

「……やっぱり、そうよね」


 先程の会話を思い返し、アラクラは頷いた。あの場では一言も発することのなかったミセリアだが、フィルマたちの様子の違和感には気付いていたらしい。


「父様もそう。自分が矛盾したことを口にしていると気付き掛けているのに、それを抑え込んでいるのよ。あれは普通じゃない」

「──うん。そうだね」

「ミセリア、貴女ファルクスの戦いを仲裁したって聞いたけど、彼に触れたりした?」


 ふと思い付いたように口を開くアラクラに、ミセリアは小さく頷いた。


「取り押さえたからね。しっかりと触れていたよ。だから彼の記憶は隅々まで読むことが出来た。……ただ」

「ただ?」

「今回の不審な行動に繋がるような記憶は見れなかったんだ。勇者と戦うことについても、急に思い立ったような感じだった」


 ミセリアには、彼女だけが持ち得る特殊能力がある。それが、今口にしたもの。触れた相手の記憶を読み取る能力だ。

 触れている時間が長いほど深く詳細に記憶を見ることが出来るが、高速で脳裏を流れる他者の記憶は、ミセリア自身に多大な負荷を与えるものでもあり、あまり見すぎれば倒れてしまうこともあるのだ。


「──そう」


 ミセリアの言葉にアラクラは嘆息した。ただの馬鹿だったなら手の打ち様がない。といった具合だ。しかし、ミセリアの結論はそこで終わりではないらしい。


「けれど」そう前おいて、ミセリアは言葉を続けた。


「何もない。というのは逆におかしいと思う。思い付く時は何かしらの切っ掛けを想像したり、連想したりするものなのに、ファルクスには本当に何もなかったんだ。──まるで不自然に記憶が消されているみたいに」


 その言葉にアラクラは息を飲んだ。ファルクスはともかく、用心深く表に出ることのないフィルマが同じ状態なのだとしたら。


「イケゴニアの中に二人の意識を改竄した奴がいるっていうの?裏切り者が、私たちの中に……?」

「……言いたくないけど、その可能性は高い。身内でなければ主が接触を許す筈がないからね」


 短くそう告げた後、ミセリアはアラクラから視線を外しながらこう口にした。


「でも任務を仰せつかってしまった以上、ボクらにはどうにも出来ないけどね」

「……そう、ね」


 例えフィルマが誰かに何かをされているのだとしても、彼の命令を聞くしかない立場の今の自分たちに出来ることはないだろう。

 二人は同時に嘆息した。


「でも、ファルクスは二人で監視しよう。あの様子じゃ、絶対にやらかすから」

「……そうね。この場合、常に最悪を想定して動いた方が良さそうだわ」


 そんなこんなでひとまずの方針を決定した二人。 


「じゃあ、ボクらも行こうか」

「ちょっと、待ってもらえる?」


 軽装のままいつでも出発出来るというミセリアに、待ったを掛けたのはアラクラであった。


「一ヶ所だけ、寄りたい場所があるのよ」


◆◆◆◆◆


「……すみません。辞めさせて下さい……」

「……ララちゃん、顔を上げて」


 優しく諭すようなナタリアの声に、ララに扮するアラクラは顔を上げた。アクアブルーの瞳が、じっと彼女を見つめている。


「事情は分かったわ。お母さんが倒れたことも。その代わりにならないといけないからしばらく働けなくなることも」

「母が治るかどうかも分からないんです。仮に治ったとしても、またいつこうなるか分からない。こんな不安定な職員を抱えては、ギルドの迷惑になりますから……」


 もう決めたことだから、とアラクラは口にする。

 イケゴニアがスーイエを拠点とすると決めた際に、安定した活動資金を。とのことでフィルマから言われて就いた職だ。

これにより、これまでアラクラだけは長期遠征のような任務からは外されていたのだ。

だが、こうなってしまった以上、ここらが潮時であろう。


「今まで、お世話になりました」


 当初は面倒だと思っていたが、次第にこの表での時間を楽しいと思うようになっていた。ギルドでの時間は、殺伐とした暗殺の日々を忘れさせてくれた。それが自身に不相応だと理解していても、もしかすればそこに光を──希望を見てしまっていたのかもしれない。

 お辞儀をして踵を反そうとするアラクラに、ナタリアが口を開いた。


「こら。勝手に話をまとめないで頂戴」

「え?」

「私は辞めていいなんて一言も言ってないわよ」

「で、でも……」


 フィルマの命令は絶対だ。逃れることは出来ない。それに、勇者パーティと戦って無事でいられる保証もないのだ。それならばすっぱりと席をなくしてもらった方が良いだろう。


「うちのギルドはね。貴女のそんな事情を汲んだ上で雇ってるの。だから大丈夫。全部なんとかなったら、帰ってきてくれればそれでいいのよ」


 それまで席は残しておくから。そう告げるナタリアに、アラクラは込み上げるものを感じて上を向いた。


「──ありがとう、ございます。私……」

「しっかり親孝行、頑張ってね」

「────はい」



 そうして、イケゴニアの三人はセタンタへ向けて出発した。彼らを待ち受ける運命は、誰にも分からない。


◆◆◆◆◆


 その頃、スーイエにある廃墟にイケゴニアの三男役であるワールトの姿があった。


「……スーイエにこんな場所があったなんて……。ミラリス?どこだい?」


 大分前に朽ちてしまったその建物は、研究施設か何かだったのだろうか。器具だったものは床に散らばったまま苔むして、景観に彩りを添える一員となっている。

 広く光の届かない建物内を歩きながら、ワールトは妹の名を呼んだ。

 ミラリス。イケゴニアの三女役にして、ワールトをここに呼び寄せた張本人だ。しかし呼んでも彼女の姿はなく、仕方なくワールトは建物を進んでいく。


「あ!ワールトくん!こっちこっち」


 と、奥から件のミラリスの声が聴こえ、ワールトは安堵の息を吐き出した。

 こんな廃屋に彼女がいるのかどうか不安であったが、どうやら考えすぎだったらしい。


「……やれやれ」


 声の方向へワールトが向かうと、そこは広い空間になっていた。

その奥で手を振っているミラリスの姿が見える。


「ミラリス、こんな所でいったいどうし……た……」


 問い掛けようとした声が途中で止まる。ミラリスではなくその奥、そびえるそれを目の当たりにしてしまったからだ。


「な、なんだ、それ……?」


 ワールトの眼前にあるそれは、植物だった。間違いない。太い茎を中心に、下方には葉が繁り、その上には赤黒いつぼみが鎮座している。

 しかしそれがただの植物だったなら、ワールトとてここまで驚愕はしなかっただろう。元より苔の生えた廃墟なのだ。草木が生えたところで、騒ぐほどのものではない。しかし目の前のそれは違う。

 人間十人程度なら、軽く飲み込んでしまえる程に巨大だったのである。


「ミラリス!これは一体……、なんなんだ!?」

「どうしたの?ワールトくん」


 そんな規格外の存在の前に立ちながらミラリスはいたって普段通りであった。無垢な少女のような口調が、何故か今はひどく恐ろしい。


「どうしたって、お前、その花は──」

「ふふふ」


 ニコニコと細めていた目を開くと、ミラリスはワールトへ目を向けた。その紅く輝く瞳に見つめられると、まるで吸い込まれそうな不思議な気分になってくる。


(綺麗だな。赤い。燃えるように。あれ、彼女の目は、こんなに赤かったっけ)


「ワールトくん。どう?落ち着いた?」

「ああ」

「何か、変なものでも見える?」

「……いや、特には、何もないな」


巨大な花の正面で、ワールトは朗らかに笑ってみせた。ミラリスもその言葉を聞いて、花が咲いたようにぱあ、と表情を輝かせた。


「よかったぁ。それじゃあ、ワールトくんにも説明しておかないとね」


 そしてくすくすと悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、ミラリスはその言葉を口にするのだった。


「“勇者抹殺計画”について」

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