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竜の里 『魔王軍強襲(後)』

挿絵(By みてみん)

「魔王様には、娘は流れ弾で死んだと事後報告しておく。私が処罰されようと、貴様らを生かしておく事よりはマシであろう!」


 レオンに殴り飛ばされた先、ここよりも更に上空に、シュバルツの姿があった。

 紅い目を更に赤々と血走らせ、その全身から発せられるオーラは、形振り構わぬという決意を固めたように禍々しく渦巻いている。

 シュバルツがそう口にしている間にも、巨大──という言葉では括れない程のスケールの氷塊は、更に氷が張り付いてその大きさを増していた。

 あれこそはシュバルツの最大技、アイスメテオだ。正に巨大隕石と化した氷塊を相手へと放ち、問答無用の質量と重量で押し潰す。確か攻略本ではそう解説されていたっけ。


「流石に、あれは……」

「ぎゃうぅ……(わたくしの炎でも、あれは溶かせませんわ……)」


 呆然とシュバルツを見上げるレオン。そしてリューカ。しかし俺は逆に、この局面でそこまで緊張しておらず、泰然とした態度で隣のレオンに声を掛けた。


「よし。レオン、あれも頼む」

「あんなもんぶん殴ってどうにかなるかっ!」


 おお。ナイスツッコミ。レオンはこちらに、空気の読めないやつだと非難がましい目を向けてくる。しかし俺としても状況が見えていない訳ではない。勝算があるからこそ、このような発言をカマしたのである。それは──。


「いや、出来るだろ?だって間に合ったもん」

「は?間に合った……?」


 レオンが訝しむ目をこちらに向けてきたそれと同時に、後方より声が聞こえてきた。


『ひいぃぃぃなんとか追い付いた~……、って、なんだありゃあぁぁぁッ!?』


 驚いて振り返るレオン。そう。この声の主こそが俺が待ち望んでいた相手である。


「メソ!」「メソさん!」


 リューカに並走するように空を飛ぶ灰色のドラゴンこそ、俺とレオンが世話になった相手──メソであった。


「潰れろッ!!」


 俺たちが後方に気を逸らしたのと同時に、シュバルツがとうとう圧倒的な大きさとなった氷の塊をこちらへと撃ち放った。山のよう、と表現したリューミリアよりも倍以上の大きさ。あんなもの、リューカが全力で飛んだところで逃げようもなければ、迫りくる空気圧だけで押し潰されてしまいそうだ。


「ぐ……!どうする……!?」


 メソはさておき向かってくる氷の対処をしなければ全滅は確定というこの局面。焦るレオンから目線をメソへと戻すと、俺は口を開いた。


「メソさん!頼んだものは……!?」

『あ、ああ。そりゃ勿論──』

「あるぜ。お前さん方」


 メソの背から聞こえた別の声に、レオンは驚いて再度そちらへと顔を向けていた。


「ギーメイ!」


 そう。そこにいたのは竜の里にて鍛冶屋を営む人間の男、ギーメイであった。


「丁度完成させた所にコイツ(メソ)が飛び込んで来やがってよ。……って、話は後だな。依頼の品、持ってきたぜ。──受け取りな」


 そう口にするとギーメイはその場から何かをレオンに投げ渡した。


「ぐっ」


 ばしぃ、と投げられたものを掴み取るレオン。それは青く光る刀身をした一本の剣であった。──いや、剣投げるとかあぶねーな!?


「指定通り竜の牙から作り上げた一振りだ。火にはめっぽう強いぜ」


 ギーメイの言葉を耳にしながら、レオンは手にした剣を見つめていた。


 うっすらと青い輝きを放ち続けているそれは、見た目に反してずっと軽く、驚くほどしっくりと彼の手に馴染んでいる。後で聞いた話だが、投げ渡された時も危ないとは微塵も思わなかったらしい。まるで最初からそこに収まる運命であったかのように、その柄がレオンの手のひらに吸い込まれてピタリと収まったのだという。


──こいつなら。


 そう考えてレオンがそこに魔力を通すと、今度は剣身が赤く輝き始めた。


「…………」


 軽く振るうと、剣の軌跡に火が生まれる。たったそれだけでレオンはその剣の特性を理解していた。同時に、自身のすべきことも。



『ひいぃぃぃぃぃィィィ!でか、でかァァァァい!死ぬぅゥゥ!』

「でけェ図体してガタガタ騒ぐんじゃねえ!」


 ドラゴンだから表情こそ分からないが実に情けない声を上げるメソに、自身の剣を信じているのかいやに落ち着いた様子のギーメイ。そんな二人を尻目にレオンは声を張り上げた。


「よし!みんな固まれ!ここで迎え撃つ!」

「レオンっ!──頼む!」


 俺の声を聞いてかレオンはこちらへ目を向けてニッと笑みを浮かべると、氷へと向き直る。


『わあぁぁぁぁぁァァァァ!!もうダメだぁぁぁぁァァ!!?』

「うるせぇ!!ちゃんと見てろ!」


 そして外野が騒ぐ中、レオンは間近へと迫ったそれへと剣を構えると──、


紅蓮斬ぐれんざんッッ!」


 その場から一歩も動くことなく、居合い斬りの如く十文字に剣を振るったのである。


「な────」


 これまでであれば、ただの居合いの練習としか映らなかったであろうその光景。しかし今は違う。レオンが剣を振り終えた直後、そこから放たれた炎を纏った斬撃が、十字を描いて氷へと一直線に飛び込んだのである。

 進む程に大きさを増すその紅い一撃は遂に空中で氷へと着弾すると、


ガアァァァァァァンンンッッッ!


 轟音と共にそれを四つに割り砕いていた。


「   」


 誰もが言葉を失うその光景に、俺も目を奪われる。砕けた氷は――それでも十分に大きいが――俺たちを避けるように四方へと散っていく。


『今じゃあ!全員で掛かれェ!!』


 俺が我に返ったのは、リューランドの声が聞こえたからであろう。ここまでの戦いでほぼ全てのデスクロウを殲滅させたドラゴンたちは、四組に分かれるとそれぞれが氷の元へと向かう。そして並走するように氷に沿って飛行すると、全員が一斉に必殺の火炎ブレスを氷へと浴びせたのである。

 四つに分けられたとはいえ、それでもかなりの質量を保っていた氷であったが、絶え間なく浴びせられる炎によって次第にその表面を溶かされると、地表まで到達することなくあれよと小さくなり、そして消えていった。

 ゲームでも対策を掴むまでは苦戦を強いられたシュバルツの最大技を、竜たちの力を借りたこともあるがなんと初見で完封してしまったのであった。


「――すご……」

「…………」



「…………はぁ、ハ、ァ……ぐ、ぅ……」


 俺やレオンが見上げる先、シュバルツはこちらを睨み付けたまま荒い呼吸を繰り返していた。

 レオンの繰り出した紅蓮斬は氷を砕いてもその威力は死んではおらず、背後のシュバルツまで届いたのである。

 十文字の斬撃は彼の右腕と翼の一部を切り飛ばし、体さえ抉っていた。失われた部分からはデルニロを思わせる黒い霧が噴き上がっている。致命傷ではなくとも、大ダメージを受けたことは間違いないだろう。


「貴様、ら……!」


 怨みがましい目をこちらへと向けたまま、シュバルツが再度口を開く。


「ここは、一度退いてやる……。だが、その前に……、娘、お前に聞きたいことが、ある」

「こっちにはお前と話す筋合いはない!帰るならとっとと帰りやがれ!──ミーナ。アイツのたわ言に耳を傾けるな」


 シュバルツは真っ直ぐに俺を見下ろしてそう口にした。すぐさま庇うようにレオンが前に出て俺を制すが、そんなレオンを更に制すると、俺はずい、と最前に出る。


「……聞きたいこと?」

「おい、ミーナ!」


 数度、呼吸のみを繰り返した後、シュバルツはこちらを見つめたままこう口にした。


「ぐ、ハァ……、勇者の持つその武器──炎の剣は、……ハァ、俺がここに来ると知っていて、準備したものか?」


 氷を溶かす炎の剣が今この場に現れたことが、偶然にしては出来すぎていると思ったのだろう。だが、それは順序が違う。


「いいや、偶然だ。というかここには新しい剣を貰いに来たんだ。お前がそこに飛び込んで来たんだよ。っていうか、オレにはお前が攻めて来たことの方が意外だよ」

「……そう、か……」


 俺の話を聞き終えると、シュバルツはフッと息を吐き出した。


「少しは、安堵したぞ。……魔王様の脅威には違いない、がな……」


 彼の周囲に僅かに残ったデスクロウが終結すると、一体化するようにその体が闇に溶けていく。本当に撤退するのだろう。しかし、まだ話は終わっていない。


「オレも話したんだぞ。こっちの質問にも答えろ!シュバルツっ!」


 俺は身構えたまま、闇に向かって声を張り上げた。……といっても、こういうのは大抵無視されるのがセオリーなのだが……。


──フン、今の魔王は私が従うに値する。……それだけだ──


 しかしシュバルツが闇に消え行く直前、最後にそんな言葉が俺の耳に届いた。……答えて、くれたのか……?


「ミーナ!危ない真似ばっかしてお前は――」

「今の……、魔王……?」

「おい聞いてんのか」


 緊張した面持ちを崩さぬレオンの隣で、俺はシュバルツの言葉が心に引っ掛かっていた。彼の性格から嘘を言うとも思えないのだが、それはどういう意味なのか……。

────いや、今は考えるのはよそう。

 考察すれば何か浮かぶかもしれないが、それは後でいいと俺は強引に思考を打ち切った。今はそれよりもやらなければならないことがあるのだ。


「っていうかレオン!すっげーーーーじゃんっ!!いつの間にあんな技を!?」

「あ?…………だろ~!?」


 ぴょんぴょん跳ねながら声を上擦らせる俺へと目を向けると、強張っていたレオンの表情が一瞬で弛んだ。


「あれを練習してたんだよ!魔力を極薄にすれば剣から飛ばせるって気付いてな。お陰で見事にとろかしちまったんだが」

「スゴいよ!超かっこいい!!」

「うっへっへ。もっと褒めていいぞ」

「レオンさいこー!かっこいい!……あ、でももっと早くこれを修得してくれてたらデルニロも全然楽に倒せてたんだからな?」

「う、あ、もうその辺で」


 才能あるヤツが努力までしたんだから凄いに決まってる。俺とレオンは顔を見合わせると、互いに心から笑っていた。


「ぎゃうぅ」


 そこに割り込む拗ねたような声。リューカである。ヒトの背中の上でいちゃつくなとでも言いたげな声を受けて、「すまんすまん」とレオン。


「リューカも大活躍だったぞ。この空の上で足元を気にせず動けたのは、お前がいてくれたからだ。戻ったらりんご沢山食べような」

「きゅわあぁぁぁ!」


 あっ。声色が一瞬で輝いた。

 ご機嫌になったリューカに乗って、俺たちは地上へと戻っていく。そんな中で、


「悪かった。ミーナ」


 不意に、隣からそんな声が聞こえた。驚いて横を見るも、レオンは下を向いたまま溢すように呟いている。


「俺がもっとちゃんと戦えてれば、怖い思いをさせたりなんて──」

「怖くなんてなかったよ」


「え?」


 驚いた顔が俺を見た。吸い込まれそうな程に蒼く輝く彼の瞳は、小さくなってこちらへと向けられている。照れ臭さを隠すように笑うと、俺は深く頷いた。


「ごめん嘘。ちょっとは怖かった。けど、大丈夫だと思ったんだ。レオンなら、絶対助けてくれるって信じてた」

「……買いかぶりすぎだ」


 ぷいっとそっぽを向くようにレオンはそう吐き捨てる。しかしその耳はほんのりと赤く染まっていた。

 照れてやんの。可愛いやつめ。


「それに、悪いことばかりでもなかったぞ。気付けたこともあるしな」

「気付けたこと?」


 首を傾げるレオンに、「うん」と小さく頷くと俺は口を開く。


「今こうしてはしゃいでるオレも、ホントのオレなんだってこと!」

「はぁ?なんだそりゃ?どういう意味だよ」

「教えてやんね~」

「はぁ?」


 そう。そうなんだ。演技だのなんだのとぐちゃぐちゃ考えていたけれど、そうじゃないんだ。だって心の底から大好きな、俺にとってなくてはならない程に染み込んだゲームの世界に入ったんだから。はしゃがない方がどうかしてる。

 これまでの人生で作り上げてきたクールで陰鬱な俺という仮面を脱ぎ捨てて、ただ子供に戻ったみたいにはしゃいでいただけなんだ。

それが今やっと、分かった。


「ありがとな。レオン」

「何を言われてるのかさっぱりだ」



 わいきゃいと騒ぎながら地上に戻った俺たちを待っていたのは、リューランドを筆頭とした里のドラゴンたちであった。しん、と静まり返った彼らを前に、否応なしに緊張が走る。

 何せ俺たちの争いにドラゴン族を巻き込んでしまったのだ。何とかなりはしたが、死者が出たとしてもおかしくはなかった。それに関して、俺たちは言わねばならぬ言葉があるだろう。


「みんな、その……」


 勇者レオンを代表に、俺と、人間の姿になったリューカが並ぶ。そうして俺たちは頭を下げると、


「本当にすみませ」

「いやぁ!大したもんじゃあぁぁぁぁァァァァ!!!!」

「ひゃわぁっ!?」


 リューカに勝るとも劣らない大声に不意打ちされ、俺は飛び上がらんばかりに驚いた。何!?なんなの!?


「うるっさいんだよ!」

「お義父さんいい加減にして下さい」

「うるせーぞ里長!」

「引っ込め!」


 鶴の一声を上げた筈のリューランドは皆から非難轟々を浴びている。いや、本題はそこではなく──。


「いやぁあんたら凄かったな!」

「あのクソデカ氷を砕いちまうたぁ驚いたぜ!」

「流石お嬢が惚れた男だけはあるな!」

「ちょ、ちょっと!?」


 竜たちは俺たちを取り囲むと批難ではなく、なんと口々に称賛の言葉を並べてきたのである。流石に最後のは看過出来なかったのか、リューカの抗議が入ったが。


「で、でも私たちのせいで皆を危険な目に……」


 俺の言葉に顔を見合わせる竜たちであったが、


「いや、あのいけすかねー連中をぶっ飛ばせたんだ。あんたらには感謝しかねーって」

「そうそう。アイツむかついたよなー!高いところ飛んでるし」


 そう、あっけらかんと口にした。えー。そんな軽いノリでいいのかー?


「今夜は朝まで祝勝会だからな!覚悟しろよ~?」

「そーそー。実にめでたい」


 周囲を窺うも、どうにもどのドラゴンも同じようなスタンスらしい。レオンへと目を向けると、かの勇者も苦笑していた。


「参ったな。こりゃ飲み明かすしかねーや。ミーナは大丈夫かー?」


 優しく笑うレオンに、「大丈夫」と返す。と、その視界の隅で遠巻きにリューカがわっしょいわっしょいと竜たちに連れ去られていくのが見えた。


────あ、そうだ。


「ごめん。ちょっとリューカのとこ行ってくるわ。レオン、ここよろしくな」

「へ?あ、お、おう」


 彼女には言わなければならないことがある。

 ふと思い立つと、その場をレオンに任せて俺は小走りにリューカを追うのだった。


◆◆◆◆◆


「リューカ……」


 少し後方から声を掛ける俺の姿を見てか、リューカは周囲のドラゴンたちに「ちょっと失礼」とジェスチャーすると、俺の元へとやってきた。

 二人で話したいという意図を汲んでくれたようだ。

 相変わらずよく気が利くなあ。と感謝しつつ、俺たちは二人きりで向かい合う。


「何ですの。ミーナ、改まって」


 緊張はある。けれど、もう今更尻込みはなしだ。俺は深呼吸すると、真っ直ぐにリューカを見つめて口を開いた。


「オレ、レオンが好きだ。だからもうリューカの恋路は手伝えない。──ごめん!」


 これは、今気づいたわけじゃない。気付いていたけれど見ない振りをしていた俺の奥底の想いだ。頭を撫でてくれたあの時、暖かくてく嬉しくて、すごく安心したんだ。

 レオンと一緒にいると楽しいし、心地いい。同じ時間を共有してると思うことが、なんだか嬉しい。面と向かって言うことなんてできないし、口に出すとくすぐったいような気持ちになるけど、それでも。


「好き――なんだ」


 その気持ちに嘘はない。嘘にまみれた俺だけど、この気持ちだけは本当なんだって胸を張れる。二十年前から好きで、本人に出会って、もっともっと好きになったんだ。俺の憧れの、優しくて強いヒト。



 一方的な発言に目をぱちくりとさせていたリューカであったが、ややあって。


「まあ。ふふふ」と笑い出した。


「やっとですのね。わたくし、待ちくたびれましたわよ」

「……え?やっと……?」

「いっそあからさまなくらい“好き”が透けているのに、ミーナったらしらばっくれるんですもの。わたくしどうしようかと思いましたわ」

「へ……、ええっ?」


 そんな分かりやすい態度してたの?恥っずぅぅ……。

 羞恥に赤面する俺ににこやかな微笑みを向けていたリューカであったが、オホホン、とわざとらしく咳払いをすると俺に向かって不敵な表情を作り上げた。


「これで名実共にわたくしたちはライバルですわ。負けませんわよ、ミーナ」


 突き出された拳が大きく見えるのは、決して彼女が大柄なだけではないだろう。リューカの器の大きさがそう見せているのだ。

 先程までの俺であったならここで逃げてしまっていたかもしれない。けれど今は違う。


「──望むところ。負けねーから」


 こちらもそう口にして口角を上げると、ぐっと拳を合わせるのだった。


「そういえばミーナ、そっちの口調にしてくれたんですのね」

「こっ、これはその、ライバル、だし?一応っていうかその、嫌ならあのなんというか」

「うふふ。そっちの方がいいですわよ。よろしくお願いしますね」

「お、おう……。よろしく」


 これで、竜の里を騒がせた騒動は一応の終幕である。

 この後は上機嫌なグリーンドラゴンたちと朝まで飲み明かしたり、レオンがファティグマの伝説を語り聞かせたり、リューカがリンゴの良さをアピールしたりしていたが、その辺りは割愛させてもらうということで。


 こうして俺たちは危機を乗り越え、平和を勝ち取った。

 しかし、俺は知らなかったのだ。


 俺たちが奮闘しているその裏で、残してきた皆もまた、トラブルに巻き込まれていたということを。


◆◆◆◆◆


「ぁがッ!?」


 拳が頬にめり込み、バレナは勢いよく吹き飛ばされて大地を削りながら転がった。


「っが、は……」

「大人しく寝ていれば、楽に殺してやるというのに……。まだやるのか?」


 予想以上のダメージを受けてふらつきながらも、バレナはその場に立ち上がると、眼前の敵を睨み付ける。時間は、レオンたちがシュバルツの襲撃を受けていたのと同時刻。現代の時間にして夜の九時頃のことである。


「何故逃げん?動物は敵わぬ相手とは戦わず逃げるものだ。それが賢い選択というやつだろうに」

「そう……かもな……。けど、それは出来ねぇ」

「ほう?何故だ」

「アタシはバカだからな……。賢い選択なんざクソ喰らえだ。――それに、もう逃げないって、決めたんだよ!」


「ぐはははッ!」


 バレナの言葉を受けて、彼女と対峙している男が豪快に笑う。


「良いぞっ!まだまだお前とは楽しめそうだっ!!」


 筋骨粒々の大男、イケゴニアが一人であるファルクスはそう告げると、戦いを楽しむように再び声を上げて笑うのだった。


続く

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