竜の里 リューカの実家 『家族団らん』
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またしても話は少し戻る。
デート中にリューカがドラゴンと化してしまい、元に戻す為にてんやわんやとしている最中、俺とレオンとウィズは三人で集まっていた。俺が二人に声を掛けたのである。
「なんだよ?改まって話なんて」
「勇者様の魔法のことです」
レオンの言葉を受けて、キッパリと俺は返した。今はウィズも一緒にいるので外面モードだ。
「本当は勇者様にも魔法の適性があること、ウィズさんはご存知ですか?」
「え、ええ……。レオンの魔力量は中々のものだもの」
俺の言葉に同意してウィズも頷く。彼女にもレオンの適性は分かっていたのだろう。そう。ゲームでのレオン──勇者のジョブとは厳密に言えば魔法剣士であり、特化型のウィズやバレナより威力は落ちるが、攻撃魔法や強化魔法、簡易的な回復魔法と物理攻撃など多彩な行動が出来るのが彼の利点なのである。
それなのに。ああそれなのに。
「なのに全く魔法を伸ばしてないんですよこの人!信じられない!」
「んなこと言われても、魔法と関わる機会なんてなかったし……」
「へえ?」
嘘をつくな嘘を。剣術も魔法も師匠に教わったって、説明書のキャラクター紹介に載ってるの知ってるんだからな。
「東洋のお師匠様とやらは、魔法については教えてくれなかったんですか?」
「ぐぬ……。それは……」
師匠のことを持ち出されると弱いらしい。言い淀んでいたレオンだったが、ついに白状した。
「師匠は教えてくれたんだけど、俺には難しくてさ。体を動かす方が楽しかったんだよな。分かりやすく強くなれるし」
「魔法の方が分かりやすいと思うんだけれど……」
ウィズの言う通り、習得の実感で言うなら魔法の方が上だろう。剣術、体術は日進月歩だが、魔法に関してはゼロか百だ。威力の大小はあるとしても、覚えれば使えるし、覚えなければ使えない。実にシンプルな理屈であろう。
「ほんとにぃ?」
「面目ない……」
じと目を向ける俺に、申し訳なさそうなレオン。そんなやり取りを見ていたウィズが、ふと声を上げた。
「まあ、今までのことはどうあれ、これから魔法を覚えるつもりはないの?覚えれば出来る戦術の幅が広がるし、悪くない提案だと思うのだけれど」
「む。それは、そう、だよな……」
うーんこの歯切れの悪さよ。しかし、リアルクエハー世界(だと俺は思っている)でレオンがこの調子だと、しっかり魔法剣士やれてるゲーム版はなんなんだろうという気持ちになる。相当彼に無理を強いていたのだろうか?
でも、レオンが少しでも魔法を使えるようになればこの先助かることは事実。とりあえずこの場は、ウィズに出来る限りの協力をしよう。
「ウィズさん。その言い方じゃダメです」
「え?」
俺はレオンへと体を向けると、真正面からこう
言い放った。
「レオン。魔法剣とか使いたくない?」
「!?な、なんだ魔法剣って!?」
先程までの消極的な態度が嘘のように食い付いてくるレオン。よしよし。
獲物が掛かったことを判断して、俺は糸を手繰り寄せるように慎重に言葉を紡いでいく。
「自分の剣に魔法を纏わせて戦うんだ。風を纏ったウィンドソードや、雷を纏ったサンダーソードみたいなさ。ウィンドソードは纏った風が薄い刃となって追加で相手を切り刻む追加攻撃になるし、サンダーソードは相手を感電させることでその自由を奪える──などなど。かっこいいだろ?」
「────」
俺の説明を受けたレオンが固まっている。い、言い過ぎたかな?と一瞬思わないでもないが、直後顔を輝かせた彼を見て、少からず言って良かったのだと安心した。
「やっ!やる!やりたい!魔法剣使いてえ!!火!!火の魔法でファイアソード作りたい!炎を纏った剣が切り裂くと同時に相手を焦がすんだ!」
すっかり童心に返ってしまったのか、レオンがはしゃいでいる。可愛いなぁなんて思いながら見ている俺を他所に、レオンはウィズへと尋ねるのだが──。
「なぁなぁウィズ!ファイアソード、どうやればいいんだ?」
「え?無理だけど」
「え?」
ばっさりである。これにはレオンも放心する他ない。
「炎を纏わせるって、要するに鍛冶屋が剣を作るときと同じ状態にするのよね?そんな状態の剣を叩き付けて、剣が無事に済むと思う?」
「え、あっ、で、でも」
「壊れる、溶ける、折れる。まずもって、数回ともたないわ。スルーズさんの武器強化魔法なら耐えられないこともないかもしれないけれど……」
「そ、そうか!ならそれで……!」
必死な様子のレオン。何とも可哀想な光景である。一縷の望みにすがる彼であったが、現実はより厳しいものであった。
「それも効果の続く一分だけ。強化の効力が消えても剣が熱されていれば当然剣はダメージを負うのよ?一分以内に冷やして元の状態に戻すなんて出来る?それに、いくら武器強化されていても、高熱のものを急冷すれば、剣そのものが保たない可能性だってあるし、そもそもそんな熱された剣を持てる筈が──」
「わ、分かった。もういい。もういいよ。ファイアソードは無理なんだな」
「あっ、そ、そうね。火や氷は武器との相性は良くないけれど、風魔法なら纏わせることは出来ると思うわ。風を斬撃の様に──」
「いや、いい。やっぱり俺には魔法は必要ないよ」
「レ、レオン……」
そうして三人での話し合いはお開きとなり、レオンと魔法の繋がりもそこで断たれてしまったのだった。
◆◆◆◆◆
『牙で作った武器、じゃと?』
「はい。それも竜の牙で作ったものが必要です」
そうして場面は俺がリューランドに提案したその直後へと戻る。
勝手に話を進められて呆けていたレオンであったが、気を取り直すと俺の近くへ寄り、そっと耳打ちした。
「おいミーナ」
「ひゃうっ!?ばっ、ち、近いよ」
「あ、悪い」
いきなり耳元で囁かれるのは心臓に悪いからやめてほしい。俺が苦言を呈するとレオンは少し後退り、改めて小声でこう告げた。
「俺の武器を案じてくれるのは嬉しいけど、あんまり無茶言うもんじゃないぞ。ご厄介になってるだけでもありがたいってのに」
「はーん?果たしてそんなこと言ってられるかな?」
「んん?」
俺の答えが思いの外強気だった為か、レオンは面食らった様子で目をしぱしぱとさせている。分からないだろうが、彼の為にも俺はここで引くわけにはいかないのである。
実はドラゴン画集をフィーブで買っておくことにより発生する一連のイベントは、このタイミングでしかプレイヤーが恩恵を受けることが出来ないのだ。勿論この後でも画集をリューランドに渡すこと自体は可能だが、リューミリアが近くにいる為すぐさま彼女に没収されてしまうのである。つまり長老が一人でいるこのタイミングしか、彼が画集を堪能することが出来ないのだ。
ちなみにゲームでイベントを起こすためにはリューランドの目の前でメニュー画面を開いて画集を使用する必要があるのだが、例によってノーヒントなため、一周目に自力で思い付くことはまず不可能であろう。
かく言う俺も画集を渡したのはもっと後のタイミングであり、その際にはその場で取り上げられて嘆く長老を憐れに思っていたのだが、ある時ふと、この一人きりのタイミングで渡してみたらどうなるのか。と思い立ったのだ。
ダメ元で試してみて、見たこともないレオンの武器が手に入った時の高揚感といったら!
その後買った攻略本にもその旨は明記されていたため、三周目とはいえ自力で思い付いた自分を誇らしく思っていたものである。
さて、話を戻して。
「これは世界学者としての知識だけども、竜の牙から作られる武器には、高ぁぁぁい耐熱性があるらしいんだよな」
「耐熱、性……」
「分かんないか?つまり炎を纏わせても、溶けないし痛まないってことだぞ?」
「!?そ、それって──!」
ここまで言われて、レオンも流石に察したらしい。期待に目を光らせる彼に、俺は小さく頷いた。
「ファイアソードにぴったりだと思わない?」
「──!あ、あの!俺からもお願いします!!」
俺の言葉を受けて、レオンが慌てて頭を下げた。『分かった分かった』とリューランド。
『そんな畏まらんでも都合付けてやるわ。ならお前ら、ギーメイの鍛冶屋に行ってこい。ワシの依頼だと言えば小鬼どもも喜んでやるじゃろうて』
「ギーメイの鍛冶屋──ですか?」
『うむ。この島にいつの間にか住み着いておった小鬼どもでな。ナリは小さいが良い仕事をするんで頼りにしている竜たちも多いのじゃ。案内は表にいるメソに任せると良い。では、後でな』
言うだけ言うと、リューランドは再びドラゴン画集に夢中になってしまった。喋り掛けても上の空で、ゲームなら『これ以上話は聞けないようだ』というメッセージウィンドウが出ているところだろう。
「ど、どーする?」
「まあ、とにかく外に出てみれば分かるんじゃね?」
俺たちは顔を見合わせると、小さく頷いた。リューランドの言うように開け放たれた入口を通り、広く長い通路を今度は戻っていく。
「ミーナさ、最初から分かってたのか?」
「え?」
「あの画集が交渉材料になるってことをだよ。えらい淀みなかったじゃねえか。買うときから」
「あー」
流石に怪しむか。最短ルートだもんな。さてどう説明したものかと思案し、そして俺はこう口にした。
「本当はリューカへのプレゼントにって思ってたんだけど、あのゴタゴタで渡しそびれちゃってさ。でも内容見てたら、メスドラゴンが多かったから、いや、これなんか違うな?って。あの感じからして、渡さなくて良かったよ。リューカに見せたらぶっ飛ばされてたわ」
「そりゃそーだ」
ぷっ、と吹き出すレオン。どうやら納得してくれたようだ。そのまま蒸し返されない様に話題を変えることとする。
「で、竜の牙の剣なんだけど、受け取るにあたってレオンには大事な使命があるからな」
「使命?魔法を覚えろとかそういう?」
「別にそれは必須じゃねーよ」
そう前置いてから、俺は小さく息を吸うと口を開く。
「新しい技名はしっかり考えておいた方がいいぞ」
「おん?」
「何しろ炎を纏わせて戦えるんだぞ?今までの技は全部炎バージョンで使えるし、新しい技だって必要になってくる。そういうの今の内から考えたら、なんかワクワクしないか?」
「──するわ」
ごくりと息を飲んでレオンはそう口にした。大事なことだと理解してくれたらしい。
「例えば飛閃剣。あれだってただの斬撃だけじゃなく、炎を纏った強力な斬撃になる訳だろ?」
「た……確かに。そうすると名前は、炎……ファイアー……飛閃剣とか?」
「ま、まあそれも悪くないけど、折角だから東の国の言葉で統一したくね?」
「それはそうだな。……ミーナならどうする?」
「オレはレオンに考えて欲しいんだけどなぁ。──まあオレなら……、そうだなぁ。炎を紅に見立てて、【紅蓮飛閃剣】とかかなぁ」
「──!?な、なんだそのかっこいい響き!?グレン?グレンってなんだ!?」
俺の代案を受けて、レオンがその目を輝かせた。ちなみに本家クエハーでも竜の牙の剣や魔剣を使用すれば、炎魔法による剣の強化は可能である。その状態では通常攻撃を筆頭にあらゆる剣を使った攻撃に炎のエフェクトが付随され威力が向上する他、とあるイベントをこなせばその状態限定の必殺技【鳳凰撃】を放つことも可能となる。
飛閃剣などについては威力こそ上がるものの、別段技名が変わったりはしないのだが、特別感が欲しくて俺は紅蓮飛閃剣と呼んでいたのである。
「紅蓮ってのは、赤い蓮の花のことで……、とにかく、赤く燃えている様子を可憐に咲く花に例えたってことだな」
「カッケー!グレン、いいな!後で字とか教えてくれ!」
『 』
「まあ、いいけど。ちゃんと合ってるかなー。オレも大分うろ覚えになってきたからなぁ」
『 い』
「そうすると、猛虎昇龍撃はどうなるんだ?グレン猛虎昇龍撃になるのか?」
「ちょ、ちょっと待て。そこはアレンジした方がいいなぁ。えっと、考える」
猛虎昇龍撃はこの世界に来た俺が考えた技名故に、ゲームでの呼称──ましてやファイアソードバージョンなんて考えてもいなかったのである。即興で考案するにしても、適当なものにはしたくないというのが親心というものであろう。
「紅虎昇龍撃?いや、違うな……。紅虎蓮龍撃……これもダメだ。赤、虎、龍……、いや、いっそここは鳳凰撃と組み合わせて……」
『おい』
「そうだ!鳳凰!翔華鳳凰撃ってのはどうだ?」
「んんん……、しょーかほーおーげき?響きはカッコいいけども……、ホーオー?ってなんだ?」
「東の国の言葉で、フェニックスのことだ。飛び立つ不死鳥。決して死ぬことのない一撃。ぴったりなんじゃないか?」
クエハーにも不死鳥伝説はあった筈だ。フェニックスも隠しキャラクターとして拝むことが出来るしな。あながち荒唐無稽な発想でもないだろう。俺の言葉を受け取ると、レオンは考え込んだ後でその目を見開き、輝かせた。
「フェニックスか!そりゃいいな!虎と龍のその上って感じだ!」
「だろ?だからこの技は──」
『おい!!』
急に頭上から大声で呼び掛けられ、俺はその場に飛び上がった。見上げると、くすんだ灰色をした一匹のドラゴンがこちらを見下ろしていた。
『無視するんじゃねえよ。お前らだろ?客ってのは』
「ぇぁっ、は、はい。そです……」
「すまなかった。つい熱中してしまって」
俺とドラゴンの間に立ちながらレオンが謝罪する。どうやら命名談義に華を咲かせるあまり、周囲の声が聞こえなくなっていたらしい。気を付けねば。
『まあいいけどよ。俺はメソってんだ。お前たちを行きたい場所に連れて行くよう言付かってる。そら。目的地を言いな』
そう言いながら俺たちが背中に乗れるように身を低くするメソ。彼もまた人の言葉を覚えているようだが、ドラゴン界隈で流行ってでもいたのだろうか?
「ギーメイの鍛冶屋までお願いします」
レオンに手助けしてもらいながら背中に登った後、俺がそう告げた。メソはゆっくりと首をもたげると、背中の角度を変えないように気を付けながら姿勢を起こした。
『ギーメイだな。よしきた』
そうしてそのまま翼を動かすと、その体がゆったりと浮き上がっていく。小さな生き物相手のタクシー業の経験があるのだろうか。歳はリューミリアよりも若そうだが、乗り心地としては一番かもしれない。
「やっぱ、スゲーな」
「凄いよね」
竜の背から見下ろした里の風景に感嘆の声を上げるレオン。俺もまたそんな彼に共感しつつ、どこか牧歌的で美しい景色を眺めるのであった。
◆◆◆◆◆
「さてリューカ。変身のコツを教わりたいとのことだったね」
場面は変わってリューカの家の奥深く。リューカ、リューメイ、リューミリアの三名の姿がそこにあった。尤もリューメイのみがドラゴンの姿で、他の二竜は人間の姿なのだが。
同じ人間の姿となったリューミリアの言葉を受けて、リューカは強く頷いた。
「少なくとも、勝手に元に戻ってしまう事がないようにしたいんですの。衣服も都度破いてしまいますし……」
「衣服……?そりゃ、人間が羽織っている布のことかい?」
訝しんだような声を上げるリューミリアに、リューカも小首を傾げる。
「そうですけれど、お祖母様だって着てるじゃありませんの。……って、あら?」
そういえば先程も今も、二度ほど竜から人への変身を見せているリューミリアであったが、そのどちらもドラゴンの姿から服を着た人間の姿へと変わるものであった。
「やっと気付いたのかい」
やれやれ。と腰に手を当ててため息を吐き出すリューミリア。
「そう。私は服を着た人間に変身しているのさ。生憎と中身には詳しくなくてね。誤魔化しの結果とも言えるが。アンタは中身まで完璧に人間に変身しているみたいだね」
「まあ!」
お祖母様が褒めて下さいましたわ。と喜ぶリューカだったが、リューミリアはにべもなく「いいや」と首を横に振った。
「そのクオリティの高さとやらが問題でね。変身が解ける理由もそれだ。アンタは自らドラゴン族の利点を捨てちまってるのさ」
「えっっっっ!!?」
「その馬鹿みたいな大声はやめな!とにかくリューカ。アンタはこれから服を着た状態への変身も身に付けなきゃいけないってことだよ」
確かに祖母の言うように服を着た姿に変身出来れば、竜の姿になって衣服を失うことはなくなるだろう。──しかし。
「鎧は着なければなりませんわ。戦闘の時に必須ですもの」
「ならそれも込みで変身すればいい」
「形だけ真似ても仕方ありませんわ!」
見た目が鎧でも、衣服と同じでは防具としての意味を成さないと憤慨するリューカであったが、それを受けたリューミリアは涼しい顔で嘆息した。
「鎧ってのは鉄かい?」
「そーですわ。鋼鉄製ですのよ」
「リューカ。一つ教えてあげるよ。私らドラゴンの鱗はね、鉄よりも硬いんだよ」
「!」
「試しに、私の腹を殴ってごらん」
「えっ!?そ、そんな……」
お祖母様を殴るなんてとんでもない。と慌てるリューカであったが、
「遠慮はいらないよ。敵だと思ってやってみな」
そう言われると覚悟を決めて、岩をも砕く一撃を祖母へと叩き込んだ。
「せえぇぇぇぇいッッッ!!」
「どほッッッ!?も、もう少し葛藤してもらいたかったけどねぇ!?」
あまりの衝撃に吹き飛ぶかのように後退るリューミリア。冷や汗をかく彼女であったが、それ以上に衝撃を受けたのは殴った側のリューカであった。
「っつ!?」
驚きと不安が入り交じった表情で、びりびりと痺れる自身の右手を見つめるリューカ。その拳は、彼女の想像以上のダメージを負っていた。
そりゃ殴った方にも反動があるのは当然だが、生身の人間を攻撃した反動にしては、これは何かがおかしい。まるでヒトの形をした金属に攻撃をしたかのような──、
「はっ!?」
「気付いたかい?そうさ。私はね。ドラゴン族の鱗の硬度をそのままにヒトの姿に変身しているのさ」
「そ、そんなことが出来るんですのね……」
未だ痺れる手を振りながらリューカが呟くように溢した。
「普通に変身を覚えたなら、こうなる方が自然なんだけどね」
と笑うリューミリア。
「変身ってのはイメージさ。好きであっても、私は人間の細かい部分までは分からなかった。だからドラゴンの特性を残したまま、形だけ変わったのさ。けどアンタは違うねリューカ。あまりにも人間になりすぎている。硬さも何もかも失って、人間になりきっちまった。こりゃあ、アンタ。人間にずっと触れていたね?」
「そうかも、しれません」
心当たりはある。リューカは伏し目がちにそう口にした。レオンたちに助けられてから、彼女は人間のことが好きになっていたのだ。人間のことを知りたい。人間に近付きたい。その強い想いが彼女の観察眼に繋がり、変身の精度を向上させたのだろう。
「け、けれど!わたくしはそれを決して悪いことだとは思っていませんわ!わたくしは勇者様のことを──」
「分かってる分かってる。誰もそれを否定なんかしちゃいないよ。ただ──」
『使い分けが大切だ。と、お義母様はそう言っているのですよリューカ。……ですよね?』
わざわざ言葉を遮って代弁するのはリューメイである。リューミリアの言うように、義母と娘がずっと二人の世界でやり取りしているのが気に入らなかったのだろう。
「構って貰えないからって急に割り込むんじゃないよまったく……」
そんなリューメイとバチバチ視線を交わすリューミリアであったが、ややあって目を瞑ると小さく息を吐き出した。
「ま、リューメイの言う通りだね。大切なのは使い分けだよ」
「使い、分け……?」
「今のアンタは常に全力疾走しているようなものなのさ。そりゃトラブルも起きるだろうね。感情の触れ幅で変身が解けちまうのもそれさ。これだけエネルギーを使ってりゃ、ひょっとして常日頃から腹が減ってたりしないかい?」
「ぎくーっ!?」
なんと心当りしかない発言に、リューカはその場に飛び上がった。すると、まさか。
「つ、つまりその使い分け……とやらを覚えれば、あんなにお腹が空くこともなくなるんですの?」
「その可能性は高いね」
リューミリアに言われ、リューカはふんす!と鼻息荒く拳を握って意気込んだ。
「でしたらわたくし!頑張りますわ!」
リューカの食費が減れば、レオンたちの冒険資金の助けになることは間違いない。変身能力のトレーニングが思わぬところでパーティの役に立つかもしれないと理解して、リューカはメラメラとやる気に燃えていた。
「ん!その意気だよ。よーし、じゃあまずは変身解除と変身を百回ずついってみようか」
「えっっっっっっ!!!!!!!?」
目をぱちくりとするリューカに、リューミリアは優しく微笑んだまま更に告げた。
「喧しいね。うん。終わるまで食事は抜きだからね。頑張ろう!」
「なにその、いや、その、えっっっっっっ????」
「頑張ろう!」
直後、巨大な神殿内に悲痛な叫びが木霊したことは言うまでもない
「そんなあぁぁぁぁァァァァ!!!」
そんなぁぁぁァァァ
そんなぁぁぁァァ
そんなぁぁァァ
そんなぁぁァ
んなぁァ




