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???『最後のヒロイン』

 静けさに包まれた古びた屋敷。その屋敷に、結構な大きさの広間があった。

 元は豪奢な広間であったのだろう。壁には古びた絵画が飾られ、暖炉の上には銀の飾り皿が置いてあったが、煤けており手入れはされていない。必要最低限と言った様子で手入れされているのは、中央に置かれた長机と無造作に置かれた七つの椅子。瀟洒な椅子が一つ、簡素な椅子が六つ並んでいる。

 実際、普段は七人ほどの人間がたむろしているのだが──今そこにいるのは三人の女であった。長身の女一人と、小柄な女が二人。

 彼女たちの間には今、何とも言えぬ緊張した空気が流れていた。


「それで、何か言い訳はあるのかしら?ミラリス」


 長身の女が、腕を組みながら小柄な女を睨んでそう口にした。

 二十代前半といったところだろうか。濃い紫の長髪を一本の三つ編みにまとめており、その先端にはサソリの針を模したアクセサリーが付けられている。

スリットが深い、艶かしい身体のラインに沿ったタイトドレス。ちらりと覗く脚にはロングブーツを履いている。その立ち姿は威厳がありながらも、隙が無く美しい。長身の女は、どうやらこの場において一番立場が上のようだった。


「…………。ない、わ。――だ、だけどアラクラ姉さま、確かに予言ではフィーブが滅びるって……」


 長身の女から責めるような声を浴びせられ、ミラリスと呼ばれた少女は慌てたような声を出した。

 フード付きの長いローブを身に付け、それを目深に被っている彼女の目元は見えない。


「そうね。貴女からそう告げられた為に、我々は大量のランタンを買い込んだ。フィーブがなくなれば、フィーブ名産のランタンは貴重品として高値で売れるから。……そうよね?」

「え、ええ。そう、だけれど……」

「それで、結果はどうなった?フィーブは?」


 聞かれてミラリスはばつが悪そうに俯くと、小さく口にした。


「デルニロは勇者に倒されてフィーブは健在、だわ」

「そうね。そのせいで私たちのしたことはどういうことになったのか。言ってみなさい」

「…………ええと、うう。ただの、地域貢献、かしら……」


 まるで叱られた子供のように小さくなるミラリス。長身の女は嘆息すると、ミラリスへと更に問い掛けた。


「そう。先を見越しての投資の筈が、ただの痛い出費になってしまったのよ。あんなにランタンあっても仕方がないし……。ミラリス。貴女の予知がありながら、どうして?」


 冷静で静かな口調で詰められ、ミラリスは眉をひそめる。言い辛そうに口を動かした後で、彼女はこう告げた。


「それは──直前に、予知がかき変わったのよ。姉さま。そうとしか思えないもの」

「……予知が?」

「私の見た予知では、勇者たちはデルニロに敵わず、怒らせた腹いせにとフィーブの町も滅ぼされていたわ。間違いなく、その光景は見た覚えがあるの」

「けれど、予知が変わるなんて」

「ええ。初めてのこと、だわ」


 ミラリスは、この予知の力一つでここまでやってきたのだ。故にその精度には絶対の自信を誇っていた。これまでは、示された予知が覆ったことなど一度だってなかったのに。


「……その原因は?」


 と、そこにきて初めて、三人目の女が口を開いた。銀色のショートヘアにミラリスより少しだけ高い背丈。未だあどけなさの残るその少女は、十代前半といったところだろうか。紫の瞳が、ミラリスを射抜くように向けられる。

 少女の言葉を受けて、ミラリスは小さく頷いた。


「……た、多分だけれど、心当たりがあるの」


 そうして懐から水晶球を取り出すと、そこにそっと手をかざす。次の瞬間には、そこにデルニロと戦う勇者一行の姿が映し出されていた。

 ミラリスが水晶に手を当てて何事か呟くと、その中の一人、踊り子のような装束を纏った女がクローズアップされていた。


「彼女よ。この女の子が突然現れて、きっと勇者に魔神討伐の知恵を授けたのだわ……。間違いない。だって以前の予知には居なかったもの」

「……踊り子?」

「いいえアラクラ姉様、収集した情報によると、彼女は学者さんみたい」

「……この服装で?それはまあ、なんというか……」

「あ、ええと。これは、……どうやら生け贄役を買って出たらしく、その衣装だと思うわ」

「生け贄役を……?か、変わっているのね」


 話を聞いて、アラクラと呼ばれた女性は訝しんだ目をミラリスへと向けていたが、ややあって口を開いた。


「とにかく、この娘が予知を崩した元凶と見て間違いないのかしら?」

「──ええ」


 ミラリスの力強い肯定を聞いた後、アラクラはなるほど、と小さく頷き、もう一人の少女へと向き直った。


「イケゴニアの障害になるものは、何であろうと取り除かなければならない。──ミセリア。殺れる?」


 アラクラの言葉を受けて、ミセリアと呼ばれた少女は恭しくその場に跪いた。


「問題ない──確実に殺す。イケゴニアの敵はボクの敵だから」

「固いのねぇ。相変わらず」


 こうして、クエハーヒロイン最後の一人、ミセリアが遂に動き始めた。


 図らずも、魔王軍とミセリア、両方から狙われる立場になってしまっているミーナであるが、勿論当人はそんなことは露と知らないのであった。

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