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父の言葉

 ふとした時に、父の言葉を思い出すことがある。


「夜は魔族の世界だ。決して町の外に出ちゃなんねえぞ」


 そう常に口にしていた父。幼いレオンは、一度だけ「なんで?」と聞いたことがある。


「魔族なんかやっつければいいじゃん」

「奴らは強い。父さんよりもな」

「えー!?」


 当時は父より強いものなどいる筈がないと思っていた。レオンだって彼なりに相当稽古を積んでいるつもりなのに、父にはまるで歯が立たなかったのだ。


 だから、そんな父が魔族の強さを語る様は、父が負けを認めているようでたまらなく悔しく、嫌だった。

 しかし父は頑として譲らない。魔族は強いのだとレオンに言い聞かせた。


「魔族の強さは、ヒトの強さとは別の次元にあるものなのだ。恐らく魔王ともなれば、人の理すら通用するまい」

「魔王は、もっと強いってこと?」


 頬を膨らませてそう尋ねるレオンに、父は小さく頷くと口を開いた。


「ああ。こんな話をしてやろう。あれは今から二十年前、父さんが子供の頃の話だ。

当時、ファティスの町には大賢者と呼ばれている男がいた。産まれた時から高い魔法の素養を持ち、若干二十歳でありながらあらゆる魔法を極めたと言われていた男だった。彼に挑もうという命知らずはいなかった。あの男には誰も敵わないと、皆が理解していたのだろう。俺も見かけたことはあるが、冗談抜きにこの世界で一番強いのは彼だろうと思っていたよ」

「……へえぇ」


 むくれていたレオンだったが、強い男の話には興味があるらしい。いつしか彼は身を乗り出して父の話を聞いていた。


「そんな強い奴がいれば当然王の耳に入る。彼はセタンタに呼び出され、魔王討伐の旅に出させられることとなった。町の皆が、今度こそ人類の勝利を期待したさ」

「……それで、どうなったの?」

「二度と帰らなかった。あれ程の男でも、魔王には敵わなかったんだよレオン。もしそうだとするなら、魔王はきっと人の持つ強さとは別の次元にいるのだろう」

「……よくわかんねーよ。結局その人、やられちまったんだろ?」

「さあな」


 父はそう言って苦笑した。


「死んだかどうかは誰にも分からない。父さんはな?あの男は今もどこかで生きているような気がしているんだ」

「ふーん。……その人、なんて名前なの?」


 何気なく口にしたレオンの言葉に目を細めると、彼の父はふっと微笑んだ。


「大賢者サースレオン。お前の名前はな、人類最強の男から貰ったものなんだよ」


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