フィーブ 『終幕。そして新たな芽生え』※イラストあります。
「今この場に集まってくれたフィーブの皆、町長のケーニッヒだ」
夜になり、町長の屋敷の前には人だかりが出来ていた。
数日前にミーナが訪れた時は真っ暗闇だったそこは、しかし今は数々のランタンに照らされて目映いほどに明るい。
町を救った勇者たちが見れる。人々は皆、勇者を見る為に──彼の者に礼を告げる為にこの場所に集っているのである。
口々に騒ぎ立ていた人々が、町長の声を受けて一斉に押し黙る。
「皆ももう知っての通りだろうが、改めて伝えさせて頂こう。────デルニロは、もういない!!」
ケーニッヒの宣言を受けると、オオオオオオ!!と割れんばかりの歓声がその場に響き渡った。まるで怒号のような歓びの声はいつまでも止まりそうになかったが、ケーニッヒが制止のポーズを取ると、次第に静まった。
「ありがとう。それでは早速だが、諸君らに紹介したい者たちがいる」
ケーニッヒはそれを見計らうと、ちらりと後方に目を向けて口を開く。
「このフィーブを救いし勇者、レオン・ソリッドハートと仲間たちだ!」
その声にどよめきが起きる。
ケーニッヒの言葉を受けて、真っ先に皆の前に姿を見せたのはレオンであった。
白いタキシードを羽織り藍色のネクタイを締めて髪を立たせている彼は、普段とはガラッと違う雰囲気を見せている。
「紹介に預かりましたレオン・ソリッドハートです!──力になれて、本当に良かった。……この場の誰が欠けても、この勝利は有り得なかった。皆で掴んだ勝利だと、俺は思っている。ありがとう!」
「ええぞー兄ちゃん!!」
「誰だか知らんけど良いこと言うぜ~!!」
「本当に大したタマだぜ!誰だか知らんけど!」
レオンの挨拶に、町民からも彼を称える声が上がる。
そんなレオンの様子を眺めた後で、ケーニッヒは小さく頷くと言葉を続けた。
「では、来たまえ。町を救いし女神たち!」
その声にレオンはハッと振り返った。彼もまた、着飾った女性陣については初見なのである。
暗がりから、ランタンに照らされた壇上へと歩み出る影。その姿にレオンは息を飲んでいた。
リューカが、ウィズが、スルーズが、ミーナが、まるで普段とは違うきらびやかな装いでその場に現れたのである。その姿は冒険者のそれではなく、麗しい貴族令嬢。ともすれば、本当にケーニッヒの言うように美の女神たちと称しても過言ではないのではないか。
思わずそう思ってしまう程には、皆美しかった。
「リューカですわ。皆様、このような祝祭にお招き頂きありがとうございます」
余裕をもった口調と同時にカーテシーを披露するリューカの姿に、町民ならずレオンも目を奪われてしまう。
「皆様が無事で良かったです。助けて頂いて、ありがとうございました」
次いで姿勢を低くするのはウィズである。練習時の彼女と同様の完璧な振る舞いに、女児たちから歓声が上がった。どうやら彼女たちにはその姿がおとぎ話のお姫様のように見えたらしい。
レオンも、その姿には見惚れるばかりであった。
「本当に、この町が救われて良かったです。皆様の益々のご発展、宣教師として応援させて頂きますね」
その次に皆に声を掛けたのはスルーズであった。その美貌、その慈愛に男女問わず言葉を失うも、レオンは眉根を寄せている。
そんな彼の心の声を代弁するように、町民の間から声が聞こえてきた。
「姐さんがそんなこと言うタマか~!」
「嘘つくなーっ!」
「俺たちの店を返せー!この酔っ払いー!」
フィーブの唐変木こと、ガトー、ヘンリー、ボックスの三人である。
「ああん!?誰が酔っ払いだまた公正させっぞこらぁ!!あと店はあーしのせいじゃねー!」
野次を飛ばされたスルーズがキレて足を踏みしめると、青いロングドレスのスリットから白い太腿と何故かトンファーがちらりと覗く。ドレスに携帯された武具に唐変木三人は戦慄すると、先ほどまでの啖呵が嘘のように、
「流石姐さんだぜ!」
「よっ宇宙一!」
「最高の酔っぱらいだぜ!」
と口々におだて始めたのだが、「――あでっ」
何故かボックスにトンファーが直撃して、彼はばったりと倒れ込んだ。
「――――酔っぱらいは余計だっつうの!」
「――ぷっ」
スルーズが普段の姿を晒すのを見ると、なんだか妙な安堵感を感じてレオンは声を上げて笑っていた。
そうして彼は、その場にいる四人目のヒロインに目を向ける。
「あ、ど、どうも……」
ひたすら羞恥に耐えるように縮こまっているのはミーナであった。
レオンはそんな彼女の姿に言葉を失う。
──やっぱり女子相手は気ぃ使うというか──
──オレも女子なんだが?──
むくれたようにあの日そう口にしていたミーナが、今は本当に可愛らしい一人の女性としてレオンの目に映っていた。
「今日は、その、ありがとうございます……」
スカートの裾に手を掛けようとして、しかしその手が途中で止まる。赤面しながらもなんとか小さく上げた手を振る方向に切り替えた彼女であったが、
「ミーナあぁぁぁ!!綺麗だよぉぉぉぉ!!!」
ミーナより余程でかいサラの声に「ひゃう」と小さく悲鳴を上げて引っ込んでしまった。どうにも、こういった場に慣れていないようだ。
逆にサラは絆がカンストし過ぎである。出会って三日なのに。
「ミーナ……」
どう声を掛けたものかとレオンが思案している時、ミーナたちの奥から何やら騒ぐ声が聞こえてきた。
「もうこれでいいだろ!」
「ダメです折角着たのに!そんなの外して下さい!」
「ドレスが依れちゃうじゃないですかあぁぁぁ!」
「うわ力強っっっ!!」
なんとバレナが、体にカーテンのような大きなローブを巻き付けたまま、四人のメイドプラスお針子三人の計七人と押し問答を繰り広げていたのである。
「バレナ?」
「…………げ」
レオンの顔を見て、苦虫を噛み潰したような顔を見せるバレナ。
こいつにだけは見られたくなかったとでも言いたげなその表情に面食らいつつも、レオンは「よう」と片手を上げた。
「なんかこう、斬新なドレスだな。バレナらしいっちゃらしいけど」
「んな訳あるかぁっ!」
北風と太陽か。レオンは本気で今のカーテンバレナをドレス姿だと思っているのである。これには恥ずかしがっていたバレナもブチギレ、その場でローブ(カーテン)を脱ぎ捨てるに至った。
「!」
レオンが目を見開く。
目の前で耳まで真っ赤に染まったバレナは、赤に近いピンク色のロングドレスを纏っていた。
腕や肩を大胆に露出したビスチェタイプのAラインドレスに、胸元にワンポイントで同色のリボンが付けられている。
髪は普段のツンツンヘアがしっとりと整えられてストレートになっており、それだけで別人のようであった。
「あんだよ。どうせ似合ってねぇんだろうが。思ってんなら言えよ。バレナがスカートかよって」
ぷい、と横を向いて吐き捨てるバレナ。そんな幼馴染みの姿をじっと見つめた後で、レオンは、はは、と笑った。
「っ、お前」
「確かに、昔のバレナを知ってるから違和感はあるよな」
「…………だろうな」
レオンの言葉を受けたバレナは、横を向いたままそう呟いた。更に何か言おうと彼女が口を開くが、しかし先に声を出したのはレオンだった。
「けど、似合ってるぞバレナ。……綺麗だ」
「っ、ぁっ!?」
不意打ちに驚き、エメラルドの瞳がレオンへと向けられた。
言った方のレオンも、羞恥に顔を赤くしている。
「ば、あっ、な、なに言ってんだよお前よぉぉっっ!?ば、馬鹿野郎っ!」
今までの反抗期は何処へやら。急にしおらしくなってしまったバレナの姿に、メイドたちはあらあらと口許を押さえ、お針子三人はうるうるしながら親指を立てている。
「なあ、レオ──」
バレナが今度こそ何か言おうと口を開いたその時、
「うおおおお!!」
「投擲の勇者バレナだあぁぁぁぁ!!」
「まさか勇者バレナが女だったなんて!!」
「勇者バレナあぁぁぁぁ!!」
「バーレーナ!!バーレーナ!!」
等と、町民の間で勇者を称えるコールが始まっていた。これにはパーティ皆が目を丸くする。
「だっ!だから!あたしは勇者じゃねえ!」
「は。良かったじゃねーか投擲の勇者さんよぉ」
「お前も拗ねてんじゃねーよ!?」
昨日から間違えられてきた結果、どうやらレオンは不貞腐れてしまったらしい。バレナがどうしたもんかと考えたその時、
「さてここに役者は揃った!フィーブの祝祭のクライマックスだ!!」
と、ケーニッヒが町民に向かって叫んでいた。面食らうレオンたち。そんな彼らの眼前で、更に多数のランタンに一斉に火が灯されたのである。
まるで昼間のように屋敷前の一画が輝きを放つ。それは光のアートのように美しかった。
「堅苦しい挨拶はここまでだ。町民も君たちと交流を望んでいる。さあ、行きたまえ」
ケーニッヒにそう言われ、レオンは「分かりました」と頭を下げた。
「御計らい、ありがとうございます」
「いいや。私も嬉しいんだ。本当に、この光景を娘に見せてやりたかった。……いや、すまない。ではまたな。レオンくん」
「何から何までありがとうございました」
固い握手を交わすと、レオンはパーティの皆に、一緒に壇を降りるよう告げた。
「ったくよー……」
「分かりましたわ」
しかし降りてしまえば、恐らくは町民に囲まれてしまいゆっくり話をする機会はないだろう。そう考えてか、壇を降りる直前に、ウィズはレオンの側に歩み寄っていた。
「レオン」
呼ばれて、レオンが隣へと目を向ける。隣のウィズは、そのドレスも相まって夜空に咲く大輪の花のようで、思わずどきりとしてしまう。
「どうした?」
こほん、とわざとらしい咳払いをしながらそう聞き返すレオンに、ウィズが告げる。
「衣装、すごく似合ってるわ。レオン」
彼女は、頬を赤らめながら微笑んでいた。色付いた花の前では、勇者レオンもたじたじなようで。
「お、おう。ありがとな」
そう口にすると、ふい、と顔を背けてしまった。
「ふふ」
そんなレオンを眺めて、ウィズが小さく微笑む。まあその内心は、
(れ……レオンすごくかっこいい……前髪上げてるのが大人っぽくてドキドキしちゃう……私もドレスだし、結婚式ってこんな感じなのかしら……はっ私なに考えてきゃあああ)
なんて妄想を爆発させているのだが。
◆◆◆◆◆
壇を降りた皆は、案の定町民たちに取り囲まれた。
皆口々に礼を伝えたり拝んだり。一人ずつ胴上げしよう!なんて流れになった時は、ドレスがもみくちゃになるとお針子ズがキレたりもしていたのだが。
「「わっしょい!わーっしょい!」」
「ひゃあぁぁっ!なんですのぉぉ!これえぇぇ!!」
放り投げられる経験などないであろうリューカが悲鳴を上げている。「いいなあ」と思ってそれを眺めていたレオンであったが、何かを見付けて、
「すまない。ちょっと野暮用が出来た」
と、自身と会話している相手を制して人混みに飛び込んだ。
するするっと人垣を掻い潜り、途中一瞬姿を隠した後、レオンは胴上げを終えてヘロヘロしているリューカの元へと向かう。
「あ、あら?ええと、ええと……」
リューカは何かを探すようにキョロキョロと周囲を見回していた。困惑の顔が、次第に焦燥へと変わっていく。
「な、ない。ありませんの。何処?え?何処?」
胴上げの最中に、シルバーネックレスが外れて何処かへ消えてしまったのである。あれは大事なものなのに。
ウィズのネックレスが両親の形見であるように、リューカのそれも恩人から渡された大切なものである。無くすなど許されない。
しかしこの人混みでは失ったネックレスが見つかる可能性など皆無に等しいだろう。
泣きそうになっているリューカだったが、
「これだろ」
その背に、息を切らした声がぶつかって振り向いた。
そこには、クローバーのネックレスを手にしたレオンの姿がある。
「ゆっ、勇者様っ!?」
驚くリューカの側に近寄ると、「後ろ向け」とレオン。
「あ、は、はい」
言葉通りに背を向けたリューカ。背丈を合わす為にしゃがみ込んだ彼女の首に、レオンはネックレスを回そうとするが、
「…………!」
あまりにも大きなバストが背中側からチラリと見えて、慌ててレオンは目を逸らした。
「と、とにかく!これで大丈夫か?」
それでもなんとか鎖を回すと、それをうなじで繋ぐ。
「大事なものって言ってたもんな」
「ありがと、ございます……」
リューカは耳まで真っ赤になっており、そう口にするのがやっとな様子であった。
「あの……」
勇気を振り絞って口を開こうとしたリューカであったが、
「あ、おい何してんだ!」
絶妙なタイミングでそこに現れたバレナによって阻止されてしまうのであった。むう、とむくれるリューカ。
「なんと空気の読めないお方……」
「あ?なんか言ったか?」
「バレナさん、胴上げがまだなのではありませんの?と申したのです。みなさ~ん!バレナさんを胴上げして下さいまし~」
「げっ!?おいテメ……!」
「いたぞ!」
「げげっ!?」
リューカの声を聞き付け、続々と町人たちがバレナを胴上げせんと集まってきた。
「うぉぉ勇者バレナだぁ!!」
「勇者バレナを胴上げしろーっ!」
「それー!」
「うわ!やめ!?わぎゃあぁぁ!!」
抵抗の意思を見せたものの、結局バレナも捕まって空中に放り投げられている。
リューカよりも空高く舞っているのは、胴上げしている面々にリューカも参加しているからである。
「あー、いいなー」なんて思いながらそれを眺めているレオンであったが、その隣に別の人影が歩み出てそちらへと目を向けた。
「お疲れ」
「……ミーナ」
悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女の姿にレオンは驚いたように目を見張るも、すぐにそれを細めていた。
(やっと調子が戻ったみたいだな)
ここ最近はずっと張り詰めていて、デルニロとの戦いの後は目に見えて落ち込んでいて。そんな彼女の表情がやっと、フォスターの夜に見たそれへと戻ったようにレオンには感じられた。
「ウィズの挨拶凄かったよなぁ。オレも練習したんだけどさ。全然ダメ。恥ずかしさが勝っちゃって出来なかったわ」
「……そっか」
「……なんか、やっと一息つけたって感じだな」
「ああ」
染み入るように二人で呟く。
遠くでは胴上げの最初の犠牲者となった件のウィズが、少女たちに囲まれて質問攻めにあっている。
別方面ではスルーズが、酒場からつまみ出されていた吟遊詩人──ララバイと即興でデュエットして喝采を浴びている。
どこを切り取っても、今この場は平和と幸せに満ち溢れていた。
「この平和は、みんなで勝ち取ったもんなんだよな」
ふ、と小さく微笑みながらレオンが呟いたその時、
「楽しそうだな、オイィ……」
と、まるで地獄の底から響くような声を掛けて来る存在があった。バレナである。
「あいつらまだ胴上げされてねぇよなぁ……?おらァ!やってやんよ……!」
「げっ!?」
散々にぶん投げられた恨みもこもっていそうな声を上げながらゆっくりと近付いてくるバレナ。
え!投げてくれるの?やったぜ!なんて思いながらワクワクしていたレオンであったが、その手がぐいんと引っ張られた。
「おん?」
「逃げろぉ~!」
ミーナが笑いながら、彼の腕を掴んで走り出したのである。
(え!?俺胴上げされたいんだが!?)
なんてことを思いつつ、久し振りの二人きりな状況と、彼女に腕を引かれている現状に妙な心臓の高鳴りを感じて、レオンはそのまま付いていくのだった。
◆◆◆◆◆
しばらく走って胴上げ隊を撒いたことを確認すると、ミーナは荒い息を吐き出しながら振り返った。
「っ、は、ここまで、くれば、はっ、大丈夫、だろ……」
「大丈夫に見えないが」
こちらとは対照的に、ミーナは疲労困憊な様子であった。同じ距離を走った筈なのに、この体力オバケめ。なんて恨み言を吐きつつ彼女は呼吸を調えている。
「なんで、こんなとこまで来たんだ?」
「……なんとなく、成り行きだよ。……その、言いたいことあったからさ」
「……言いたいこと?」
小さく頷くと、ミーナは口を開いた。
「レオン……ありがとな」
言葉に呼応して、翠の瞳が照れ臭そうに笑う。
「あの時……デルニロの弱点を突ける最後のチャンスが終わったって聞いて絶望してた俺にさ。何とかするよって言ってくれて」
そこに、傷だらけで絶望して泣いていたミーナはもういない。いつものように翠の瞳が生き生きと躍って楽しそうな声が響いた。同時に、煌びやかなドレスがふわりと風に揺れる。
その姿が本当に綺麗で──まるで舞踏会を抜け出してしまった童話のお姫様みたいだと思った。
「ほんとに何とかしちまうんだもんな。レオンはやっぱりスゲーよ」
いつもの砕けた口調で、ミーナがニッと笑う。その光景に、彼女が生きてるとようやく実感出来たような気がした。やっぱり、ミーナはこうじゃなきゃ落ち着かない。
デルニロ戦の自分は端から見たらカッコ悪かったかもしれないが、彼女がこうして笑ってくれているだけで報われる気がした。
勇者なんて呼ばれて、必死に命懸けで頑張ったって報われることなんてほとんど無い。取り零した命を思って無力さに拳を握り締めることばかりだ。かっこいいのなんて響きだけで、救えなかった町の人間に何が勇者だと詰られることもしょっちゅうで。
「そう言ってくれると嬉しいよ。まあ、傍から見たら情けないところしか見せてないんだけど──」
「レオン」
言いかけた言葉に被せるように、ミーナの透き通るような声が響いた。驚いて顔を上げると、じっとこちらを見つめる彼女と目が合った。
ミーナは視線を受け取ると、自身のスカートの裾に手を掛けてふっと微笑んだ。
片足を斜め後ろへと下げ、同時に反対の膝を軽く曲げて腰を落とす。
それは、彼女がついぞ恥ずかしくて出来なかったと口にしたカーテシーだった。
「────っ」
驚いて、声が出ない。その所作は確かにウィズのものに比べればぎこちなさが残っているが、ミーナの気持ちが溢れていた。
ミーナは姿勢を正して両手を背中に回すと、「慣れないことするもんじゃないな」なんて呟きながら照れたように微笑んだ。
「レオン、最高にかっこよかったよ」
ああ。と胸が熱くなる。何も言わずとも、ミーナは分かってくれていた。自分のしたことの意味も、陰に隠れた努力も。
照れながら笑ったミーナの表情は初めて見るような笑顔で。握った手が何だか熱かった。
「ミーナ、俺──」
ここまで言ってくれた彼女に、何か返さなければと思って口を開こうとしたのだが、
「いたぞ!レオンだ!やっちまえ!!」
いつの間にか胴上げ隊を率いる立場になっているバレナが、人混みからこちらを見付けて大声を上げたのである。
「うぉ!?バレナ!?」
「なんでバレナが率いてるんだよ!」
もうミーナにも逃げる理由はないらしく、腹を抱えて笑っている。俺はというとあっという間に囲まれて今度こそ胴上げされることとなったのだった。あっはっは参ったなこりゃ!
◆◆◆◆◆
レオンも笑い、ミーナも笑い、フィーブの町人たちも皆笑い、幸せの光景がそこにはあった。
勇者レオンの言う通り、それは皆で勝ち取った平和なのだろう。
そんな勇者たちの様子を遠巻きに眺めながら、スルーズは小さく呟いた。
「やっぱりこうなっちゃうか。……ミーちん、それは多分、蕀の道だよ」
彼女の言葉の真意はまだ、この場の誰にも分からない。
けれどこの一連の大戦を切っ掛けとして、様々な新たな物語が幕を開けようとしているのだった。




