エルムの森『魔王軍襲来(前)』
魔王軍。それはその名の通り魔王が指揮する軍勢の総称であり、四天王と呼ばれる四人の大幹部がそれらを率いている。
今回俺らを襲撃してきた相手は、その魔王軍大幹部の一人──、
「ギルディアだ。久しいなお前ら」
それはまるで、地の底に引きずり落とされるような、重苦しい声だった。
彼がそう口にすると、ワイバーンが降下し、数百はいようかという軍勢が大地に降り立った。兵士は人ではなく骸骨の姿をしており、動く度に骨をカタカタと鳴らしている。その正体は低級アンデッドモンスターのスケルトンだ。一体一体は大したことのない相手だが、百体以上ともなればそれなりに驚異となるだろう。
「ギル、ディア……、ギルディアァァァァッッ!!!」
そんなギルディアを前にして、バレナが叫んでいた。そう言えば彼女は、過去にギルディアと因縁があるんだったっけ。
「まったく騒々しい女だ。……さっさと並べ」
しかしそんなバレナの様子など意にも介さず、ギルディアの鶴の一声でカタカタ蠢いていたスケルトン達が、一斉にピシッと立ち並んだ。
そして整列した軍を背に、重々しい金属音をがしゃりと鳴らしながら、黒い鎧の男がレオンたちの前へと歩み出る。血のように紅く刺々しい髪に、ギラギラと血走った眼。サメのような尖った歯。と、いかにも狂戦士でござい。といった分かりやすい外見をしている彼こそが、魔王軍四天王が一人、闘将ギルディアである。
ゲーム通りであるならば、彼とレオンはここが二度目の戦闘であり、この後も三度ほど顔を合わせることになる因縁の相手だ。
クエハー内の説明によればその性格は非情にして残忍、とのこと。確かに本編においても、ルート決定後にそのヒロインを誘拐して拷問したりする残虐非道な描写はあるのだが、それ以上にコミカルな描写もあったり抜けたところもあったりと、俺としてはそこまで憎めない……いや、結構好きな悪役なんだよなコイツ。
「なんだ聞こえなかったのか?久しいな。と言ったんだが」
「──ぐっ」
ギルディアの言葉に──正確にはその威圧に圧されて歯噛みするレオン。今の二人の強さにそこまで差異はないのだが、仕方ないだろう。俺の知る通りの事がこの世界でも起きているのだとすれば、一度目の戦闘は強制負けイベントだったのだから。
「く、くふ……」
ここまでつとめて冷静を装っていたギルディアだったが、レオンの焦りの表情を見てか、口の端をつり上げていた。
「ぐふふはぁぁーッッはッはッはァァァァ!!無様だなぁレオォォォン!!」
そして堰が切れたように馬鹿笑いを始めるギルディア。急におかしくなってしまった訳ではなく、こちらが本来の彼に近い。先程までの威圧感たっぷりな言動は、解説本曰くカッコつけとのこと。
「あの野郎……!」
「ふん。前回は戯れだった故逃がしてやったが、今回はそうはいかねェなァ!!ここを貴様らの墓場にしてやるわ!兵ども!行けぇぇい!」
レオンを馬鹿にして笑うギルディアの態度に苛立ち吐き捨てるバレナ。しかし、やはりそんな彼女の態度を気に止める様子もなく、号令と共にスケルトン軍団が動き出した。剣を構えると、レオンも声を張り上げる。
「来るぞ!構えろ!」
それが合図となり、両軍入り乱れての戦闘が開始された。
「ミーナちゃん、だっけ?ちょっち下がっててね。──【サークルディフェンド】」
俺はというとスルーズによって後方に下がらされ、体の周囲に防御魔法を掛けられていた。成る程これで不意に襲われても、少しは耐えられるという訳である。
「あ、ありがとうございます」
「ん。じゃあそこであんまり動かないでね。でも危なくなったら遠慮なく声出すこと。おけ?」
「あ、は、はい!」
「うし。じゃあ行くね!みんな~!強化行くっしょ!」
そう口にすると、スルーズはレオンたちの元へと走っていく。
長い金髪をポニーテールにまとめているスルーズは、この世界にしては珍しいファッションセンスの持ち主である。短い白シャツを、肩出しへそ出しのルックスに着こなし、下はデニムに似た生地のホットパンツを履いている。本職は宣教師であり仕事用の白い聖衣も持っているのだが、それは今腰に巻き付けられている。本人曰く、気分で着たり着なかったりするとか。
回復、浄化等の光魔法や、今使ったような支援魔法も使えるスルーズなのだが、ゲームでは意外にも筋力値が高く設定されており、物理攻撃重視の前衛に置いてもそれなりに活躍出来たりする。
ゲームでも他者への気遣いが目立つ子ではあったが、改めて彼女の優しさに触れ、俺はいたく感動しているのであった。
そんな俺の前で、レオンたちの生戦闘が繰り広げられていく。
「────来なさい」
四方から襲い来るスケルトンたちを確認すると、竜騎士であるリューカは自身のドラゴンアックスを手に身構え、
「はあぁぁぁッッ!!」
ぐるりと回転するようにそれを大降りに振り回した。刃先だけで百キロはあろうかという重量が、遠心力と筋力をプラスして激突してくるのである。その衝撃は如何ばかりか。八体はいようスケルトンたちは纏めてその体をグシャグシャに砕かれ、遥か彼方に吹き飛ばされていく。
「ふんす。どうですの!」
「邪魔だデカ女ッ!」
「ふぎゅっ!?」
どや顔で勝ち誇っていたリューカであったが、その頭をバレナに踏みつけられた。バレナは仲間を踏み台にした勢いで飛び上がるとスケルトン兵の一体に飛び蹴りを叩き込み、その体を打ち砕く。更に勢い付いて反転する彼女は、踊るような軽やかなステップで次々にスケルトンたちを倒していく。
「うるぁッッ!!どけよおらッ!」
優雅な動きに全く似つかわない乱暴な言動と共に正拳突きが叩き込まれると、骨の体がバラバラに弾け飛んだ。
「ちょいとバレナさん!どういうつもりですの!」
「へっへ~ん。んなとこに突っ立ってんのが悪い!……ほら次来てんぜ」
「むきー!!後で覚えてなさい!!っだぁぁぁッッ!!」
「──やるな!二人とも!!」
そんな二人に負けていられないと、駆け抜けながら次々に敵を屠っていくレオン。ただでさえ強い彼が、今回はスルーズの攻撃強化魔法の加護を受けているのだ。その勢いは正に破竹と言って差し支えなかっただろう。
「あーあー。数ばっかり集めちゃってさぁ。そーゆーのホントどうかと思うわぁ」
その隣で、スルーズもまたスケルトンたちと対峙していた。武器を手に迫る骸骨戦士を前にスルーズは、すぅ、と手を組み目を閉じる。
まるで祈りのようなポーズの後で静かに目を開く彼女であったが、その様子は先程までのそれとは一変していた。……あれ?衣装もいつの間にか変わってね?
ホットパンツにへそ出しのTシャツ。そして薄手の黒いコートを羽織っていた筈の彼女が、ふと目を離した一瞬のうちに、純白の聖衣へと着替えている。
「貴殿方もかつて勇敢に戦い、そして死した戦士たちなのでしょう。ならば私は、現世に囚われしその魂を救わねばなりません。――――っづえぃっ!」
そう口にしながら、トゲの付いたメイスを取り出すスルーズ。そしてそれを振りかぶると、力尽くでスケルトンたちを粉砕していく。
「その魂に、どうか安らぎがあらんことを……」
強烈な光景だが別段、言っていることとやっていることが滅茶苦茶な訳ではない。これがスルーズ流の救済なのだ。
「みんな下がって~!」
と、そのタイミングで詠唱を終えたらしいウィズが皆に呼び掛けた。その瞬間、殆ど反射的と言っても過言ではない勢いで、戦闘中だった面々がウィズの後方へと飛び退いたのである。そして戦場にはその反応速度に対応出来ないでいるスケルトンたちだけが残され────、
「いくわよぉ!【ホーリー・レイン】!」
光属性の大魔法がそこに炸裂したのである。その名の通り、雨のような光の矢が降り注ぎ、それに触れたスケルトンが一瞬のうちに塵芥と化す。
この一連の連携により、百体以上は居た筈のギルディアの軍勢は、瞬く間に半数以下へとその数を減らしていた。
いやなにこれ。ヤバイだろ生戦闘の迫力。こんなのタダで見せてもらっちゃっていいのかマジで!?
一方の俺はといえば、すっかりファンボーイと化して彼らのバトルを固唾を飲んで見守っていた。各人の戦いっぷりも目を見張るようなものがあるが、戦闘中のリューカとバレナの掛け合いなど、ゲーム中では見ることの出来ぬ光景に大興奮していたのである。
ぬはー!あの軽口を叩き合いながら流れで敵を倒していくの最高か!?これは実写ならではというか、くぁー!これ今のCG技術でリメイクしてくんねーかなぁ!?
そんなことを考えつつ観戦していた俺だったが、ふと、場の空気がひりつくのを感じて口を結んだ。
……いよいよ奴が動くな。これは。
見れば、こめかみに青筋を浮かべたギルディアが、スケルトン兵を押し下げて前線に足を踏み出すところであった。
「ドイツもコイツも不甲斐ねぇ……!退け!俺が出る!!」
真打ちの登場に、レオンたちの間にも否応なしに緊張が走る。
「退屈させて悪かったな!キサマら!このギルディアが相手になってやるぞ!!」
「っ!【アイシクルソーサー】!!」
戦場に立つ敵将に向かって、ウィズが問答無用で氷のカッターを投げ放つ。初手から殺意たけーなオイ。
当たれば問答無用で対象を真っ二つにするそれを、しかしギルディアは仁王立ちし、腕組みしたまま正面から受け止めていた。
「――――なっ」
正確には受け止めた訳ですらない。ギルディアに当たるよりも前に、ソーサーは粉々に砕かれていたのだ。
「くっははははははは!!!何かしたか!?以前言ったよなァ!?これは魔王様より賜りし絶対防御障壁!!!キサマらの攻撃ではこの俺には傷一つ付けられんと!!!」
その言葉通り、ギルディアと控えのスケルトンたちを包むように彼の周囲に半透明な障気で構成されたドーム型の壁――障壁が貼られていた。
周囲からの攻撃は全て弾き、内側からの攻撃は通す魔界のチート兵器である障壁は、文字通りクエハー内での最初の壁としてプレイヤーに立ちはだかる障害である。
上機嫌に笑いながら障壁の奥でギルディアが天に手を掲げると、そこに黒い魔力の塊が渦巻いていく。彼の持つ大技、【デス・プロージョン】である。
「……同じだ。あの時と……。お前とスルーズが加わる前、俺たちはあの障壁によって全ての攻撃を阻まれ、奴に負けているんだ……」
体勢を立て直しながら忌々し気に口にするレオン。その気持ちは俺もよく分かるぞ。何やってもノーダメージで向こうの攻撃だけはバカスカ当ててくるの、ホント腹立ったからな……。
自分の現状も忘れ、彼らがここでどう動くのかワクワクしながら見守っていた俺であったが、次のレオンの言葉にその表情を凍り付かせることとなる。
「正直打開策は今も思い付いてねえ……。だが、ここで手をこまねいていても負けるだけだ。――スルーズ、攻撃強化を頼む。俺が先陣で突破口を開く!」
――――いや、違う。それじゃダメだ。勝てない。
皆の責任を背負った勇敢な発言は大変に立派なものだが、それでは勝てないことを俺は知っている。――知り過ぎている。このままじゃ、レオンの特攻は無駄に終わり、控えの皆も【デス・プロージョン】を防ぎきれずに敗北してしまう。
ゲームであれば、コンティニューすればいいだけの話だ。その度に飛ばせないムービーを見なければいけない不便さはあるものの、いつかは勝つことが出来るだろう。
しかし、ここはゲームじゃない。――いや、分からないが、なんとなくそんな気がする。――――であれば、もしこの世界で負けて死んでしまえばどうなるのか。
……多分、そこで終わりだ。俺の死は分からないが、彼らがいなくなれば魔王に対抗出来る人間はもう現れることは無いだろう。――――そんな。そんなの。
「だ、駄目だっ!!!!!」
だからだろうか。気付いた時には、俺は大声を出していた。
「え!?」
「な!?」
「あ!?」
リューカが、キョトンとして目を見張る。
レオンが、驚いた顔でこちらへと目を向ける。
バレナは、目を見開いて激昂した。
「てめぇこんな時にふざけてんじぇねえぞ!黙ってろ!!!」
大の男でもたじろぐ迫力をもろに浴びせられ、思わず萎縮しそうになる。しかしこっちだって、もう止まるわけにはいかない理由がある。傍観者でいる訳にはいかないのだ。
「だ、駄目です。そのままじゃアイツには勝てません。みんな死んじゃいます……!!」
「あ゛あ゛ッ!?じゃあテメェは勝てんのかよ!!?」
「勝てます」
「は――――?」
即答に虚を突かれたのか、その場に固まるバレナ。正直問答している時間も惜しいのだ。俺はパーティの元へと駆け寄ると、そのまま言葉を続ける。
「私が、じゃありません。みなさんなら勝てると言ってるんです。でも今の方法じゃダメなんです!すみません、どうか私に、――私に指揮を執らせて頂けませんか!?」
「な、あ?」
理解されないだろうことは分かっている。時間がない中で、意味不明なアピールをしてくる赤の他人程腹立たしいものはないだろう。
それでも、諦める訳にはいかなかった。
「――そうかよ」
目を見開いたまま拳を振り上げるバレナ。殴られたとしても恐らく今の俺は引き下がらなかっただろうが、
「――やめろ。バレナ」
レオンが、そんな彼女を制止した。
「レオン、お前――」
「ミーナ。一つ聞くぞ。今は時間がない。そして俺たちは命懸けの絶体絶命。それを全部分かった上で、そう言ってるのか」
俺を見る真っすぐな目。俺も、決して目を逸らさず真正面から彼を見ると、力強く頷いた。
「――そうです」
「分かった。お前に賭ける」
それはあまりにも早い決断だった。リューカが、バレナが、ウィズが、スルーズが、誰もがその判断に驚き目を見張る。
「ちょ、ちょっとレオン!なに言ってるの!?」
「本気なんですの!?」
「い、いくらなんでも――」
「こんな奴に命預けろってのかよ!?」
四人の反応は尤もだ。しかしもう言い争っている時間はない。レオンもそれはよく分かっているのだろう。
「文句があるならここを生き延びてからにしろ!!!」と温和な彼にしては珍しく声を張り上げた。
それで決まり。四人はそれ以上の反論を諦め押し黙ることとなる。「――ミーナ、頼む」とレオン。
「はい」
と、それに応えるべく俺は頷いた。
そうだ。彼女たちは強い。それは先ほどの戦いっぷりを見ても明らかだ。しかし彼女らとてヒトである以上、常に最善の行動が取れる訳ではない。(一匹竜もいるけど)そもそもそんな人間はいない。人は常に失敗を繰り返し、行動をより最善に近付けていく生き物なのだ。
だが、恐らくこの中で俺が。俺だけが、彼女たちの最善を知っている。二十年、それを求め研鑽してきたのだから。
「すぐにギルディアの全体攻撃が来ます。スルーズさんは全員に範囲型の防御強化を。そしてウィズさんは、可能な限りホーリー・レインを奴に撃ち込んでください」
「防御強化、じゃあ【サークルディフェンド】じゃん。みんな固まってる今なら全員いけるけど……」
「か、可能な限りって、あれは凄く魔力を食うから、あと一度しか撃てないわよぉ!?」
頷くスルーズに、涙目で困惑するウィズ。それはこちらも把握済みだ。
「随時、魔力回復のポーションを使ってください。残りの前衛三人は、防御して待機を。可能であれば自己強化をしていて下さい」
「待機だァ!?」
「機会は必ず来ます。今は辛抱を」
「――わ、分かりましたわよ!信じますからね!」
そうして、一同は一か所に寄り集まる。その光景を障壁の奥で眺めながら、ギルディアはフンと鼻を鳴らした。
「……なんだ?もっと焦って突撃を繰り返してくるかと思ったが、奴ら存外動かんな。諦めたか?それとも生意気に何か企んでいるのか?――まあ、どちらでも構わん。力の差を思い知らせてやるまでよ!!」
そんな嘲笑の声と同時に、【デス・プロージョン】も完成する。
「くたばれェェェ!!!!!」
そして腕を振り下ろすギルディアの号令と同時に、巨大に渦巻く漆黒の魔力が障壁を越えてレオンたちへと撃ち出された。
「来るぞみんな!備えろ!」
レオンの声を受けて、それぞれ防御姿勢を取る面々。
直後、黒い魔力渦がこちらへ到達し、そしてその場で炸裂した。
「ぐ……!」
「あぅ……!?」
想像しているよりも、近くで見るそれはあまりにも大きくそして禍々しい。着弾と共に広がった黒い魔力は、周囲一キロ四方をその渦に飲み込んでいた。
成る程こりゃ逃げられない訳だ。
熱風が吹き荒れ肌を焼き、吐き気、倦怠感、鈍痛など──、様々な負の要素が身体を蝕んでいく。
いや、これは、キツイわ……。
「……相変わらず強いな……。だが、前回ほどじゃない」
「そう、ですわね……!」
瘴気が通り抜けた後、手で顔を覆っていたレオンが体勢を立て直しながらそう口にする。他の皆も、この手のダメージには慣れっこなのか、何とか耐えているようだ。
まいったな。じゃあ俺だけかよ。
「ぁ…………ぐ…………」
負に一気に身体を蝕まれたダメージで立っていることさえ出来ず、俺はその場に膝を着いていた。
「ミーナ!」
レオンが慌てて俺に駆け寄ってくる。本当に優しい奴だ。だが、今は俺なんかを気に掛けている場合じゃない。
「だい、じょうぶです……!それより、スルーズさんは、みんなの回復を……!ウィズさんも、お願いします…!」
「おっけー!」
「ええ。こっちも溜まったわ!」
青息吐息な状況ながら、顔を上げて俺は指示を飛ばす。レオンのお陰でこの状況まで持ち込めたのだ。ここで俺が倒れている場合じゃない。
「さあ!受けなさい!【ホーリー・レイン】!!」
ウィズの声に呼応するように、光の魔力が雨の如く障壁へと降り注ぐ。この場の誰もが障壁の破壊を期待しただろう。──しかし。
「そ、そんな……!」
彼女の放ったホーリー・レインは、一撃としてギルディアに到達することなく障壁の前に全弾防ぎ切られていた。
「なんだ?こそこそやっていたものがこれか?……まるで変わらんが」
ギルディアも拍子抜けしたかのように間の抜けた声を上げている。
不安気な表情をこちらへと向けるウィズに、俺は大丈夫だと告げた。
「順調です。このまま続けて下さい……!」
「────くそっ!」
同時に、待機しているバレナが苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てた。
何もさせて貰えない中で皆が傷付いているのだから、責任感のある彼女が焦燥するのも無理はないだろう。
それでも、今は耐えてもらう他ない。




