フィーブ 『大決戦!魔神デルニロ ~その7~』
轟音が響き渡り、瓦礫が舞うその戦場を、レオンはゆっくりと進んでいく。
歩きながら、彼はふと足元に転がるそれに目を向けた。
(これは……)
それは、何の変哲もない短剣だった。町の人間が落としたのだろうか。本来ならばこの戦いにおいて役に立つことはなかったであろうそれを、しかしレオンは拾い上げる。
彼の考えた作戦が正しければその小さな短剣こそが、デルニロを倒す決め手となり得る物だったからだ。
「……ウィズ、バレナ、意識はあるか?」
歩きながら、レオンは仲間の二人へと呼び掛けた。魔法攻撃を浴び、分裂したデルニロの攻撃を受けて満身創痍になっていた二人は、レオンの声を受けて顔を上げる。
「なん……とか、な」
震える膝を押さえながら、ゆっくりと立ち上がるのはバレナであった。肩で息をしている彼女が既に虫の息であることは、見た目からも一目瞭然だ。
しかしそれを心配するでも労うでもなく。そんなバレナにレオンは淡々と言葉を紡いでいく。
「お前にしか出来ないことだ。──頼む」
「分かった」
それを、内容を聞かずしてバレナは了承した。お前の言うことなら間違いねえだろ。と、真っ直ぐな瞳をレオンへと向けた後で、バレナはデルニロと戦うリューカへと目を逸らし、「ち」と吐き捨てた。
「アイツ、美味しい所持っていきやがってよ……」
「バレナ……」
「やるって言ってんだ。アイツにだけいい格好させねーよ」
言って、フン。と鼻を鳴らすバレナ。
「私、多、分……強い魔法は撃てない、わよ……」
次いで、その場に身を起こそうとするのはウィズであった。しかし体に力が入らずに倒れ込む。レオンに助けられてやっと座り込む程度には体勢を変えられたようだが、バレナ同様に虫の息といったところか。
「魔力切れ、じゃないんだけど……、集中、が続かないの……。大技は、厳しいと、思う……」
息を調えながらそう吐き出すウィズ。ぎゅう、と握った拳は彼女の悔しさの現れだろうか。
通常、魔法というものは、正しい陣を描き、その上で詠唱を唱えることにより体内のマナの形を変えて行使することが出来る代物である。
強いものであればあるほどその魔方陣は複雑なものとなり、作成に時間を有するのは当然のことだろう。
この点、母から実戦魔法術を叩き込まれているウィズは、陣作成と詠唱のそれぞれを脳内で済ませることにより、大掛かりな仕込みを廃して魔法の行使をする術を身に付けている。
一部詠唱を口にする必要のある魔法もあるが、これによって発動に時間が掛かると言われていた大魔法さえ短時間での行使が可能となっているのだ。
恐らくはデルニロも似たような方法で魔法を行使しているのだろう。
勿論これは誰にでも出来ることではない。
天賦の才を持ちながら努力を続けたウィズだからこそ出来ることなのだ。
しかし脳内で陣を完成させるということは、より精密な精神統一が必要であるということ。全身の痛みにうち震える今の彼女ではそれは不可能であった。
「簡単な、もの、なら……」
「それでいい」
申し訳なさそうに目を向けるウィズに、レオンはしかし力強くそう告げた。
「バレナも、聞いてくれ。時間がない。最後の作戦を説明する」
そう口にした後で、二人に何事かを告げるレオン。ウィズとバレナは、驚いたように目を見開いた。
「一発勝負だ。外せば次はない。だから、行けるか?じゃない。やってくれ」
「────他に手はないんでしょ?……やるわよ」
「へ。だぁれに言ってんだよ。任せろって。それよりお前、出来んのか?んなこと」
「ま、それだけは上手いって誉められたことあるからな」
「ああ、そうかい」
決意を秘めた目で頷くウィズ。軽口を叩きながら拳を打ち鳴らすバレナ。そしてレオン。
そんな三人の眼前で、遂に緑の竜は力尽きた。
『ゴ、ル、……』
デルニロに絞め落とされて、泡を噴きながらゆっくりとその場に崩れ落ちたのである。
大きな生物が倒れた影響で地響きが起き、風と共に粉塵が舞う。そんな敗者を見下ろして、そこにとどめとなる魔法弾を何発も撃ち込むデルニロ。煙を上げて動かなくなった竜を眺めると、デルニロは満足そうに鼻を鳴らした。
『まったく、余計な手間を掛けさせてくれたよねェ?あ~あ~。この怒りは生贄一人じゃあ収まりそうにないナァ。十人は食べないとサァ!』
勝手なことを口走り、デルニロは焼け焦げたリューカを踏みつける。
彼女こそが人類の切り札、それを仕留めた今敵はもういないとでも思っているのだろうか。
そんな傲岸不遜な魔神の前に、一人の男が歩み出た。
『あん?なんだいお前は』
今更雑魚には用はないとばかりに鼻を鳴らすデルニロを前に、しかしその男──レオンは不敵に笑う。
「調子に乗るのも今のうちだぜアホニロ。今からお前は一発で俺にやられるんだからな」
『……んん。何を言っちゃってるのかなァ?今までボクちゃんに手も足も出なかった奴がサァ』
訝しんだように目を細めるデルニロに、しかしレオンは一切臆する様子がない。全身から自信をみなぎらせて恐るべき魔神を睨み付けているのである。これには、デルニロも若干気圧されたのだろうか。その顔から余裕の笑みが薄れていた。
『え?ひょっとして本気で言ってるノ?イヤだナ。度を越した冗談って面白くないんだヨ?』
(なんだコイツ。ただのバカか?いやしかし、コイツはさっきボクちゃんの目を刺した奴だ。油断はしちゃいけない。しかし無敵のボクちゃんを一撃だと?……出来るわけがない。奴が秘密に気付いてでもいない限り、それはあり得ない……!だが、────まさか、気付いているのか……?)
分からない。未知のものこそが恐怖の源泉なのだ。考えれば考える程、疑心になればなる程、自信に満ちたレオンがデルニロには恐ろしく見えてくるのである。
「行くぞデルニロォッッッ!!!」
大仰に叫びながら、レオンがデルニロ目掛けて走り出す。――駄目だ。コイツを近付かせちゃいけない……!
『だったらやってみろヨォッッ!!』
言い知れぬ不安に駆られて、デルニロはレオンを殴り付けた。しかし、そんな大振りが当たるような相手ではない。地面に叩き付ける拳の合間を縫って、デルニロへと接近してくる。
『くっそぉォォッッッ!?』
得体の知れぬ相手に焦っていたのだろう。本来ならば右手の全体魔法による迎撃に集中すれば良かっただけの話なのだ。しかし残念ながらデルニロがそれを思い出した時には既に、レオンは彼の懐にいた。
「一撃で消えろッッッ!!!デルニロォォォォォォォッッッ!!!」
『しま、よせェッッッ!!!!』
レオンが剣を振り上げ、デルニロが叫ぶ。あの剣に触れてはならないと、彼の本能が叫んでいる。
それでもどうすることも叶わず、次の瞬間レオンの鋼の剣がデルニロの腹へと叩き付けられていた。
完璧な進入角度でデルニロを捉えた刃はそして、
デルニロに傷一つ付けることなく粉々に砕け散っていた。
『やめ────……は?』
「――――え?……あ?」
理解が追い付かないのはデルニロだけじゃない。レオンもまた、刀身がなくなってしまった愛刀の残骸を眺めてぱちぱちと瞬きすると、時間を置いて青ざめた。
「おっ、おお、おっ!折れたあぁぁぁっっ!?」
『は?……エ?』
「嘘だろ俺の剣んんんんっっっ!!!」
絶望してその場に膝をつくと、半狂乱のようにレオンは叫ぶ。ここにきてようやくデルニロも、目の前の男の自信はただの大言壮語であったと理解した。
『は、ははは……』
一瞬とはいえ怯えてしまった自らを恥じると同時に、デルニロの口からは安堵の笑いが溢れていた。
『アッハハハハハハァァァッッ!!!なんなんだお前!?道化師でもこんなに笑わせられないゾ!!?その様でボクちゃんを一撃だぁ!!?どーやってやるんだよこのクソバカがぁ!!!!こんな面白い奴初めてだヨォ!!!!ぶっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!』
敵は雑魚で、自らを脅かす者はもはや存在しない。その事実に安堵し、デルニロは盛大に笑っていた。思い上がった惨めなカスを嘲笑しようとして、
彼はその違和感に気が付いた。恐怖にひきつった顔を向けるレオンのその瞳の奥に、消えない炎を見たのだ。
(コ、コイツ……!何か企んで……!?)
「アホみたいに、口開けてくれたなぁ。アホニロさんよ!──ウィズッ!!バレナッッ!!」
「待ってたぜッ!」
突如として叫んだレオンに呼応するように、バレナが声を張り上げる。
笑顔を引きつらせたままのデルニロがそちらへ顔を向けると、そこには脚を高く上げて、思い切り振りかぶったポーズを取るバレナの姿があった。
『な────!』
「どぅぅおりゃあぁぁぁぁぁぁァァァッッッ!!!!!」
彼女の姿は、遠くから見守るミーナにはまるで豪速球を投げ放つ野球選手のように映っていただろう。手にした塊が、まるで光の矢のようにデルニロ目掛けて一直線に突き進んで行く。
焦ったのはデルニロである。
(アイツらッ!分かっていやがった!!!口の中ッッ!!!!狙ってやがる!!!このボクちゃん本体をっ!!駄目だ、早く口を閉じ──)
慌てて閉じようとしたデコイの口は、しかし彼の意思に反して微動だにしなかった。それもその筈。デルニロの開け放たれた口は、パキパキと凍り付いて固まっていたのだ。
「【フリザド】……。貴方みたいなの相手に、効果は、はぁ……一瞬でしょうけど。一瞬でも、十分よね……?」
ウィズのその言葉はデルニロには届きはしなかっただろう。何故って彼女がそれを口にした時には、全てが終わっていたのだから。
(やめろっ!来る!避けられないィィッッ!!)
『ふざけるなァッッ!偉大なこのボクちゃんが────』
バレナが投げ放ったものは、レオンが拾ったナイフであった。矢のように放たれたそれは一直線にデルニロへと向かい、
その口の中に隠れた小さなデルニロの額へと突き刺さった。
『――あばッ』
そう。それこそが魔神デルニロの本体であった。間の抜けた声を上げて静止するデルニロだったが、一瞬の後で、
『アバアァァァァァッッッッッッッッッ!!!!』
と、天地を揺るがすような叫び声を響かせた。
「っ!うるせぇッ!?」
その声は凄まじく、至近距離のレオンやウィズ、バレナだけでなく、遠巻きの町人すら耳を抑えている。
まるで断末魔と表現すべき叫びと共に、デルニロの巨体が崩れて土に還っていく。
これはレオンも、ミーナさえ知らぬことだが、魔神デルニロを打倒したナイフは、サラがミーナに託し、それが彼女が倒れた際に懐から溢れ落ちたものだった。
そこに込められているのは、サラの意思──、つまりは、巡りめぐってフィーブの意思が、町を仇なす魔神を仕止めたのだ。
◆◆◆◆◆
「リューカ!」
デルニロを仕止めた直後、レオンが向かったのは緑の竜の元であった。倒されて動かない彼女に必死に声を送るレオン。
「ありがとな。お前のお陰だ。だから、死ぬんじゃねーぞ!今スルーズを――」
呼び掛け、そしてそっとその頭に触れる。すると、突如としてリューカの巨体が輝きを放ち始めた。
「これ、は……?」
先ほどとは逆。白い光の中で竜のシルエットが縮むと、次第に人間の形へと変化していく。
数秒の後、そこにいた巨竜は消え、ボロボロになった裸のリューカが代わりに倒れていた。
「リューカ……」
息はある。眠っているように胸を上下させる彼女の姿を見て安堵の息を吐き出した後、
「~~~~っ!」
レオンは真っ赤になると自身のマントを慌ててリューカへと被せるのだった。
◆◆◆◆◆
本当に、何とかしてしまった。レオンはやっぱり凄い奴だと思う。
情けない演技で、デルニロの嗜虐心を最大限に引き出し、あり得なかった筈の勝機を無理矢理作り出した。それも自身の愛用の剣と引き換えに、だ。
カッコいいって、多分こういうことなんだろうな。
崩れる魔神を見つめながら、俺は自身の胸が熱くなるのを感じていた。
『うぐ、ググ……』
それから少しして。力を失って呻き声を上げているデルニロだったが、ふと、視線に気付いてヨロヨロと顔を上げた。
デルニロを囲むように、レオン、ウィズ、バレナ、そしてスルーズと、俺の五人が見下ろしている。
『グ、ギギ……』
苦虫を噛み潰したような表情を見せた後で、デルニロは思い出したように口の端を吊り上げた。
『こ、これでサァ、ボクちゃんに勝ったつもり、なのかなァ?』
「ああ!?どう見たってテメェの負けだろうが!」
『甘いなァ!!』
バレナの言葉を受けて、しかしデルニロは声高に笑う。
『ボクちゃんは不死身なんだゼ。確かに今は少し動けないけれど、すぐに回復しちゃうんだよ~ん!!』
彼が口にした言葉は事実であった。デルニロ──その核となる本体は、土人形にエルローズが魂と余りある魔力を注いで造り上げたものなのだ。いくら砕こうとすり潰そうと、僅かな土と大気中のマナによって復活してしまう恐るべき存在なのである。
『だからお前らに勝ち目は──』
「ああ。そうだな」
『あ゛!?』
デルニロの言葉を肯定する様に頷くレオン。面食らったのはデルニロの方である。
『なんだお前、物分かりがいいじゃ……』
「だからお前は封印する」
次いでレオンの口から飛び出した言葉に、デルニロは目を見開いた。コイツ、今なんて言った……!?
「悪いとは思わない。殺せないから仕方なく封印という形を取るだけだ。忘れるなよデルニロ。町の奴も含めてここにいる全員が──いや、今この場にいない人間も、全員がお前を殺したいと思っているんだからな」
折れた腕を庇いながら、スルーズがナップザックから輝く宝玉を取り出した。魔力を吸収する光のオーブだ。それを、魔力の塊であるデルニロに触れさせることにより、デルニロという存在は余すことなくオーブに吸い込まれることとなる。
『それ、魔力を吸う球だネ。ああ、なるほど。それなら、ボクちゃんも動けないネェ。ぐ、うゥゥゥゥ……、人間、ごときが……』
オーブが近付きいよいよとなった所で、歯噛みしていたデルニロは何を思ったか鼻を鳴らした。
『アッハハ。確かにボクちゃんでもこれはどうしようもない感じがするヨ。この町の人間の怒りも分かるサ。……でも、でもだヨ。人間の怒りなんて、もって数世代だロ。百年もしないうちに、この封印を解こうとするバカが現れる。そうなればボクちゃんは今度こそ世界を滅ぼしてやるヨ。それとも何かイ?未来永劫、ここでボクちゃんを監視するかイ!?』
「減らず口を……!」
「もういいだろ!こんな奴さっさと──」
激昂するバレナを、しかし俺が制した。
「何だよ!?」
「スルーズ、オーブを」
「…………ん」
そしてスルーズから光のオーブを受け取ると、それを手にデルニロの前へと屈み込む。
早く封印しろというバレナの気持ちは分かる。けれど、あれだけ町を苦しめたコイツが勝ち誇ったまま終わるっていうのは、良くないよな。
『な、なんだヨお前。生贄の分際で……!』
俺の姿を訝しんでそんなことを口にするデルニロ。動けない彼の前で、俺は俺に出来ることをしようと思う。
「デルニロ。このオーブの中はね。貴方を焼き付くす浄化の光に溢れているの。肉体は滅びずとも、絶え間ない浄化に貴方の精神は耐えられない」
『あ?』
「一つ、予言をしましょうか。デルニロ。私は未来を見たんです。確かに近い将来、貴方の封印を解く人間は現れるでしょう。けれど、その時のオーブの中には何もいない。言ってる意味、分かる?」
『何を、言って……』
「その後で様々な人たちがオーブを調べた結果、とんでもないことが分かったんですって」
『だから何の話をしてんだヨ!!』
ここまで言っても分からないらしい。まったくやれやれだ。俺は満面の笑顔を作ると、それをデルニロへと向けて口を開いた。
「傑作なんですけどね。なんでも中に閉じ込められていた魔神は、浄化の苦痛に耐えかねて、三日くらいで自身の魂を焼いて自殺しちゃったんですって!」
『ギいィィィィィィッッ!!』
デルニロが叫ぶ。これは、設定資料本に出ていたおまけ情報の内容だ。何でも、不老不死を体現した存在であるデルニロだが、自らの魂を殺すことで自殺を成功させたらしい。
他者の攻撃では絶対に滅びることはないが、自分で自分の魂を殺した場合のみ、世界によって自殺したと認定され、その存在は跡形もなく消滅するのだとか。
「じゃあ、浄化の世界を楽しんで下さいね。さよなら、デルニロ。――地獄に落ちろ」
『やっ!やめ!やめろオオォォオォォォッッッ!!!!!!キサマアァァァァ!!!ギィアァァァァァァ!!!!!!』
恐怖に絶叫するデルニロに、俺はオーブを押し付ける。悲鳴を上げながら俺に襲い掛かろうとしたデルニロは、その場で魔力に体を変換されてオーブの中へと吸い込まれていった。
完全にその姿が消えると同時に、オーブの中に黒いモヤが発生する。魔力になっても禍々しさは消えないようだ。
「終わった……、のか……?」
静寂を取り戻した周囲を見渡しながら、バレナが恐る恐る声を掛けてくる。――俺は、こくん、と頷いた。
「デルニロの封印、完了しました。――勇者様、皆が待っています。勝鬨を」
「あ、ああ」
俺の言葉を受けて、惚けていたレオンも我に返ったようだ。息を飲むと、ゆっくりと町の人々の前へと歩み出る。そうして彼は、折れた自身の剣を天へと突き上げ、声を張り上げた。
「魔神デルニロは封印した!!!!!この町を苦しめていた悪魔はもういないッ!!!!!みな、自由だッッッ!!!!!!」
それに続く歓声は、まるで怒号の様にその場に響き渡っていた。あまりの熱狂に、家に籠っていた人々も飛び出してきた程だ。そして皆、町の敵である魔神の討伐を知り、歓喜に咽び泣くのである。
「ミーナ!!!」
「――――サラ!」
走ってくるサラの姿を見付けて、俺はオーブをバレナへと手渡すと彼女へと駆け寄った。お互いに手を取ると、再開の喜びを分かち合う。
「本当に、ありがとう、ありがとう――」
ぎゅう、と強く手を握るサラ。涙は枯れ果てた。そう言っていた彼女は今、俺の前でぽろぽろと涙を零していた。
「サラ、大丈夫?もう、こんなトコ来ちゃ危ないよ。無事で良か……」
「もう!怒りたいのはこっちでしょ!ミーナ、死んじゃったかと思ったんだから!!!怖かった……、怖かったの……。貴女が死んじゃったら、私……」
「――ごめんね。サラ。心配掛けて……。みんなのおかげで踏み止まれたの。聞いたよ。サラも、側にいてくれたんでしょ?――ありがと」
「うわあぁぁぁぁぁん!!!!」
今までたくさんたくさん我慢していたのだろう。子供みたいに泣きじゃくるサラを、優しく抱きしめた。釣られてだろうか。俺の目にも、涙が溜まっていく。
(ああ、サラが生きてくれてる。良かった。――――本当に、良かった)
彼女が生きて、今この場に存在している。俺の為に泣いてくれている。それだけで、きっと俺が体を張った甲斐は少しはあったのだと思えた。
ああ。長かったデルニロ戦が終わった。フィーブの町が、救われたんだ。
『ワアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!』
夜中だというのに、フィーブの町を包む喧騒はいつまでも、いつまでも止むことは無かったという。
長かった魔神との決戦もこれで終わりです。サラの話にリューカの過去。色々膨らませていった結果、想定よりも大分長くなってしまいました。(;^ω^)
フィーブでの話はもう少しだけ続きますので、お付き合いいただけますと幸いです。




