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魔王城『魔王軍会合その1』

挿絵(By みてみん)

 ルード大陸にあるラスティア。現在魔王軍からの攻撃を受けているその町は、人間たちの最後の砦と言われている。

 ラスティアは今現在も魔王軍への抵抗を続ける軍事都市であり、ここが陥落すれば、王都への侵攻が待ったなしになるからである。


 実のところ、ラスティアはルード大陸全土から見て、半分より南の位置にある。そこより北は全て魔王軍に占領された支配地域であり、ルード大陸はその半分以上が敵の手の内にあると言っていいだろう。


 そして大陸の最北。人間が立ち入れぬ広大な毒沼に囲まれたその場所に、一つの城が浮かんでいた。

 魔王城と呼ばれる、魔王軍の本拠地である。


 そんな魔王城に、空から一騎のワイバーンが近付いていた。


「…………」


 ワイバーンに跨がり城を見つめているのは、ギルディア。闘将と唱われた魔族であった。


「ここでいい。降ろせ」


 ギルディアの言葉を受けると、ワイバーンは魔王城入り口の橋へと降り、首を下げて身を低くする。そうしてワイバーンから降り立ったギルディアは、まるで彼を待っていたかのように扉を開く魔王城へと足を踏み入れた。


 城の内部は、黒や紫を基調とした薄暗い作りになっており、壁には決して溶け落ちることのないロウソクの炎が揺らめいている。

 そんな城内をギルディアは真っ直ぐに進んでいく。

 本来行く手を阻むべき扉は次々と自動で開け放たれ、門番であろう魔物も頭を垂れて彼の歩みを見送っている。


 そうして最後の扉が開かれると、ギルディアは玉座へと足を踏み入れた。


「魔王様。闘将ギルディア、ここに」


 そして彼はその正面、赤黒く禍々しいデザインの大層な椅子に座る存在へと、片膝をついて頭を下げる。

 そこにいる存在こそが、魔王軍の大将。魔王と呼ばれ恐れられる存在であった。


「相変わらずの重役出勤ねぇ」


 そんなギルディアに、横から声が飛んでくる。顔を向けるとそこには、頭と同じくらいの大きさのリボンを後頭部に着けた少女の姿があった。

 背丈は、ギルディアの半分にも満たないだろうか。退廃的な黒いゴシックファッションから、ピンク色のツインテールが浮いて見える前衛的な出で立ちをしている。

 現代日本ならば、ゴシック・アンド・ロリータファッションとして幅広く支持されている着こなしだが、この中世モチーフ世界においては人の理解を越えた奇怪な姿にしか見えないようだ。


「いつからそんな偉くなったのかしら?ギルディア」


 人間の十代の少女といった外見の小柄な少女は、しかしギルディアと同じ紅い瞳をぎらつかせると、彼を小馬鹿にしたように笑っていた。


「エルローズ。常に暇な貴様とは違い俺は忙しいのでな」

「はァ!?」


 自分から仕掛けておきながら、ギルディアの煽りを受けて目を見開き怒りを露にしているのは、魔将エルローズ。魔王軍幹部の一人であり、自身の作った魔人デルニロをフィーブの町に解き放った張本人でもある。


「負け犬がよく吠えるじゃない……!」

「魔将ならぬ堕将である貴様には言われたくないな」

「あ゛あ゛!?」


 バチバチと火花でも散らしそうな勢いで視線をぶつけ合う二人。このまま争いにでもなりそうな勢いであったが、ギルディアの隣──エルローズとは反対──から別の声が掛けられた。


「やめないか二人とも。魔王様の御前だぞ」


 低く重く、体の芯に響きそうなその声の主は、黒い鳥の羽で作られたマントを羽織り、これまた黒い鳥を模したような嘴付きの仮面を頭に付けた男であった。

 その声にハッとして、ギルディアとエルローズは二人揃って正面へと顔を戻すと、その場に平伏する。


「も、申し訳ありません……」

「…………よい。面を上げよ。ギルディア、エルローズ」

「っ、魔王様……」


 魔王の声を受けて、ギルディアが体をびくつかせる。これまで何度か魔王への謁見機会があった彼でも、黒いモヤのような物で全身を覆っている魔王の全容は未だに分からない。

 声も、本人のものなのかすら分からない。毎回違うようにも聞こえるし、同じようにも聞こえるのだ。


「それにしても、また一人は来ず、か。あやつの奔放ぶりにも困ったものだな」

「申し訳ありません魔王様……。なにぶん自由が奴の気質でして……。私からよく言い含めておきます故、どうか──」

「よい。シュバルツ」


ここにいない四人目を庇おうとする鳥仮面──シュバルツを、しかし魔王は手で制した。「は。出過ぎた真似を……」と引き下がるシュバルツ。


「気にせずとも良い、と言ったのだ。シュバルツ。私は貴殿らの息災を知るためにこうして集っている。奴めが無事にやっているというのならばそれで良い」

「しかし、それでは魔王様の御威光が」

「くどい」

「は……」


 魔王からの威圧を受けて、今度こそシュバルツは引き下がった。

 それを見届けると、魔王はギルディアへと顔?を向ける。


「ギルディア、前に出よ」

「はっ」


 威厳に満ちたその声を受けて、ギルディアは一歩前へ踏み出すと、その場にひざまずく。

 そんな彼を玉座から見下ろしながら、魔王はこう口にした。


「報告は聞いている。またも勇者様どもを取り逃がしたそうだな。何故だ?」

「っ、そ、それは……」


 魔王が口にしているのは、エルムの森での一件についてだ。ギルディアが失態を犯したことを知っているエルローズは、ここぞとばかりにほくそ笑んだ。


「面目、次第もありませぬ……」

「ギルディアよ」


 言い訳はしないと頭を下げるギルディアであったが、しかし魔王は一層の圧を彼へと放った。


「私は、何故だと問うているのだ。一度目は不問とした。次は遊ぶなと貴様に言ったな。そしてこれだ。ギルディアよ。何故だ?」


 謝罪ではなく、理由を言えと詰められ、ギルディアは歯噛みする。

 魔王にそれを口にすることが正しいのか間違っているのか分からない。しかし黙っていれば死は確実だろう。

 意を決してギルディアは口を開く。


「恐れながら魔王様。障壁が破られたのです……」

「なんだと?」


 驚愕の声と同時に、魔王からの威圧が噴き上がる。

 しかし、事実を言えと言ったのはそちらだ。とばかりにギルディアは怯まず魔王へと目を向けると言葉を続けた。


「無敵の障壁と俺に言ったのは魔王様、貴方だ。しかし障壁は破壊された。これは如何なることか!?」

「──ギルディアよ。勇者たちは障壁に神聖魔法を三度撃った。間違いないか?」

「む!?な、何故それを……?」


 確かに戦いにおいてレオンパーティの一人が、神聖魔法を何度も撃ち込んできたことは事実である。しかしギルディアはそこまでの報告はしていない。


「ギルディアよ。確かに障壁は無敵と貴殿に語ったのは私だ。しかし、実は一つだけ対策があるのだ」

「そ、それはまさか」


 魔王の言葉の先を悟って息を飲むギルディア。魔王は、「うむ」と頷いた。


「ある特定の神聖魔法を三度当てることだ。しかし二度までは、見た目にはまるで効果はない。そんな攻撃を三度続ける酔狂な奴はいないと判断した故、無敵と称したのだが」


 結果は、勇者こそがその酔狂者だったということか。


「いや、偶然だろう。しかしそれは奴等が運に恵まれただけのこと。貴殿の敗北ではない」

「……熱き御温情、感謝致します」

「心にもないことを言うな。無敵ではなかったことが不服なのであろうが」

「そんなことは……」


 ない。と言おうとしてギルディアは口ごもる。この魔王は自分の考えなどとうにお見通しなのではないか。そう思ったからだ


「ふ。貴殿には期待しているぞ。では下がるが良い」

「…………は」


 そうして、ギルディアは一歩引き下がる。その様子を冷ややかに眺めて呟くエルローズ。


「二代目魔王様はお優しいことで」

「止さないかエルローズ!」


 魔王への皮肉とも取られかねない言葉にシュバルツが慌てて諌めるが、魔王は、「良い」と告げた。


「エルローズ。首尾はどうなっている?」

「はい」


 問われて二歩魔王へと踏み出すと、エルローズは得意気な顔を浮かべてひざまずく。


「勇者たちは、フィーブにて我が魔人デルニロと戦うつもりのようです」

「ほう。あの魔人は確か──」

「はい。あれは私めが五百年の歳月を注いで作り上げた最高傑作。不死身にして無敵の魔人にて御座います」


 そう口にしながら、得意満面といった顔を見せるエルローズ。ギルディアが失敗した今、自分こそが手柄を立てるチャンスだとはしゃいでいるのだろう。

 魔王はそんなエルローズの様子を、ふ、と笑う。


「先ほどの私の言葉ではないが、エルローズよ。貴殿の魔人とて不死身ではあるのだろうが、無敵ではあるまい?」

「…………」

「勇者どもは魔人を封印する術を探しているそうだ。封印されてしまえばそれまでだろう」

「…………それは、まあ、そう、ですが……」


 言葉を濁した後で、エルローズは「しかし」と魔王に食って掛かる。


「封印の為にはデルニロを一度無力化する必要があります。奴らにそれが出来るとは思えない。デルニロが負けることは有り得ません」

「──そうか。その意気や良し。エルローズ、期待しているぞ」

「は」


 そうしてエルローズも下がり、この日の会合はお開きとなった。

 三人の魔王軍幹部は城から出てゆき、玉座には魔王を残すのみとなる。

 静かになった玉座にて、ふ、と息を吐き出す魔王。


「……レオンたちがあの初見殺しを突破しただと……?まさか────、いや、まさかな……」


 その呟きは、誰に聞こえるでもなく闇に消えていくのだった。



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