プロローグ『俺の日常』
「終わりだッ!!!魔王ォォォォッッ!!!!」
その一撃がトドメのそれであることを確信して、レオンが吼える。相対する魔王には、最早それを覆すだけの力は残されていなかった。
「【絶牙剛衝斬】ッッ!!」
そして、必殺の速度、威力をもって繰り出された剣撃が魔王へと迫り――、
「――――見事」
その体を二つに断ち切っていた。
崩れ落ちる魔王を見下ろすように、レオンが俯く。宿願を果たしたというのに、その顔は暗い影に覆われた浮かないものであった。
「よくぞ我を倒した。勇者よ。――だが」
「ああ。分かってるさ。……アンタを倒したところで終わりじゃない。死んだ家族も仲間も帰ってこないし、魔物たちが消える訳でもねえ。……何も、終わりはしないんだよな」
噛みしめるように、呟くようにレオンはそう口にする。そんな苦悩する勇者の顔を見上げて、魔王と呼ばれた存在は、ふ。と笑った。
「せいぜい、この世界で苦しむことだ、な……。ふはは、ふはははははは――――」
その笑い声が途中で途切れる。何も言うことなく、レオンがその首に剣を突き立てていた。その言葉を最期に魔王は黒い霧となって、この世界そのものから消滅していく。地面に刺さった剣に体重を預けたまま無言で佇むレオンの背中を、別の誰かの声が撫でた。
「――――終わったんだね……」
「ミセリア」
ゆっくりと振り返り、レオンが小さく呟く。どこか震えているようなその声を受けて、短い銀髪の少女、ミセリアはゆっくりとレオンに歩み寄り、そしてその体を抱き締めた。
「レオン、大丈夫。大丈夫だよ。ボクが――いるから」
「――――ああ、すまない」
ここに二人以外の仲間たちはいない。二人の為に犠牲となった四人の少女たちに祈りを捧げるようにレオンは目を閉じると、ゆっくりとそれを開いていく。
「生きていかなくちゃいけないんだね。この世界で、これからも」
「ああ。そうだ。俺たちは生き残った。ミセリア。君を縛る枷ももうない。ここから始まるんだ。俺たちは」
抱き合ったまま、崩れた外壁から覗く夕陽を見つめる二人。それは、世界を照らしているかのような温かい輝きに満ちていた。
◆◆◆◆◆◆
そうして壮大な音楽と共に、スタッフロールがせり上がってくる。俺はそのタイミングを見計らうと、慣れた手つきでマウスをクリックした。
「はいミセリアRTAクリアー!!!記録は十二分更新っ!!新記録だよこれはっ!!」
自室の椅子に座って、パソコンに向かって興奮気味に捲し立てているのは俺こと南信彦。俺は今、二十年来の付き合いであるゲーム、クエスト・オブ・ハートの最短クリアを目指した記録に挑戦していたのである。
結果は上々。途中ちょっとガバっちゃった上でこれとは、遊び尽くしたつもりでもまだまだ向上の余地があるんだなぁ。と喜ばずにはいられない。
「さて、明日は土曜日か。なにしようかねえ」
流石にぶっ通しでのプレイは疲労が溜まる。体を伸ばしながらそう呟いて、はは。と俺は笑った。
「ま、どうせクエハーやるんだろうけどな」
それが俺の、日常だった。