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第4話

何日過ぎたのだろう。

カレンダーを見る事がないのでここに来てから何日経ったのかは知らないが、締め切られた部屋では、時間すら感じる事は難しかった。

瑠姫奈は最近やたらと僕の身体を気遣って優しくしてくれる。

体調は崩してないか。風邪は引いていないか。

そんなに心配しなくてもいいのに。

そう言っても心配ばかりしてくる。

不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

温かみを感じた。

僕は、、、この温かみが尊くて心地よくて、、、柄にも無く酔いしれていた。


「、、、なせ、、、ななせ、、、七瀬!」

身体を譲られ僕は重たい瞼をゆっくりと開けた。

「、、、どうしたの?、、、」

「やっと起きたな。ほら、着替えて!出かけるぞ!」

「?どこに?」

「お前の服買いに行くぞ。着る服ないだろ?いろいろ見てこよう!」

「、、、別に、、、無くていいよ、、、着れれば何でもいい、、、なんなら、、、無くてもいい、、、」

「風邪引くだろ。ほら、さっさと起きろ。これ、着替え。俺は海良を起こしてくるから準備しとけよ。あ、そうだ。首上げて?」

首を上げられるとカチャカチャと音がしていつも付けられている首輪が外された。

「、、、いいの?、、、」

「何が?」

「逃げるかもしれないよ」

瑠姫奈は笑いながら僕の頭をガシガシと撫でた。

「ばーか。お前が逃げる気ないのぐらい知ってるよ」

「、、、じゃあ、、、どうしていつもこれ、付けてるの?」

僕は首輪を指差して言った。

「お前は俺らの物って言う証だ。呪縛があった方が落ち着くだろ?」

「、、、別に、、、」

「そんな事いちいち気にしないで行く準備しろ。着替えたら部屋出てこいよ」

そう言うと瑠姫奈は部屋を出て行った。

一人の部屋は静かだった。

外。

僕の居場所がない異空間。

正直行きたくない。

外界に興味があるわけでもないのに、ましてや汚れた僕を受け入れてくれる筈もないのに。

でも、一度だけ。

もう一度だけ、外に微かな希望を持ってもいいだろうか。

僕はゆっくりと用意された服に着替えた。

ジーパンに無地のシャツ、大きめのパーカー。

なんとなく落ち着く服装で心なしか安心した。

最近全くと言っていい程歩く事がなかった為ベッドからすぐそこに見えるドアに行く事すら身体が重く感じた。

何とかドアにたどり着きドアを開けるともう既に用意を終えて待ちくたびれたと言わんばかりに不機嫌な海良が立っていた。

「おはよう。全く、瑠姫奈も強引だよね。俺はもうちょっと寝ていたかったのに」

「みんなで行った方が楽しいだろ?お前も引き篭もりじゃないんだから少しは太陽光浴びろ」

「日焼けするじゃん。やだよ」

「女子か!大体そんなんだから体力ないんだよ」

二人の会話に全く着いていけずにいた。

黙って聞いていると。

「七瀬大丈夫か?」

「、、、あ、、、うん、、、」

「別に話に入ってきてもいいんだよ。せっかく3人でいるんだから」

「、、、話、、、遮ったら怒られる、、、から、、、」

「別に、怒ったりしないよ」

「そうだぞ。海良は常に人の話を遮ってくるからな」

「ちょっと。なんで俺が出てくるの?」

「あ?お前は話は遮るし話聞かないし忘れるし最悪だろ。よく、それで小説家として活躍出来るか不思議で仕方ない」

「いい過ぎじゃない?」

なんか、羨ましかった。

「、、、仲良いね、、、」

僕は無意識に呟いていた。

二人は顔を見合わせて笑った。

「幼馴染だしね」

「腐れ縁って奴だな」

「そうなんだ」

瑠姫奈ははっとして腕時計を見た。

「おいっ行くぞ!時間が勿体無い!」

「やれやれ。仕方ない。行こうか、七瀬」

差し出された手に僕は自身の手を重ねた。

「うん」


久しぶりの外は眩しくて暑かった。

太陽が照り付けカラッとしていて。

なんて言うか、辛かった。

瑠姫奈の運転する車は冷房が効いていて、居心地はよかった。

僕は後部座席に座り流れゆく景色をただ黙って見ていた。

「今日暑くない?窓開けていい?」

「冷房効いてるんだから開けたら意味ないだろ」

「しんどいなぁ」

助手席に座っている海良は自分の方へ冷房を向け涼んでいた。

「お前だけ当たってたら後ろ行かないだろ。七瀬大丈夫か?」

「大丈夫」

どこへ行くのだろう。

誰かと出かけた事などなかった。

親はいつも兄だけを連れて出かけ中々帰って来なかった。

僕は朝から晩まで独り部屋で帰りを待っていた。

いつ開くかもわからないドアを見つめただひたすら待っていた。

1時間。2時間。

時間だけが過ぎて。

空腹で意識がはっきりしなくなってきた時。

親と兄は楽しそうに話しながら帰ってきた。

その目に僕は映っていなかった。

いくらおかえりと言ってもお腹空いたと訴えても。

誰の耳にも僕の声は届かなかった。

この家に、僕は居なかった。

両親が愛しているのは兄だけ。

僕はただの邪魔でしかない。

だから、僕は家を出た。

引き留められもしなかった。

独り悲しく歩く道に誰も居なくて。

まるで自分がこの世と分離されたようで。

だから、あの日、僕は死のうとしたんだ。


「七瀬!着いたぞ!」

ふと、我にかえると大きな建物が見えた。

「、、、なにこれ?」

「知らないの?ショッピングモールだよ。人多い所嫌いなのに」

「文句ばっか言ってないで行くぞ」

二人が車を降り始めたので僕も車を降りた。

「大きい」

「当たり前だろ?でかいとこ来たんだから」

「さっさと行ってさっさと帰ろう」

僕は初めて来る場所で緊張しながらも中へと入った。

沢山の人がいて、いろんな物が並んでいて、美味しそうな匂いがして。

別世界だった。

「どうだ?びっくりしたか?」

驚きを隠せない僕に瑠姫奈は聞いてきた。

「うん。初めて、きた」

「いろいろ見に行くぞ。まずは服買わなきゃ始まらん」

二人の後ろを僕は着いていく。

見た事ない空間だ。

綺麗だった。

人も。物も。全てが。

僕には眩し過ぎた。

「着いたぞ」

瑠姫奈と海良がよく来るというお店にきた。

黒と白が基準の落ち着いた服が並んでいた。

「七瀬はガキっぽい顔だけど顔立ちはいいからこういう服似合うと思うぞ」

「そうだね。これなんかいいんじゃないかな?」

「こっちもいいな?」

半ば着せ替え人形のように次々に服を合わせて二人は頭を抱えていた。

「、、、僕には似合わないよ、、、」

「そんな暗い顔すんなよ。案外似合うと思うぞ。見てみ?」

僕は鏡を見て目を疑った。

今までまともな服を与えられてこなかった為服の事なんか何も知らなかった。

自分には何色が似合うとかも一切興味がなかった。

「へぇ。七瀬は落ち着いた色が似合うみたいだね。ところでさ、七瀬って何歳?」

「そういえば聞いた事なかったな」

「、、、十六、、、」

「は?」

「え?」

「「わかっ!!」」

「え?そんな事ないよ?」

二人はくすくす笑い始めた。

「俺らいくつに見える?」

「、、、二十とか?」

僕の回答に二人は腹を抱えて笑い出した。

「七瀬本気?もしかして気を遣ってるの?」

「年相応だと思うぞ?」

「?何歳?」

「「二十八」」

僕は驚いた。

「え!全然見えない」

「もう三十手前なんだよ、実は。あー、おかしい。笑い過ぎて涙出てきた」

「七瀬が未成年だったことにも驚いたけどそれ以上に驚かされたなぁ」

「二人とも笑い過ぎ」

「ごめんごめん。じゃあこれ、買いに行こうか。一番似合ってたし」

そういうと海良は服を持って会計に行ってしまった。

残された瑠姫奈と僕はお店から出て近くのベンチに座った。

「ありがとう」

「何が?」

「初めて来て、初めて何かを買って貰った」

「別にいいよ。七瀬が楽しそうで良かった」

「凄く嬉しい」

「良かったじゃん」

しばらくすると海良が現れて僕に袋を渡してきた。

「はい、これ」

「ありがとう」

「へぇ。表情変わったね」

「え?」

「ううん。何でもないよ。次行こうか」

手を引かれ僕は二人の背中を見ながら着いて行った。

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