第1話
プロローグ
僕は昔から何をしてもダメな奴だった。
勉強もスポーツも恋愛すらも。
何もかもが下の下。
そんな僕は両親から愛されていなかった。
僕の生きる価値なんて、、、
どこにも無いんだ。
錆びた鉄の匂い。
滴り落ちる汚い血。
僕は無表情でそれを見ていた。
痛みなんかとうに感じなくなっていた。
ドアをノックする音がしたが気にも止めない。
反応がないからだろう。ドアは無造作に開けられた。
「七瀬生きてる!?」
「、、、どうして殺すの?、、、生きてるよ」
僕はゆっくりと立ち上がろうとした。
激しい眩暈に襲われて倒れる寸前。優しく受け止められる。
「っと!危ないな、急に立ち上がったらダメだ。傷口見せて?」
「、、、うん、、、」
静かに僕をベッドに座らせ未だ切られた手首から滴り落ちる傷を見せた。
「相当深いな。救急箱持ってくるからちょっと待ってろよ!」
慌てる様子を見せているが別に僕は逃げたりしないのに。そう、思った。
「はい、救急箱」
「うお!海良!いきなり出てくんなよ!」
「騒がしいから仕事放って来ただけだよ。瑠姫奈はいつも大袈裟だよ。それで?傷口はどう?」
「あ、そうだった!救急箱サンキューな。手当するから大人しくしてろよ」
慣れた手つきで傷口を消毒していく。
「、、、いっ、、、」
「わりぃ!痛かったか?」
消毒液の痛みで顔を歪めると海良は僕の頬に手を当て不敵に微笑むとゆっくりと首へと移動し徐々に力が込められる。
「君はこっちの方が好きでしょ?もう切らないって約束したの忘れたの?少しお仕置きが必要だね」
首を絞めたまま海良は僕の耳を舐め始めた。
頭では抵抗しようと試みるが身体は素直だ。
ビクンっと身体は跳ね上がり思考力は失われていった。
「いっ、、、や、、、はな、、、して、、、」
「反省した?」
「、、、う、、、ん、、、」
僕は壊れるのではないかと言うぐらい強く縦に首を振った。
力を込めていた手は離され一気に空気が肺の中へ入ってきて僕は咳き込んだ。
「ごほっごほっ、、、はぁ。はぁ。」
それを海良は満足そうに見ていた。
瑠姫奈はいつもの事なので気にも止めず淡々と包帯を巻いていた。
「よし!これで大丈夫。落ち着いたか?海良もう少し優しくしろよ。本当に死んだらどうするんだ?」
「俺はそんな馬鹿力ではないから安心してよ。ペットにお仕置きは大事だよ?」
僕の頭を撫でながら海良は僕の首に首輪を付けた。
ジャラジャラと鎖の音がする。
「少し自由にさせすぎたみたいだね。やっぱりこの方が似合うよ」
首輪はベッドの柵に繋がれているため少しの自由しか許されなくなった。
僕は3年前死のうとした。
生きているだけ無駄だと思った。
実の親でさえ僕を見捨てた。
そんな僕は自分が大嫌いでこの世から自分という存在を消し去りたかった。
車が行き交う交差点。
ここに飛び込めば全てが終わる。
そう思い足を進めた時だった。
「ねぇ、君の瞳いい感じに曇ってるね」
「いい顔してるな」
「、、、だれ、、、?」
僕を誘う二匹の悪魔が現れたんだ。
「俺瑠姫奈。よろしくな」
「俺は海良だよ。これから仲良くしようね」
何を言っているのか分からなかった。
「、、、僕はこれから死ぬんだよ、、、。なんで、邪魔したの?」
「いいね。その威勢。益々気に入った」
「いじめがいがありそうだよね。君は今日から俺らのペットになるんだよ」
「、、、は?、、、」
「どうせ死ぬつもりだったなら少しぐらい俺らと暇つぶししてもいいだろ?」
「もしかしたらいい思い出が出来るかも知れないよ?」
不敵に微笑む悪魔達だったがもう僕の心は死んでいる。
今更恐怖も何も無い。
この誘いに乗り金を巻き上げられ無惨に殺されようともどうでもいい。
「、、、い、、、よ、、、」
「ん?」
「、、、いいよ、、、君達のペットになっても、、、」
悪魔達は満足そうに笑った。
「そう来なくちゃな。よし、んじゃあ、行くか」
「瑠姫奈、そんな急がなくても逃げないよ。まだ名前聞いてないし。なんて言う名前?」
「、、、七瀬、、、」
「女の子みたいな名前だな。まぁいいや。よろしくな、七瀬」
「、、、待って、、、」
僕は引っ張る手を止めた。
「、、、君達に着いていけば、、、僕の居場所はあるの?、、、幸せになれる、、、?」
お互いの顔を見合わせて更に強く手を引く。
「俺らがお前を幸せに出来るかなんか正直わかんねぇよ。でもな、これだけは言える」
「そうだね。それは絶対と言ってもいいよ」
「?」
「「居場所はあるって事」」
僕はこの悪魔達の誘いに誘なわれた。
あの時差し出された手を僕は握った。
この先にどんな地獄が待っていようと一切の後悔はない。
元から僕には悔いる未来も悲観する将来も何も無いのだから。
彼らが僕をおもちゃにする度に僕は自分の身体に刻まれた証が愛おしくなる。
それは決して愛情とか友情なんて安い物ではなくて家畜として所有物として扱われる絶対的な束縛。
首輪が、手錠が僕をがんじがらめにしようともそれらが取り払われたところで目に見えない鎖のような呪縛。
彼らが僕を使ってくれるから、僕に生きる意味を居場所を与えてくれる。
悪魔達は、僕にとっては天使でしかない。
こんな、僕を受け入れる物好きに出会ったんだ。