最愛の相棒よ
初投稿です…!
以後お見知りおきを。ぬいです!!!!
「はあああ、本当にジャン先輩は!!!!!しっかりしてください!!!!!」
「それ何回も聞いたよお…。」
「じゃあ尚更しっかりしてくださいよ!!!!先輩らしいことしてください!!!!」
「…じゃあさあ。」
フェリーの隊服の胸ぐらをつかんでジャンの方へと引き寄せる。
「フェリーが俺のこと好きって言ってくれたらいいよ?」
「なっ…!!!」
フェリーはふざけるなと言いう風にジャンを見る。だがジャンの目がいつにも増して鋭い眼光を宿しているのを見て、言葉に詰まった。だがジャンにこのままでいられても困る。
「...好き、です!!!これでいいですか!!!!」
正面からジャンを睨み返せば、ジャンはさっと目をそらし、いつもの調子に戻って言った。
「まあ何を言われても任務には行かないよーだ!!」
「な!!!!さっきのは嘘ですか!!!!噓つきはいけないと習わなかったんですか!!!」
「習ってないなあ。」
そう言ってジャンはフェリーから逃げる。
「あ!!ジャン先輩!!!!」
後ろからフェリーの声がするがお構いなしだ。
それ以上にジャンの心は傷ついていた。
「あれ、ジャンさん…?何で泣いて…」
「じゃあねー後輩君!!!」
後輩君の前をぴゅーっと走り抜ける。
「あーあぁ…フェリーこそ嘘つきのくせに。」
『...好き、です!!!これでいいですか!!!!』
その時にフェリーの顔に浮かんでいたのは羞恥と怒り。ジャンの冗談として扱っているのが見え見えだ。
嘘つき。嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!!!!!
フェリーこそ嘘をついている。ジャンの言葉を真面目に受け取らない。
フェリーなんて、大っ嫌いだ。
「…もう、どこ行ったのよジャン先輩は!!!!あ、後輩君。ジャン先輩見なかった?」
「あ、あ…あーはい。見ましたけど…フェリーさんこそどうしたんですか?」
「ジャン先輩が走ってどっか行っちゃったのよ!!早く見つけて任務に行かせないと!!」
「大変ですねえ…。自分の先輩は特級任務だと行ってくれるので。まあ普通に命の危険感じながらやってるんですけどね…。」
「まあ、大変ね…。」
お互い苦労している。
「あ、そういえばジャンさんが泣いてたんですよ。」
「…は?」
泣いてた?ジャン先輩が?いつもへらへらとしていて悩み事とか何もなさそうなジャン先輩が?
「何かあったんですか?ジャン先輩はそのまま走っていくし…。」
「何か…。」
『フェリーが俺のこと好きって言ってくれたらいいよ?』
『なっ…!!!』
『..好き、です!!!これでいいですか!!!!』
「そーいえばあったわ…。」
「えっ、あったんですか…。」
後輩君が驚愕に満ちた顔でフェリーを見つめた。
フェリーが一部始終を話すと後輩君は渋い顔になって言った。
「そーですねぇ…、じゃあフェリーさんはジャンさんのことどう思ってますか?」
「どうって…だらしがない先輩?」
「ん‘‘…。れ、恋愛的には?」
「恋愛!?私は諜報員よ!?そんなことに現を抜かす暇があったらジャン先輩を説得して任務に行くわ!!!」
「…。じゃ、じゃあ…」
「おい、後輩。」
「わああああ、せ、先輩!!!驚かせないでください!!!」
「零兎様!!こんにちは!!!」
「おう、浮浪人んとこの後輩か。」
「はい、ジャン先輩の後輩です。」
「大変だなあ、あいつの後輩は。」
「先輩そういうこと言える立場じゃありませんよ。」
「え、まじ?」
「本当です。」
「で、何の話してたの?」
「あ、ジャン先輩が泣いてたという話を聞いて…。」
「はっ!?浮浪人が泣いたぁ?」
零兎様の口がガバッと開いた。
「うわ、何してるんですか先輩!」
どうやら顎が外れたようだ。後輩君が頑張って直している。
「で、その直前にジャン先輩と話していたことがあって…。」
顎を後輩君によって直され中の零兎様はフェリーの話を聞くと後輩君のように渋い顔になった。
「ん-、君はさ、浮浪人のこと好きなの?」
「へっ、私がジャン先輩のことを?ありえないです!!!天地がひっくり返ってもありえません!!!!!」
「直球すぎます先輩!!!!」
フェリーが早口でまくしたて、後輩君が零兎様にツッコミを入れる。
「あちゃあ…ま、取り敢えず浮浪人に会いに行ったら?」
「え、あ、そうでした!!!任務に行かせなければ!!!!」
そういってフェリーは走った。
「…あの二人って結構こじれてますね。」
「なー。あんなもどっかしいのを見るのは初めてだよ。同性としてはちょっと理解しがたいけど。」
その後二人で色々と話しを繰り広げていたことはフェリーは知らない。
「ジャン先輩!!なんで急に任務受けるなんて…。」
「あーなんか目ぇ覚めたみたいな?」
「な、何言って…!!」
「ーーーフェリー。」
「な、何ですか。」
「この任務が完遂できたら、先輩後輩やめようか。」
「それって…。」
「上官に頼んで他の人の所に配属できるようにしてあげるよ。こんな浮浪人のところじゃなくて、真面目に任務受ける人。」
「何で…。」
「何でか?もう、疲れたからだよ。」
情報が多すぎてフェリーの中で収集し切れていない。つまり、ジャン先輩はフェリーの先輩じゃなくなる、ということか。
フェリーは、何かしたのだろうか。そんな、嫌われるようなことを。
「ジャン先輩、私…。」
フェリーは任務に向かおうとするジャン先輩の背中に何かを言おうとする。
だが、何を言ったらいいのか分からなかった。
喉奥まで出てきているのに、言葉にならない。感情だけが先に出てきて、言葉を紡ぐことができなかった。
「どーしたの、フェリー。」
ジャン先輩がフェリーのほうを見ずに尋ねる。
いつもなら、こっちまで来てフェリーの顔を覗き込んでくるのに。
「早くしないと置いてくよ?」
いつもだったらそんな突き放したようにジャン先輩はフェリーに声をかけない。
なんで、なんで。
疑問ばかりが溢れ出してくる。フェリーは、こういうことを望んでいたはず。なのに、
どうして。どうしてこんなに胸が苦しいの?
「ジャンせんぱ…。」
「フェリー。俺は優しくないから待てないよ。早く来て。」
冷たい。そこでフェリーは気づく。
今まで、ジャン先輩の何を私は見てきたのだろうか、と。ジャン先輩のことを勝手にフェリーはお調子者で頼りにならない先輩だと思ってきた。だが今フェリーの前にいるのは冷たく、諜報員として任務を全うしようとする人がいる。人を簡単に殺す。虫さえ殺せないジャン先輩。心優しいジャン先輩が、虫よりも体の大きい者の命を今奪おうとしている。いや、実際に今まで何万と奪ってきたのだ。
ああ、そうか。先輩はもう…誰かを殺してしまうのが嫌だったのか。もう誰の命も奪いたくないからこうして馬鹿なふりをして、自分はもう戦わないと、戦えないと意思表示していたのだ。なのに。
後輩君がいつか言っていた言葉が思い起こされる。
『自分と先輩は、相棒…つまりはパートナーなんです。』
フェリーは、ジャン先輩のためには何もしてこなかった。しようとしなかった。
何もわかろうとせずに。なのに先輩はそんな私を暖かく見守ってくれた。どうして...気づかなかったんだろう。
歩き出したジャン先輩の背中にフェリーは言葉を投げつける。
「馬鹿、阿保、ダンゴムシ!!!!」
「…フェリー早く行こう?」
フェリーは自分のボキャブラリーの中で最大限の暴言を吐く。
なのにジャン先輩は止まってくれない。
悔しい。なのに。何もできない自分がいる。
そして目的地まで着く。
すると突然敵が襲ってきた。奇襲だ。
「ジャン先ぱ…」
「フェリー。この任務が終わったらさ。」
その攻撃をすべて流していく。それは流麗で、後輩君とはまた違った美しさ。熟練された者の動き。
「言いたいことあるから。フェリー、生き残ってよね。」
フェリー、君は嘘つきだ。
いつだって俺を任務に連れて行こうとするしすぐ怒るし。全然いい後輩じゃないよ。
何度俺の元から後輩が離れていったことか。その度に上官に怒られてさ。それでもう全部どうでもよかったのに。なんでフェリーは離れていかないの。俺をそんな目で見るの。理解しようとするの。俺が手放した物を。いちいち拾っては俺に投げて。ハチャメチャな行動する割に超が付くほどのお人好しでさ。ほんとむかつくしさ、むしゃくしゃするんだよ。ほんと、なのに憎み切れないしさ。嫌いだよ、フェリー。君が嫌いだ。
ジャンはどんどん敵を倒していく。そこらのやつに負けるほどジャンはやわじゃない。
フェリーが驚いているのがわかる。
どうだ、お前の先輩は強いだろ?零兎ほどじゃねえけど。
「ジャン先輩、右です!」
「オーケー!」
すべてがモノクロに見える。もう一度言うが、こんな障害物ごときでやられるジャンではない。どんどん進んでいく。
「左!」
「後ろは私が!」
フェリーが後ろにいる。それだけで安心できる。
「ふふっ…。」
「先輩!!!笑わないで戦闘に集中してください!!!」
ほんと、君は何も知らない愚かな奴。
ごめんね。
「な、この建物の中には人がどうしてこんなに四次元ポケットみたいに溢れてくるんですか!!」
「どんどん殺せばいいよ。」
ほんと、涙が出てくる。最後、俺は笑っていられるのかな。
ジャンの前に立ちはだかる人物がいた。
「ああ…久しぶりだねえ、イラク。」
フェリーが息をのんだのがわかる。
「ああ、久しぶりだなあ兄さん。」
今ジャンの前に立っているのはジャンに瓜二つだった。
「もしかしたらとは思ったけどさ…まさかこんなところで再開できるなんてさ。もしかして運命だったりする?俺たち。」
「僕も会えて嬉しいよ、兄さん。こんなところで再会なのは残念だなあ。」
「俺も残念だよおイラク。今俺は最愛の弟を殺すべきか迷ってるよぉ…。」
「兄さんは本当にお人好しだなあ。ここで僕が兄さんを殺すかもしれないのにねえ。」
「そうしたら折角の兄弟が死別だよお?悲しくなーい?」
「僕は別に?」
「えー兄さん悲しい。」
「兄さんは本当にお人好しで…馬鹿だねえ。」
「それはイラクもでしょ?」
「んなわけないでしょ。僕は残忍で有名なんだからあ。」
「えーイラクが?みんなイラクのことを知らなすぎるんだよお。」
「兄さん。そろそろ殺してもいいー?」
「兄さん、弟とは戦いたくありませーん。」
その言葉を表すように、ジャン先輩は銃をポイっと捨てた。
「兄さんは僕をなめてるの?」
「そんなわけないでしょ。だから俺はイラクのところに行かなかったんだから。」
「そうだよねぇ…。」
すると突然イラクが穏やかな雰囲気とは打って変わったように話し出した。
「僕は兄さんが僕の元を離れていった時、絶望したんだよ…。」
「なんで?」
「だって兄さんだけは僕の味方でいてくれると思ってたのにさあ!なのに諜報員組織に入ってさ!!兄さんが殺しをして有名になって!!!なんで兄さんは人を殺しちゃったの!?虫も殺せないくせに!!!それで僕からどんどん離れて行って…!!!許せないんだよお!!!!僕を見捨てて!!!!僕を見捨てた兄さんが僕は憎い!!!!!」
「…イラクも、人を殺した。」
「ああそうだよ!!!だって兄さんが婚約とか!!!ありえないじゃん!!!僕を置いて兄さんだけ幸せになるなんて許さない!!!!許されないんだよ!!!!」
「…その人は俺の師匠だったんだよ。」
フェリーは、ジャン先輩の声が少し震えていることに気づく。これは、多分ジャン先輩をよく知らなければわからないほど。きっと、イラクとやらは分かっていないのだろう、ジャン先輩をにらみつける目は変わらずさっきよりも鋭い眼光を放っている。
「それが何だっていうんだよ兄さん!!!!あんな幸せそうに笑う兄さんなんて大っ嫌いだ!!!!今も後ろに女なんて従えちゃってさあ!!!いいご身分だねほんと!!!!」
「女…。イラクは俺が女のところで笑っているのが嫌なの?」
「知らないよ!!!でもむしゃくしゃするんだよお!!!!うざいんだよお!!!!兄さんは、不幸になるべきなんだよ!!!!」
イラクの声が三人以外誰もいない館に響き渡る。
フェリーは、何も言えなかった。胸が苦しかった。
ジャン先輩は、苦しんできた。それはフェリーもやっと気づいた。
それくらい、ジャン先輩は気持ちの隠し方が上手かった。
分かっているようで、実は少ししかわかっていない。ジャン先輩は、一人で全部抱え込む人だから。でも、それで終わらせるようなフェリーではない。
「ジャン先輩は…。ジャン先輩は!!!!!!」
大声で言う。誰も何も言えないように。今すぐにでも力を抜いたら崩れ落ちてしまいそうな足を踏ん張るために。今ぐらいはフェリーの話を聞かせたっていいだろう。だってさっきまで蚊帳の外だったんだから。
「不幸になるべき人なんかじゃないです!!!!!というか不幸にしません!!!わ、私が!!!保障します!!!!というか私が幸せに?する?ので?不幸になんかなりません!!!!!絶対に!!!!ジャン先輩は優しい人です!!!!だから、皆さんに好かれています!!!!そんなジャン先輩の幸せを!!!貴方ごときが!!!!決めっ…。」
「フェリー…?」
「決めてんじゃねーよっっっっっっ!!!!!!!!!」
い、意外と大きな声が出てしまった。
「ぶっ…。」
「な、ジャン先輩!?笑わないでくださいよ!!!!」
「ご、ごめん…。フェリーのそんな口調初めて聞いたからさあ…。」
一瞬和やかな雰囲気になるが、イラクによって引き戻される。
「…貴女、兄さんの何?」
「…。何者か、ですって?」
そんなの、決まってるだろうに。私はジャン先輩の後輩であり、そして…
「相棒です。」
そう。例え、何があっても。あの時からのあの想いよりも。
私にとってジャン先輩とは、唯一無二の相棒なのだ。ジャン先輩以外の誰にも務まらない、私の相棒だ。
イラクはその言葉を聞き、高らかに笑った。
「ふっ、あはははははは!!!じゃあ貴女は兄さんにとってゴミだ!!!!さっきから見ていれば貴女は兄さんに守られているだけのただの足手まとい、役立たず!!!!そんな人に兄さんの相棒が務まると思う!?無理に決まっているでしょお!!!!兄さんの相棒は僕だしねえ!!!!!あーははっはははは!!!!ほんと、笑えてくるよお!!!!」
そう言い、イラクはフェリーに銃口を向ける。
いや、貴女の目は節穴か?ジャン先輩に敵が襲ってくる方向とか指示したの全部私ですけど?っていうか私がいなかったらぶっちゃけジャン先輩さっき死んでましたけど?さっきも言いましたよね?私とジャン先輩は相棒なんですと。だから接近戦の不得意な私が指示担当、ジャン先輩が実行担当なんですよ!!!!
…と言えたらよかった。
「フェリー。俺の相棒は、君だけだよ。」
そう耳元でジャン先輩が囁いた。気がした。
「兄さん!?」
「ジャン先…輩……?」
ドサ、とジャン先輩がフェリーの目の前で倒れた。
確実に急所を撃ち抜かれ、致命傷を負った。それを表すかのように、フェリーが立っている元まで大量の血が流れてきた。
上手く、呼吸ができない。
「なんで?なんでそんな女かばうのさ!!!!!意味わかんない!!!!なんで!?ねえ、なんで!?なんでなんだよお!!!!!!!!!!!!!!!」
ヒステリックに叫びだすイラク。だがフェリーにとってその声は忌むべき声へと変わっていく。
『言いたいことあるから。フェリー、生き残ってよね。』
それは。その意味は。フェリーだけ、生き残れ。
フェリーの思考は停止し、視界は暗転する。
「貴方が撃ったんですよ。もしかして…気づいていませんでした?」
ああ、誰かの声がする。
貴方は誰?貴方は…どこにいるの?
私は…誰___。
『フェリー。俺の後輩。俺の自慢の相棒。』
さようなら、最愛の人_____。
「先輩。今夜の組織内新聞で騒がれています。」
「あーあの事ね…。」
【組織の諜報員が心中か!?】
敵が全員皆殺しにされ、敵のボスも殺されていた。そしてその傍にはジャン・クルーマンと、フェリー・二ラード。二人は穏やかな顔をし、お互いを見つめあうように倒れていたという…。
「どう思いますか、これ。」
「んー私はまあいーんじゃね?とか思ってる。」
「他人事ですね…。」
「まあね?実際他人事だし。」
そう言って先輩がグイっと酒をあおった。
「…先輩、酒。普段飲まないのにどうしたんですか?」
「さあね。今日はどこにも出かけないよ。後輩も自室に行きな。」
「わかりました、先輩。」
キイ、と201号室の扉を閉め、廊下に出る。
『後輩くーん。』
『後輩君。』
「なるほど、人を名前で呼ぶとこんな気持ちになるんですね。」
零兎は、後輩がいなくなった暗い部屋で酒をあおる。
そして、ふーっとため息をつくと、一つ結びにするためのゴムがパチンとはじけ、床に落ちた。それを、何を考えているのかわからない瞳で見つめる。
『零兎ー。』
『零兎様。』
「零兎って…呼び出したのどこのどいつだよ。」
それでも生きなくてはいけない。
残されても、苦しめない。
つくづく思う。この世界は、残酷だ。
零兎は月光を眺めながら酒をあおっていた。