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第九十六話

結婚の準備は思っていた以上に手間で困難の連続だった。とにかくやる事や考えることが多い上に、式については俺の世界に合わせるという事で決まったがうろ覚えの部分も多く中々先に進まない事態に陥る事も頻繁に起きた。

毎日のように打ち合わせや相談をしたが一度で決まるはずもなく、喧々諤々の議論を交わしたりしたなぁ。今となっては懐かしい思い出になっているが当時はバーテンダー・教師・俳優の三足の草鞋を履いていたのでとにかく時間が足りなくて精神的にも肉体的にもギリギリの毎日を過ごしていたから過労で倒れなかったのが奇跡だよ。俺も雪音達も目の下に大きいクマを作って、萎れた花みたいな感じで日々生活していたから全員ヤバかったのは間違いない。

それでも一つ一つ終わらせていけばゴールは見えてくるもので、中盤を過ぎたあたりからは大分楽になったし、普段通りの生活に近い形に落ち着いたのでそこからはとんとん拍子に進んで言った感じだ。

そうして一年が過ぎ五月を迎えて明後日には結婚式が開かれる。ようやくここまで来たかと言う達成感、充実感と共にいよいよ家庭を持つことになるのだなと言う実感も湧いてくる。遅い!と怒られそうだが今までがあまりにも多忙だった為実感を持つ暇もなかったと言い訳させてもらいたい。

――よく結婚はゴールではなくスタートだと言われるが確かにその通りだと思う。これから何十年……いやこの世界での平均寿命は百二十歳なので百年は一緒に過ごすことになるのだから、本当に長い長い道を共に歩むのだ。時には喧嘩をし、時にはお互い顔も見たくないと思うほど険悪になる場合もあるだろう。それでも一緒に人生と言う名の道を歩いて行きたいと心から思う。

そして死ぬ時は子供や孫に看取られながら苦しまずにすっと逝きたいものだ。……ちょっと感傷的になってしまったがこれは紛れもなく俺の本心だ。とはいえまだ結婚もしていないのに考えが飛躍し過ぎだな。いかんいかん。

あぁ、そうだ。大事な事を忘れていた。今年の三月を持って俺の二年間にわたる教師生活は終わりを告げた。丁度卒業式と重なっていた為一緒に退任式を行われる事となった。まだ二ヶ月しか経っていないがあの時の光景を鮮明に思い出せる。

卒業式は理事長の挨拶から始まり、お決まりの流れで進み終わる。その後は在校生が別れを惜しんで涙を流したり、親御さんが子供たちの旅立ちを祝ったりと実に感動的で俺もうるっとしたし本来であればここで終了するはずだった。だったのだが理事長が壇上に立ち俺の退任式を引き続き行うと発表した瞬間体育館が地獄と化した。てっきり事前に生徒には連絡しているものだと思っていたが伝えていなかったようで大泣きしたり、退任を撤回するよう大声で請願したり、あしたのジョーよろしく真っ白に燃え尽きて椅子に項垂れていたり、俺の方に全力ダッシュで向かってきて結婚を申し込んできたりと阿鼻叫喚の事態になってしまって暫く収拾がつかなかったんだよな。

「教師という仕事は終わったけどもう二度と会えないわけではないし、そんなに落ち込まないで」

「でも学院では会う事は出来ませんよね?佐藤先生が居たから毎日楽しく学院に通えていたのに……もう終わりです」

「確かに学院では会う事は出来ないけど開店前のお店に遊びに来ても良いし、街で見かけたら声を掛けて貰ったらお喋りしたりできるしさ。なんなら休日に家に来ても良いんだよ」

「本当ですか‼生きる希望が出来ました」

「ははっ、それならよかったよ。あっそうだ。さっき学院では会えないと言ったけど学園祭や文化祭にお邪魔させてもらったら会えるよね。ただ招待制なので先生方から許可を貰わないといけないけど」

「ほぼ確実に許可はもらえると思いますが、もし無理と言われたら全校生徒でボイコットします。佐藤先生と会える機会を潰されるなんて許されませんから」

「えーと……程々にね?先生も話せば分かる人達だしあまり無理はしないように」

「はい。分かりました」

可愛らしく微笑みながら返事をしてくれたけど、多分NGが出たら本気で行動に移すんだろうな。一応理事長と桜川先生に事前に伝えておこう。何かしらの対策は取ってくれるだろうしね。

――とまあこんな感じで生徒達と話をして上手い具合に落としどころを見つけて何とか事態を収拾することが出来た。本当に大変だったけど何とか退任式を終えることが出来た。

その後の話になるが桜は進学せずに久慈宮財閥系列の会社に就職する事となった。何れは財閥のトップになる予定だが、それは早くとも十数年後でありそれまではいくつか系列の会社で実績を積む必要があるらしい。小さい頃から帝王学を学び、英才教育を受けていたのだからわざわざ実績を積む必要性は無いのでは?と思い桜に聞いてみたら納得の答えが返ってきた。

「確かに基礎的な知識は幼少の頃から教わってきましたが、それだけでは経験が伴っていない為どこかで必ず躓いてしまいます。重要なのは知識を学び沢山経験する事でありどちらかが欠けてしまっては片手落ちになってしまいますし、社会に出て働くことで初めて見えてくるものもあります。なので単に実績作りというだけではなく人間として成長するために必要なんですよ」

「確かにその通りですね。なんか浅はかな質問をしてしまい申し訳ないです」

「そんな事はありませんよ。分からなければ聞くというのは大事ですし、これからも質問があれば何でも聞いて下さい」

「有難うございます」

俺よりもよっぽど大人だなと感心してしまった。それと同時に桜に負けないくらい頑張らないとと言う気持ちにもなった。

さてそんな桜だが四月から働き始めているのでもうすぐ一ヶ月になる。少しは職場にも慣れてきたタイミングで結婚式をすると言うのは負担が大きいと思うので出来るだけサポートはしているが少し心配だな。今までとは環境がガラッと変わって落ち着く間もなくまた生活が変化するんだから心身共に参ってしまってもおかしくはない。一応メンタルヘルスを良好に保つためにナノマシンを入れているみたいだが、彼氏として、そして夫として全力で支える所存だ。

近況としてはこんな所だろうか。長々と回想してしまったが過去を振り返るのは重要だし、色々と気付く事もあるのでたまには悪くないのではないだろうか。そんな事を思っているとコンコンと扉をノックする音が聞こえたので返事をして扉を開ける。

「拓真さん。最終確認の準備が出来たようなので呼びに来ました」

「分かりました。では行きましょうか」

千歳と共に会場へと向かう。今いるのは結婚式場で明後日に行われる結婚式の最終確認に来ているのだ。何度も打ち合わせをしているので問題ないとは思うが、万が一にも見逃しがあったら洒落にならないので入念にチェックするつもりだ。

まずは衣装の確認だ。俺はモーニングコート、雪音達はウェディングドレスを着るがまさに豪華絢爛。特にドレスに関しては一般的な物とは違い宝石が散りばめられていて見ているだけでうっとりしてしまう。また形状は王道のAラインタイプなので会場を選ばずに着られる。男性だとAライン?となる人も多いと思うので簡単に説明するとウェディングドレスと聞いてパッと頭に思い浮かぶそれだ。雪音達はスタイル抜群なので試着した際に女神が降臨したかと勘違いするほど美しかった。しかも全員おっぱいが大きいので非常に魅力的な胸元になっていたのも追記しておく。谷間がくっきり、はっきり見えていてボリューム感も凄いがいやらしさが全く無いのはあまりにも美人だからなのだろう。

一方俺の方は服に着られている感が凄まじい。スーツは取引先に伺う際に着ているのでそれなりに着こなしている自信はあるが、モーニングコートなんて試着した際に見たのが初めてだったからな。雪音達は格好良いと褒めてくれたし、デザイナーの方もとてもお似合いですよと言ってくれたが自分的には七五三の子供みたいな感じがしてどうにも落ち着かなかった。

とはいえ一緒に一度しか着る機会がないだろうし恥ずかしさを押し殺して当日に臨むつもりだ。

「よし、衣装は問題なさそうですね。次は会場のチェックに行きましょう」

「分かりました。……少しだけ拓真さんの結婚衣装姿を見たかったですが二日後の楽しみにしますね」

「それを言うなら俺も同じですよ。皆のウェディングドレス姿を見たいですが我慢します」

「ふふっ、お互い少しの辛抱ですね」

こういう会話は結婚する時にしか出来ないので滅茶苦茶嬉しいな。この時間がずっと続けばいいのにと思わなくもないが、それだといつまで経っても夫婦になれないのでそれはちょっと嫌かな。なので今この瞬間を大切にしていこう。

そんな事を考えながら会場へと向かい当日の段取りを確認する。今回招待する人達は親族・それぞれの友人・職場関係者になり当初は二百名を超える人数だったが権力者や地位の高い人たちが多く参加する為安全面やセキュリティを考慮して人数を絞る事となった。結果約百名に招待状を送ったがそれでも結構な人数ではないだろうか?

ちなみにご祝儀は頂かないし、会費制でもないのでゲストへの金銭的負担はゼロになっている。結婚式費用を回収できないしメリットが無いのでは?と思われるかもしれないが各方面が色々と便宜を図ってくれたので実質的な出費は百数十万で済んでいるので資金回収できなくても問題は無い。では何故無料にしたかと言うとご祝儀を頂く方式を取ると金額が洒落にならないからだ。先程も言ったが権力者や地位の高い人たちが大勢参加する上に、結婚式に参加するのが初めての人しかないのでここぞとばかりに大金を包んでくると雪音に言われてしまった。最低でも数百万以上、人によっては億単位になるみたいでとてもではないがそんな大金を受け取れるわけがないし、引き出物で相殺も出来ないのでそれだったら無しにした方がいいのでは?と言う話になりご祝儀・会費は無しに決定したという訳だ。

とまあそんな内々の話もありつつ今に至るという感じかな。頭の片隅で振り返りつつも確りと確認をしていき全てOKだったのでこれで全て終わりだ。この後は特に予定が入っていないので適当に街をぶらついてから帰ろうかな。

「皆さんお疲れ様でした。この後なんですけどもしよかったら街に行って遊びませんか?」

「賛成です。こうして全員が集まる機会が最近は無かったですし、お話もしたいので是非」

「そうですね。時間的にもかなり余裕がありますしご一緒させて下さい」

「それじゃあ久々に街に繰り出しましょうか」

話が纏まった所で近くの駅へと向かい街へと移動する。特にやることを決めていないのでウィンドウショッピングをしたり、カフェでお茶でもして過ごすことになるだろう。最初は俺が考えていた通りにぶらぶらと散策していたが途中で揚げ物の良い香りが漂ってきてフラフラと引き寄せられるように向かうと、よく分からない食べ物があった。見た目は揚げパンに近いが表面がパリパリしているし薄皮なのでパンなのか別物なのか判別がつかない。うーん……と首を傾げていると菫が答えをくれた。

「これはパンツェロッティと言うイタリア発祥の揚げピッツァですね」

「えっ、ピザなんですか?包んでいるので全然ピザっぽくないですが……」

「見た目は確かにそうですが中に入っている具材はトマトソースとチーズが基本なので焼いているか揚げているかのちがいですね」

「へー、そうなんですね。でも揚げピザってアメリカ人が好きそうな感じがしますがイタリア発祥だとはかなり意外です」

アイスを揚げたり、ハンバーガーにハンバーガーを挟んだり、揚げバターだったり、パンケーキを揚げたりと日本人の俺には理解が及ばない食べ物を開発しているからな。それを考えると国民食ともいえるピザを上げるなんて当然するだろうなと思っていたので違っていたことに驚きだ。

「美味しそうですけどカロリーが凄い事になりそうですね」

「炭水化物を油で揚げているのでそこそこにはなるのではないでしょうか。一つなら大丈夫ですが、美味しいからと二つ、三つと食べると太ってしまいますね」

「ですよね。でも揚げ物や炭水化物って美味しいんですよねぇ。頭では控えた方が良いのは分かっているんですけど、ついつい手が伸びてしまって後々後悔するのが毎度のパターンなんです」

「あるあるですね。私も仕事柄太る事は厳禁なので気を付けているのですが、たまに食べるポテトチップスが美味しくて一袋空けてしまう事もありますし」

「まさに禁断の果実という訳ですね。俺も今は二十代なので食べ過ぎても何とかなっていますが、中年になると太りそうで怖いです」

「……拓真さんがまんまるころころの体型になってもそれはそれで可愛らしいですし有りですね」

「いや~、流石に中年オヤジの丸っこい身体は可愛くは無いのでは?」

「そんな事はありません。今の筋肉質で引き締まった体型も格好良いですが、まんまるの体型も愛嬌がありますし、絶対に可愛いと思います。雪音もそう思うわよね?」

「――ふふっ、ちょっと想像してみたのですが物凄く可愛かったです。丸く突き出たお腹に埋もれたり、ぷにぷにの手で触られたりしたら凄く気持ちいと思います」

「分かります。なんかテディベアみたいで抱き着きたくなっちゃいますよね」

雪音の話に桜も同意見みたいだがテディベアみたいに愛くるしくて可愛らしくは無いのでは?想像してみて欲しい。中年の太った男が美女にお腹を触られたり、身体をぷにぷに突かれている姿を。……無性に殺意が漲ってきたぜ!そこはお前が居るべき場所じゃねぇと一発かましてやりたい衝動が沸々と湧いてくるな。仮にこれがイケメンだったら絵になるなぁで済むんだけどね。

あれだ。エロゲやエロ同人で美少女の相手が小汚いオッサンだったり、むさ苦しいオヤジの時に感じるのと同じやつだ。滅茶苦茶腹が立つし、もう二度とこのメーカー・作家の作品は買わねぇと決意したのを今でも思い出せる。まあ、そういうのが好きな人もいるだろうし一概に悪いとは言えないけど俺は絶対に受け入れられないな。

ちょっと話が逸れてしまったが、お店の前ではいつまでも喋っていると迷惑なのでお持ち帰りで人数分を買う事にした。ちなみに幾つか種類があったが選んだのはスタンダードなトマトソースとモッツァレラチーズの揚げピザだ。揚げ立てを提供してくれるらしく五分ほど待つ事になったがそれぐらいなら全く問題ない。そんなこんなで少し待った後出来立てを貰い近くのベンチで食べる事に。

「んっ。美味しい。生地がパリパリだし思ったよりも食感が軽いので食事と言うよりお菓子感覚に近いのかな?それに焼いたピザほどお腹に溜まることも無いし小腹が空いた時に丁度良いかも」

「確かにご飯として出されると物足りなさを感じますが、おやつとしてはいい感じですね。作り方も簡単そうなので今度三時のおやつで作ってみましょうか?」

「是非お願いします。でも食べ過ぎないように小さ目でお願いしてもいいですか?」

「ふふっ、分かりました。健康第一ですしそうしましょう」

雪音達が作る食事は栄養バランスやカロリー計算を確りした上で作っているので、このパンツェロッティもそこら辺を考慮して作ってくれるはずだ。だからと言って食べ過ぎたら太るし、身体にも悪いので注意しないといけないけどね。なんてことを思いつつ最後まで美味しく頂きました。

「ふぅ。お腹も満たされましたし、散策の続きをしましょうか。――どこか見てみたいお店なんかはありますか?」

「そうですね……。新作のメイク用品が発売されたので見に行ってもよろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ。お店がどこにあるか分からないので小百合に案内してもらってもいいですか?」

「お任せ下さい。それでは行きましょう」

どうやらデパートの女性用品売り場にお店があるらしく、そこまでしばらく歩いて移動する事になった。そうして辿り着いた売り場だが当たり前だけど女性しかいないし、置いている商品も何が何だかよく分からない。たくさん種類があるがそんなに必要なのだろうか?俺の家で雪音達がメイクする時は五分くらいで終わるし、道具も三つか四つくらいしか使っていなかったのでこの多さは驚きだ。

すっぴんでもとんでもなく美人なんだからそこまで化粧にこだわる必要はないんじゃない?と思うがそれを言ったら滅茶苦茶怒られそうだ。世の女性が化粧に向ける情熱は半端じゃないからな。俺が居た世界でもメイク前とメイク後で別人になっている人もいたし、恐ろしいぜ。

戦慄を覚えている俺の横で女性陣が真剣な表情を浮かべながら吟味している。こういう時は話しかけない方が良いので頭を空っぽにして突っ立っていよう。

「このチークの色味は好みなのですが、ラメが入っているのがネックですね」

「どうしても派手に見えてしまいますし、普段使いには向かないと思いますよ。パーティー等で使うようとしては良いのですが」

「これのラメ無しがあれば良かったのですが無さそうなので違うのを探して見ます」

「それじゃあ私も一緒に探しましょうか?」

「お願いします」

透香と千歳の話を聞いていたが多少派手でも普段から使ってもいいんじゃないかな。別に光が当たったミラーボールみたいにギンギラギンになるわけでもないし、そこまで気にするような事じゃないと思うが透香なりにこだわりがあるのだろう。門外漢は黙ってみているのみだ。

……しかし物凄い視線を感じるな。街をぶらついていた時も感じていたが人が密集している空間だと尚更強くなる。まあ下着屋さんに連れていかれた時と比べれば温い方だがじぃ~と見られているとちょっと居心地が悪い。しかも手持無沙汰でやる事が無いのがまたね……。雑貨屋とかだと適当に商品を見て躱せるんだけど、化粧品売り場だとそれも難しい。口紅とかファンデーションを手に取ってこれはいい商品ですね!なんて言おうものなら犯罪者を見るかのような目でドン引きされるのは間違いない。というか自分で言っておいて気持ち悪かったからな。

でもこのまま何もせずにいるのも暇だから笑顔で手を振ってみようかな。

「あぅ……。格好良すぎて死にそう」

「私に手を振ってくれるなんてこれは気があると思って良いのかしら?とうとう憧れの佐藤さんとお近づきになれるのね」

「はぁ?何言ってるの?佐藤さんはわ・た・しに手を振ってくれたのよ。そういう勘違いはやめてもらえるかしら?」

「えっ?なに、喧嘩売ってるの?いつでも相手になるわよ」

「いい度胸じゃない。後悔しても知らないから」

手を振って一分で友人同士の喧嘩が勃発してしまった。いやいや、喧嘩っ早すぎだし特定の誰かに向けてやったわけではないので争いはやめて欲しいのだが。――それよりも今にもお互い殴り掛かりそうな二人を止めなければ。勇気を出して一歩踏み出したところで近くに居た店員さんが笑顔で一言。

「この場で喧嘩するなら警察を呼びます。そういうのは外でして下さい」

「「はい……」」

勇者がここに居た。だが笑顔だったけど目は笑っていなかったし、纏う雰囲気が悪鬼羅刹そのものだったのできっと彼女は修羅の世界で生きてきた猛者なのだろう。何故店員をしているのかは分からないがきっと人には言えない壮絶な人生を歩んできた結果この仕事に落ち着いたのかもしれない。深入りすると二度と戻れなさそうな闇を感じるのでこれ以上詮索をするのはやめよう。恐ろしい人もいたものだと心胆を寒からしめていると雪音達の買い物が終わったらしく声を掛けてきたので早々にデパートから退散する事にした。

「すみません。ちょっと疲れてしまったのでこのまま家に帰っても良いでしょうか?」

「色々と見て回りましたし、私も少し疲れたので帰りましょう。歩いて帰るのが辛いようでしたらタクシーを呼びますがどうしますか?」

「そこまで疲れている訳ではないので電車で帰りましょう」

「分かりました」

こうして帰路に着くのだった。

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