第八十二話
授業が終わりお昼休みになったのでお邪魔していた教室を出て、桜のクラスへ向かう。職員室で間違って早く来てしまったことをメールで伝えた時に一緒にお昼を食べましょうと誘われたのだ。最初は桜が職員室まで迎えに来ると言ってくれたのだが流石にそれは悪いので俺が行くと伝えておいたので今向かっているわけだ。
廊下ですれ違う生徒達から驚かれたり、挨拶をされたりしながら二年C組に到着したので近くに居た生徒に声を掛けて桜を呼んでもらう事にした。
「拓真さん、おはようございます」
「おはよう」
「わざわざご足労いただきすみませんでした」
「いやいや、全然気にしなくていいよ。俺が迎えに行きたくて来たんだし。――それじゃあこのまま学食に向かっても大丈夫?」
「はい、大丈夫です。あっ、そうだ。友達もお昼を一緒したいと言っているのですが良いでしょうか?」
「構わないよ」
「有難うございます。では友人に声を掛けてきますので少々お待ちください」
「んっ、分かった」
少しして桜が数人の友達を連れて戻ってきたので、全員で学食に向かう事にする。学食には学院の案内で見ただけなのでどんな感じなのか結構ワクワクしている。俺が通っていた高校は学食は無かったのでどういうシステムなのか分からないから教えてもらわなければいけないので、そこは少し恥ずかしいが初回だけだし我慢しよう。
などと考えている間に着いたので両開きの扉を開けて食堂の中へ入る。外からは分からなかったが広々とした空間が広がっており、天井も高く開放的な印象を受ける。そして座席数がかなり多い上に、席の間隔がかなり余裕があるのでゆったりと食事が出来そうだ。どこの学校もこんな感じ……ではないだろうな。こんな高級な学食が一般的だったら入学金とか学費とか凄い事になりそうだし。日本王国三大高校の一つだからこそここまで力を入れられるのだろう。
「えーと、まずは食券を買わないといけないのかな?」
「はい、そうです。あちらの券売機で食べたいものを選んで端末で支払う形になります」
「そっか。……今更だけど凄い並んでいるね。少し出遅れただけでこれだと遅くに来たら殆ど売り切れているんじゃないか?」
「人気のメニューはそうですね。日替わりランチやかけそば、かけうどんなどのあまり人気が無いメニューは残っていますが」
「なるほどね。さて、俺達の順番が回ってくるまで売り切れてなかったらいいだけど」
桜と話しながら長蛇の列の最後尾に並ぶ。ある程度待つ事になるだろうなと思っていたが、思いのほかスムーズに捌けていきそれほど待たずに俺たちの番になった。
「さて、何を食べようかな。あまり重いものだと胃もたれしそうだし、あっさりした物の方がいいか」
「それでしたらお刺身定食はどうでしょうか?さっぱりしていますし、消化にもいいのでお勧めですよ」
「よし。それじゃあ桜のお墨付きもある事だしお刺身定食にするか。桜は何にするの?」
「私はお弁当を持ってきているのでそちらを食べます」
「そうなんだ。――あれ?学食で持参した弁当を食べても大丈夫なの?そういうのは禁止されていると思っていたんだけど」
「他の学校はどうか分かりませんが、四季鳴館学院では許可されていますよ」
「よかった。もし禁止されていたら桜と一緒にお昼を食べられなくなる所だったよ」
「うぅ……、不意打ちでそういう事を言うのはズルいです」
耳まで真っ赤にして恥ずかしがる桜が可愛すぎる。ご飯を食べる前から心が満たされてしまったよ。もう昼は食べなくてもいいかな?なんてバカップル思考全開でいたが、ふと視線を感じて周囲に目を向けてみるとこちらをじぃーと見ている生徒たちが居た。
あっ、これは駄目なやつだと直感で理解してすぐに頭から煩悩を追い出し、さっさと支払いを終えて受け渡しカウンターへと向かう。ここは学院で、俺は教師としてこの場に居るんだからそれにふさわしい態度や行動をしなければいけないのに失念していた。いくら桜が可愛すぎたからといって許される事ではないので今後は気を付ける事にしよう。
心のメモ帳に注意事項として記載したところで、定食の受け渡しカウンターに着いたので料理が出来上がるまで少し待つ事に。ぼけっと待つのも暇なのでカウンターから見える厨房を見ながら時間を潰すか。
学食の厨房といえばおばさんたちが忙しなく動き回りながら、テキパキと料理を作っていくイメージだったが見た感じ全然違った。料理は全自動で作られていて、スタッフの人は簡単な盛り付けをするくらいで物凄く効率よく作業をしている感じだ。俺が居た世界でも自動で料理をする機械はあったが、ごく限られた料理しか作れなかったはずだ。ここのように数十種類のメニューが全自動で作られるのを見ると技術の進歩って凄いなと感心してしまう。あとは食堂のおばちゃん――じゃないな。綺麗なお姉さんばかりなのも特筆すべき点だろう。出来る事なら美人な女性の手作り料理を食べたい所なのだが、残念ながら全て機械の手料理となっているのが悔しくて仕方ない。あまりの悔しさに心で滂沱の涙を流していると俺が注文した料理が出来上がったようで手渡される。お姉さんにお礼を言ってから空いている席へと向かう。
「よいしょっと。まだ来てない人もいるし少し待とうか」
「はい。ではその間にお茶を持ってきますね」
「悪い。お願いします」
桜が気を利かせてお茶を持ってきてくれるというのでお言葉に甘える事にする。そうして暫し待っていると桜が戻ってくるのと同時に友人も来たので着席を待ってから手を合わせていただきますをして食事を始める。
「んっ。美味しい。水っぽかったり、パサパサしたりしていないし脂がのっていて最高だな」
「冷凍した魚を使っておらず、その日市場から仕入れた獲れたての魚を使っているので鮮度は良いですし味も冷凍ものと比べてかなり違うはずですよ」
「この定食には六種類の刺身があるし、生の魚を使っているとなると普通に二千円以上してもおかしくないけど五百円で食べられるんだもんな。正直採算は絶対にとれないと思うけど赤字覚悟の目玉商品として売り出しているのかな?」
「その辺りは流石に私も分かりませんが、他の料理もかなり良い食材を使っていると聞きますし特別なルートから安く仕入れているのか、はたまた拓真さんが仰ったように赤字覚悟で仕入れているのか。もしくは全く別の方法かもしれませんね」
「うーむ、謎だな。でもこんな美味しいご飯を食べられるなんて学院の生徒が羨ましいよ」
「むぅ……。拓真さんの舌を唸らせるなんて……。私もまだまだ精進が足りないという事ですね」
桜の手料理の方が美味しいよと言おうと思ったが、ほぼ確実にバカップルモードに入るので寸前で口を噤む。メニュー選びの際に周りからじぃーと見られてしまい今後は注意しようと決めたばかりなのにすぐに同じ過ちを犯すわけにはいかない。
そんな事を思いながらもぐもぐと食べていると気が付けば平らげてしまっていた。滅茶苦茶美味しくて箸が止まらなかったのもあるけど、量が少ないのですぐに食べ終えたというのもある。そんな俺を見て桜が声を掛けてくる。
「拓真さん。それだけだと物足りないと思いますし、よろしければ私のおかずを食べませんか?」
「それは有難いけど良いの?途中でお腹空いたりしない?」
「大丈夫ですよ。もしお腹が空いてしまったら購買でお菓子でも買うので」
「それじゃあ申し訳ないけど少し貰おうかな」
「はい。それじゃあどれがいいですか?」
「卵焼きときんぴらごぼうを貰おうかな」
「分かりました。どうぞ」
「有難う」
食べ終わった空いた皿に桜がおかずを取り分けてくれる。それを見ていた桜の友人が何か言いたげな表情を浮かべながら口を開いたり、閉じたりしていたので声を掛けてみる。
「何か言いたい事があったら遠慮なく言っていいからね」
「……あの。もしよろしければ私のお弁当のおかずもいかがでしょうか?」
「あっ、ずるい。先生、私のおかずも良ければ食べて下さい」
「私のも良ければどうぞ」
「そういう事なら少し貰おうかな。――なんか生徒にご飯を集っているみたいで非常に申し訳ないです」
「全然そんな事はありません。寧ろ先生に手料理を食べてもらえるなんて凄く嬉しです」
「お弁当自分で作っているの?」
「はい。と言っても朝の残り物を半分くらい詰め込んだだけの手抜きお弁当ですけど……」
「いやいや、それでも凄いよ。俺なんて自分で弁当を作った事なんてないし、毎日料理をしているだけで尊敬だよ」
「も、もう。そこまで言われると恥ずかしいです。でも有難うございます。あっ、もしお口に合わないようでしたら残して下さいね」
「どの料理を美味しそうだし口に合わないって事は無いと思うから大丈夫」
それにこの世界の女性は総じて料理が物凄く上手だからな。物体Xだったり、瘴気を発生させていたり、モザイクが必要な料理を作る人は俺が知る限り皆無なので問題ないだろう。何よりもどのおかずも美味しそうだし何も心配は無い。ということでいただきます。
「んんっ!これは……」
「美味しくなかったでしょうか?先生、無理に食べずにハンカチに吐き出して下さい」
「めっちゃ美味しい!俺の好きな味付けだし、いくらでも食べられるわ」
「最初の反応で美味しくなかった感じだったのでそう言って貰えてホッとしました」
「紛らわしい反応をしてしまってごめんね」
「いえ、私の方こそ早とちりしてしまいすみませんでした」
俺が食べたのは焼き鮭の切り身だが冷めているのにふっくらとしていて、塩気もちょうどいい塩梅だ。焼き加減も火を通し過ぎることも無く、かといって少し生っぽい部分がある訳でもない絶妙な焼き方だ。フライパンで焼く場合とグリルで焼く場合で味に違いが生まれるが、これは多分グリルだろう。皮の部分がパリッと焼けていて滅茶苦茶美味い。
「あれ?食べていて気付いたんだけど骨が一本も無いんだけど事前に骨を取っているのかな?それとも晴らすの部分を使っているとか?」
「下ごしらえの段階で骨は全て取っています」
「そうなると結構手間暇かけているんだね。骨抜きピンセットとかで一本一本取らないといけないし」
「確かに少し手間ではありますが、食べるときに骨を気にしなくていいですし楽ですから」
「それは間違いないね。しかし塩気がある物を食べているとご飯を食べたくなってくるな」
残念ながら定食についていた白米は全て食べてしまったので諦めるしかないのが辛い所だ。とはいえこれだけでも十分に美味しいのでこのまま食べよう。
その後も女子高生の手作りおかずを食べながら昼食の時間は過ぎていく。最初は腹六分くらいだったが、なんだかんだで満腹になったし午後からの授業も頑張れそうだ。さてと、もうそろそろ移動しないといけない時間だし皆に一声かけてから職員室に向かうか。
「もうすぐお昼も終わるしそろそろ戻ろうか」
「拓真さんはこの後授業ですよね?」
「そうだよ。俺は一旦職員室に戻って準備をしないといけないから皆とは途中で別れる事になるけどそれまでは一緒に行こうか」
「はい」
返事を聞きながらそれぞれ立ち上がり食堂を後にする。さて今週は三年生を受け持つことになっているけど何をしよう?雑談は前にしたから、体育館が空いていたら身体を動かすのもありかな。それかグラウンドでランニングとか?……どちらも体操着に着替える必要があるし、この暑さの中運動させるのは酷だろうか。もし熱中症になったら一大事だし冷房の効いた室内で授業をした方が良さそうかな等と考えつつ教室へと向かう。
「おはようございます。それでは時間になったので授業を始めます。今日は皆さんが進路についてどう考えているのかを聞ければと思っています。進学、就職、起業など色々な道がありますがどうするか決めている人はいますか?」
俺の質問に全員が手を上げる。この時期だし進路を決めている人は多いと思っていたがまさか全員どうするか決めているとは……。流石進学校だけあるな。
「それでは就職や起業をするという人は手を挙げて下さい。――あれ?ゼロですか。という事は全員進学希望という事か」
「安定した職種に就くためには大学に出ていないと難しいというのもありますし、将来の事を考えると高卒だと不安がある為大学に行くのは必須かと」
「あー、確かにそうだな。高卒と大卒だと就職率が全然違うし、大企業や公務員を狙うなら進学しないという選択肢は無いか」
「はい。先生の仰る通りなのですがこのまま進学するのはちょっと……。留年して来年受験しようかなと思っているのですが駄目でしょうか?」
「基本的には留年は避けるべきだけど特別な理由がある場合は別かな。山下さんは出席日数も足りているし、単位も今のところ問題ないようだけど」
「――留年したい理由ですが佐藤先生と離れ離れになりたくないからです!一年生と二年生は二年間佐藤先生と一緒に居られますが、私たち三年生は一年間しか一緒に居られません。そんなの不公平ですし、なにより高校を卒業したらもう会えなくなるのが耐えられません」
目じりに涙を溜めながら真摯に訴えかけてくる。俺の任期は二年なので三年生だけ俺が担当できる期間が短い。それは分かっていたことだがまさか留年したいと考える程重く捉えているとは思ってもみなかったのでかなり驚いている。しかも飯村さんの意見にクラス全員が頷いていたので、高確率で他の三年生も同様の考えを持っているとみていいだろう。ここまで慕ってくれるのは嬉しいが、教師として留年させるわけにはいかないし、何よりも絶対に将来に悪影響を与えるのでなんとかして考えを変えさせたい所だ。
さて、どう説得するのがベストかな?あまり待たせると不審がられるし早急に答えを出さなければと猛烈に脳味噌をフル回転させて自分なりの答えを導き出す。
「結果から言うと留年するの反対だ。理由としては君たちにとってプラスになる要素が殆ど無いし、一年分余計に学費がかかってお母様に金銭的負担をかけてしまうというのがある。それに将来の事を考えると特別な事情が無い限り留年は避けるべきだと俺は考えている」
「佐藤先生の仰る通りですが、例え将来を棒に振る事になっても、また母に大きな負担を掛ける事になっても二度と訪れる事が無いチャンスを手放したくはありません」
「…………」
この世界の事情を考えれば飯村さんの言い分も当然だろ。この先男性は減り続ける一方だし、こうして男と会って話す機会は二度と訪れない可能性が非常に高い。そして一番大事なのが高校時代という一番輝いていて、いつまでも色褪せずに鮮明に記憶に残る時期に俺が教師として居ることだろう。自画自賛みたいで赤面ものだが、概ね間違っていないと思う。それを踏まえてどう相手に伝えるべきか……。
「飯村さんの気持ちは分かりました。ですが二年間という任期は変えられませんし、留年すべきではないという考えは変わりません。その上で一つ提案があります。今までは一学年につき週三回、午後の授業を担当してきましたが、三年生のみ午前の授業も担当するというのはどうでしょうか?それにプラスして月に一度程度交流会を開くというのもいいかもしれませんね。これであれば多少は不公平感は無くなると思うのだけどどうだろうか?」
俺に譲歩できるギリギリの内容を伝えたが、果たして生徒たちの反応は劇的だった。
「賛成!賛成です!」
「もうこれ以上の良案は無いくらい大賛成です!」
「あぁ~、もう……。嬉しすぎて……涙が止まらないよぉ~」
「飯村さんが提案してくれなかったらこういう風にはならなかったし、大手柄だよ!ナイス」
「まさか佐藤先生と会える日が増えるなんて……。今まで神様なんて信じてなかったけど今だけは感謝します。本当に有難うございます」
歓声を上げながら口々に喜んでいるのを見て、俺の提案が間違っていないことが分かって安心した。もしそんなのじゃ満足できませんとか、もっと授業の日数を増やして下さいなんて言われたら困っていただろうからよかったよ。でも、喜んでいるところ悪いけど一つ伝えなければいけない大事な事がある。
一度手を叩いて注目を集めた所で口を開く。
「さっき俺が提案した内容だけど、まだ決定というわけではないのでそこは注意して下さい。学院側の都合もあるし、他の先生が受け持つ授業も関係してくるのでどうなるかは分かりません。あとは行政機関がどう判断するかもありますしね。実施される可能性は良くて二割……もあれば良い方だと思うのであまり期待せずに待っていてください」
「分かりました。でも、私達に出来る範囲で後押しします。そうすれば少しだけでも可能性は上がると思うので」
「そうしてくれると助かる。面倒を掛けるけどよろしくお願いします」
「どんと任せて下さい!」
胸を叩いて意気込んで見せてくれたが、ぽよんっと揺れた胸に目が行ってしまったのは内緒だ。真面目な話をしているのに、ちょっとエロい事が起きただけで視線が吸い寄せられてしまうのは男の性か、はたまた俺が煩悩まみれなだけなのか。
――まあそれは後で考えるとして、今は授業に集中しなければ。
「さて、話も一段落したけどまだ時間が余っているのでこの後はどうしようか?皆はなにかしたい事とかありますか?」
「はい。小耳に挟んだのですが、佐藤先生は教師以外にもお仕事をしているというのは本当ですか?」
「あー……。誰から聞いたのかは分からないけど、他の仕事もしています。というよりもそっちが本業ですね」
「そうなんですね。ちなみにどんな仕事をしているか聞いても大丈夫ですか?」
「今更隠しても仕方ないし、いつかバレる事だし今のうちに言った方が良いか。えっと、バーテンダーをしています。どこかのお店に勤めているという訳ではなく、自分のお店を持っていて経営者兼バーテンダーという形で仕事をしています」
「凄い。自分のお店を持っているなんて格好良いです。――でもバーテンダーという事は夜型生活ですよね。それだと教師の仕事をするのは大変じゃないですか?生活リズムが滅茶苦茶になりそうですし」
「確かに最初のうちは寝不足になるし早起きしなくちゃいけないしで結構辛かったけど、今はもう慣れました。病院からも体調を整えるための薬を貰っていたしね」
「病院って……。それはかなり無理している証拠ですよね。今は大丈夫とは言え今後どうなるか分かりませんし心配です」
「その辺りはお世話になっている病院で定期健診を受けているし、ほぼ毎日専属医に診てもらっているから心配はいらないよ。学院側からも少しでも不調がある時は休んでくださいと言われているしね」
「それなら大丈夫かな」
心底安堵した表情を浮かべながら言葉を紡ぐ生徒を見て、悪い事をしてしまったなと後悔してしまう。病院云々の下りは余計な心配をさせるだけだし言わない方が良かったな。今回は安心させることが出来たが次からは言葉を選んで伝える様にしよう。
「先生のバーテンダー姿を見たいけど、まだ未成年だしお店に行っちゃ駄目ですよね?」
「駄目です。未成年者飲酒禁止法により未成年に酒類を提供すると罰則を受けるのでお酒の提供は出来ません。また、入店に関しては前述した法律を理由に年齢制限を設けているので未成年が入店する事は不可です。――ただ、入店に関しては個々のお店によって変わるので一概には言えませんが俺の店では禁止していますね」
「それじゃあ成人するまでは先生のお店に行けないという事ですね。そしてバーテンダー姿も見ることが出来ないと……。うぅ……、あと数年だけど長いよぉ~」
悲壮感に満ちた顔で言われると罪悪感が凄いな。だからと言って法律を破る事は出来ないし。あっ、そうだ。開店前だったら問題無いし、少しの時間になるけど遊びに来てもらっていもいいかもな。
「代案と言っては何だけど、開店前だったら来ても大丈夫だよ。準備とかであまり相手に出来ないかもしれないけどそれでもよかったら遊びに来て」
「行きます‼絶対に遊びに行きます!」
「おぉ、凄い意気込みだな。――ただし、担任の先生とお母さんにちゃんと伝えて了承を貰ってからにして下さい。じゃないと後々問題が起きた時に大変な事になるので」
「分かりました。確りと確認を取ってからにします」
ここまですれば万が一が起きた場合でも大丈夫だろう。――しかし最初の進路相談擬きから随分と話が脱線したな。まあこういうのも雑談の楽しさなので有りといえばありだなと思っていると授業終了のチャイムが鳴ったので最後に挨拶をして教室を出る。
さて、本日最後の授業に向けて準備をしに職員室に一度戻るか。雑談はさっきしたし次の授業はどんな内容にしようと考えながら廊下を歩いていくのだった。




