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第八十一話

「……はっ?……えっ?嘘だろ!もうこんな時間かよ!遅刻じゃないか」

 起きて寝ぼけ眼で端末に表示されている時間を見て一気に目が覚める。今日は学院で授業がある日なのだが授業開始まで三十分しか残っていない。どれだけ急いで準備をしたとしても十五分、それから移動で二十分はかかるから三十五分。学院に着いてからダッシュで授業の準備をして教室に駆け込んでも五十分はかかるだろう。完全にアウトである。

 だからといって開き直ってダラダラと着替えをするわけにもいかないので冷や汗を流しながら出かける支度を整える。学生なら遅刻しても担任から小言を貰うだけで済むが、社会人になると本当に洒落にならない。電車の遅延や、事件・事故に巻き込まれるといった不可抗力なら仕方ないが寝坊して遅刻しましたというのはその人の信用を大きく落とすことになる。同僚や上司、後輩に迷惑をかけるだけではなく会議や取引先への訪問などが予定されていたら完全に終わりだ。

 俺の場合は職場兼自宅なので多少遅く起きてもリカバリーできていたのだが、新しい仕事はそうではない。多少慣れて気が緩んでいたというのもあるが、そんなのは言い訳にもならない。こんな事ならアラームを掛けておけばよかったと後悔しながら手早く支度を済ませて、配車したタクシーに乗り込み学院へと向かう。

 二十分後学院へと到着した後猛ダッシュで職員用通用口へと行き、そのまま職員室へと転がり込む勢いで中に入る。

「すみません!遅刻しました。すぐに授業の準備をして教室に行きます」

 開口一番謝罪をした後自分のデスクに向かい必要なものを用意している最中に隣の席から声がかかる。

「あの、佐藤先生。まだ十二時前なので担当する授業の時間まで一時間以上早いですよ」

「えっ……⁉」

 桜川先生に言われて慌てて端末を取り出し時間を確認する。現在時刻は十一時半を回った所だった。見間違いかもしれないと思い何度も確認したが十一時半だ。これは完全にやらかしてしまった。

「佐藤先生、大丈夫ですか?顔色が悪いようですが、保健室で少し休んだ方がよろしいのでは?」

「ご心配をおかけしてすみません。ちょっと自分の馬鹿さ加減に呆れていただけですので大丈夫です」

「何があったのかお聞きしても?」

「はい。お恥ずかしい話ですが起床して端末で何時か確認した時に寝ぼけていたせいで時間を勘違いしてしまって、慌てて学院に来たという次第です」

「ふふっ、可愛らしい間違いですね。普段の佐藤先生を知っているだけにそういう勘違いをするなんて意外でしたが、全然ありです」

「今までこんな事が無かっただけに恥ずかしい限りです。今後は同じ間違いをしないように気を付けないといけないですね」

「今回の場合は遅刻ではなく早く来ただけですし、そこまで気にされる事は無いと思いますよ。それに佐藤先生は同じ間違いを何度も繰り返すような人ではありませんし」

「そういって頂けると助かります。――なんにせよ遅刻じゃなくてホッとしました」

 こうして俺の勘違いから始まった狂騒曲は終わる事となった。俺が受け持つ授業まで二時間くらいあるしゆっくりして過ごすか。あっ、桜に早く学園に来たことを伝えておこう。簡潔に内容を纏めたメールを送った所で職員室の扉が開き、生徒が中へと入ってきて誰かを探すようにきょろきょろと周囲を見回している途中でピタリと俺で視線が止まる。と同時にまっすぐに俺へと向かって歩いてくる。

「……佐藤先生がいる。幻や私の妄想が具現化したわけじゃないよね?」

「本物だよ」

「えー‼な、なんでこの時間にいるんですか?まだお昼前ですよ?」

「あー、それについてなんだが――」

 生徒に自分の恥ずかしい話をするのは正直躊躇われたが、はぐらかすのもなんか怪しいし素直に話すことにした。桜川先生にも話した時に職員室に居た他の先生方も聞いていただろうし、今更というのもある。

「そうだったんですね。でも私としてはいつもより早く佐藤先生と会えて嬉しいです」

「そういうもんかね?」

「はい。普段は授業前の短い時間か放課後に少しお話しできればラッキーという感じだったので、今こうして独占出来ているなんて夢のようです」

「ちょっと、私もいるから独占ではないんじゃない?」

「細かい事はいいんです~」

「そう言えば二人とも何か用があって職員室に来たんじゃないの?」

「あっ……忘れていました。でも大事な用件じゃないのでまた今度にします」

「そうか。次は忘れちゃ駄目だぞ」

「「はい」」

 教師としてはこういう対応はあまりよろしくないんだろうけど、緊急ではないみたいだし大丈夫だろう。それに小さい子供じゃないんだし、あまり口うるさく言うのも迷惑がられるしな。そこら辺のさじ加減を間違えると嫌われる先生になってしまうので注意しなければいけない。

 新米教師なら尚更だよなと考えていると、桜川先生が生徒に声を掛けた。

「あなた達、そろそろ授業が始まるから教室に戻りなさい」

「もっと佐藤先生とお話していたいんですが……」

「気持ちは分かりますが、教師として授業をサボるのは見過ごせません。学生の本文は勉学に勤しむ事なのですから確りと全うして下さい」

「それは分かりますが、どうしても離れがたくて。あっ、そうだ。体調不良で欠席という事にしてこのまま皆でお昼まで過ごすのはどうでしょう?」

「駄目に決まっているでしょう。ほら、早く教室に行きなさい」

「「うぅ……」」

 そんな捨てられた子犬のような目で見られると何とかしてあげたくなるな。桜川先生の言う事は正論であり、至極当たり前の事なんだけど人間理屈では理解していても感情が納得しないという事が往々にしてある。そういう場合いくら言葉を投げかけても動かない場合が殆どなので、感情面に訴えかけるのが最適解となる。そしてこの場合俺に出来る事はこれだろう。

「それじゃあ、教室まで一緒に行こうか。短い時間だけどそれでいいかな?」

「「はい!お願いします」」

「桜川先生。すみませんがこの子たちを教室まで送り届けてきます」

「分かりました。お手数をおかけしてすみませんがよろしくお願いします」

 生徒二人を連れて教室へと向かいながら他愛無い話で盛り上がる。二十代半ばの俺と十代の高校生では話が合わないだろうなと最初は思っていたが、実際に話してみるとそんな事は無くてどんな内容であっても上手く会話のキャッチボールが出来ている。これは俺のコミュニケーションスキルが高いのもあるが、生徒たちが話し上手であり、聞き上手というのが大きいだろう。この年齢でここまで出来る人は今まで見た事が無かったので最初は物凄く驚いたな。会話は対人関係において大きなウェイトを占めるので、若い内から完璧に熟せるというのは大きな武器になるだろうな。

 頭の片隅で少し回想をしていると教室に着いたので入り口の前で足を止める。

「よし、到着。それじゃあ授業頑張ってね」

「あの、まだ少し時間がありますしもうちょっとだけ佐藤先生と一緒に居ても良いですか?」

「それじゃあ先生が来るまでね」

「やった!」

 キャッキャッと喜んでいる二人を見て若いっていいなぁ~なんてオジサンくさい事を思っていると教室からゾロゾロと生徒達が押し寄せてきた。そして俺を見るなり喜色満面で近づいてきて話しかけてくる。

「おはようございます。この時間に佐藤先生がいらっしゃるなんて珍しいですね」

「あー……その、色々あって早く学院に来てしまったんだ。理由は聞かないでくれると嬉しいな」

「分かりました。あっ、廊下で話していると他のクラスから野次馬が来るので教室に入りませんか?」

「そうしようかな。お邪魔します」

「ふふっ、先生なのですから好きに入っていいんですよ。でも、そういう礼儀正しい所も素敵です」

「有難う」

 確かに生徒の言う通りなんだけど、つい癖でお邪魔しますって言ってしまうんだよな。時々敬語も出てしまうし、教師という立場を考えると早急に改めないと駄目なんだろうけどこれが中々難しいんだよ……。バーテンダーをしている時は常に敬語だけど、教師をしている時は先生相手には敬語、生徒相手にはラフな口調と使い分けないといけないわけで頭がこんがらがる時が結構ある。慣れれば当たり前のようにできるのかもしれないが、それまでは意識して頑張らないとな。

「ここ最近暑い日が続いているけどまだ冬服なんだね。冷房が効いているとはいえ辛くない?」

「結構辛いです。学院にいる間はまだ大丈夫なんですが、外に出た時が暑くて汗をかいちゃいます」

「だよね。俺もスーツを着ているけど二十分くらい歩いたら汗かくし、早くワイシャツ一枚で過ごしたいって思うよ」

「男性の場合ズボンを履いているので尚更暑いでしょうね」

「そうなんだよ。熱の逃げ場がないから蒸れるし、暑いしで大変だよ。――スカートだと通気性が良さそうだし羨ましいな」

「ズボンに比べたら大分快適ですが、スカートも結構蒸れるんですよ。特に股周りに熱がこもりがちではしたないのは分かっているのですが、たまにパタパタとめくったりしています」

 スカートの裾を持ち上げて上下に動かす真似をして説明してくれたが、少し前屈みになっただけでパンツが見えてしまう丈なのにそんな事をしたら丸見えじゃないか。是非俺の前でやって欲しいところだが、それを伝えてしまったら最後。警察のお世話になってしまうので心の中に仕舞っておこう。

「気になるようでしたら実演しましょうか?」

「えっ⁈……いや、大丈夫です」

「もし見たくなったらいつでも声を掛けて下さいね。勿論それ以外の事でも大歓迎ですよ♡」

 動揺してつい敬語が出てしまった重要なのはそこではない。はぁ……、胸元を強調したポーズを取りつつ流し目をするんじゃありません。理性が焼き切れて襲ってしまったらどうするんだ。幸い鋼の精神を持っている俺だから耐えられているが、男は狼という事を決して忘れてはいけない。……それにしても美少女女子高生がセクシーポーズをするとここまで破壊力があるんだな。初めて知ったぜ。相手が一人だから大丈夫だったが二人とか三人に囲まれてやられたら果たして耐えられるのだろうか?――精神修練の方法が載っている本でも買おうかなと真剣に悩んでいると前方の扉が開き先生が入ってきた。

「みんな席について下さい。授業をはじめま――」

「木村先生。おはようございます」

「あっ、その~、おはようございます」

「それじゃあ授業も始まるみたいだし職員室に戻るね」

「えぇーー。まだお話し始めたばっかりなのにもうお別れなんて寂しいです」

「もっと佐藤先生の傍に居たいです」

「そう言ってもこのまま居たら授業の邪魔になるし、木村先生の迷惑になるからさ」

「いえ。全然迷惑ではありませんし、むしろ佐藤先生さえよければこのまま授業に参加していただけるととても嬉しいのですが」

「本当によろしいのですか?」

「はい。生徒にとってもいい経験になると思いますし、私も居て下さるととても嬉しいので」

「そういう事でしたら参加させて頂きます。――邪魔にならないように後ろの方に行きますね」

「予備の机と椅子がありますのですぐに準備します」

「重いですし俺が持ちますよ」

「すみません。お願いします」

 教壇の近くに置かれていた机と椅子を持ち上げたがそこそこ重いな。さてと、後ろまで運ぼうかと歩き始めた時に近くに居た生徒から声がかかる。

「佐藤先生。もしよかったら私の隣に座りませんか?教科書とかもお見せ出来ますし、黒板から近い方が文字も見やすいですから」

「それじゃあ隣に失礼しようかな」

「私の隣の方が後ろの席ですしスペースにも余裕があるので快適に過ごせるはずです。なのでこちらに座りませんか?」

「それはちょっとズルくない?私も隣に座って欲しいのに」

 その言葉を皮切りにクラス中が喧々諤々と意見を言い合う。これはどう収拾をつければいいのだろうか頭を悩ませていると木村先生が一度パンッと手を叩いて注目を集めた後口を開く。

「皆さんの意見は分かりました。佐藤先生がどこに座っても文句が出ると思うので、折衷案として真ん中に座ってもらいましょう。そうすれば丁度良い感じになりますしね」

「それが落としどころかしら。これ以上話し合いで時間を取られたくないし賛成です」

「そうね。私の席からだと横顔を見られるし悪くないわ」

「少し距離が空いてしまうのが残念ですがまあ良しとしましょう」

 それぞれ納得したのを見てクラスの真中へと移動して机と椅子を置いてから座る。女子高生の集団に紛れてスーツを着た男がポツンと座っているのはかなりシュールだな。四方を女性に囲まれているというのは少し落ち着かないし、尻が浮く感じがある。今年から共学になった元女子高に入学した男子学生はこんな気分なのかもしれないな。そんな事を思いつつ授業が始まったので姿勢を正して先生の方へ視線を向けて講義を受ける。

 今回の授業は近現代史でこの世界の歴史に詳しくない俺にとっては嬉しい内容だ。ネットで軽く調べただけだと表面的な部分しか分からないし、そもそも間違った内容が記載されている場合もあるから正確な知識を得られる機会が訪れたのは有難い限りだな。

「というわけで昭和初期に男性の囲い込み禁止法案が可決されて、翌月には施行されました。これにより有力者による男性の争奪戦は終わりを告げ、各地域で起こっていた抗争も徐々に沈下し終息を迎える事になります。ですが、裏では未だに男性を巡って争いが起きているという事実もあるので完全な終息はまだまだ先の事になるでしょう」

 やはりそういう事実があったんだな。比較的平和な日本王国でこれなんだから海外では血で血を洗う抗争が起きていたと考えるべきだろう。男性を沢山傍に侍らせているのはそれだけでステータスになるのだろうし、自分の権力や立場を見せびらかすのにはもってこいだったんだろうな。ハーレムを作るというのは時代や性別問わず行われていることであり特段珍しい事でもないのでさもありなんという感じだ。

「また昭和中期には男性への優遇政策が施行されましたが、これは先に述べた有権者の男性囲い込みに対する対策でもあります。法律で禁止されたとはいえはいそうですかと素直に従う人ばかりではありませんからね。政策の内容は現在の基準で考えれば余りにも杜撰で、甘いとしか言いようがありませんがそれでも当時の男性たちにとっては非常に喜ばしい事だったようです」

 今まで甘い蜜を吸ってきたのにいきなり無くなって絶望していたところに優遇政策を施行されたんだからそりゃあ喜ぶだろうさ。なんたって国家公認で甘やかされるんだから嬉しくないわけがない。ただ、そうなると気になる事があるんだよな。……質問してみようかな。

「先生。質問宜しいでしょうか?」

「はい。どうぞ」

「男性への優遇政策について女性からは文句は出なかったのでしょうか?いくら男性の数が年々減少し始めたころとは言え血税を自分たちに還元せずに男に回すなんて抗議デモが起きても不思議では無いですよね?」

「いい質問ですね。佐藤先生が仰ったように身を粉にして働いている自分たちではなく、自由気ままに生活している男性に税金を投入する事に反対する人達は大勢いました。勿論政府に抗議したり、デモを行ったりしていました。結果として優遇政策は縮小されたのですがここで問題が発生しました。日本王国の現状を見て他国がかなり有利な条件を提示して男性の引き抜き行為を始めたのです」

「チャンスと見て攻勢を仕掛けてきたという事ですか」

「その通りです。僅か二年で日本王国の男性の数は七割ほどまで減りました。特に成人男性の流出数が多かったので人工授精出来る回数も減り、このままでは数百年後には日本王国が滅ぶことが統計の結果判明しました。こうなると男性優遇政策に文句を言っていた人達も手のひらを返して、今度は国を批判し始めたのです」

 手のひら返しもここまで来ると清々しいな。最初は自分達に税金を使えと文句を言っていたのに、事態が悪い方へ動き出したらなんで対策をしなかったんだと文句を言う。お前の頭はどうなっているんだ?と怒りたくなるよ本当に。ただまあ、自分が生まれ育った国が滅びますよと言われたら焦りもするだろうし、そういう点では情状酌量の余地はあるかもしれないな。自分なりに考えを纏めた所で木村先生が口を開いたので傾聴する。

「国民からの猛烈な批判と、要望により今までとは比較にならないほどの優遇政策が施行されることになりました。それにより他国への男性流出は収まりましたが、一度海外へ渡った男性が戻ってくる事は無いですし、男児の出生率も年を追うごとに減少しているのでまるで真綿で首を絞められているような状態が延々と続くことになります」

「日本王国の場合は言葉は悪いですが自業自得な所もありますよね。ですが、他国も似たような感じではなかったのでしょうか?」

「多少マシという程度でそこまで大きな差はありませんね。八方手を尽くしても男児の数は増えるどころか減る一方ですし。まあ、それは現在でも同じですが」

 なるほどね。そういう失敗があったからこそ今の異常ともいえる男性ファーストが生まれたわけか。だけど優遇、優先されるという事はそれに見合うだけの責任や義務が生じるはずだ。そうでなければ釣り合いが取れない……んだけど俺が知る限りこの世界の男は責任も義務も一切果たしていないというね。それでも世間や国は問題ないと認識しているからこそ話が面倒臭くなる。何が正しくて何が悪いのかの曖昧な線引きすら難しいのだから、困ったものだ。

 とはいえ、長い時間をかけて積み上げてきたものを変えるのはほぼ不可能だし俺の立場でどうこう出来る話でもないのでそういうものだと思うのが一番なのかもしれない。

 ――難しい内容も分かりやすく嚙み砕いて説明してくれるし、何よりも授業の進め方がとても上手なので物凄く集中して聞き入っていたらあっという間に終わってしまった。

「それでは少し早いですがこの辺りで終わりたいと思います。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。……ふぅ。充実した時間を過ごせたし参加してよかった」

 思わず漏れた独り言を近くに座っていた生徒に聞かれていたみたいで笑顔で話しかけてくる。

「物凄く集中していましたものね。佐藤先生は歴史がお好きなのですか?」

「どちらかといえば好きな方かな。歴史を知る事で見えてくるものもあるしね」

「確かにそうですね。私も歴史が好きなのでそういって頂けて嬉しいです」

「そうなんだ。それじゃあ歴史好き仲間だね」

「はい!」

「――集中していたせいか喉が渇いたな。チャイムが鳴ったら自販機に行こう」

「あの、私の飲みかけでよかったらお茶がありますが嫌ですよね?」

「そんな事は無いよ。というか俺が口をつけて本当に良いの?嫌じゃない?」

「全然嫌じゃありません。寧ろ是非飲んで下さい」

「そ、そうか。それじゃあ頂こうかな」

 鞄からペットボトルを取り出して俺に手渡してくれた所まではよかったんだが、なんか本数が多くない?十本くらい目の前にあるんだけど……。あまりの状況に顔を上げると微笑を浮かべながらペットボトルを俺に向けて差し出している女子高生の集団がいた。

「おぉう……ビックリした。あー、気を遣ってもらって大変有難いんだけど流石に全員分を飲んだらお腹を壊しそうだし気持ちだけ受け取っておくね」

「うぅ、残念ですが仕方ありませんね」

「今度は絶対にチャンスを逃さないようにしないと」

「今回は譲りますが次は私の番だからね」

 などと思い思いの言葉を残しながら去っていく。まさかこんな事になるとは露ほども思っていなかったので驚いたが、何とかなってよかった。取り合えず貰ったお茶を飲むか。

 ……女子高生の飲みかけは大変甘露でした。

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