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第七四話

 学園祭で大いに楽しんだあの日から幾日か経ったお休みの日。今日は雪音の実家に行く予定だ。恋人であり婚約者の実家にお邪魔するというのは生まれて初めてなので昨日の夜はあまり寝付けなかった。まるで遠足前の子供のようで笑われてしまいそうだが、雪音のお母さんに会うだけだったらここまで緊張しなかったと思う。しかし今回は菫、小百合、千歳、桜、透香のお母さん達も来るという事でお付き合い報告以来の全員集合なのでここまで緊張しているわけだ。

 義両親との不和は結婚生活に大きな影響を与えるし、最悪離婚へとつながる要因なので出来るだけ良好な関係を築くべきだし、そのための努力を惜しんではいけないと叔父が言っていたのを今でも思い出す。俺の場合は両親や親族はこの世界には居ないので彼女達と嫁姑問題や親族間の問題が起こることはないが、逆に俺は相手の母親や親族から嫌われたり、合わないと避けられる可能性がある。そうなれば行きつく先は言わなくても分かるだろう。

 今の所お義母さん達とは一回しか会っていないが、そこそこ好感触だったし少なくとも悪印象は持たれていないはずだ。だが、人間というのは些細な事で好印象が悪印象に変わってしまうし、その逆もある。だからこそ絶対に失敗は出来ない。プレッシャーで胃がキリキリと痛むのを耐えながら出かける準備を進める。

「拓真さん。少し顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」

「少し緊張して胃が痛いだけですので問題ありません」

「胃薬を持ってくるので少しだけ待っていて下さい」

「すみません。お願いします」

 上手く誤魔化せていると思っていたが、小百合に見透かされてしまった。薬を飲めば多少はマシになるだろうし、雪音の実家に着く頃には表情に出ることも無いだろう。

「胃薬とお水です」

「有難うございます」

「あの、無理だけはしないで下さいね。雪音さんの実家に行くのも別の日にしても大丈夫ですし、お母様達も納得してくれると思うので」

「お気遣い有難うございます。胃薬を飲めば大分楽になると思いますし、もしどうしても無理そうなら休憩を取るので大丈夫ですよ」

「分かりました」

 小百合との話を終えた所で再び出かける準備を進める。今回はスーツではなくいつも通りの服装なので楽でいいな。シャツにシワも無いし汚れもついていない、あとは鏡で最終チェックをして終わりだ。ちなみに彼女たちは準備万端なので俺の支度が終わればすぐに出れる状態だ。

「よし。準備が出来たので行きましょうか」

「はい。タクシーがお店の前に停まっているのでそちらに行きましょう」

 という事で全員でタクシーに乗り込み雪音の実家へと向かう。俺のお店から凡そ三十分~四十分位で辿り着くという事でそれまでは皆でお喋りをしながら時間を潰すことにする。

「そういえば彼女の実家に行くのって初めてなのでドキドキします」

「私も実家に拓真さんがいらっしゃるのでドキドキしていますよ。――本来であれば嫁ぐ私達が先に拓真さんのご実家にご挨拶に伺うべきなのでしょうが、流石に別の世界に行くことは出来ないですしね」

「ですね。でも俺の両親が雪音達を見たらビックリして腰を抜かすと思いますよ」

「……それは私達が拓真さんのご両親が想像する女性と違ったからという事でしょうか?」

「いえ、そういう事ではないです。二十数年浮いた話が一切なかった息子に美人な婚約者が六人もいる事への驚きですね。母親とかやっと息子に良い人が出来たって泣いて喜ぶと思いますよ。あっ、あと早く孫の顔が見たいとも言うかもしれないです」

「孫ですか。実は私の母からも電話で話す度に早く孫の顔が見たいわと言われているんです。子供は結婚してからと何度も伝えているのですが……」

「親としては楽しみでしょうがないのでしょうね」

 透香としてはしつこいって感じなんだろうけど、親にとって孫は目に入れても痛くない存在だし早く愛でたいって気持ちもあるんだろう。あとはこの世界の事情も関係していて、千歳は生物学上男性だから子供を産めないがそれでも五人は産める。俺の精子と受精すると男児が生まれる確率が四十%程高まるので誰か一人でも男児を出産すれば御の字だし、もし無理でもそれぞれ二人目を産めば確率は多少上がる。日本王国にとっても、世界にとっても男児が増える事は大歓迎だしそれを望んでいるので透香をせっついているというのもあるだろうな。

 まあなんにしても、子供は結婚してからと彼女達との話し合いで決めているからもう少し待ってもらう事になる。SEXしているんだから、いつかはデキてしまうんじゃないの?と思われるかもしれないが確りと避妊しているので大丈夫だ。ちなみにこの世界にはコンドームは存在しておらず、女性が避妊用ナノマシンを体内に入れるのが基本となっている。なので言い方は悪いが生で膣内射精(なかだし)し放題だ。ある意味で男の理想だが、一度深みに嵌まってしまうと二度と抜け出せなくなるので注意した方が良い。本当に限界以上に搾り取られるから……。

 思わず思い出してしまいブルッと背筋を震わせる。車の窓から外を見ながら何事も程々が一番なんだよと心の底から思うよ。――なんか気持ちが暗くなってきたので明るい話でもしながら時間を潰そう。

「もうそろそろ私の実家に着きそうですね」

「思ったよりも早かったですね。道が空いていたのかな?」

「それもあると思いますが、みんなで楽しくお喋りをしていたので時間が経つのが早く感じたのではないでしょうか」

「確かに。……おっと、もう着いたみたいだね。降りましょうか」

「はい」

 雪音と話している内に到着したのでタクシーから降りると二階建ての一軒家が目に入る。見た感じは一般的な家だが間違っていないよな?久々の帰省だって雪音が言っていたし、万が一の確率で勘違いをしている可能性があるし、一応聞いてみよう。

「ここが雪音の実家で間違いないんですよね?」

「はい。そうですよ。もしかして拓真さんの想像していた家と違いましたか?」

「失礼な話ですが、雪音の家は医師の家系で皆さんお医者様ですしお屋敷に住んでいるのかなと勝手に思っていました」

「拓真さんがいらした世界ではそういうイメージがあるのですね」

「はい。祖父母と両親、兄弟姉妹と住んでいて何人もの使用人を雇って屋敷に住んでいるっていうイメージがありました」

「おばあ様は一人暮らしをしていますし、私が実家に住んでいた時もお母様と私の二人暮らしでしたので大きい家だと逆に持て余してしまうんです。なのでこれくらいのサイズの方が色々と便利なんですよ」

「そういう事情があったんですね。確かに二人とか三人で暮らすなら屋敷とか逆に不便ですもんね」

 この世界に関する新しい情報を手に入れられたが、非常に参考になった。今後役に立つだろうし忘れないようにしっかりと記憶しておこう。

「それでは家にご案内致しますね」

「お願いします」

 雪音の案内の元家へと向かう。インターホンを鳴らすとすぐに玄関扉が開き見知った人が姿を現した。

「あら、雪音。お帰りなさい」

「ただいま。――あの、お母様に一つだけ言いたいのですがインターホンを鳴らした相手を確認せずに扉を開けるのは危険なのでやめてください」

「この時間に雪音達が来るって分かっていましたし、わざわざ確認する必要もないと思って。……でも次からは気を付けるわ」

「お願いします」

 母娘のやり取りを微笑ましく眺めていると、お義母さんがこちらに向き直り一度頭を下げてから言の葉を紡ぐ。

「皆さんもようこそおいで下さりました。立ち話もなんですからどうぞ中へお入りください」

「お気遣い頂き有難うございます。お義母さんも元気そうで何よりです」

「私も拓真さんにお会い出来てとても嬉しいわ。ずっと、ずっと拓真さんの事を考えていたのよ」

「そ、そうですか。そこまで思ってもらえて光栄です」

「ささっ、我が家へどうぞ」

 俺が返事をすると吐息がかかりそうなほどの至近距離まで近づいて心底嬉しそうに話した後、ギュッと腕を組んで家の中へと案内される。雪音も巨乳だが、お義母さんも負けず劣らずのビッグサイズなので腕を組まれるとムニュゥ~と形を変えて俺の腕を包み込む。おっぱいの柔らかさと良い香りに思わずこれが母性か!と叫びたくなってしまうが、彼女達――特に雪音の視線がザクザクと突き刺さっているのでそんな思いを噯にも出さずに家の中へと向かう。

 そのままリビングへと移動すると菫たちのお母さんが全員揃って談笑していたので部屋に入る前に会釈をしてから中へと入る。と同時にお義母さん達の視線が一斉に俺に向き、こちらに向かって歩いてくる。一糸乱れぬその動きに感心していたのも束の間。それぞれが満面の笑みを浮かべて挨拶をしてくる。

「こんにちは。拓真さん」

「こんにちは。お元気でしたか?」

「ええ、元気ではあったのだけど……ね」

「何かあったんですか?」

「拓真さんにお会い出来なくてずっと寂しい思いを抱いていたの。メールや電話でのやり取りはしていたけれど、直接お顔を見る事が出来ないと心が満たされなくて」

「なるほど。そういう事でしたらもっと早くお会いできる機会を作ればよかったですね。すみません」

「拓真さんが謝る事ではないわ。私の我儘だからあまり気にしなくて大丈夫よ」

 小百合のお母さん――美咲さんから気にしなくていいと言われたが、流石にはい、そうですかとはいかない。玄関で雪音のお母さん――麻美さんと話した時もそうだったがもっと頻繁に顔を見せるべきだったのは間違いない。皆さん多忙を極めているし、立場ある人達なので遠慮してアクションを起こさなかったのが敗因だろう。これからは気を使いつつも会う機会を多く作るようにしよう。

 そう決めた所で菫のお母さんから挨拶されたので軽く会話しつつ、他の人達とも挨拶を交わしていく。そうして一通り挨拶を終えた所で、麻美さんから声を掛けられる。

「ずっと立ちっぱなしで疲れたでしょうし、どうぞソファに座ってください。あっ、今飲み物とお菓子を持ってきますね」

「有難うございます」

 ソファに座ると一気に身体から力が抜けていく。それと同時に緊張も和らいでいく。家に居るときみたいにぐだぁ~とだらしなく座りたいが、彼女の実家でしかもお義母さん達がいる前でそんな事をできる勇気は無いので姿勢を正したまま座る。だがそんな俺に気を使ってくれたのか雪音が話しかけてくる。

「拓真さん。ご無理なさらないでいつも通りで大丈夫ですよ。私もお母様も気にしませんので」

「いや、いくら気にしないからと言って流石にだらしない恰好を見せるのはマズいのでは?」

「普段通りのお姿を見せてくれた方が絶対に喜ぶと思いますし、いつまでも気を張っているとお互い疲れるので実家だと思ってリラックスしていただいた方が私としても嬉しいです」

「うーん……、雪音がそう言うなら少しだけ普段通りでいってみようかな。もし駄目そうなら元に戻しますね」

「はい、それで大丈夫です」

 親しき中にも礼儀ありというが、度が過ぎればお互いにとって居心地が悪くなってしまうという事か。将来家族になるのだし、ありのままの自分をいつかは見せなければいけない。それが遅いか早いかの問題であって、今回はこうしてチャンスを貰えたのだからチャレンジしてみるのも悪くないだろう。

 さて、どんな反応が返ってくるかドキドキするがやってみよう。

「お待たせしました。拓真さんに何を飲むか聞き忘れてしまって冷たいお茶にしたのだけど大丈夫だったかしら?」

「はい、大丈夫です」

「それならよかったわ。どうぞ」

「有難うございます」

 ふぅ、少し火照っていたので冷たい飲み物は助かる。勢いよくグビグビと半分ほど一気に飲んだあと、お茶菓子として用意されたクッキーを食べる。

「んっ、凄く美味しいです。あの、このクッキーってどこのお店で買ったんですか?」

「私の手作りなのだけど、お口に合ったようで何よりだわ」

「えっ、麻美さんの手作りなんですか⁉てっきりどこかの高級店で買ったのかと思いました」

「あらあら、お世辞でもそう言ってもらえてとても嬉しいわ」

「雪音も料理はもちろんお菓子作りもプロ級でしたが、麻美さんも同じとは流石です」

「娘に料理やお菓子作りを教えたのは私なのですが、しっかりと出来ているようでよかったわ」

 学校でも授業で教えてもらうはずだが、基本的には母親から教えてもらう形になるので親が料理上手かどうかで腕前がかなり変わるはずだ。そう考えると雪音はもちろん、菫や小百合たちもお母さんがプロ級の腕を持っているという事になる。しかも、料理歴は娘達に比べて二十数年くらい長いし滅茶苦茶レパートリーとかありそうだな。そうなると……。

「一度お義母さん達の料理を食べてみたいですね。そんな機会があればですけど」

「「「「「「いつでも作ってあげるので遠慮なく言って下さい!今日でもいいんですよ」」」」」」

「それじゃあ、お言葉に甘えて今日のお昼とかどうでしょうか?あっ、でもいきなりすぎて食材の準備が出来ていないですよね」

「冷蔵庫にある食材だと全員分を作るのは無理なので、買い物に行かないといけないわね。この時間だとスーパーも開いているしあとで買いに行ってきます」

「それなら俺も一緒に行きます。かなりの量になると思うので荷物持ちとして使ってもらえれば」

「それじゃあお願いしようかしら。拓真さんに食べてもらうのだから腕によりをかけて作りましょう」

 麻美さんが軽く腕を曲げて気合を入れているが、それは他のお義母さん達も同じで気合を入れつつ何やら相談していたのでなんとなく耳をそばだててみる。

「手の込んだ物を作りたいけれど、今からだとお昼には間に合わないしどうしましょう?」

「あまり時間がかからず、かつ拓真さんに喜んでもらえる料理となるとかなり絞られますね」

「人数も多いので品数も限られますし、悩みます」

「カレーとかパスタ、あとは鍋料理もお手軽で一度に沢山作れるので楽ですが誰が作ってもそこそこ美味しくなるので除外した方が良いでしょうか?」

「初めて息子に食べてもらう料理なのだから手抜きはしたくないですね。予算は無制限なのに時間が無いとこうも難しくなるとは思いませんでした」

「んー……、いっその事拓真さんに聞いてみるのはどうでしょうか?もし私達で決めた料理に苦手な食材があった場合目も当てられませんし」

「そうですね。そうしましょう」

 どうやら話が纏まったようで千歳のお母さん――裕子さんが俺の方まで歩いてくる。

「拓真さんにお聞きしたいのですが、お昼ご飯のリクエストはありますか?」

「今食べたい料理になってしまうのですが、麻婆豆腐ですね」

「他には何かありますか?」

「パッと思いつくのはこれくらいです。なんか食事のレパートリーが少なくてすみません」

「いえいえ、お気になさらずに。中華料理だと餃子、酢豚、エビチリ、春巻き、炒飯その他諸々ありますが、嫌いな料理などはありますか?」

「内臓を使った料理は苦手なので、出来れば避けてもらえると嬉しいです」

「分かりました。では、麻婆豆腐は確定として他に何品か作る予定なのですがこちらで決めてもよろしいでしょうか?」

「はい、構いません。――品数が多いと作るのが大変じゃありませんか?俺としてはお昼ご飯を作ってもらえるだけで嬉しいので一品とかでも大丈夫ですよ」

「中華料理は作るのが簡単ですし、手間もかかりませんので。それに拓真さんに私たちが作ったご飯を沢山食べて欲しいなぁと思いまして」

「そういう事でしたら期待して待っています」

「はい。腕によりをかけて作るので楽しみにしていて下さい」

 話が纏まってから気が付いたが雪音達にお昼に何を食べたいか聞くのを忘れていた。もう遅いかもしれないがあとで『今日は中華料理の気分ではなかったんですが……。なんで事前に聞いてくれなかったんですか?』なんて言われた日には二日は自分を責め続ける事になるだろう。そうなる前に対応するべきだな。

「みんな、ちょっといいですか?」

「なんでしょうか?」

「聞くのが遅くなって申し訳ないんだけど、皆はお昼に何が食べたいかリクエストはありますか?」

「あれ?お母様との話し合いで中華になったのでは?」

「そうなんですけど、まだ変更も効くと思うしもしあれが食べたいとかあればそちらにしようかなと」

「私は特にありませんので今のままで大丈夫です」

 千歳がそう言うと他の面々も頷きで返してくれた。彼女たちの了承も取れたしあとは買い物に行くだけだな。この辺りに来るのは初めてだし、スーパーがどこにあるかも分からないのでいつ行くかは麻美さんに任せよう。それまでは話でもしながらゆっくりと過ごそうかな。

 リビングに俺も含めて十三人も居るのでかなり賑やかだが、どこか落ち着く気持ちもある。高校を卒業してすぐに一人暮らしを始めたので、家族と一緒に過ごす機会が全くなかったからなぁ。両親にはたまには顔を見せろと言われていたけれど、バーテンダー修行で手一杯だったし一人前になってからも日々仕事に追われて実家に帰る余裕が無かった。別の世界に来しまいもう二度と会えないと思うと、無理をしてでも時間を作って親に会いに行けばよかったと心の底から思う。親不孝者とは俺の事を言うんだろうな。

 母娘で楽しそうに話している姿を見ていると思わず涙が流れそうになる。っ……駄目だ今は我慢しろ。ここで泣いてしまえば心配させてしまうし、雰囲気も悪くなってしまう。男なんだからそれぐらい出来るだろうと心の裡で叱咤していると、細く柔らかい手がそっと膝に置かれた。

 俯いていた顔を上げると、心配そうな表情を浮かべた透香が俺を見ていたので声を掛ける。

「透香、どうかしましたか?」

「拓真さんが寂しそうな表情をしていたので心配になってしまって。私でよければお話を聞きますので何でも言って下さい」

「心配をかけてごめんなさい。……みんなが母親と楽しそうに話している姿を見たら、両親の事を思い出してしまって少し感傷的になってしまいました」

「そうなのですね。そういう時は遠慮なく私に甘えて下さい。拓真さんのご両親の代わりにはなれませんが、少しでも気持ちを楽にする言葉出来るので」

「有難うございます。今度から寂しくなったり、辛い時は透香に甘えさせてもらいます」

「はい。ドンと来てください」

 優しく微笑みながらかけられた言葉にさっきまで胸で渦巻いていた寂寥感がすぅっと消えていくのが分かる。心優しい彼女にまた救われてしまったな。でも、貰ってばかりでは男が廃るっていうものだしもし透香が辛い時は俺が力になってあげよう。そう強く決意したところで、周りから話し声が聞こえなくなっていることに気づく。さっきまで楽しそうに談笑していたのに何かあったんだろうかと、周囲へ視線を送ると全員が俺の事を心配そうに見ていた。

 これは完全にやらかしてしまったな。すぐにもう大丈夫ですって言わないと大変なことになりそうだ。

「あの、透香と話しをして気持ちがスッキリしたのでもう大丈夫です。ご心配をおかけしてすみませんでした」

「その言葉を聞けて安心しました。もしなにかあれば娘でもいいですし、私達でもいいので何でも言って下さい。誰かを頼ったり甘えたりするのは恥ずかしい事ではありませんし、一人で抱え込んでしまったら袋小路から抜け出せなくなりますからね」

「由美子さんの言う通りですね。もし娘に相談しにくい内容であれば私達に言ってもらえれば力になりますので。義理ですが実の母親だと思ってドンドン頼ってもらえると嬉しいです」

「由美子さん、恵子さん。色々と気を使って頂き有難うございます。これからはお義母さん達に頼ったり甘えたりすることがあると思いますが宜しくお願い致します」

「ふふっ、こちらこそよろしくお願いします」

 初めて会ってから二回目だというのにここまで俺の事を思ってくれているなんて嬉しい限りだ。これからは彼女達、そしてお義母さん達に力を貸してもらう事もあるだろう。逆に俺が助ける事もあると思うが全力で力になろう。それが俺に出来る恩返しだ。

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