第七十話
「では現状確認しなければいけない事は以上となります。今までの話でご不明な点や、疑問などはありますでしょうか?」
「俺は特に無いです」
「私も今の所は無いです」
「同じく今の所は無いです。ただ、今後連携を取って行くに辺り連絡先を交換したいのですがよろしいですか?」
「はい。それでは――」
そう言えば俺は甲崎さんや桜川さんの連絡先を知っているが、雪音と菫は知らなかったんだよな。まあ、今回の場合は個人の連絡先では無く勤務先になるのであれなんだが。
しかし、とんとん拍子に色々な事が決まっていって少し驚いたよ。喧々諤々と話し合って今日中に結論が出ないかもしれない可能性もあった訳だしな。この場にいる面子は頭の回転が物凄く速いし、一を聞いて十を知るってタイプだからこそ短時間で纏めることが出来たのだろう。俺には到底無理な芸当だな。
流石俺の彼女だぜと内心で誇りに思っていると連絡先交換が終わったのか甲崎さんが口を開く。
「佐藤さん達はこの後の予定はもうお決まりでしょうか?」
「特に決まっていません。帰ってお店の準備をするくらいなのですが、まだ時間も早いですしどこかで暇を潰した方が良いのかなとは思っています」
「私は半休を頂いているのでこの後は拓真さんに合わせようかなと思っています」
「私も雪音と同じく半休を取っているので予定は決まっていません」
「成程。お三方とも特に予定は無いということですね。では、もしよろしければ学院を見て回りませんか?久慈宮さんが普段どんな所で学校生活を送っているのか知る良い機会ですし」
「それは良いですね。でも桜は授業に戻らないといけませんよね?」
「――今の時間だと六限目の授業中ですね。本来であれば戻らないといけないのですが、理事長権限で今回は特別に許可します」
「有難うございます。学院を見て回るということでしたが、最初に桜の教室に行ってみたいのですが大丈夫でしょうか?」
「勿論構いません。ただ授業中なのであまり面白くはないと思いますが、それでも宜しいでしょうか?」
「こちらとしては普段通りの方が良いので大丈夫です」
「分かりました。えーと、久慈宮さんのクラスは確か…………」
甲崎さんが言葉に詰まったのを見て悟ってしまう。これは覚えていないなと。まあ、理事長だし一生徒のクラスを覚えているわけないか。教師でも全校生徒の所属クラスを覚えているなんて芸当は無理だろうしさもありなん。
本当は俺が助け舟を出せればいいのだけど、正直桜が何組なのか知らないんだよな。学院での話はあまりしないし、したとしても軽い雑談程度で終わるから殆ど情報が無い。さて、どうしようかなと思っていると桜の担任である桜川さんがさり気なくアシストを出す。
「理事長。クラスへの案内は私が引き受けますがよろしいですか?」
「……お願いします。うぅ、情けない姿を見せてしまい恥ずかしい限りです」
甲崎さんが頬を赤らめて俯いてしまったが、普段とのギャップが良い意味で凄いな。キリっとしていて、何でも完璧に熟すバリバリのキャリアウーマン然とした姿も最高だが、今見せている可愛らしい感じもグッとくる。なんならもっと可愛い所を見せて欲しいまである。
ニヤニヤしそうになるが相手にとって失礼だし、何よりも大人として見て見ぬ振りをした方がお互いに幸せということもあるからな。
「それでは教室までご案内いたしますね」
「お願いします」
空気を読んだ桜川さんの言葉を受けて皆で応接室を出る。廊下を歩きながら思ったが滅茶苦茶静かだな。授業中だから当然と言えばそうなのだが、教師や学生の声が多少は聞こえてもいいはずだ。防音がしっかりしているのかな?それとも有名進学校ともなれば無駄な会話は一切無いとかなのだろうか?
どちらにしても騒がしいよりも断然良いし、そもそも学校は勉強をしに来るところなんだからこれが当たり前といえばそうなんだけどね。
なんていう風に他愛もない事を考えつつ歩いていると教室に着いたみたいだ。
「ここが久慈宮さんのクラスになります。――ちょうど今は数学の授業をしていますね」
「おぉ、ここが桜のクラスか。あの、ドアの小窓から中の様子を少し見てみてもいいですか?」
「はい。大丈夫です」
「それでは失礼して。……おぉ、結構広いんですね。教室の作りも俺が学生だった時とは大分違うな」
「えっ?佐藤さんは中学か高校に通われておられたんですか?」
「あーと、その~。すみません。今のは聞かなかった事にして下さい」
「分かりました」
やべぇ~、自然と口から出ていたよ。この世界では男性が学校に通うなんて有り得ないのに、そのことを失念していた。幸い甲崎さんも桜川さんも大人の対応をしてくれたからよかったものの、そうじゃなければ割と大変なことになっていたし今後はもっと注意を払おう。
さてと、それじゃあ様子見の続きでもするかな。再度ドアの小窓に近づき中の様子を見ていると、視線に気が付いたのか教壇で授業をしていた先生が俺の方へ振り向いた。そのまま視線が交差すること数秒。
顔を真っ赤にしたかと思えば一気に青ざめた表情を浮かべてまるで機械仕掛けの人形のようなぎこちない動きでこちらに向かってくるではないか。そのまま教室の扉を開けて俺たちの前まで来ると声を震わせなが話し出した。
「な、何故男性の方がこちらにいらっしゃるのでしょうか?それに理事長や桜川先生までご一緒ですし。――もしかしてこのクラスの生徒が男性の方にご迷惑をおかけして、その事実確認のためにいらしたのですか?」
「いえ、そういう訳ではありませんよ。教師には後日説明をしようと思っていましたが、先に伝えましょうか。こちらに居られる方たちは来月末に開催される学園祭に来る予定でして、その件についての諸々の打ち合わせに来られたのです」
「そういう事ですか。……久慈宮さんもいるのは何故なのでしょう?」
「それは……。どうしましょうか?」
甲崎さんが俺に聞いてきたので答えることにする。別に隠すようなことでもないし、知られた所で何の問題もないからな。
「俺と桜は結婚を前提にお付き合いをしています。今回学園祭に来るという話も桜の提案があって決まった事なので打ち合わせに同席してもらいました」
「な、なんて羨ましい……。男性と結婚を前提に付き合うとか創作物の中だけの話だと思っていたのに現実にあるなんて。私がもう少し若ければワンチャンスあったかもしれないと思うと悔しくて仕方ないわ」
ハンカチを噛みながらキィー!と叫びそうな表情で言われても俺にはどうしようも出来ないです。ごめんなさい。心の中で謝りつつ微妙な雰囲気になった現状をどうするかなと頭を回転させていると、甲崎さんが溜息をつきながら先ほどの教師に声をかけた。
「はぁ~、貴女の気持ちは分かりますが少し落ち着いて下さい」
「すみませんでした」
「分かればよろしいです。さて、今は学院の中を案内している最中なのですが佐藤さん――男性の方の希望で久慈宮さんのクラスに最初に来ています。授業中だと思いますが中に入ってもいいですか?」
「勿論構いません。ただ、いきなり男性の方が来られるとパニックになるので一度私の方から生徒に伝えさせて頂きます」
「確かにそうですね。ではお願いします」
「はい」
返事をしてから再び教室に戻った先生を見つつ、数分ほど待つことに。どんな説明をしたかは不明だが騒ぎになる事もなく、実に静かなものだ。やはり進学校の生徒ともなると些細な事では動揺しない強い精神を持っているんだなと勝手に決めつけたところで先生が戻ってきて中に入るよう促される。
少し緊張しつつも黙って入るのはマズいので挨拶をしてから入室しよう。
「失礼します」
「………………」
教室に入るとクラス全員から驚愕、喜び、小さな恐怖等々が入り混じった視線が一斉に向けられる。一緒に入ってきた面々には一切目を向けずに俺だけを見ているのはちょっと怖いものがある。
あー、でもいきなり知らない人が理事長や担任の先生と一緒に来たら驚きもするか。これは俺の配慮が足りなかったな。今更遅いかもしれないけど一応自己紹介しておこう。
「実は理事長のご厚意で学院を案内してもらっている最中でして、授業中ではありますが少しだけお邪魔させてもらいます。俺は佐藤拓真と言います。こちらの方は静川雪音です。そして静川さんの隣にいるのが倉敷菫です。――以前学院主催のボランティア清掃に参加していたのでもしかしたら見たことがある人もいるかもしれませんがよろしくお願いします」
「は、はい。こちらこそよろしくお願い致します」
一番前の席に座っている生徒が返事をしてくれたが、学級委員長とかだろうか?ガチガチに緊張していて少し震えている。このままだとまともに授業を受けることができないだろうし、少しでも緊張を和らげてあげないといけないな。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。俺の事はそこらに落ちている石くらいに思ってくれればいいですから。あと、皆さんが男性に抱いているイメージと俺は全然違うので好きに話しかけてくれていいですし、友達感覚で接してくれると嬉しいです」
「あの……桜川先生。本当にそのように接してもいいのでしょうか?男性にお会いした事がないのでもしかしたら失礼な事をしてしまうかもしれません。その場合学院に多大なご迷惑をおかけしてしまいますしどうしたらいいのでしょう?」
「佐藤さんが言われた通りで問題ないと思います。ただ節度を持ってお話をしてください。本当に友達のように気楽にされると後で指導室に来てもらう事になりますので」
「分かりました。ではそのようにさせて頂きます」
あれ?学級委員長の緊張を解す為と、あまりにも固い態度だと俺もやりづらいので気楽にして下さいといったニュアンスで言ったんだけど、なんか違う方向に進んでしまった感があるな。とはいえ悪い内容ではないし大丈夫だろう。
そこで一度考えを打ち切り、改めて教室を眺めてみる。ざっと四十人以上は生徒がいるんじゃないだろうか。俺が学生の時はぴったり一クラス四十人だったが、私立校だと違うのかな?そこら辺がどうなっているのかはよく分からないが今考えることではないな。そう、重要なのは生徒全員が女子でしかも美少女という事だ!この世界には美人と美少女しかいないのは分かっていたが、改めて壮観である。制服を着た美少女女子高生がチラリと俺を見て頬を染めながらハニカム姿は致命の一撃だ。最高すぎて我が人生に一片の悔いなし!と言いたいくらいだよ。ただなぁ……、この光景を見て一つだけ思うことがある。
「はぁ。俺があと八歳若ければ可愛いクラスメイトと美人教師に囲まれながら学校生活を送れたのに。残念で仕方ないよ」
ついさっき我が人生に一片の悔いなし!とか思っていたのに手のひら返し早すぎだろと自分でも思うがこればっかりは仕方ない。無味乾燥な青春時代を送った身としては切にあと八歳若ければと思うのだ。
残念ながらタイムマシンは存在しないし、若返りの秘薬も無いので無理な話なんだけどさ。心がダークゾーンに落ちつつある中やけに興奮した声が耳朶を打つ。
「男性の方に可愛いって言ってもらっちゃった。心臓がバクバクして今にも破裂しちゃいそう」
「お母さん。今まで育ててくれて有難う。私は今人生で最も幸せを感じています」
「男性とお会い出来ただけでも奇跡なのに、可愛いって……。可愛いって……言われちゃった。きゃっ♡」
「美人教師と言って頂けるなんて私もう死んでもいいわ」
「先生。お気持ちは分かりますが死んじゃ駄目です」
「でもですよ、桜川先生。物凄く嬉しくないですか?」
「最高に嬉しいです。というか今まで教師をしてきて心の底から良かったと思っています」
「ですよね。私も同じです」
生徒と教師が耳まで真っ赤にさせながら話しているが、これは邪魔しちゃ駄目なやつだな。興奮が収まるまでそっとしておこう。――そういえば甲崎さんはさっきから無言だがどうしたんだろうか?キャッキャッしているこの状態に怒りを覚えているかもしれないし、さり気なく様子を確認してみよう。
「………………」
どよ~んって擬音がピッタリな表情で微動だにしていない。悲しみや諦観、憂愁などがごちゃ混ぜになった感じと言えば分かりやすいだろうか。さっきまではキリっとしつつも優しげな表情を浮かべていたのに何故にこうなってしまったのだろう?
疑問が浮かぶが、このままじゃ死んでしまいそうだし声を掛けよう。
「あの、甲崎さん。大丈夫ですか?もし体調が悪いのなら保健室に行きましょう」
「なんで私は教師ではないのでしょうか?理事長なんて職に就かずに教師をしていれば佐藤さんから美人教師と呼ばれていたのに……。もういや……」
「そんな悲しいことを言わないで下さい。甲崎さんは大人の魅力溢れる素敵な女性ですし、普段のキャリアウーマン然とした感じも、時たま見せる可愛らしい一面も俺は好きですよ」
「!!す、好き……ですか?」
「はい。好きです」
「不束者ですが末永くよろしくお願い致します。収入はそこそこありますし、家事全般も問題無く熟せるので佐藤さんにご迷惑はおかけしないと思います」
「えっと、はい?」
甲崎さんからのいきなりのプロポーズに頭が真っ白になって反射的に返事をしてしまったが、これはかなりマズいのでは?下手に『甲崎さんとは友人だと思っているので、結婚はちょっと……』なんて返事をしてしまったら病んでしまうか、最悪自殺してしまうかもしれない。絶対にそれだけは避けなければいけないが、果たしてどう返すのが正解なんだろう?誰か助けて!
そんな俺の心の叫びが通じたのか、桜が俺と甲崎さんの間に入り真剣な表情で話し出す。
「理事長。先ほど拓真さんが仰った好きというのはloveではなくlikeです。あくまでも一人に人間として厚意を抱いているという事なのでそこを間違えないでください。それと拓真さんも誤解を招く言い方をしないよう今後注意した方が良いかと」
「桜の言う通りですね。今後は気を付けます。――甲崎さんも勘違いさせる言い方をしてしまい申し訳ありませんでした」
「私の方こそお恥ずかしい限りです。ですが、自分で言うのもなんですが優良物件だと思うのでもし将来新しく妻を娶りたいと思った時や、妾が欲しいと思った時に私の事を思い出してくれると嬉しいです」
「あ、あはは……。一応頭の片隅に入れておきます」
「はい。よろしくお願い致します」
禍を転じて福と為すとはこういうことを言うのだろうな。失敗してもただでは起きないところはさすが理事長職まで上り詰めた才媛だな。こういう強かな人は好き嫌いが分かれるだろうが、俺は好感が持てる。甲崎さんへの好感度メーターがあれば五ポイントくらいは上昇しただろう。エロゲであれば個別ルートに入る選択肢を一つ選んだという感じかな。とはいえ甲崎さんルートに入るには鬼のような分岐をすべて間違いなく選択しなければいけないため、ほぼ不可能に近いが。
ふぅ。ついついゲーム脳で考えてしまったが、教師や生徒がこちらを見ているし切り替えないと。
「そういえば今は数学の授業をしていると聞いたのですが、どんな内容を勉強しているんですか?」
「今は教養数学や基礎数学を教えています」
「それって確か大学一年生で教わる内容ですよね。高校生で習うのはかなり早い気がしますがこれが普通なのでしょうか?」
「一般の高校では高校数学を教えていると思います。ただ日本王国三大高校は二年生から大学数学を学ぶのが基本ですね。それに入学時点で卒業までに行う授業の大まかなカリキュラムを配布しているので、事前に自習する期間は十二分に取れていますので何も分からないというような事はないかと」
「はぁ~、凄いですね。仮に今の俺が学院に入学したとしても絶対に授業についていけないです。体育くらいしか点数を取れそうにないな。あとは保健の授業くらいか?」
先ほどまで授業をしていた先生と話していて思ったがこの学院のレベル高すぎじゃない?所謂天才と呼ばれる人達が集まっているのだろう。その中には当然桜も含まれているわけで。
「ここにいる皆は将来要職に就くエリート集団なんですね。羨ましい限りです」
「――佐藤さんが学院に入学希望であればすぐに手続きをいたしますよ」
「いやいや、甲崎さんちょっと待って下さい。二十代半ばの男が高校に入るとか流石に無理が過ぎます。というか教育委員会や文部科学省が認めるわけがないですし、生徒からの反発もあるのでは?」
「行政機関や国には私のコネを最大限使って根回しをしますし問題ないかと。生徒からの反発もゼロだと思いますよ。貴女達はどう思いますか?」
甲崎さんが生徒の面々に問いかえると一斉に答えが返ってきた。
「大賛成です!」
「こんな素敵な男性が学院に通われるのに反対なんて絶対にしません」
「男性が私たちが通う学院の生徒になる。最高です!」
「理事長。登校日を週五日ではなく週七日にしませんか?会えない日が二日もあるなんて私耐えられません」
「入学という事は一年生になるのでしょうか?もしそうなら同じクラスになる可能性がゼロに……。なんとか転入に変更できませんか?そうしたら私と同じクラスになるかもしれませんし」
等々口々に賛成の言葉を言ってくれる。その様子を見た甲崎さんがニヤリとしながら俺の方を見て口を開く。
「どうでしょうか?ほかの生徒たちも同じような反応だと思いますし、ご一考いただけませんか?」
「正直ここまで好意的に受け入れられるとは思ってなかったのでとても嬉しいのですが、自分の年齢の事を考えるとどうしても受け入れられないといいますか。俺の年だと生徒ではなく教師の方がしっくり来るんじゃないかと」
「教師ですか」
「はい。とはいえ誰かに勉強を教えられるほど頭が良くはないですし、教員免許も持っていないので土台無理な話なんですけどね」
「そんな事は無いですよ。佐藤さんはとても自頭がいいですし、人間としてもとても優れているので教師にピッタリな人だと思います。それに学校で教えるのは勉強だけではありません。例えば雑談や男性が女性をどう思っているかなどをお話下さるだけで学生達の価値観や考え方が大きく変わり、社会に出た時に必ず役に立つはずです。――前提として男性と接する機会があるというだけで計り知れない価値がありますし、世界でも類を見ない試みになるでしょう」
「あの……、本当に雑談や女性に対する考え方を話すだけで良いのでしょうか?正直そんな事をするくらなら勉強をした方が百倍良いのでは?」
本心からそう思う。他愛のない話で一コマ潰すのは進学校に通っている生徒にとっては大きな損失になるだろう。もし俺が生徒ならそんな下らない事をするくらいなら授業をしろ!と文句を言うだろうしね。あとは根本的な問題として先も言ったけど教員免許を持っていないというのがある。
だが、甲崎さんなら何とかしそうな感じがするがどうなんだろうか?という俺の疑問に答えるかのように甲崎さんが口を開く。
「授業内容は雑談や佐藤さんの考え方をお話するだけで問題ありません。また、教員免許に関しては特別非常勤講師として雇用すれば必要ないのでこちらも何も問題ないです」
「そういう制度があるんですね。初めて聞きました」
「あまり一般的ではないので知らないのも無理はないかと。……これで佐藤さんが疑問に思っていた事はすべて解消できたと思いますし、どうでしょうか?学生は無理という事でしたが教師として当学院で働いてみませんか?」
「少し考えたいので保留という事にしてもらってもいいでしょうか?」
「勿論構いませんよ。――あっ、そうだ。ちょうど良い機会ですし予行練習として今授業をしてみませんか?どんな感じか分かった方が判断材料になると思いますし」
「それじゃあお言葉に甘えさせて頂きます。それじゃあ最初は何から話しましょうか?」
何事も最初が肝心というが会話のネタが何も思いつかない。仕事でお客様と話すときはポンポン話題が出てくるのに、こういう時に限って一切浮かばないとか最悪すぎる。このままじゃずっと無言でいることになるしなんとかしないと。




