第七話
夕日が射しこむ店内で椅子に座りながら各種資料と睨めっこしている男が一人。格好はシャツにスラックスというラフな姿だ。う~ん、う~んと悩みながら中空を睨みつけている所を見ると仕事に行き詰っているのだろうか?なんて客観的に自分を表現してみたが、実のところかなり悩んでいる。その理由はお店の開業にあたり手を付けなければいけない事が多いからだ。幸いにしてお店自体はあるし、厨房にも一通り器具は揃っているのでそこら辺は心配ない。問題はお酒とカクテル作りに必要な道具類の調達になる。特にお酒に関しては酒販卸業者から仕入れる事になるが選定が物凄く難しい。扱うお酒の種類や得意な分野、特定の酒蔵、または問屋と取引があり大型酒販店では扱っていない銘柄を取り扱っているか等々検討すべき項目は多岐に渡る。適当に有名だから、大きい会社だからと言った安易な理由で選ぶと痛い目に合う事も多々あるので一切妥協は出来ない。それに俺の場合立場が特殊なもんでお店に関する事や俺自身に関する事を口外せず、取引も表沙汰にはしないという条件が加えられる事になる。これは俺の考えではなく軍警察や国の意向なんだ。以前にも話した事があると思うが、男性が働く、しかも飲食業でとなると大混乱は必至なのでそこら辺の情報統制・規制がされているから当然取引先もそれに倣う事になる。諸々を加味して各会社のHPを見たり、資料を読み込んだりしているんだがまあ大変。数日掛けてなんとか三社まで絞ったがどの会社も魅力的なんだよなぁ。
とは言え自身の中になんとなくここかなぁというのはあるので、それに従おうかなと思いもするが……。ウチの店では主力がカクテルなので兎に角様々な種類用意しなければいけない上、自分なりにこのレシピにはこれっていう銘柄があるのでそれを扱っていると言うのも大事な要素だ。んで話は戻り三社のうちどれを選ぶかだが、やはり自分の心に従うのが一番だろう。余り悩み過ぎても泥沼になりそうだし、もし駄目だったら他の候補に当たれば良いだけだ。よし、ではここに決定で。
あとはカクテル作りに必要な道具だが、カクテルグラス・シェイカー・メジャーカップ・バースプーンは基本としてスクイーザー・オープナーアイストング・アイス・クラッシャー等も必要になる。細々した物ではカクテルピンやコースターも必須だろう。他にも必要な道具が数多くあるがそれらをどこで買うかだ。
ネット通販や大型ディスカウントストアでも手に入るが、質はピンキリだしやはり実物を見て買いたい。となると専門店が一番だろう。こちらは然程数が多くなく選ぶ手間が少なくて良い。選ぶ決め手はお店から遠くない所が良いかな。ざっと調べた所車で一時間程の所に一店あったのでそこを見てみようかと思う。専門店なので品質が悪かったり、種類が少ないなんて事も無いだろうから安心だ。
さて、ある程度目途が立ったところで端末を手に取り菫さんに連絡を入れようか。
『もしもし、佐藤です。今お時間大丈夫ですか?』
『はい、大丈夫です』
『お店の開業に当たり取引する会社の目星がつきましたので連絡しました』
『分かりました。では、私の端末に会社の情報を送って下さい』
『じゃあ、今送りますね……送信完了です』
『確認します。……はい、届きました。では、軍警察の方で会社に関する査察を致します。数日で終わると思うので査察の結果問題が無ければ訪問しましょう』
『分かりました。――あのですね、こちらの世界で取引するのは初めてなのでもしよかったら菫さんに同行して貰えたらなと思うのですが』
言い終わるやガタッと大きな音が聞こえてきた。もしかして椅子からずり落ちたとかじゃないよな?そんな吃驚するような事は言ってないし。何かあったのかな?と心配していると慌てたような菫さんの声が響く。
『申し訳ありません。少々驚いてしまいました。あの、本当に私が同行しても宜しいのですか?』
『ご迷惑じゃなければ是非』
『こちらこそよろしくお願いします。あと私だけが拓真さんと出掛けたとなると雪音がいじけると思うので彼女も誘っても大丈夫でしょうか?』
『大丈夫です。二人が一緒に居てくれるなら心強いですし、安心できます』
『では、雪音の方には私から連絡しておきますね。また、何か心配な事や調べて欲しい事があれば遠慮なく連絡してください』
『その時はよろしくお願いします。――では、これで失礼します』
『はい』
無事菫さんに連絡もしたし後は軍警察の査察結果待ちだ。てかさ、男と商取引をするっていうだけで国が動くんだからとんでもない話だよな。まあ、万が一があってからでは遅いと言うのもあるし誰彼構わずウチの会社は男性と取引していますなんて吹聴されても困るし、その結果日常生活に支障が出るとか笑い話にもならん。そう言った事を考えるとやり過ぎとも言えるこの対応は妥当……なのかもしれない。
深く考えると沼に嵌まりそうだし、この辺にしておこう。おっと、他にも考えるべき事があるから時間の無駄遣いをしている場合じゃないな。仕事、仕事っと。
そうしてとっぷりと夜が更けるまで働き続けるのだった。
あれから一週間程経ち菫さんから軍警察での査察が無事通ったと連絡を貰った。これで第一関門は無事突破出来たので、次にするのは各々の会社に連絡を取りアポイントメントを取り付ける事だ。端末を片手に連絡すると男性からの電話という事で物凄く驚かれたが、話はスムーズに進み無事アポイントメントを取る事が出来た。後は菫さんと雪音さんに連絡してお終いと。商談に向けて資金面では全く問題無いが、まだお店が開業していないのがネックだろうか。商取引というのは信頼で成り立っているので、個人経営だとそこが難しい。例えば何らかの実績があったり、長い事経営をしているとかだと話は違うんだけど今の俺はどれにも当て嵌まらない。唯一の強みは男性という事だろうか。あっ、一応軍警察や国からも目を掛けて貰っているというのもあるか。なんにせよ、頑張るしかないだろう。気合と根性でなんとかなる……といいな。
さて、時間は流れ本日が商談の日となる。各会社まではタクシーで移動する為菫さんと雪音さんとの待ち合わせ場所は自宅兼店舗のbarの前となっている。店舗入り口前でぼっーと突っ立っていると、前から歩いてくる人影が二つ。そのままこちらへと歩いてきて、その姿がハッキリと目に映し出される。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「「こちらこそよろしくお願いします」」
二人と挨拶を交わし、そのまま予約したタクシーが来るまで待つ事に。ちなみに二人の格好はスーツだ。スカートスーツタイプで、色は菫さんがダークグレー・雪音さんがホワイトとなっている。どちらもパッと見でハイブランドと分かる一品で洗練された上品さが醸し出されている。アクセサリーの類は時計のみでイヤリングや指輪等はしていない。二人が着ている様な高級品であれば下手にアクセサリーを付けると下品に見えてしまうし、洋服の良さを潰してしまう事になる。そう言った事を理解しているという事はかなりのオシャレ上級者と言えよう。――俺?俺は量販店で買った二着で三万円の安いスーツですよ。サラリーマンと違って仕事で着るわけでも無いし、かといって頻繁に今回みたいな商談があるわけでも無し。着る機会がほぼ皆無なんだから金を掛けてらんないんだよね。
まあ、見てくれはそんなに悪くは無いと思うし確りとクリーニングにも出しているから皺も無い。問題は無いはず……だ。ちょっと心配になってきたから二人に聞いてみようかな。
「あの、俺のスーツ姿変じゃないですか?久し振りに来たもので心配になっちゃって」
「「格好良いです」」
食い気味に良い返事を貰えた。二人からそう言ってもらえて一安心かな。ファッションセンスも良いだろうし、間違いないな。うんうん、一人納得していると雪音さんが更に言葉を続ける。
「生まれて初めて男性のスーツ姿を見ましたが、凛々しくて独特の色気があります」
「確かに私服とは違った魅力があるのかもしれませんね」
「何と言えばいいのでしょうか……、言葉にするのは難しいですが心にクルものがあります」
「雪音の言う事に納得。女性の本能的なものにダイレクトにアタックしてくると言うか、その格好で甘い言葉を囁かれたら一瞬で落ちること間違いなしですよ」
マジか。『君の瞳に恋してる』とか『今夜二人で熱い夜を過ごそう』なんて臭すぎる台詞でも言えば美味しく頂けるとかちょっとチョロすぎないか?心配になるんだが。
「そういうものなんですかね?元居た世界ではスーツ姿よりバーテンダーの服装の方が格好いいって人が多かったですけど」
「まだ見たことは無いですけどそちらも絶対に格好良いって断言できます。ねっ、菫」
「うん。拓真さんのバーテンダー姿とか一生の宝物です。その記憶だけで我が生涯において一片の悔い無しですよ」
「そこまで言われたらちょっとハードルが上がり過ぎてお披露目しずらいですね」
「自信を持って下さい。拓真さんは魅力的で素敵な男性なんですから」
菫さんみたいな美人にそんな事を言われると嬉しいな。魅力的で素敵なんて滅多な事では女性は言わないし、菫さんの表情をからしても紛れもなく本心なんだろう。だが、ここで曲がり間違っても天狗になってはいけない。そういうのは言動や態度に出るし、総じて良い印象を残すことは無いからな。勘違いしない様に気を引き締めて行こう。
そう気持ちを新たにした所で丁度タクシーが到着したので三人揃って乗り込み目的地に向けて出発。最初に向かうのは酒販卸業者だ。ここから約三十分程車を走らせたところにあるのでそれまでは車内でゆっくりする事になる。他愛無い話とかして適当に時間を潰そうかと思っていたんだがここで問題が発生。俺が真ん中に座り、菫さんが右、雪音さんが左に座っているんだがまるで二人ともドアに寄り添うように離れている。もしかして俺と密着するのを嫌がって離れて座っているのだろうか?というか後部座席は割と広いのに縮こまっているのは窮屈なのでは?と思い二人に思い切って言ってみる事にした。
「あの、そんな隅っこに座っていたら窮屈じゃないですか?」
「密室で男性の傍に座るなんて恐れ多いです。それに身体が触れあったりしたら嫌な気持ちにさせてしまうのでこうして距離を取った方が良いのかなと思いまして」
「俺はそんな事全く気にしませんよ。寧ろ距離を取られていると近づきたくないのかなって」
「では、お言葉に甘えてお傍に移動しますが本当に良いんですか?」
「どんとこいです」
おずおずと雪音さんと菫さんが距離を詰めてくる。拳一つ分くらい空けて横に来た二人に笑顔を向けると安心したような表情を見せてくれた。別に初対面って訳でも無いし、仲が良い男女ならこれくらいが普通だろう。
「ふぁ、拓真さんから良い匂いがします」
「そうですか?別に香水とかは付けていないんですが」
「でも安心できて、心が安らぐ匂いでずっと嗅いでいたくなっちゃう」
うーん、体臭でそう感じるって俺の身体からヤバい成分でも分泌されているんじゃないか?でも加齢臭がするとか単純に臭いとかじゃないのは救いだな。汗臭い程度ならシャワーを浴びれば済む話だし問題無いんだけどね。
「でも、そう言うのって自分では分からないからなんとも言えないですね」
「確かにそうですね。ですが、医学的に見ると菫が感じたのは男性特有のフェロモン臭だと思います」
「フェロモンですか?」
「はい。男性のフェロモンの主要成分は、男性ホルモンのテストステロンでこの分泌量が多いとより多量のフェロモンが放出されます。よって拓真さんはテストステロンの量が多く、より異性を引き付けやすい体質という事ですね」
「なるほど。流石雪音さんですね」
伊達に医師をやっているわけではないという事か。しかし男性ホルモンの分泌量が多いねぇ。健康診断でも特に言われたことは無いし、女性にモテるとかの実感も無いから今まで特に気にしていなかったがこの世界に来て体質が若干変わったのか?若しくは女性の感覚器官が異常に発達しているかだな。どちらにせよ悪い事では無いし放置で良いだろう。隣でうっとりとした表情の二人を見ているとそう思う。
さて、そんな事もありつつ車は目的地に向けて走っているが、なんとこのタクシーには運転手が居ない。完全自動運転が浸透しており運転手という職業が完全に廃れてしまったのだ。こうして技術が発達するとどんどんと機械任せになり人がする事が無くなっていく。それが良いのか悪いのかは分からないし、結果世界がどの様に変わり人々が生きていくのかは興味がある。近未来SF的な世界になるのか、完全に機械に支配されるのか、将又人間という種そのものが別の存在になるのか等実際に未来に行って見てみたいものだが、残念ながらこの世界でもタイムマシンは開発されていない。でも空想に思いを馳せるって言うのも楽しいからありなんだけどね。
なんて他愛も無い妄想をしつつ、隣に座る二人と話しながら時間は過ぎていく。
気が付けば目的地に到着したので改めて身だしなみをチェックしてから車を降りる。まず目に飛び込んできたのは大きいビル。全面ガラス張りで屋上の方には社名が記載されたロゴがある。このビルは驚くべき事に自社ビルであり普通の酒販卸業者では考えられない。賃貸で入居しているとか小ぢんまりした建物を丸ごと借りているのが一般的なんだが流石日本有数の会社は規模が違う。個人経営店が取引するには大きい相手であり、今更ながら緊張してくる。そんな俺の心境を見て取ったのか雪音さんが優しい声色で声を掛けてきた。
「心配しなくても大丈夫ですよ。何かあれば私達が対応しますし、拓真さんはいつも通りでOKです。緊張するなというのは無理だと思うので少し肩の力を抜いてみましょうか。数度深呼吸すれば楽になりますから。はい、吸って~吐いて~」
雪音さんに言われた通り何度か深呼吸すると気持ちも落ち着いてきた。
「有難うございます。大分楽になりました」
「それはなによりです。では行きましょうか」
一つ頷きを返しエントランスを潜ると、受付へ向かう――途中で身なりの良い女性がこちらへ向けて歩いてきた。はて、なにか用だろうか?と思っていると近くまで来た女性が一礼してから口を開く。
「佐藤様ですね。私は案内を申し付かった清水と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。本日は商談の為に来社させて頂きました佐藤です。よろしくお願い致します」
「こちらこそ宜しくお願い致します。では、担当の者がいる場所までご案内させて頂きます」
清水さんの案内の元エントランスを抜けエレベーターに乗り込み上階へと移動する。そうして案内されたのは第三商談室というプレートが掲げられた場所だ。到着してすぐに清水さんが『では、私はこれで失礼致します』と言った後去って行ったのを確認してから、ドアをノックする。すぐにどうぞお入りくださいと返ってきたので扉を開けて中に入ると三名の女性が出迎えてくれた。
「初めまして。佐藤と申します。本日はお忙しいところ貴重な時間を頂戴いたしましてありがとうございます」
「初めまして。代表取締役社長をしております山本と申します。こちらこそ、初めての男性との商談なので何かしら不手際があるかもしれませんがその際はご寛恕願います」
お互いに挨拶をした後、俺の方は雪音さん、菫さんの紹介をした。相手は営業部長の坂下さん、仕入れ担当の宮本さんという方だ。こうして三対三での商談がスタートした。
取引内容に関しては事細かに説明するとかなりの長い時間になるので、割愛させてもらう。一応要点だけ伝えようか。
仕入金額は相場の二割引きとお安い金額を提示された。相手先にとっては利益が減るし、大口取引でも無いので流石に首を傾げたが先方曰く男性が経営するお店に商品を卸せるというメリットを考えるとこれでも割引額が少ないという事だった。先方からの話では最初は原価の五割引きで提供するという事で一旦話が纏まったそうだが、念の為に法務部に確認した所男性独占禁止法に抵触する恐れがあると言われた為相場の二割引きになったそうだ。
そしてプレミアム銘柄や、希少価値が高いお酒などに関しても要望があれば最優先で仕入れてくれるみたい。基本的にこういった商品は取引相手がどれだけ自社に利益を齎すかでそう言った情報を流す、流さないというのは決まる。普通であればウチみたいな個人経営店には回ってこない代物なのは間違いない。だが、今回は最優先で仕入れてくれると言うのは有難い。理由はさっきも上げたが男性だからだろう。
後は細かい話だが配送に関しては自社物流網があるので、基本的には注文を受けた当日に届けてくれる。量が余りに多かったり、取り寄せとなるとその限りでは無いが在庫がある商品については当日配送というのはとても助かる。しかも二十四時間対応。
とまあ、そんな感じで大分こちらが有利な形で取引出来たと思う。男という事と、お店を経営しているというたった二つの要素だけでここまでこちらに利益がある形で契約締結出来るとは思わなかった。まあ、当然相手にもメリットがあるわけだが。まず、男性と商取引をしたのは恐らくこの会社が世界初という事だろう。男なんて働かなくても生きていけるんだから起業する人なんて居るわけもない。次に俺や国、軍警察と繋がりが出来たという点だろう。男性と取引相手とは言え関係を持てると言うのは世の女性にとっては垂涎物であり、何を投げ出しても手に掴みたいはずだ。更には国や軍警察といった普通に経営していたら絶対に関わらないだろう組織と縁が出来たと言うのも非常に重要となる。今はまだか細い糸だが今後の俺との取引で信頼を勝ち取っていけばより太い糸となる事だろう。何気に俺って国家にとっての最重要人物だからな。――望んでそうなった訳では無いんだが……。
とまあ、そんな感じで無事終わる事が出来た。相手の時間を無駄に頂くわけにもいかないしそろそろお暇しようかと思ったら代表取締役社長の山本さんから話を振られてしまった。
「佐藤さんはbarを開業するにあたってどこかで修行していらしたのですか?」
「叔父がバーテンダーをしておりまして、教えてもらいました」
「そうなのですね。では叔父様もお店を経営しているので?」
「経営していた……でしょうか。叔父の店はあるのですが、無いかもしれないという形です。――すみません、この話に関しては色々とありまして」
流石に並行世界に転移した際に店ごと移動しました。俺が元居た世界にあった店があるのか、無いのかは確認しようがありません。なんて言える訳がない。かなり苦しい良い訳みたいな形になってしまったが山本さんは笑顔を浮かべながら話題転換をしてくれる。
「左様ですか。事情がおありの様ですしこの話はこれで。ちなみにですが、佐藤さんのお店は何時頃開店予定なのでしょうか?」
「諸々の準備が整ってからなので一月後にはオープン予定です」
「まあ、割と直近なんですね。佐藤さんの様な素敵な男性がバーテンダーをしているとなれば大繁盛間違いないでしょうね」
「そうだと良いのですが……」
「何かご不安でもおありですか?」
「ここでこんな事を言うのは間違っていますが、実は立地が余り良くない上に初見さんではお店を見つけずらい場所にあるんです。なので客入りに関しては少々不安な面がありまして」
「そうですか。ですが、逆に考えればそう言った要素があるにもかかわらず来るお客さんというのは常連になる可能性が高いのでは?偶然見つけると言う可能性も〇ではありませんが、滅多にいないでしょう。それに情報というのはすぐに拡散されますから、ご心配には及ばないかと」
まあ、どんなに隠そうとしても漏洩するのが情報と言うものだ。男性バーテンダーが居るという情報は軍警察が情報統制・規制していてもどこからか漏れてしまうだろう。そして耳に入れた人が真偽を確かめる為に店に来ると。果たしてその人がコンスタントに通ってくれるお客様か、将又一回こっきりのお客様かは分からないが言われてみれば確かに客入りに関しては心配ない……のかもしれない。
山本さんから助言を貰い大分思考がクリアになったな。まさか取引相手に商売に関する相談をするとは思わなかったが結果オーライなので良し。とまあ、こんな一場面もありつつ暫く談笑をした後に会社を後にした。