第六十四話
いよいよ動き始めた回転ブランコだが思っていたよりも回るスピードはゆっくりで絶叫系というよりも子供でも楽しめるアトラクションだな。まったり風景を楽しんだり、園内の景色を眺めるのに最適だ。二人用の席があればカップルで楽しめること間違い無しなんだけど、この世界だとそれは無理か。まあ、友達同士や母娘で乗るのも良いし、そう考えると中々悪くないのではないだろうか。
――ここ最近は仕事が忙しくてゆっくりする時間が取れなかったので、こうして一人の時間を過ごしていると心に栄養が染み渡る様な気がする。彼女と過ごす時間も大事だが一人で何も考えずにボケーっと時間を消費するのも精神衛生上非常に重要だと俺は思う。例え家族であっても常に誰かと一緒というのは気を張るし少なからず精神的な負担は生じるだろうから、こういう機会は作るべきだろうな。
そんな事を考えながらクルクルとブランコに乗りながら回っている二十代半ばの男……。言葉だけだと哀愁や寂しさを感じるな。これが渋いイケオジだったら絵に……は流石にならないか。違和感が半端ないし、悲壮感が漂っていそうで近寄りがたい上になんか怖い。
いや、物凄い失礼なのは分かっているがどうしてもね。
なんか斜め上の方向に思考が飛んで行っているので一旦軌道修正を図ろうとした時、ブザーが鳴り響きゆっくりと回転が止まる。その後に地上へと向けて下降していき束の間の空中遊泳は終わりを告げた。入場口まで戻り皆と合流した所で声を掛ける。
「お疲れ様です。どうでしたか?」
「楽しかったです。もっと勢いよく回るのかと思っていたのですがゆっくりとしたペースだったので景色を眺めたり出来てよかったです」
「俺も乗りながら同じ事を考えていました。派手さはあまりありませんがこういうアトラクションも良いですよね。今は午前中ですけど夕方とか夜だとまた違った景色が見られそうですよね」
「確かにそうですね。今度来る時は午後からにしてみるのも有りかもしれません」
「次来る時の楽しみが増えました」
「ふふっ、私も同じです」
菫と感想を話し合った後他の人達にも聞いたりしつつ暫しまったりとした時間が流れていく。男友達と一緒だと乗り終わったらすぐに次に行こうぜ!ってなるのでこういう風に感想を言い合えるのは彼女が居る人の特権だろう。しかも俺の彼女は美人・美少女で滅茶苦茶可愛いし、何時も俺の事を一番に考えてくれる最高の女性達だ。どうだ羨ましいだろう!
……誰に向けて言っているのか分からない自慢をした所で次にどこに行くのかを決めなければいけない。メリーゴーランド、回転ブランコと穏やかな感じのアトラクションが続いたので次は別系統が良いかな。眼前に表示されたパンフレットを眺めながら考えているとトロッコアドベンチャーなる文字が目に入る。どんなアトラクションなのか調べてみるとトロッコに乗りながら洞窟や森の中を探索するらしい。しかも最新MR技術を使っているので臨場感抜群で匂いや音、振動まで完璧に再現されているらしく大人気みたいだ。最大搭乗員数は十五名とあるので俺達全員で遊べるのも良いね。
「えっと、次に遊ぶアトラクションなんですがトロッコアドベンチャーはどうでしょうか?パンフレットを見た限り面白そうですよ」
「分かりました。ではそこに行きましょう」
「やったー!大人気みたいなので今から楽しみです」
「はぅ……。子供みたいにはしゃいでいる拓真さん可愛すぎだわ」
小百合が身悶えしながら喜んでいる。そんな姿も可愛いからいいんだけど、俺の言葉に子供らしさってあっただろうか?普通に答えただけなんだが何かが琴線に触れたのだろう。女性の可愛いと男の可愛いは全然違うって言うのはよく聞く話だしな。それに子供みたいと感じたのは小百合さんだけかもしれないし、他の人はそんな事はないんじゃないだろうか?そう思い様子を見て見ると駄目だった。
「ニコニコしながらやったー!っていう姿物凄く可愛くなかったですか?」
「可愛かったです。もう胸がキュンキュンしちゃって最高でした」
「母性本能が刺激されて思わずギュッて抱きしめてよかったねって頭を撫でちゃいそうになるのを我慢するのが大変でした」
「分かります。拓真さんは普段はキリッとして格好良いのに、不意に見せる子供らしさとかズルいですよね。目一杯甘やかしてあげたくなります」
「なんだかお母様の気持ちが分かったような気がします。こんな息子が居たらそれはもうメロメロになって、何でもしてあげちゃいますよね」
透香、千歳、桜、雪音、菫の順で和気藹々と会話しているが表情が聖母みたいに慈愛に満ちている。まるで絵画の様でとても美しいが一つだけ言わせてほしい。皆俺よりも年下だし、桜に至っては高校生だがそれでも二十代半ばの男に可愛らしさを感じるのだろうか?ここら辺は女性特有の感覚なのかもしれないから男の俺には良く分からない。ただまあ、蕩けるほど甘やかされてダメ人間にされるのもありかなとは思う。あとは、お母さんプレイとかも良いかもしれない。赤ちゃんプレイは流石に気持ち悪いのでお母さんに色んな意味でよしよしされるのも新たな境地が開けそうで楽しいかも。
ただ付き合ってまだ日が浅いので何でも受け入れられる土台が整うまでは残念だがお蔵入りだな。初っ端からエンジン全開で飛ばしてしまったら引かれるだろうし、何なら嫌われる可能性もあるので注意深く機を伺うのが大事なはず。
夜の生活について真剣に考えていると小百合から声を掛けられた。どうやら話が終わった様なのでトロッコアドベンチャー乗り場へと移動する事に。
場所が少し遠かったので結構歩くことになったが無事到着。そして目の前には凄まじく長い行列が続いている。空中投影されているホログラムに目をやると只今の待ち時間三時間と表示されているんだが。
「三時間って凄いな。午後まで待ってようやく順番が回ってくる感じか……。今は涼しいから問題ないけど夏場だったら熱中症で倒れる人も出るんじゃなかな」
「対策をしていないと倒れる人も居ると思います。一応遊園地側も対策はしているとは思いますが、一番は夏に来るのは避けるか、ファストパスを購入する事ですね」
「ですよね。汗だくになりながら何時間も待つとかただの苦行ですし、この季節に来て正解でした」
「今度来る時も涼しい季節を選びましょう」
「はい」
本当に雪音の言う通り夏場に人の多い所に行くのは避けた方が良いな。遊園地然り、フェスやコミケなんかもかなり大変だって言うし行かないのが吉だ。あとは単純に人が沢山居て密集している場合臭いがキツイというのがある。体臭や香水が混ざり合ったカオスな臭いとか想像しただけで胃から込み上げてくるものがある。うん、俺はそういう所に飛び込めるほど勇者じゃないので家で大人しくしていよう。
「えっと、俺達はファストパスがあるので行列に並ばなくても良いんですよね?」
「はい。あちらにある専用入場口でパスを見せればすぐに乗れます」
「分かりました。それじゃあ行きましょうか」
行列を横目に専用入場口へと行くとすぐに案内されてアトラクションを楽しむ事となった。
――時間にして二十分程で終わり出口へと向かう。遊んでみた感想としては大人気なだけあって滅茶苦茶面白かった。アドベンチャーというだけあって様々なギミックが豊富に用意されていて、それらを乗客皆で解き明かしたり、困難に立ち向かうという一体感が最高だった。こういうのは大人数だから体験出来る事だし、彼女達と知恵を出し合って問題に正解した時なんかは思わずガッツポーズをしたほどだ。
屋内アトラクションを体験するのは初めてだったがここまで楽しいとは思わなかった。月ごとにギミックや謎解きゲームの内容が変わるらしいので何度でも遊べるのもポイントが高い。今度来る時はどんな内容になっているのか今から楽しみだ。
あっ、そういえば他にも屋内型アトラクションが幾つかあったからそこも見て見たいけど時間的に厳しいかな。それに折角だし同じようなのだけじゃなく色々と見たり、遊んだりしてみたいから今回は諦めるとしよう。
さて、次はどこに行こうかなとパンフレットを見ようとした所でグゥ~と大きなおなかの音が鳴り響く。
「あら、大きな音が鳴りましたね」
「うぅ……、すみません。俺です」
「もうお昼ですし、タイミング的にも丁度良いのでご飯を食べに行きましょう」
「はい。結構歩き回ったのでお腹ペコペコです。――でもこの時間帯だとレストランはかなり混んでいそうですね。俺達は七人なのでもしかしたら全員で座れないかもしれませんね。その場合はどうしましょうか?」
「その点についてはご安心下さい。予約を取っているので全員一緒に食事が出来ますよ」
「そうなんですね。何から何まで有難うございます」
「このくらいは当たり前の事ですから。それに拓真さんと離れ離れになるのは嫌ですし」
「それは俺も同じです」
「ふふっ、嬉しい。……それでは行きましょうか」
「はい」
来た時も思ったが雪音は本当に完璧だな。細かい所まで気が利くし、事前の準備を全て済ませているお蔭でなに不自由なく遊べているんだから本当に感謝しかない。有難い限りだ。
レストランに向かう道中で雪音に改めてお礼を言ったら嬉しそうにしていた。その時の表情が可愛くて俺の脳内フォルダに即保存したのは言うまでも無いだろう。
とまあ、そんな事もありつつ美味しい昼食を食べたあと食後の休憩という事で今はベンチでまったりしている。心地良い日差しと、食後の満腹感が合わさってウトウトとしちゃうな。ここで寝たらこの後の予定に影響が出るし我慢しなきゃと思えば思う程眠気が強くなっていく。
「凄く眠そうですけどお昼寝しますか?」
「…………んぁ。透香?」
「はい、透香です」
「――ごめん、少し寝ぼけてた。昼寝は魅力的だけどこの後遊ぶ時間が減っちゃうので我慢します」
「お気持ちは分かりますがご無理はなさらないで下さいね。もしお昼寝をするなら私の膝をお貸ししますので少しは休まると思いますよ」
「透香の膝枕……だと」
くっ、なんて悪魔的な誘惑なんだ。透香の細いけど肉付きが良いという至高の太ももを堪能できるなんて最高以外の何ものでもない。それに顔を上向きで寝れば綺麗なお椀型の巨乳を見上げられるし、お腹側に向ければ魅惑の股間を間近で凝視することが出来る。どちらも魅力的だし出来る事なら両方とも味わいたい所だがその為にはお昼寝しなければいけないというジレンマ。透香の身体を味わうか、アトラクションで遊ぶ事を選ぶか選択は二つに一つ。今までに無い程高速で頭を回転させ結論を出す。その間僅か一秒未満。
「それじゃあ膝枕をお願いし――」
「お母さん、どこ~……?」
欲望に従って膝枕をお願いしようとした所で少し離れた所から今にも泣きそうな声でお母さんを呼ぶ声が耳朶を打つ。声の方へ顔を向けると小学校低学年くらいの女の子が一人でポツンと立っている。
「もしかして迷子ですかね?」
「多分そうだと思います」
「すみません。このまま放っておくことは出来ないので声を掛けてきます」
「分かりました。私達もご一緒します」
すぐ近くで迷子らしき女の子がいるのに無視は出来ないので全員揃って話を聞きに行く事になった。膝枕でお昼寝はどうしたって?非常に残念だが次の機会に持ち越しだ。
女の子の前まで来たがまずはしゃがんで目線を同じ高さにする。これは子どもが安心し、話を聞いてくれるようにする為だ。
「こんにちは。俺は佐藤拓真っていいます。――もしかしてお母さんとはぐれちゃったのかな?」
「は、はい」
「緊張しなくても大丈夫だよ。俺と話すのが嫌だったらこっちにいるお姉さん達とお話ししよっか?」
「いえ、お兄さんが良いです!」
「そっか。それじゃあ幾つか質問させてね。お母さんとはぐれたのはどのくらい前か分かる?」
「えっと、多分二十分くらい前だと思います」
「成程。次はお母さんの服装とか教えて貰ってもいいかな?」
「はい。ワンピースを着ていて、上着を羽織っていました」
「最後にお義母さんのお名前を教えて貰っても良いかな?」
「お母さんの名前は山崎早苗と言います」
「有難う。それじゃあお母さんを探したい所だけど闇雲に探し周っても効率が悪いし、最悪入れ違いになる可能性もあるから迷子センターに連れて行った方が良いのかな?」
「その方が良いと思います。拓真さんが仰る通り入れ違いになった場合大変なので迷子センターに行きましょう。――場所を確認した所ここからそう遠くない所にあるのでお母さんを探しつつ行くのが最善かと思います」
「分かりました。それでは菫の案で行きましょう」
こういう突発的な事態が起きた際一人だとどうしていいか分からなくなる場合が多いが、今回は頼りになる彼女達が居るので非常に心強い。それに男一人だと事案だと言われたり、相手が警戒心を持ってしまい話を聞いてくれないという事もあるのでそういう意味でも女性がいるのは有難い限りだ。
「これから迷子センターに行くけど大丈夫?」
「はい」
「よし、それじゃあ行こうか」
女の子の歩幅に合わせて歩き出す。そうして少し進んだ所で俺の手に一瞬何かが触れては離れてを繰り返えされたので、視線を向けると迷子の女の子が手を伸ばしては引っ込めていた。ははぁん、これは寂しくて手を繋ぎたいという事だな。自分から手を繋いでくれませんかというのは恥ずかしいからこうしてさり気無くアピールしているんだろうな。じつに可愛らしいではないか。
そんな事を考えつつ俺の方からそっと手を握ってあげると、女の子が驚きの表情を浮かべる。
「もし嫌だったら離していいからね」
「ずっとこのままがいいです」
ぎゅっと手を握り返しながら純粋無垢な笑顔を浮かべて返事を返してくれた。飾らない言葉とこの笑顔は子供ならではだろう。もし俺に子供が居ればこんな気持ちになるのかななどと思いつつゆっくりと歩いて行く。そうして心がほっこりするような時間を楽しんでいるといつの間にか目的地に着いてしまった。
「よし到着。それじゃあ中に入ろうか」
「はい」
女の子と一緒に建物の中に入るとカウンターがあり、何人かの女性が仕事をしている。見た感じはまんま会社の受付なので入る建物を間違えたかな?と思ったがカウンターの上に迷子センターとホログラム表示されているので大丈夫だな。確認を終えた所で受付に行き声を掛ける。
「すみません。迷子になっている子供を連れてきたのですが」
「………………」
へんじがない。ただの しかばね のようだ。俺の顔を凝視したまま固まっている受付嬢を見て某国民的RPGを思い出してしまい笑いそうになったが必死に我慢する。というかこのままだといつまで経っても先へ進めそうにないのでもう一度声を掛ける。
「あの、大丈夫ですか?迷子になっている子供を連れてきたのでお母さんを探して頂きたいのですが」
「……はっ。だ、大丈夫です。迷子になっている方は貴方ですね?男性の方が迷子になるのは初めてなので吃驚してしまい対応が遅れて申し訳ありませんでした」
「いえ、俺ではなくこの子です」
「えっ……」
「えっ……」
うーん、どうやら受付嬢さんは混乱の極みに居るようだ。連れもいるどこからどう見ても成人男性が迷子になって迷子センターに来るとか意味不明だろう。しかも二回も子供を連れてきたと言っているのに間違えるとかパニック具合が凄まじいな。思わず苦笑いを浮かべてしまうが、どうやらそれは彼女達も同じなようで苦笑しながら事態を見守っている。そして女の子はキョトンとした表情を浮かべながら俺の手をギュッと握っている。
「これは大変申し訳ございませんでした。こちらの女の子を連れてきていただいたという事ですね」
「はい、そうです」
「分かりました。それではお名前とお母さんの特徴や服装を教えて貰っても良いかな?」
「はい。えっと、お母さんの名前は――」
受付嬢さんが女の子から色々と聞いていく。その手際の良さは流石の一言だ。さっきまでのポンコツ具合がまるで嘘だったかのように必要な情報を聞き出していき、端末に打ち込んでいる。そうして一通り終わった所で俺の方へと向き直り口を開く。
「これから園内放送と来場者全員に向けた通知を行います。通常であれば一時間以内にお母さんが来ると思うのでこちらでお待ち下さい」
「分かりました。お手数をお掛けしますがよろしくお願い致します」
よし、これで大丈夫だろう。あとはお母さんが来るまで待つだけだ。とは言え近場に居ればすぐに来るだろうが、遠くの方まで探しに行っていた場合は結構時間が掛かるだろう。その間何もせずに待っているというのも暇だし雑談でもしているか。
「喉が渇いていたりお腹が空いていない?」
「少しお腹が減っています。でも、我慢できるので大丈夫です」
「そっか。でもお母さんが来るまで時間が掛かるかもしれないし、売店で一緒にお菓子とか飲み物を買いに行こう」
「えっと……お小遣いを結構使ってしまってお金が無いのですが……」
「心配しなくても大丈夫。俺が出すから好きな物を買っていいよ」
「本当にいいんですか?」
「うん。遠慮しなくていいよ」
「有難うございます」
「それじゃあそこの売店で買い物してきますね」
「分かりました。それでは私達もご一緒します」
そんなこんなで迷子センターの前にある売店で適当にお菓子やら飲み物を買って戻ってきた後は他愛も無い話をしつつ時間が過ぎていく。話していて思ったが小学校低学年くらいの年齢にしては物凄く受け答えも確りしているし、大人びている。普通このくらいの年だと大人の言う事に耳を貸さずに好き勝手やっている印象だったが全然違うんだよな。そういえば幼女三人組の美穂、凛、友香も年齢の割に大人びてたしこの世界特有の現象なのかもしれない。早熟というか、精神的な発達が早いんだろうな。こういうのは基本的に外的要因が主だから社会が子供に対して早く大人になる事を求めた結果なのかもしれない。果たしてそれが良い事なのか、悪い事なのかは俺には判断が付かないな。
そんな風に話しながら色々と考えている内にお母さんが迎えに来たので思考を切り上げる。
「すみません。娘が保護されていると聞いてきたのですが」
「はい。では身分を確認できる物を提示してもらってもよろしいでしょうか?」
「分かりました。こちらの――」
本人確認をした後、無事娘さんと合流を果たしたのを確認したのでこれで俺の仕事は終わりだ。用も無いのに何時までもここに居る訳にもいかないし行こうかと出入り口に向かって歩き出そうとした所で、後ろからクイッと裾を引っ張られる。思わず後ろを振り返ると女の子が泣きそうな顔で俺を見ていた。
「どうしたの?なにかあった?」
「お兄さんともっと一緒に居たいです」
「そう言って貰えてとても嬉しいけど、お母さんが困っているみたいだよ」
「えっ?……あっ、本当だ」
「良い子にしていればまた会えると思うから、それまではお母さんの言う事を聞いて欲しいかな」
「分かりました。それまで良い子にしています」
「うん。――あっそうだ。よかったらこれあげる」
「わぁ、ネコさんのぬいぐるみだ~!」
「俺の手作りだからあまり出来は良くないけど喜んでもらえて良かった」
「有難うございます。大事にしますね」
「そうしてくれると嬉しいな。さてと。それじゃあ俺達は行くね」
「……分かりました。また会えるのを楽しみにしています」
「俺も楽しみにしているよ。それじゃあ、この後も遊園地を楽しんでね」
こうして思わぬ出会いは終わりを告げるのだった。歩いている途中で後ろを振り返ると背伸びして手を振っている女の子と深々とお辞儀をしているお母さんの姿が目に入ったので俺も手を振り返した後、一礼をする。礼儀正しい母娘だったな。俺もいつか子供が出来た時は同じことが出来る大人になりたいものだ。そんな事を考えながら歩いて行くのだった。




