表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/79

第六十一話

 告白した日から早いものでもう一月が経とうとしている。その間何があったかと言うと特に変わったことは無い。恋人が出来たからと言って劇的に日々が変わるという事も無いし、日常生活に支障をきたす程甘々で爛れた日々を過ごすという事も無い。俺の場合は付き合う前から休日はほとんど彼女達と一日を過ごしているし、小百合と千歳は週五で同じ職場で仕事をしているからなぁ。桜もほぼ毎日のようにお店のお手伝いに来てくれているし、他の面々も最低でも週に一回は飲みに来てくれるから会う頻度は結構多いので付き合ってもそんなに変わらないんだよな。

 まあ強いて言うなら仕事終わりとかお休みの日にイチャイチャすることが増えたくらいだろうか。今までは殆ど無かったスキンシップも積極的にしてくるし、距離感が全体的に近くなったのは間違いないだろう。手を繋いだりキスをしたりはもう済ませているが、未だに俺は童貞のままだ。そういうのは確りと筋を通してからしたいと思っているし、相手の事を考えれば気軽にHしようぜとは言えないだろう。男はただ穴に入れるだけでいいが女性の場合は肉体的な負担が相当大きいし、精神的なものも影響を与えるから万全を期して望みたいと思っているんだ。ただまあ……俺も男だからおっぱいとか脚とか押し付けられると悶々とするわけで……。そんな日々が一ヶ月も続けばいつ爆発してもおかしくない時限爆弾の出来上がりだ。正直このまま我慢し続けたら悟りを開くか、性獣と化して欲望の赴くままに襲うかの二択になる可能性が高い。自家発電の頻度を高めれば一ヶ月……いや二ヶ月は耐えられるかな?たぶん、きっと、おそらく。

 段々とエロい方向へ思考が流れ始めたので一度パンッと頬を叩いて煩悩を頭から追い払う。今日はある意味で告白した時と同じくらい大事な日なんだから下らない事を考えていないで準備をしなければ。

 クリーニングに出したスーツに袖を通した後鏡の前で身嗜みをチェックする。髪型が崩れていたり、食べかすが付いてたりしたら最悪だからな。念には念を入れて五回も確認してしまったがお蔭で完璧になったので良しとしよう。

 さて、待ち合わせの時間までまだ余裕があるが早めに出るとするか。交通渋滞で遅れたり、不意の事故に遭う可能性もゼロでは無いからな。少し前に端末でタクシーを配車したからもうすぐ家の前に到着するはずだから行こう。

 さて、タクシーで移動する事三十分くらいで目的のホテルへと到着した。このホテルは日本王国を代表する超高級ホテルでなんと一泊十五万円~という驚異の値段だ。一般人には縁が無いだろうし、勿論俺も来るのは初めてなのでかなり緊張している。スーツを着ているので白い目で見られることは無いと思うが安物だから見る人が見れば一発で分かるだろう。こんなことなら高級ブランドのスーツを買っておけばよかったよ、本当に。とはいえこのままエントランスで立ち止まっている訳にもいかないので気合を入れて扉を潜り中に入る。そのまま待ち合わせ場所まで向かうとすでに俺以外の全員が居た。時間までまだ結構あるのに皆早いなと思いつつ声を掛ける。

「お待たせしてすみません」

「いえ、私達もついさっき来た所ですのでお気になさらずに」

「有難うございます。――皆いつもと服装が違いますがとても素敵です」

「拓真さんにそう言って頂けて嬉しいです。今日の為に新調した甲斐がありました」

「新しく買ったんですね。通りで初めて見るわけだ。こんな事なら俺も新しいスーツを買っておけばよかったな」

「今着ているスーツもとてもお似合いですし大丈夫だと思いますよ」

「雪音のお墨付きを貰えましたし少し安心しました」

 それにしても本当に皆お洒落だな。今回はお母上との顔合わせという事もあって全員セミフォーマルな服装だ。それぞれ違ったセミアフタヌーンドレスを着ており上品でありつつ華やかさもあって目を奪われてしまう。それにスタイルが良いので肌の露出が少なくても色気が凄いし、胸とかぼよんって揺れていてつい凝視してしまいそうになるがグッと堪える。流石に大事な時におっぱいに現を抜かしている場合では無いのでね。

「それじゃあ全員集まったので行きましょうか。確か十五階にある和食料理のお店でしたよね?」

「はい、そうです。あちらのエレベーターで行けるのみたいです」

「分かりました」

 菫に確認も取ったし行きますか。ゾロゾロと連れ立ってエレベーターに乗り込み十五階へと向かう。ポーンという少し間の抜けた音共に目的のフロアに着いたのでお店へと進む。今回利用するお店は高級ホテルにテナントとして入っているだけあって格式高く、また著名人が多く訪れる事で有名とHPに書いてあった。そういったお店を一度も利用した事が無いので恥を搔かない為にマナーの勉強を必死にしたのが懐かしく感じるよ。大変だった少し前の事を思い出しているとお店の前にやけに目を引く女性達に視線が奪われる。服装が派手とか、騒いでいるとかではなく佇まいとか雰囲気が一般人とは全く違っていて目立っているのだ。見た感じは二十代半ばくらいだろうか?上品で清楚な服装に身を包み、スタイル抜群。そして滅茶苦茶美人ときたもんだ。

 ……ただどことなく見覚えがある顔立ちの様な気がするんだよな。こんな美人がお店に来たら忘れないだろうし、街ですれ違った事があるとかだろうか?どちらにせよ今は関係ないしさっさとお店に入ろう。スタスタと入り口まで歩いた所で雪音が立ち止まり先程の女性達に声を掛ける。

「お母様、お久し振りです。お元気でしたか?」

「ええ、息災に暮らしていますよ。雪音も元気そうで何よりです」

 雪音を皮切りに次々に彼女達が身内と思しき人に話しかけている。ポツンと俺だけ取り残されてしまったが姉妹の交流を邪魔するほど野暮じゃない。耳に入る会話から察するに久し振りに会うみたいだし姉妹団欒を楽しんでほしい所だ。幸い時間には少し余裕があるからね。

 そんな感じで微笑ましく見守っていると雪音が声を掛けてきた。

「拓真さん。今少しよろしいですか?」

「勿論良いですよ」

「こちらの方が私の母です」

「初めまして。雪音の母の静川麻美と申します。何時も娘がお世話になっております」

「初めまして。佐藤拓真と申します。こちらこそ雪音さんにはいつも大変お世話になっております」

「…………雪音から話は聞いておりましたが大変礼儀正しい方なのですね」

「ちょっとお母様。拓真さんに失礼ですよ」

「これは大変失礼致しました」

「いえ、お気になさらないで下さい」

 まさか雪音のお姉さんだと思っていたら母親でしたとか流石に予想出来ないよ。だが先程感じた見覚えがある顔立ちだなと思ったのは母娘だったからか。――という事は他の人達も姉妹では無く母親で間違いないだろう。まさかこのタイミングで顔合わせするとは思っていなかったので心の準備がまだ出来ていないんだが。兎に角失礼が無いようにしないとと考えている所で菫、小百合、千歳、桜、透香が順番に母親の紹介をしたいと言ってきたのでご挨拶を交わしていく。ここで初めてお名前を伺ったが忘れない様に心のメモ帳に記載しておこう。

 雪音の母親が静川麻美さん。菫の母親が倉敷恵子さん。小百合の母親が九条美咲さん。桜の母親が久慈宮由美子さん。千歳の母親が清川裕子さん。透香の母親が宮前明美さん。よし、確認終了。

 一通り挨拶を終えた所で何時までも立ち話をしている訳にもいかないのでお店に入り、店員さんの案内の元個室へと通される。右側に俺達が座り、左側に彼女のお母さん達が座る。全員が席に着いたのを確認した所でいよいよ本題に入る。

「本日はお時間を頂きまして誠に有難うございます」

「こちらこそ休日に佐藤さんのお時間を頂戴してしまい申し訳ありません。――なんでも私達にお話があると娘から聞いたのですがどの様な内容でしょうか?」

「はい。私は雪音さん、菫さん、小百合さん、千歳さん、桜さん、透香さんと結婚を前提にお付き合いをしております。どうか認めて頂けないでしょうか?」

「成程。娘と結婚を前提にお付き合いをしていると……。そうですか」

 菫さんのお母さんが重い口調で言葉を返してきたがその内容は芳しいものではない。他のお母さん達も真剣な表情で何かを考えているみたいで場の雰囲気は非常に重いものとなっている。このパターンはお前なんかに娘はやらん!となる可能性が高い。その場合どうやって認めてもらうか必死になって頭を回転させていると雪音のお母さんが話しかけてくる。

「佐藤さんに幾つかお聞きしたい事があるのですがよろしいですか?」

「はい。何でも聞いて下さい」

「娘とお付き合いしてからどのくらい経っているのでしょうか?」

「もうすぐ一月になります」

「成程。では結婚を前提にという事ですが何かしらの問題が起きた場合は破棄する可能性があるという考えで問題ありませんか?」

「私の方から婚約破棄する事はありません。問題が起きた場合はお互いに解決策を探して良い方向へと持っていきたいと考えています。あまり考えたくない事ですが彼女達が私と結婚したくないという結論を出したなら素直に受け入れるつもりでいます」

 万が一の可能性だが雪音達が俺と結婚したくないと言い出すかもしれないし、その時は諦めるしかないだろう。二度と立ち直れないくらいの深い傷を負う事になるし、一生独り身で生きて行く事になるがそれも仕方なし。

 そう考えていたが彼女達は違っていた様でかなり強い語調で雪音が声を上げる。

「私達が拓真さんとの婚約を破棄する事なんて絶対にありません。仮に婚約破棄しなければ殺すと脅されたとしたら迷いなく死を選びます。世界で一番愛している人との結婚を自ら捨てるなんて愚行は何があろうとすることは無いです」

「……どうやら本気みたいね。雪音達の気持ちは分かりました。では最後に佐藤さんに一つだけお聞きします。佐藤さんであればもっと素晴らしい女性と恋人になったり結婚したり出来ると思いますが本当に娘で宜しいのですか?」

「勿論です。私には勿体ないくらい素晴らしい人達ですから。彼女達以外の女性は目に入りません」

「有難うございます。――では今後とも娘をよろしくお願い致します」

「不肖の娘ですが何卒宜しくお願い致します」

「至らない点も多い娘ですがよろしくお願い致します」

「娘はまだ高校生で他の皆さんに比べると不出来な所も多くご迷惑をお掛けすると思いますがよろしくお願い致します」

「透香は女優をしていますので色々な面で佐藤さんにはご迷惑をお掛けする事と思います。ですが何卒娘を宜しくお願い致します」

 麻美さん、恵子さん、美咲さん、由美子さん、明美さんの順に結婚を前提としたお付き合いを認めて頂けた。残るは千歳のお母さんである裕子さんだけだ。さて、返答は如何にとドキドキしながら待っていると不安げな表情を浮かべておずおずと俺に質問を投げかけてきた。

「佐藤さんも御承知でしょうが千歳は生物学上では男性です。身体は女性にかなり近しいですが子供は作れませんし、戸籍も男性なので結婚も非常に難しいでしょう。この事実が世間に明るみになった場合非難は免れません。子孫を残す事は生物に定められた宿命ですし、佐藤さんの精子と受精すると男児が生まれる確率が四十%程高まるという結果も出ております。男児の出生率を上げる事に全世界で取り組んでいる中子供を産めないというのはあまりにも大きな問題になります。……それでも千歳と結婚するという考えは変わりませんか?」

「変わりません。私が好きになり、愛した人ですから。他人や世間に何と言われようが関係ありません。もし千歳さんに文句を言う人が居たのなら私が彼女を守ります。そして生涯彼女を愛する事を誓います」

「そうですか。千歳。本当に良い人に巡り合えて良かったわね」

「はい。拓真さんは私にとって全てを変えてくれた人であり、世界一愛している人です」

「ふふっ、まさか娘から惚気を聞かされるとは思っても見なかったわ。――改めて佐藤さん。娘をよろしくお願い致します」

「はい」

 こうしてお母さん達全員から許可を得ることが出来た。物凄くホッとしたのと同時に一気に身体から力が抜けていくのを感じる。思わず頽れそうになったが隣に座っていた透香が優しく肩に手を置いて支えてくれる。

「すみません。有難うございます」

「随分と気を張っていらっしゃいましたから仕方ないですよ」

「情けない姿をお見せしてしまいました」

 折角良い感じに終わったと思ったのになんとも情けない感じだ。ただお母さん達はそう思っていない様で頬を赤らめながら俺と透香の方を凝視している。恋人同士のちょっとした遣り取りだと思うのだがそんなに気になるものだろうか?あっ、娘が彼氏とイチャイチャ?してたら恥ずかしくもなるか。

 これは俺の配慮が足りなかったな。すぐに姿勢を正してお母さん達に頭を下げる。

「お見苦しい姿を晒してしまい申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらいで下さい。――娘から佐藤さんについて聞いていたのですが本当に女性に対してお優しいのですね。透香が触れても嫌な素振りを一切しておりませんでしたし驚きました」

「彼女に触れられて嬉しく思う事はあれど嫌だなと感じる事は絶対にありません。普通の男性とは違っていて驚いたり戸惑ったりすることが今後多々あると思いますがそういう人なんだと割り切って接して頂ければ幸いです」

 明美さんにハッキリと言ってしまったが、もうこればっかりは俺にはどうする事も出来ないからな。慣れるか、割り切るかしないと精神的にかなり辛い事になるから早めに言う事が出来て良かった。本当だったら俺が別の世界から来たと言えれば話が早くて良いんだけど恐らくその事実を知っているのは恵子さんと美咲さんだけだろう。

 だからと言って何時までも黙っている訳にもいかないし、なるべく早い時期に打ち明けた方が良いだろうな。ただ内容が内容だけに切り出すタイミングが難しい……と考えていると小百合の母親である明美さんが俺の顔を見ながら声を掛けてきた。

「佐藤さんの事情について知っているのは私と恵子さんだけなのでしょうか?」

「彼女達が伝えていなければそうなります」

「そうですか。この場に居るのは関係者だけですし、私の方から皆さんにお話ししましょうか?」

「いえ、大丈夫です。私の方からお話します。……実は私はこの世界の人間では無く別の世界から――」

 明美さんの後押しもあり良い機会なので俺の事情について彼女のお母さん達に話す事にした。突拍子も無い話だし、妄想染みた内容なので信じてもらえるか不安だったが要所要所で事情を知っている恵子さんや美咲さんが説明してくれたのでかなりスムーズに進めることが出来た。

 なるべく要点を纏めながら話していたがそれでも三十分くらいはかかっただろうか。かなり長い話になってしまったが、何とか終えることが出来た。

「お話を聞いて腑に落ちました。たしかにこれは公には出来ませんね」

「現在も他国からの干渉が続いていますが全力で阻止していますから。どんな良い条件を出されようが佐藤さんを渡す訳にはいきませんし、娘と婚約を結んだ今となっては尚更です」

「ただ日本王国の今後を考えるとあまり秘匿し過ぎるのも考えものですね。問題無い部分のみオープンにして男性に刺激を与えるというのもありだと思います」

「確かにそれも一つの手としてありですね」

「ただ佐藤さんの意志が一番優先されるという事は忘れないようにしなければいけません。こちらで勝手に決めて動くというのは絶対に避けるべきです」

「仰る通りです。ではこの件については今後も話し合いの場を設けて詰めていきましょう」

 俺の話をすぐに信じてくれたのは嬉しいが行動があまりにも早い。すぐに現状確認をして対策を練るとか流石各界の重鎮だけある。今でも十分すぎるくらい守られているが今後は更に手厚くなるのだろう。有難いがこれだけの恩をどうやって返せばいいのだろうか?彼女達にも一生かけても返せない程の大恩があるのに更に上積みされたら何度か生まれ変わらないと返しきれないのではないだろうか?

 そんな事を言ったら笑って気にしなくても良いですよと言われそうだが俺に出来る全てを持って報いていこう。改めて決意を固めた所で由美子さんが微笑みながら言の葉を紡ぐ。

「娘と婚約したという事はこれから佐藤さんは私の義子になるという事ですよね。こんなに格好良くて素敵で優しい義子が出来るなんてとても嬉しいわ」

「由美子さん。私のではなく私達のですよ」

「これは失礼致しました。確かに麻美さんの言う通りですね。……いつまでも佐藤さんというのは他人行儀ですし拓真さんとお呼びしてもよろしいですか?」

「はい。義子になるわけですし敬称も不要で構いません」

「お申し出は有難いのですが男性の呼び捨ては流石に出来ません。娘も拓真さんと呼んでいらっしゃいますし私が呼び捨てなのは頂けないかと」

「分かりました。では私も名字で呼ぶと彼女達が混乱してしまうと思うので名前で呼ばせて頂いてよろしいでしょうか?」

「勿論です」

「では今後は名前で呼ばせて頂きます」

「はい。あっ、なんでしたらお義母さんと呼んでも良いのですよ?」

「お、お義母さんですか?」

「はい」

 由美子さんが微笑みを浮かべながら頷いているがどことなく圧を感じる気がする。ま、まあ将来彼女達とは結婚する予定だしお義母さんと呼んでも問題は無いのだが少し恥ずかしいな。でも期待で目を輝かせて待っているし勇気を出して言おう。

「それでは……。んんっ、由美子お義母さん」

「はぅ……。しゅごいです」

 俺が呼んだ瞬間にまるで雷にでも打たれたように身体をビクンッと震わせた後、呂律の回らない感じで言葉を呟いたが大丈夫だろうか?なんか目がとろんとしていて息も荒いし、まるでエロ同人に出てくる快楽落ちした人妻染みていて物凄くエロい――じゃなくて心配になるな。

「拓真さん。私の事もお義母さんと呼んで下さい」

 由美子さんの様子を見ていた麻美さん達が次々にお義母さんと呼んで欲しいと言ってきたので順番に呼ぶことになった。結果全員が快楽落ちしたような状態になり洒落にならない事態になってしまったんだが。何とかして事態の収拾を図るために雪音に助力を求める事にした。

「雪音。この状況どうしたらいいのでしょうか?というか俺変なこと言っていませんよね?」

「はい。拓真さんは普通にお母様たちの名前を呼んだだけです。その辺りについては落ち着いてから本人に聞いてみましょう。取り合えず正常な状態にするのが先決ですね」

「水とか飲ませた方が良いのかな?それとも一旦俺が席を外した方がいいのだろうか?」

「大丈夫ですよ。――お母様。拓真さんの前でだらしない表情を浮かべていたら嫌われてしまいますよ。それでも良いのですか?」

「はっ!?……失礼致しました」

 凄い。雪音の一言でまるで魔法が解けた様に元に戻ったよ。流石娘だけあって母親の事を良く分かっているな。でも、魔法の言葉が俺に嫌われるというのはどうなんだろう?出会ってからまだ一時間くらいしか経っていないし俺の事も良く知らないと思うから、あまり有効打にはならなそうなものだが。そんな予想を裏切って効果覿面なのが良く分からない。

 何はともあれ正常な状態に戻ってなによりだ。あのままだったら碌に話も出来ないからな。さて、もう少し待って落ち着いたらなぜあんなことになったのか聞いてみよう。それまではお茶でも飲みながら先程見たお義母さん達の痴態を記憶から消しておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ