第六話
退院してから一夜明け現在時刻はまもなく十八時に差し掛かろうかという所。病院から自宅に戻った後店内の確認や約一月もほったらかしにしていたので清掃にかなりの時間を費やした。それらが終わった後は今後の事を考えたり、調べ物をしていたらあっという間に明け方に。そこから寝たので起きたのが昼過ぎというバーテンダーとして働いていた時と同じ時間に起床したんだ。病院生活で朝方になりつつあったが、仕事をする上でそれは致命的なので早々に夜型に戻したい所である。取り合えずその辺は何とかするとして喫緊の問題は食料が全くないという事だ。この世界に来た時はお金が無かったので倒れてしまったが、今は潤沢過ぎる資金が手元にある。同じ轍を踏んで雪音さんや菫さんに迷惑を掛ける事はあってはならないのでこの後準備してスーパーに買い出しに行こうと思う。一応事前にネットでお店周辺にあるスーパーを調べた所そこそこ歩いた所に一件あったので今後はそこにお世話になる予定だ。
今回の買い出しが何を隠そうこの世界で初の外出となる――転移してから倒れるまでは自宅に引きこもっていた――のでちょっとオシャレな格好にした方が良いかな?ジャージやスウェットで歩き回るのは流石にアレだしさ。コンビニ程度だったら問題無いけど今から行くスーパーはちょっと高級志向なお店なのでお客さんや店員さんからうわぁ~……って思われたくないし。うん、初回という事で街に遊びに行くくらいの格好で行きます。では、早速着替えましょうかね。
準備が出来た所でお店の扉に鍵を掛けていざ出発。
お店の場所が人通りが少ない場所かつ初見では見つけずらいので位置にあるので暫く歩いても人に出会うことは無い。お気楽に鼻歌なんか歌いながら歩き続けているとようやっと大きめの通りに出ることが出来た。道路には沢山の車が行き来しており、歩道にも大勢の人が歩いている。キョロキョロと辺りを観察すると看板や信号、広告何かは全てホログラムで近未来感が溢れている。車も自動運転で人が操作する事は滅多に無い為事故率も極端に低いとかなんとか。では道行く人の服装はサイバー感溢れるものかと言うと全然そんなことは無かった。至って普通の格好で俺が居た世界の女性の服装とさして違いはない。ネオンカラーやメタリックを多用した如何にもな感じでなかったのは幸いだな。なんて観察していると四方八方から視線を感じる。何ぞと思い周囲を見渡してみると俺をジッと見つめたまま動かない女性たちの姿が。まるで時間が停止したように微動だにしないからちょっと怖いんですけど。さて、この状況をどうしたもんかと考えあぐねていると再起動した人達が小声で話し始める。
「えっ!?あの人男の人だよね?」
「一人?なんでこんな所に居るの?」
「初めて男性を見ることが出来た!もう私このまま死んでもいい」
「はぁ~、格好良い。女性を連れていないって言う事は未婚という事だよね?恋人がいれば一緒に居るはずだし完全にフリーなの?」
「近づいてお声を聞きたい。お顔を間近で見たい。でもそんな事をしたら嫌われるよね?」
「通報されて軍警察に逮捕されるのがオチでしょ。こうして男性を見る事が出来ただけでも勝ち組なんだからそれ以上を望んじゃ駄目だよ」
「この近くに住んでいるのかな?だとしたら私今すぐ引っ越す!」
などなど口々に囁き合っている。中々に不穏な言動も見受けられたが、実際に俺に近づいて来たり接触しようという人は皆無だ。雪音さんから男性に対する接し方については幼少期より徹底的に教え込まれるので余程の事が無い限り節度を守った行動をしますよと教えられたが正にその通りだな。遠目で見ているだけで実害は無いし、菫さん達も動いていないという事は問題無いんだろ。
というか、何時までもぼけーっと立ち尽くしていても仕方ないのでさっさとスーパーに向かおう。そうして歩き出すとまるでハーメルンの笛吹宜しくゾロゾロと女性たちが距離を空けて付いてくる。何も知らない人がこの光景を見たら大名行列ですか?と言いたくなるだろうが、もうね気にしたら負けだ。俺は何も知らないし、ただ買い物に行くだけ。
気持ちを強く持ち歩く事暫し。ようやっと到着しました。外観は高級ブランドショップさながらで、駐車場も完備しているし店舗の大きさも四百五十坪はあるだろうか。HPで見た際にはちょっと高級志向なお店という感じだったが実際に見てみると完全に高級スーパーである。とはいえここ以外だと徒歩で一時間半は掛かる場所にあるので実質選択肢が無いんだよね。思わずはぁ~と溜息を一つ付いてしまう。
安い商品も中にはあるだろうし、そういったものを選べば節約できるかな。なんにせよお店に入るか。
店内に入り、まずはカートとカゴが必要なので探したが見つからない。一般的には入り口付近に用意されているのだが影も形も無い。日用品も含めて結構買うつもりだったので本当に困るんだけど……。そんな俺の様子を見かねたのか近くにいた人が恐る恐る声を掛けてきた。
「あの、何かお困りの様ですが大丈夫ですか?」
「あー、その……カートとカゴを探しているんですがどこにも無くて」
「もしかして買い物は初めてですか?」
一瞬馬鹿にされているかと思ったが、この世界での買い物は初めてだし間違ってはいないか。
「はい」
「そうなんですね。えっと、どのスーパーでも基本的にはそういった物は必要ありません。実物が置いてあるわけでは無いので」
んん?商品が置いて無いって事なのか?それだと買い物できないよね。どういった仕組みで物が売られているのか理解できないが取り敢えずはカートとカゴは必要ないらしい。
「有難うございます。助かりました」
「いえ、お役に立てたなら何よりです」
嬉しそうに頬を赤らめて言う姿を見つつその場を後にする。入り口を抜けて、売り場へと足を踏み入れると仕事帰りと思わしきOLさん達が一斉にこちらを見て固まる。つい先ほどと全く同じ光景に小さく笑ってしまったが、一々気にしても居られないのでそのまま歩を進める。まずは生鮮食品を見たいのでそちらの方へ向かうと驚きの光景が目に飛び込んできた。
まず陳列棚が無い。当然棚の上にあるべき商品も無い。その代わり壁面前にホログラムで各商品が掲載されている。生産地や各種栄養価まで記載されているのは少しやり過ぎだと思うがこの際置いておこう。さて、件の商品群だがまるで実物が目の前にあるのかと勘違いしてしまいそうな程リアルで、思わず手を伸ばして触ろうとしたが当然空中投影されているのでスカッと手は通り抜ける。この世界は科学技術が発展しているのは重々承知していたが、こうして日常生活で改めて体験すると割とショックが大きい。何れは慣れていくのだろうが、あまりにも元居た世界と違い過ぎるので時間は掛かるだろう。そしてさっきお姉さんが言っていたカートもカゴも無いという言葉に納得である。全ての商品がこうしてホログラム表示されていたら確かにそんなものは不要だ。一つ謎が解けてスッキリしたところでふと疑問が湧いてくる。これどうやって購入すればいいんだろう?商品掲載ホログラムに端末を一々翳すと言うのは非効率だし、かと言って専用アプリがあるわけでもない。……どうすればいいか分からない時は聞いてみるのが一番だろう。幸い俺の周りには沢山の女性がいるのだから。という事で少し距離を空けてこちらを見ている?観察している?女性に聞いてみる事にした。
「すみません。今お時間大丈夫でしょうか?」
「はい。大丈夫ですよ」
「変な事を聞くようで申し訳ないのですが、どうやって商品を買えばいいのか分からなくて」
「えっとですね、お店に入店した段階で端末の識別IDが読み込まれていますので、何か買う場合はホログラムの右下にある『buy』に触れれば自動でデジタルカートに入ります」
「なるほど。簡単なんですね。もっとこう専用端末とアプリが必要なのかなと思っていました」
「男性の方は買い物なんてしませんから知らなくても仕方ないと思いますよ。……普通は家族や配偶者が必要な物は全て買いますしね」
しまった。という事は男である俺が一人で買い物に来ていると言うのはあまりにも異常であり異質だ。入り口や売り場で女性たちが固まっていたのは男を初めて見たからというのもあるが、男が一人でスーパーに来ている事に驚いたからといのもあるのか。最悪同伴者――女性――がいれば多少はマシになっただろうが菫さんや雪音さんにお願いするのは気が引ける。彼女達にも仕事があるし、予定もあるだろうしさ。まあ、今となっては後の祭りだし覆水盆に返らずという言葉もある。奇異の目で見られるのを承知で買い物をするしかないだろう。というか今後もこのスーパーにはお世話になる訳だし、慣れていかなくては。
「あ、あははは。そこら辺は色々と事情がありまして。――しかし、物を買うのにも一苦労するとは思いませんでした。この先も思いやられるなぁ」
「で、でしたら私が買い物についてお教え出来ると思います。このお店には結構通っていますしどこに何があるかも分かりますよ」
「えっと……ご迷惑じゃなければ是非お願いした所ですが良いんですか?」
「もちろ――」
OLさんが言いかけた所で周りにいた女性たちの声が遮る。
「私の方が詳しいですし、手取り足取り教えられますよ」
「お勧め品から食材の調理方法まで何でも聞いて下さい。貴方のお力になりたいのです」
「初めて来たなら分からないことだらけですよね。安心して下さい!お傍に付いてどんな疑問にもお答えします」
「このお店は少しお高いですから、支払いは全て私が持ちますので何でも好きな物を買って下さい。勿論アドバイスも致しますので」
等々四方八方から声を掛けられる。スーツに身を包んだ美女からオフィスカジュアルな格好の美女まで様々な女性から優しくされるのは嬉しいが、その熱量が半端ない。このまま放っておけば言い争いになり最悪取っ組み合いのキャットファイト勃発となるのは目に見えている。この場で取れる最善の策は最初に声を掛けた女性にお願いする事だろう。
「あの、皆さんのお気持ちは大変嬉しいのですが俺としては最初にお願いした方にお任せしたいなと思っています。それにこのお店にはちょくちょく来る予定なのでその際に色々と教えてもらえればと」
俺の言葉に女性たちの言い合いがピタリと止まる。そしてギギギッと音がしそうな動かし方で首をこちらに向けてくる。ちょっと怖いんですけど……。
「またこのお店に来ると言うのは本当なんでしょうか?」
「はい。俺が住んでいる所の近くにあるのがここだけなので」
「因みにどのくらいの頻度でいらっしゃるのかお聞きしても宜しいですか?」
「そうですね……、週一回くらいですかね」
「曜日や時間をお聞きしても?」
「基本的には休みの土曜か日曜のどちらかで、時間は十八時~十九時くらいになると思います」
なんでそんな事を知りたいのか不明だが、買い物の頻度や曜日、時間位なら特に問題ないだろ。それを知った所で何を出来るわけでも無し。それに菫さん達護衛の方たちもいるんだから無問題。
「なるほど、なるほど。これは気合を入れなければいけませんね」
「気合ですか?」
「あっ、あの今の言葉は気になさらないで下さい」
「はぁ」
良く分からないが、まあ気合を入れたい時もあるだろうし気にしないでおこう。それよりも買い物だ。取り合えず生鮮食品を先に片づけるか。
「えーと、野菜はこれでいいから後は肉と魚かな」
「それでしたらこちらになります。お肉は鶏、豚、牛どれがいいですか?」
「牛の赤身肉と鶏のササミが欲しいです」
「それでしたらこちらなどはどうでしょうか?国産高級和牛の赤身肉です。鶏の方は長期間飼育で抗生物質などが入った飼料を一切使っていない為赤みが濃くよく絞まっており、脂肪分が少なく歯ごたえがありますし肉質も硬くありません」
確かに良い肉だと思うし映像からでも非常に美味しそうなのが伝わってくる。だが、だがしかしだ!値段が牛肉の方は百グラム五千円、鶏肉は百グラム千円と高級品なんだけど。こんなの一人暮らしの男が作る適当な料理には使えんだろう。それこそ雪音さんや菫さんみたいにプロ級の腕前を持っている人なら問題無いだろうが、男料理には絶対に向かない食材だ。もうすこし値段の安い一般家庭で買うような商品が欲しんだけど。
「あの、もう少しお安めの商品とかは無いんですか?」
「ありますが、男性が口にする食材ですのでそちらは適当では無いかと」
「いえいえ、そんな事はありません。というか男のズボラ料理にこんな高級食材はちょっと……」
「えっ?」
俺の発言にお姉さんがちょっと間の抜けた声を出す。変な事を言ったつもりは無いんだけどなにか引っ掛かる所でもあったんだろうか?疑問を抱きつつ固まったままのお姉さんを見ていると再起動したのかパチパチと数回瞬きした後おずおずと口を開く。
「あの、ご自身で料理をされるのですか?誰かに作ってもらうとかではなく?」
「はい。一応簡単な物なら作れますから。といっても自分で食べる分なので大分適当な感じですけどね」
「だ、男性の手料理……。そんなの小説や漫画の中だけだと思っていたのに、まさか現実に存在するなんて。夢じゃないよね?」
そんなに驚く事なのだろうか?と思い周りを見回してみると近くで買い物の様子を見ていた女性達もお姉さんと同じ反応をしている。中には『幾ら払えば男性の手料理を食べられるのかしら?五百万までなら出せるけど足りないかな?』なんてぶっ飛んだ事を話しあっている人も居る。いくら男女比が狂っているとはいえ男の大して上手でもない料理にその金額はおかしい。精々材料費として二百円も貰えれば十分だ。
「あー、別に普通の事じゃないですか?毎日コンビニ弁当やインスタント食品で済ませると余計に高くつきますし身体にも悪いですから」
「あの、不躾な質問ですみませんがご家族や配偶者の方は何をしているのでしょうか?男性に買い物をさせている上料理まで作らせるなど言語道断です」
「家族とは色々とありまして、今は会う事が難しいんです。配偶者に関しては居ませんし、当然恋人も居ません」
「という事は今はお一人で暮らしているということですか?」
「はい。なので身の回りの事は全て自分で熟さないといけないんです」
「男性の一人暮らし……。しかも恋人も配偶者もいないって……ごくり」
「一人は気楽でいいんですけど家事とか結構面倒なんですよ。ご飯も手の凝った物を作るのが面倒で適当に野菜を切って炒めておかずにしたりとか。お手軽で美味しい料理とかあればいいんですけどね」
かくも一人暮らしというのは適当になりがちなんだよな。掃除や洗濯、ゴミ捨て等々日々やらなくてはいけない事が多い上、ご飯も自分で何とかしなくてはいけない。自炊経験がある人あるあるだと思うけど一人分の食材を買うと結構高くなるんだよ。野菜と肉とか魚とか量が多くて数日同じ料理を食べ続けるか食材を腐らせてしまうのがオチだ。これが二人以上になると状況は大きく変わるんだけどまあ……ね。
という事で楽で簡単、そして美味しいレシピを探したいんだけど仕事で疲れていてそんな気力は湧かないし、休みの日はぐーたらしているので時間が取られる事はしたくない。結果何時まで経っても調べる事はないっていうね。誰かが知っていて教えてもらうって言うのが一番なんだけどなかなかそんな人はいないしね。難しいよ本当に。
「でしたら私にお任せ下さい。十分くらいで作れるお手軽簡単美味しいと三拍子揃ったレシピを幾つか知っていますのでお教えしましょうか?」
「えっ、本当ですか?凄い助かります。それじゃあ今度会った時に教えて下さい。えーと、次に来る日を決めておかないと駄目ですよね。来週の土曜日、十八時に来店するのでその時でも大丈夫ですか?」
「勿論です!なにがあろうと必ず来ます」
「はい、お願いします」
さっき誰かに教えてもらいたいけどそんな都合の良い人いないよねって言ったけど前言撤回。ここにいました。滅茶苦茶助かるし、この世界の女性は料理スキルが高いから期待大ですね。なんて思っていると周囲にいる女性達から口々に私もとっておきのレシピがあるので教えますよとか、面倒でしたら私がお料理を作りましょうか?とか、どうせならレシピ集を作成してお渡しすればいいんじゃないかしら?等々救いの手が差し伸べられる。皆さんに感謝を伝えつつ、好意に甘える事にした。これで俺の食生活もかなり改善されるだろうし、なにより美人な女性から料理方法を教えてもらうとか最高過ぎる。若干顔をニヤつかせながら周囲に女性を侍らせつつ買い物は続く。何だかんだ色々と話している内に打ち解けて自己紹介をしたり、他愛無い話で盛り上がったりと楽しい時間を過ごせている。そんな中お姉さんがこちらを見ながら口を開く。
「佐藤さんとお話して男性のイメージが変わりました。女性を見るだけで嫌な顔をしたり、距離を取ったり、話しかけても無視されるので適切な距離感を保ちましょうって小さい頃から教えられてきましたが全然違って吃驚しました」
「あー、一般的にはお姉さんが言う通りだと思います。俺がかなり特殊で変わり者なだけですよ」
「変わり者だなんてそんな事ありません。私はこうして佐藤さんと出会って、お話しできて凄く嬉しいですし一生の宝物です。もし佐藤さんの悪口を言う人が居たら命に代えて成敗しますよ」
「あはは、そう言ってもらえて俺も嬉しいです。綺麗な女性と一緒に買い物できるとか夢でも見ているんじゃないかって思いますし、またこういう機会があれば良いな……なんて」
「綺麗だなんて言われたの初めてです。有難う御座います。それともし佐藤さんさえよかったらまたこうしてお買い物にお付き合いしても宜しいですか?」
「勿論です。こちらこそお願いします」
まだまだ分からない事だらけだから教えてくれる人が傍に居ると言うのは心強い。それにこうした些細な事で出会い、友人になれると言うのも嬉しいな。あと女性達も最初はおっかなびっくりでどうすればいいんだろう?って感じだったけど今は大分フレンドリーになっている。商品のホログラムを見る時なんかに肩が触れる程近くに寄って見たり、腕におっぱいがムニッと当たって柔らか~い感触を楽しんだり、『これとかどうでしょうか?』と耳に髪を掛けながら上目遣いで聞いて来たり等々男を殺す行動を無意識にしているんだよ。男を射止める為に魅力的に見える行動を取るっていうのが本能レベルで刻み込まれでもしているんだろうか?例えばこれらの行動が計算の上だったらあざといなコイツで終わるし、好感も持てないだろう。だが、ごく自然にかつ無意識でそういう行動を取られれば完全敗北必死である。しかも相手が美人でおっぱいも大きく、スタイルも抜群とくれば文句のつけようもない。実に最高である。
などと妄想を膨らませている間に買い物は終わり、皆さんとお別れだ。
「今日は本当に有難うございました」
「こちらこそ貴重で楽しい時間を過ごせました。――結構長い時間買い物をしていましたが疲れてはいませんか?なんでしたらタクシーを呼ぶ事も出来ますが」
「お気遣いありがとうございます。普段から鍛えているのでこれくらいはへっちゃらです。それに家もここからそんなに離れていないので」
「お近くに住んでいるんですか?」
「歩いて三十分くらいですね。なのでギリギリ近所と言える範囲かな?」
「そうなんですね。私もこの近くに引っ越そうかしら?早くしないと空き部屋が全部埋まっちゃいそう」
最後の方は小声で聞き取れなかったが、まあいいだろう。去り際にダラダラと相手を引き留めるのも悪いし最後に分かれの挨拶をして帰ろう。
「では、これで失礼しますね。さようなら」
「はい、さようなら」
こうしてこの世界での初めての外出兼買い物は様々な衝撃と出会いをあったが無事終わりを告げた。