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第五十二話

「ジムですか?」

「はい。前々から通いたいと思っていたんですが男性が利用可能な所が探しても見当たらなくて困ってるんです」

「普通のジムだと男性が通うことは無いので更衣室やシャワー室等を設置していませんからね。結果的に女性専用みたいな感じになってしまうのは仕方ない部分もあるかと」

「そうですよね。……今までは自宅でダンベルなどを使って筋トレをしていたのですが、流石に出来る事に限りがありますし内容的にも限界が来てしまって。ジムに通えばより効率よくトレーニングを出来るので通いたいんですけど難しいですよね」

「うーん……探せば無くは無いかもしれませんがかなり難しいかと。――そう言えば透香さんはジムに通っていらっしゃいましたよね?」

「はい」

「男性の受け入れは可能でしょうか?」

「恐らくですが無理だと思います。会員制で身分の確りした人しか入会できませんがもし拓真さんが通うとなった場合騒動が起きる可能性が高いですし、何より男性が利用できるような設備が整っていないのでちょっと……」

「ですよね」

 夕食を雪音さん達と一緒に食べながら菫さんにジム通いについて聞いてみたがやはり難しいみたいだ。一番の問題は男性用の設備が一切無いという点だろう。更衣室が無ければ着替えることが出来ないし、シャワー室が無ければ汗を流す事も出来ない。家でジャージに着替えてから行って、汗だくのまま帰宅して家で風呂に入るという強硬手段も取れなくは無いが衛生的にも身嗜み的にも完全にアウトだろう。

 あとは運動している最中にいきなり男が現れたら驚いて怪我をしてしまう可能性もあるし、臭いとかも女性だとかなり気にするだろうから汗臭い状態で男性と一緒に居たくないという人も多いはずだ。

 何かこうやって考えると無理だな。大人しく家でトレーニングをするしかないのかな……。そう思って気落ちしていると雪音さんが先程の話に補足をしてきた。

「設備関係もそうですが万が一怪我をした場合の医療体制も重要になります。軽微な怪我でもすぐに手当てをしなければいけませんし、大きな怪我の場合は救急車が来るまで出来る限りの応急処置が必要になります。なので医師と看護師、最低でも医療の知識と経験がある人を置く必要がありますね」

「トレーニング中に怪我をしたり、事故を起こしたりというのはよく聞きますし確かに処置できる人が居ると安心できます。――俺の友達の話なのですがダンベルを置こうとした際に指を挟んで骨折した事があったので万が一が起きた場合でもなんとかなるというのは有難いですね」

「そういう点も考慮すると一般的なジムでは無理だと思います。男性も利用する事を前提として一から施設を作るか、既存のお店を改築する等しないといけませんが費用対効果を考えると現実的ではありませんね」

「ですよねぇ。話を聞けば聞くほど難しいというのが分かったので今まで通り家でトレーニングする事にします」

 こればっかりは俺の力ではどうする事も出来ないしね。プレハブを建ててそこに個人で買える範囲でトレーニング器具を買って何とかするという方法もあるが、プレハブを建てる土地が無いしそこまでしてハードトレーニングをしたいかと言われるとそうでもないから諦めるしかない。

 自分の中で決着をつけた所で途中だった食事を再開する。今日の夜ご飯は俺の好きな肉料理なのでいつもより箸が進んでしまうな。特にちょっと濃い目の味付けが最高でご飯が進む。

 気が付けば茶碗が空になっていたのでお代りをしようと腰を上げた所で小百合さんが声を掛けてきた。

「お代りをお持ちしますのでお茶碗を頂いてもよろしいですか?」

「すみません。お願いします」

「少々お待ち下さいね」

 一言言ってから茶碗を持ってキッチンの方へと移動していく小百合さんを見ているとなんだが夫婦みたいだななんて益体の無い事をつい考えてしまう。美人な奥さんに甲斐甲斐しくお世話をして貰うとか男の理想だし、それが六人ともなれば最高という他無いだろう。本当に俺は恵まれているなとしみじみと感じていると小百合さんが戻ってきたので茶碗を受け取り、おかずに箸を伸ばした所で菫さんが話しかけてきたので一度手を止める。

「今までずっと考えていたのですが軍警察のトレーニング施設であれば拓真さんでも問題無く使用できると思います。国の施設なので男性用の更衣室やシャワー室、トイレも完備していますし医療体制もバッチリです。警備の面も軍警察本部なのでテロリストに襲撃を受けたとしても返り討ちに出来るだけの戦力を保有していますから全ての条件を満たしています」

 物凄いキラキラした目で力説されたが一つ問題がある。そこをクリアしなければ話が前に進まないので褒めてと言いたげな瞳で俺を見ている菫さんには申し訳ないが聞くことにしよう。

「一つだけお聞きしたいのですが、一般人の俺が軍警察のトレーニング施設に通っても大丈夫なのでしょうか?普通そういう所は職員しか利用できないはずですし」

「確かに普通であれば軍警察の施設を一般の方が利用する事は出来ません。ですが拓真さんのお立場と日本王国に今まで寄与してきた内容を考えるとNOとは言われないはずです。勿論上の方に確認する必要はありますが」

「成程。それでは俺でも利用することが出来るか聞いてもらっても良いですか?」

「勿論です。ただすぐにどうこうなる話では無いのでお時間を頂くことになりますがその点はご了承頂ければと思います」

「分かりました。すんなり話が通るとは思っていないので気長に待つ事にします」

 そうして話は終わり何度も手を止めていた食事を再開させる。軍警察や国が絡む話だから動きは遅々としているだろうし、諸々を含めて答えが出るのは半年先くらいだろうか?どちらにせよ俺に出来るのは待つ事のみだ。

 ――そう考えていたのだが俺の予想を超えた早さで事態は動いていたみたいで、菫さんと話した日から僅か一週間半ほどでトレーニング施設に関する話があるという事で軍警察へと行く事になった。以前訪れた時と同じで防弾仕様の車で俺の自宅から軍警察の地下駐車場にへと移動した後特別警護対象保護課の応接室へと通される。部屋の中に居たのは菫さんの直属の上司である氷川さんともう一人初めて見る女性、あとは警備の人が数人だ。

「ご足労おかけしてしまい誠に恐縮です。本日はどうぞよろしくお願い致します」

「こちらこそよろしくお願い致します」

「どうぞお座り下さい」

 氷川さんと挨拶を交わした後ソファに座る。今回一緒に居るのは菫さんと雪音さんだ。流石に他の面々を連れてくることは出来なかったので申し訳ないがお留守番となっている。

「それでは本題に入らせて頂きますが、佐藤様からご要望があったトレーニング施設の利用についてですが上層部に確認した所問題無いとの返答を頂けました。ただ男性が利用されるので警備をどうするかで少々揉めていまして……」

「軍警察の施設内で安全ですし警備などは最低限で良いと思うのですがそういう訳にもいかないのでしょうか?」

「確かに安全ではあるのですが、ある意味で危険でもあります。身内の恥を晒す様で申し訳ないのですが男性に免疫がない人達ばかりなので佐藤様と一緒に汗を流すという特殊な状況で平静でいられるわけがありません。視姦は当然として指導という体を取って身体的接触を図ったり、最悪我慢できずに襲う可能性もゼロではありません。なので普段以上の厳戒態勢を敷く必要があるのです」

「……普段から鍛えている女性に襲われたらひとたまりもありませんね。もしかしたら力では勝てるかもしれませんが、格闘技なども習っているでしょうし為すがままに蹂躙される……と」

「仰る通りです。――ただここで問題なるのがどの部署が警備を担当するかなのです。本来であれば私達特別警護対象保護課の面々で対応するのが筋なのですが警備運用部や生活安全局、更には総務部や警備局からも要請がありましてかなり厄介な事態になっているんです」

 そう言ってからはぁ~と深い溜息を吐く氷川さんを見ていると相当苦労しているんだなというのが伝わってくる。特別警護対象保護課は新設の部署だし男性を保護するという任務だから他部署からのやっかみも多いのだろう。そこに降って湧いた話だから一枚噛ませろと言ってくるのは当然か。それに一枚岩では無いだろうし、様々な思惑が絡んでいることは間違いない。こういう場合一番平和的に解決できる方法が一つだけあるあそれはもう試したのだろうか?一応聞いてみるか。

「かなり厄介な事になっているみたいですが、軍警察長官の鶴の一声で決めることは出来ないのでしょうか?」

「可能ですが少なからず遺恨は残すでしょうし、不平不満も募るでしょう。その結果組織に悪影響を及ぼす可能性が高いですし、長官に恨みを持つ者を現れるのでそれは最終手段ですね」

「となると希望する部署でローテーションで回していくしかないのでは?」

「私もそれが一番いい方法では無いかと思い提案してみたのですが、少しでも男性と一緒に居られる時間が欲しいらしく却下されました。佐藤様が来庁される頻度にもよりますが最低でも二週間に一回程度警備に当たる事になるのでそれが独占欲が強いあの人達は我慢出来ないみたいなんです」

 圧倒的に男性が少ないこの世界で男に会えるとなれば躍起になるのも分かるが、かなり私欲が混ざっているのがなんともね。国の機関としては国益と国民の為に最善を尽くすべきだし、それがあるべき姿だと思うが人間である以上感情が多少優先されてしまうのも致し方無い事だろう。

 ただこうなってくると落とし所が非常に難しくなってくるな。俺が来庁頻度を増やすという手もあるが仕事もあるし毎日のように通うことは出来ないんだよね。週三日がいいところだしな。それを踏まえて警備に当たる回数を多くする方法はなにか……。必死に頭を回転させて色々な案を考えては却下する事十数分。悩みに悩んだ末に天啓が降りてきた。今俺に出せる最善策はこれしかないのでもし駄目だったら申し訳ないがお手上げとなる。

「一つ案が思い浮かんだのですが、希望する部署から数人ずつ人を出してもらって混合で警備に当たるのはどうでしょうか?そうすれば少なくとも一週間に一回は仕事を出来ますし不平不満も多少は押さえられるのではないでしょうか」

「成程、そういう手がありましたね。これは盲点でした。良い落とし所だと思いますし上層部に提案してみます。もしNOと言われた場合は代案を提示してもらって佐藤様の案以上でなければ却下した上で強引にでも押し通します」

「氷川さんのお立場もあるでしょうから無理はしないで下さいね」

「お気遣い頂き有難うございます。ですがここで纏めないと何時まで経っても決まらないと思うので多少立場が悪くなるくらいは許容範囲として動きます」

「私にできる事があればお力になりますので遠慮なく言って下さい」

「その時はお願い致します」

 一応話は纏まったが果たして丸く収まるのだろうか?という心配はある。というか俺がジムに通いたいという我儘を言ったせいで大事になってしまった上に氷川さんや関係者の皆様に多大なご迷惑を掛けてしまったので謝罪しておくべきだろう。

「今更ですが皆様には私のせいでご迷惑をお掛けして誠に申し訳ございません」

「いえ、佐藤様がお気になさる必要はございません。寧ろ私としては佐藤様の為に何か出来るというのがとても嬉しくて幸せですから今後も何かありましたら遠慮くなく仰って下さい」

「お気持ちは有難いのですが今回はかなり大事になっていますし、氷川さんのお立場を考えるとこれ以上は何かを頼むのは非常に心苦しいですから本当に困った時にお願いする事にします」

「私の事などお気になさらなくて大丈夫ですよ。例えば家事をして欲しいとかご飯を作って欲しいなどの些細な事から国や軍警察への要望まで何でも言って下さい。私に出来る範囲で何でも致しますので」

 最後の()()()()()()()()()という言葉を聞いた瞬間いやらしい事を想像してしまったのは流石に駄目だろう。エッチな事もしますよという意味では無いし、相手は俺の事を思って言ってくれたのにすぐにエロい方へと捉えるのは人として終わっているな。しかも氷川さんは菫さんの直属の上司だし、俺もお世話になっている相手なんだから失礼にも程がある。これは猛省せねばならないな。

 そんな風に心の裡で思っていると先程の氷川さんの言葉に待ったをかける人が現れた。そう、隣に座っている菫さんと雪音さんだ。

「氷川課長。拓真さんの身の回りのお世話をするのは私の生きがいなんです。それを取り上げる様な真似は流石に見逃せません」

「菫。私のではなく私達のですよ。――もし拓真さんのお世話が出来なくなると生きる意味が無くなってしまいますし、比喩では無く死活問題なので申し訳ありませんがお任せする訳にはいきません」

「別に毎日家事やご飯を作りたいと言っている訳ではありません。週一で構いませんし、それも佐藤様が望めばの話です。勿論家事や食事作りだけではなく夜のお相手もお望みであれば致しますよ♡」

「「ぐぬぬぬ……」」

 …………あれ?俺の猛省は無駄だったのか?聞き間違え出なければ夜のお相手もしてくれるって言っていたよな。氷川さんは物凄い美人だしスタイルも良いし、面倒見がよく性格も穏やかで優しいからハッキリ言ってしまえば好みだ。そんな相手から事実上エッチしましょうと言われてしまえばNOという男はほぼいないだろう。それじゃあ、今夜にでも気持ち良い事をしましょう!と言いたいが菫さんと雪音さんが般若の如き表情で氷川さんを睨んでいるので怖くてそんなこと言えない……。というかこの地獄の様な雰囲気の中で口を開けるほど俺は勇者じゃない。

 果たして誰が最初に話始めるのだろうかと恐る恐る様子を伺っていると、口火を切ったのは菫さんだった。

「氷川課長の言いたい事も分かりますが、流石に夜のお相手をするというのは看過できません。……もちろん拓真さんがお望みでしたら私からは何も言えませんが、そうでない場合は処女の安売りは止めた方が良いと思います」

「別に安売りしている訳ではありませんよ。男性なら誰でも良い訳ではありませんし、佐藤様だからこそこの様な提案したのですから。――それに処女なのはこの場に居る全員がそうではありませんか?」

「ぐっ……。確かにその通りですが……。で、でもですね、拓真さんの初めてを氷川課長に譲るつもりは毛頭ありませんから」

「えっと……失礼ですが佐藤様は女性経験がおありにならないのですか?」

「お恥ずかしながら女性とお付き合いした事が無いので未経験です」

 うわぁぁぁ~、恥ずかしい。女性達に囲まれた状況で俺は女性と付き合ったことが無く童貞ですって告白するとかどんな拷問だよ。頬も耳も真っ赤になっているし、顔が熱くてたまらない。さっきまでの話の流れから俺に飛び火するとは全く思っていなかったので不意打ちにもほどがあるよ。

 二十代半ばの男が未だに童貞とか失笑されるか、小馬鹿にされるか、哀れまれるかのどれかだろう。相手がクソガキであれば『うわぁ~、童貞とかくっさ~』とか言われるんだろうが相手は大人だかそういう態度は取らないだろう。さて、俺の恥ずかしすぎる告白を聞いたこの場に居る女性達は果たしてどんな反応をするのだろうか?うぅ……怖い。

「佐藤様は未経験。という事は初めての女になれるチャンスがあるという事ですね。これは何としても物にしなければいけません」

「女性とお付き合いした事が無いという話は聞いていたので薄々そうでは無いかと思っていましたが、直接お聞き出来て良かったです。拓真さんを満足させられるようにより深度の深い勉強をしなければいけませんね」

「ただでさえライバルが多いのに、ここで氷川課長まで参戦してくるとなれば手段は選んでいられませんね。身体には自信がありますが、それだけでは駄目ですしより実践的な訓練が必要になるわね」

 氷川さん、雪音さん、菫さんの順に言葉を紡いでいったが内容的に俺に聞かせても大丈夫なのかな?というか菫さんが言っていた実践的な訓練ってどんな事をするのだろうか?VR技術が発展しているから仮想現実で疑似男性相手に色々ヤルとかかな?お互い初めてだと失敗して辛い経験になるというのはよく聞く話だし、どちらかが経験者の方が上手くいくからお勧めですというのもネットで見た事がある。

 だが、それがこの世界にも通用するのかと言われれば……疑問だ。性教育が物凄く進んでいるし、SEXに関する作法や男性を喜ばせる技術もある程度教えているという事なので処女なのに床上手という意味不明な状況になる可能性は高い。ただ実践経験が無いからもしかしたらあれ?思っていたよりも……という感じになる可能性も捨てきれない。

 ――などと何時までも現実逃避している場合じゃないよな。コロコロと空気が変化して追いつくのが大変だが、今はこのピンク色の雰囲気をなんとかしなければ。

「あの、私の事は一旦置いておいて話を戻したいのですがよろしいですか?」

「これは失礼致しました。んんっ。今回お話した内容は数日中には上層部を交えて話し合いますので結論が出るのは今週末か来週頭になります。決まった内容につきましては倉敷からお伝えする事になりますのでよろしくお願い致します」

「分かりました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします」

 これで今回来庁した目的は果たしたので後は帰るだけだ。貰った資料を鞄に入れて、コートを手に持って立ち上がろうとした所で氷川さんから声を掛けられる。

「あの、佐藤様のお時間の都合がもし良ければ部下に会って頂くことは出来ないでしょうか?」

「構いませんが今はお仕事中でしょうし私が行っても大丈夫ですか?」

「問題ありません。私や倉敷が所属する課はほぼ佐藤様専用に作られたようなものですので、ご本人とお会いできるとなれば部下の士気も大いに向上しますから」

「そう言う事でしたらお邪魔させてもらいますね」

「はい。それでは行きましょうか」

 そうしてみんな揃って応接室から出て、廊下を歩いた先にある部屋へと向かう。扉の解錠には生体認証とパスカードが必要らしくかなり厳重になっている。軍警察の部署で男性の個人情報やその他諸々を取り扱う事を考えれば妥当なのかもしれないが初めて見るセキュリティにちょっと興奮してしまったのは内緒だ。そんな中扉が開かれて室内へと入るとまず目に入るのは特大のホログラムだ。様々な情報が上から下へと流れていく様はまさに近未来感満載で男心を擽るには十二分すぎる。更には個々の執務スペースにもホログラムディスプレイがあり、キーボードは投影式で机の上にはPC機材は一切無いというのも便利だし格好良い。思わず操作してみたくなるが仕事の邪魔になるのでグッと堪える。

 というか見学に来たわけでは無くて氷川さんの部下の方に会うために来たんだからそれを忘れてはいけない。そう考えていると氷川さんが一度パンッと手を叩いた後口を開く。

「今この場に居る人だけで良いので私の所に集まって下さい」

 そう言った後オフィスにいる人達がゾロゾロと氷川さんの元へと集まってくる。ざっと見た限りだが二十人以上入るのではないだろうか。外出している人も含めると全体で三十人は超えるだろう。そんな大勢の人が集まれば自然と氷川さんの少し後ろに立っている俺へと視線が殺到する訳で……。

 驚いている人、何か言いたげな人、頬を赤らめてうっとりとしている人、太ももを擦り合わせて甘い吐息を吐いている人等様々だ。……後半についてはツッコミどころ満載だが本人の名誉のためにも貝の如く口を閉ざした方が良いだろう。そんな面々を前にして重々しく氷川さんが再び口を開く。

「今日は佐藤様が軍警察にいらっしゃったのでご無理を言って皆に会って貰う事にした。初めて会う者も居れば、護衛の任務でお会いした者もいるだろう。――いきなりの事で戸惑っているかもしれないがこれから少しの間佐藤様と交流する時間を取りたいと思う。分かっているとは思うが節度と礼節をもって接するように。万が一不埒な真似をすれば即逮捕するから注意して欲しい」

 注意喚起も含めた説明が終わるといよいよ俺の番だ。いつもお世話になっているしお礼もしたいから積極的に攻めていこう。さあ、楽しい時間の始まりだ!


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